怪談小説という名の小説怪談
澤村伊智
2023/12/31
★ひとことまとめ★
澤村さんは長編のほうが好きかも
↓以下ネタバレ含みます↓
作品読みたい方は見ないほうがいいかも
【Amazon内容紹介】
深夜の高速道路で始まる怪談会、子連れで散歩中に遭遇した呪いの物件、夕暮れの学校を彷徨う幽霊、断筆した先輩作家から預かった、語ってはいけない小説……。古今紡がれてきた「怪談」の数々を、ホラーとミステリ両界の旗手が、更なる戦慄へと塗り替える。精緻な技巧と無慈悲な想像力が現出させる、真なる恐怖を見よ! 「小説」ならではの企みに満ちた、著者真髄の七篇。
【感想】
短編集です。
表紙の絵はなんだか特級呪物みたいです
ハードカバーの見返し の遊び部分の紙がなんともおどろおどろしい黒い紙で。
ししりばの本のときにも思いましたが、見返しまで拘って本を作っているんだなあという印象を受けました
7作品中、2作品は別の本で読んだことがありました。
高速怪談は「だから見るなと言ったのに 」
涸れ井戸の声は「あなたの後ろにいるだれか 」
で読みました
・笛を吹く家
文章ならではのミスリードを誘う書き方ですよね。
子供…、口調からはまるで幼児のように書いているけれど、実際は37歳のおじさんでしたという。
そりゃ親からしたら幼児だろうとおっさんだろうと、子供は子供だから表現としては正しい。
けれど、自転車の後ろに37歳の肥満のおっさんを乗せて、60歳越えの父親が押せるだろうか…?母親が二人乗りで漕げるだろうか…?
ハーメルンの笛吹き男みたいに、子供が連れていかれるという噂がある家。
精神のおかしい息子をこのまま連れ去ってくれないかと願う両親。
現実でもありそうな話ですよね~。
暴力性が高く更生も期待できない子供がいた場合、どうしたらいいんでしょうね。
産んだ以上は育て上げるのが親の責任だけれど、親が死んだら?もしそのあと大きな事件でも起こしたら…。
・苦々陀の仮面
国際ホラー映画祭で、日本映画初の受賞をした「苦々陀の仮面」。
とある山村の廃村で苛烈で陰湿ないじめを受け続ける青年。いつものようにリンチを受けた後、朽ちかけた社で見つけた木彫りの仮面。それはこの地域に伝わる「苦々陀」という悪鬼の仮面だった。
そしてまたリンチを受け、瀕死の状態となった青年は社まで這って行き、絶命する。すると、苦々陀の仮面が青年の顔にかぶさり、苦々陀となった青年は復讐を始める…
終始、インタビュー記事、映画レビューブログ記事、新聞記事、SNSの投稿などで話が進んでいきます。
低予算ながらかなりのリアリティーで人気を博した「苦々陀の仮面」だったが、実は監督や出演者は主人公の青年に本当に暴力を振るっており、血やケガも本物だった。苦々陀の復讐のシーンでも犠牲者役をスタント(青年)に変えて撮影するという、青年役の男性をただただ本当に苛め抜くだけの映画だった。
青年役の男性は作品の上映後自殺した。そして、出演者たちが次々と何者かによって無惨に殺されていく…
映画の通りになっちゃった、ってお話です。
・こうとげい
この作品とは違う本なのですが、最近読んだ漫画(意味がわかると怖い4コマだっけな?)で似たような話を読んだので、お話の途中で「あれ?まさかこれはあのお話と同じ流れ…?」と気が付きました。
その漫画では、
記者が木で出来た祭壇に生きた人間を置き、祭壇ごと燃やして生贄にささげる儀式を行う集落に取材に行く→特等席で見せてやるので儀式が始まるまであの小屋で待ってろ、と小屋に案内される→実は小屋こそが祭壇で、この後記者は生贄としてコテージごと燃やされるだろう…、って話でした。
ホラー作家・香川が出版社時代の同期・柴田から聞いた、柴田夫妻が新婚旅行先で体験した恐怖の出来事。
宿泊先のホテル周辺を散策中に見つけた廃旅館にいた兄妹は、実はこう様げい様と呼ばれる神のような存在だった。
柴田夫妻は彼らに獲物として選ばれたのだ。そして、こうとげいの被害を広げないためにも二人を生贄として捧げようとするホテルの人々。抽選で当たったという屋上のラグジュアリーコテージこそが、生贄のための祭壇だった。
こうとげいから渡されたものは受け取ってはいけないと言われていたけれど、2人とも傘以前に廃旅館で食べ物とかもらっちゃってるもんなあ。
最後に発覚した妻の男女の双子の妊娠は、こうとげいなのでしょうか…
・うらみせんせい
市立伊須磨中学に伝わる、浦見先生の噂。
生徒に馬鹿にされ教師仲間からも見放され、病んだ浦見先生は学校の屋上から飛び降り自殺した。
そして、その先生の霊は学校をさまよい、先生でも生徒でも見つけたら捕まえて殺して、バラバラに刻むという。
そんな噂のある学校で、実際に学校に閉じ込められた主人公たち。彼らは浦見先生と思われる男に次々と殺されていく。
主人公と行動をともにする"猪木ちゃん"が、生徒ではなく先生だったというオチ。
猪木ちゃんは浦見先生のように、生徒たちから馬鹿にされイジメられていた。
彼女が浦見先生に祈り、願い、そして願いが叶い浦見先生とともに生徒へ復讐したというわけです。
・怪談怪談
N岬にあるこども自然荘で宿泊中、肝試しで起きた不思議な出来事について書かれた、小学生の作文。
こども自然荘に参加した児童が、どんなことがあったかを親に報告している音声記録。参加した児童が書いた水彩画。
こども自然荘のアルバイトの大学生たちの、肝試しの計画の打ち合わせの音源。
児童を見送る館長の音源。
アルバイトをしていた学生の、就活の面接中の音源。
読んでる間は意味がわかりませんでしたが、すべては霊能力者・不二胡摩子が語った言葉でした。
約20年前、大嵐がこども自然荘を直撃。
職員、アルバイト、そこに宿泊していた児童、計76名全員が死亡した。
不二胡摩子は番組の取材でN岬を訪れた際、亡くなった76名の霊に取り憑かれ、以来霊たちの「自分たちが死ななかった人生」を語り続けるだけの存在となってしまった。
これはちょっと悲しいお話でしたねえ…。。
「かつて人間だったのなら、夢くらい見たっておかしくないでしょうよ。
夢を語ってもいいでしょうよ。」(P275)
そうだよねえ…
霊だって、自分が生きたかった未来について思い描いていたっていいよねえ…。。
私はこうとげいが好きだったかなあ。
昔の2chの洒落怖を彷彿とさせて面白かったです
2023年に読んだ作品はこれで終わりです!
2023年は出産・育児もあって、なかなか昔のようには自由に本を読んだり出来なくなりました。
今年は仕事復帰予定なので、通勤時間とかでぼちぼち読めるようになるんしゃないかな?と思っています。
ということで、次のブログからは2024年読んだ本を書いていきまーす