75冊目:ザ・ベストミステリーズ2021 | 【読書感想文Blog】ネタバレ注意⚠

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ザ・ベストミステリーズ2021

日本推理作家協会 編

2021/11/03

 

 

 

★ひとことまとめ★

どの作品も読みやすくて◎

 

 

 

↓以下ネタバレ含みます↓

作品読みたい方は見ないほうがいいかも

 

 

 

【Amazon内容紹介】

ミステリーの最前線、ここにあり! どれを読んでも面白い。他では得られない高揚感とスリルをあなたに!

第74回日本推理作家協会賞短編部門受賞作、結城真一郎「#拡散希望」も収録!
2020年に発表された短編推理小説の中から、プロの読み手たちが熟練の目で選び抜いた8作品を収録。
長年の愛好者に向けたコレクションとしても、ミステリーの入門書としてもぴったりの一冊。
新鋭からベテランまでキャリアに関係なく、「とにかく面白くて優れた」短篇のみを集めました。
巻末には昨年のミステリー界の動向を記した「推理小説・二〇二〇年」に加え、推理小説関係の受賞作を完全網羅したリストも収録!

 

 

 

【感想】

過去の関連作品

ザ・ベストミステリーズ2018は誤ってブログを書き換えてしまったので、またいつか書き直しますえーん

ザ・ベストミステリーズ2019

ザ・ベストミステリーズ2020

 

 

今年のザ・ベストミステリーズですお願いハート

 

 

 

・九月某日の誓い(芦沢 央)

実の両親に捨てられ、育ての母を病で失い、育ての父も視力が著しく低下してしまったことを苦に自殺してしまい、孤独の身となってしまった久美子。しばらく伯母のもとに居候していたが、父の生前の仕事と関わりのあった三条家に奉公に行くことになり、そこで三条家の娘・操(みさお)に出会う。

理屈っぽい操は煙たがれていたようだが、父が化学者だった久美子とは馬が合い、二人はいつも一緒だった。

ある日、山菜採りをしていた際二人は家族とはぐれてしまい、遭難しかけているところに野犬が襲いかかる。

しかし、なぜか襲いかかってきた野犬は急死してしまい、二人は助かる。

 

それからしばらく経ったある日、操に恨みを持った元女中の襲撃があったが、その際もなぜか襲いかかってきた女中が急死してしまった。

海軍の検証の結果、「操には特殊能力があり、”殺意を抱かれたとき”相手を殺してしまう能力が発動する」という結論が出される…。

 

途中までは、どういうことなのだろうと思って読んでいたのですが、最後まで読み切ったあとにすべて謎が解けました。

なぜ野犬を追い払うための木の棒がカラカラになっていたのか。なぜ女中の持っていた灯油が燃焼性のない液体に代わっていたのか。なぜ久美子の父の視力が著しく悪くなってしまったのか…。

なんとも皮肉な話だし、そんな能力が自分に備わってしまったら使いこなすのが大変そうだなと思いましたえーん

 

文中のセリフでぐっと来たもの…

「他にもっと大変な思いをしている人がいくらいたって、久美子さんの悲しさは変わらないわ」(P76)

そう思います。辛い気持ちや大変な思いは他の誰かと大小を比べるものではなく、その人が辛いと思ったならそれでいいと思うんですよね。

 

あと、ラストの部分で少し悲しくなりましたね。

・年頃になれば、どこかへ嫁ぐ。離れた場所で、誰かの妻や母になる。それは、当たり前に決められたことだ。なぜなら、私たちは――女なのだから。(P102)

どんなに仲が良くて、ずっと友情関係を続けていたいと思っていても、環境の変化で離ればなれになってしまうのは男性よりも女性の方が多いよな~と思います。

上にも書いてあるように、結婚で相手についていったり、出産・子育てで友人と気軽に会えなくなったり。男性は子供が産まれたからといって、今までの友人と疎遠になるとか、あんまり会えないということは少ないと思います。

それでも、現代はまだ良い方ですよね。SNSで近況確認できたり、電話もできるし。

昔は本当に、どちらかが嫁いでしまったら、もう二度と会えないということもあったと思います。

友人も知り合いも全くいない土地で、家族にも友人にも気軽に会いにも行けず連絡も取れず、一人きり…。

こんなに仲の良い操と久美子も、きっといつかそういう日が来てしまうんだと考えるとしんみりしました。

 

 

 

・ピクニック(一穂ミチ)

このお話が一番悲しくて、ゾッとしました。

第三者の視点で話は書かれています。なぜ第三者視点かも読んでいくうちにわかります。

 

母・希和子とその娘・瑛里子を中心に話が進んでいきます。

希和子の夫は早くに亡くなり、希和子は瑛里子を女手一つで育て上げた。

 

そんな瑛里子も結婚し家を出ていったが、瑛里子の夫・裕之の計らいで希和子の家の近くに新居を構えたことで、結婚後もひんぱんに交流を持つことができていた。

瑛里子が妊娠し、娘の未希出産してからも交流は続いていたが、想像していたよりもはるかに辛い育児のなか瑛里子は徐々に病んでいく。

そんななか、裕之が急な異動で単身赴任することになり、瑛里子の怒りはとうとう爆発するも、未希の成長とともに落ち着きを取り戻していく。

 

未希が生後10か月を迎えたころ、たまには裕之のところに行ってみたらどうか、その間の未希の面倒は自分が見ると希和子は提案する。

母の提案に甘え、瑛里子は産後初めて未希と離れ、裕之と夫婦水入らずの時間を過ごす。

そんな時に希和子からかかってきた一本の電話。

 

「―――未希が動かないの。」

 

 

自分が希和子の立場でも、瑛里子の立場でも、どっちも辛い。

愛する孫を殺してしまった記憶など全くないが状況的に自分が疑われてしまう希和子と、産後初めての息抜きの最中に実の母の不注意によって娘が死んでしまった瑛里子。

自分には全く身に覚えがないが、実の娘に疑われ、警察には激しく責め立てられ、取り返しのつかない現実に後悔しつづける。

母を疑いたくなくても状況的に母を疑ってしまう気持ちや、自分が息抜きなんてしなければ、そばにいてあげたらこんなことにならなかったのにという罪悪感。

 

そして、最後まで読むことでわかる、希和子の悲しい記憶。もとはと言えば瑛里子の行いのせいというか、けれどその当時瑛里子も幼児だったわけだし、そうなると結局希和子の不注意になのかもしれないけれど…。

お願いだからもうこれ以上希和子の悲しい記憶を呼び起こさないで、お願いだから、という気持ちになりました。

 

人間、とても辛い記憶などは忘れる(封じ込める?)ようにできていますよね。

私も精神的に参ってた時期があるのですが、不思議なことに思い出そうにもその数か月の記憶がうろ覚えというか、どうやって過ごしていたのかさっぱり思い出せないんです。

とにかく辛かった記憶はあるんですが、じゃあどうやって過ごしていたのか考えると思い出せず。

熱も出て毎日泣いて臥せってた記憶はあるのですが、その時期の勤怠を見ると欠勤してないし有給も使っていなくて、仕事はしていたみたい…滝汗

 

作中で瑛里子は想像以上の育児のハードさに病んでいましたが、誰も教えてくれないし子供によっても千差万別だから、とりあえず産んでからなんとかしよう!っていうのが現実ですよね。

 

・求められることにその都度「普通」の努力で応えてきたからだ。そういうこれまでの道のりが「出産及び新生児の育児」でもなだらかに続いていくと信じていた節がありました。(P105)

 

・育児は大変、そうはいっても、動物の赤子が誰に教わらずとも生まれてすぐ乳を求めて這うように、自分が産んだ子も「本能で」「自動的に」、生きるに最適な道を選ぶだろうと漠然と思い描いていたので(P105-106)

 

・まだ、この世の仕組みなど何も知らない生き物に、四六時中ジャッジされている気がしました。未希の泣く声が「アウト」の判定です。容姿でも性格や頭脳でもなく、「母親」という漠然とした、しかし根源的な能力について。(P107)

→このあたりの表現なんて、子供産んだことない自分でさえ、いかに精神が削がれて抉られていくかがすごく伝わってきます。。

 

なんかもっと、海外のようにベビーシッターさんなど、お母さんが気軽に息抜きできるように頼れる存在が増えていったらいいのになあ。

最近フィンランドに関するエッセイの本を読んでいますが、フィンランドのネウボラのような存在が日本にもいたらいいのにな~と思いました。

 

 


・夫の余命(乾 くるみ)

まんまと騙されました…。最後まで読んだ後、もう一度読み直して、「そういうことか~!!!」と理解できましたびっくり

タイトルからすでに先入観が植え付けられているので、そういう話だと思って読んでしまうという…。

いや~すごい。

書いてしまうとオチがわかってしまうと思うので、ぜひ読んでみてほしいです。

 

夫との思い出を、現在から過去に遡り回想していくお話です。

最期の元担当医との会話が面白かったです照れ

 

 

 

・顔(降田 天)

幼いころからテニスで好成績を収め、鳴り物入りでテニスの強豪校水王高校テニス部に入部した池淵亮。

”水王のフェデラー”とも呼ばれていた亮だったが、スランプに陥り思うように結果が出せない日々が続いていたある日、地下鉄S線内殺傷事件に巻き込まれてしまった。

逃げる際に階段から落下しケガを負い選手生命を失いかけるも、いち早く復帰するためにリハビリに取り組む。

 

そんなところに、報道部・野江響が「”地下鉄S線内殺傷事件”に巻き込まれた悲運のエースの復活ドキュメンタリー」を撮りたいと話を持ち掛けてくる。

PTSDによるものなのか、事件当時の記憶は断片的にしか思い出すことができないが、顧問に勧められたこともあり亮は取材を受けることを決める。

響と話をしていくうちに、亮は徐々に当時の記憶を取り戻していく…。

 

 

電車内での殺傷事件…つい最近だと京王線の事件や、小田急線の事件、もう少し前だと東海道新幹線の事件がありますよね。特に、京王線の事件が先日起こったばかりなので、意図せずタイムリーなお話でした。

 

繰り返し事件当時の記憶を思い出し苦しむ描写がありますが(読めばわかりますが実際は違うんですけど)、電車という逃げ場のない密室で事件が起こったら、次に電車に乗るのが本当に怖くなると思います。

電車だけではなく、逃げ場のない場所(密室、閉所など)も怖くなってしまうかもしれない。。。

今回の京王線の事件も、乗り合わせた人たちは本当に恐怖だったと思いますし、今もPTSDで電車に乗れなくなってしまったという方もいるかもしれませんショボーン

このお話の主人公のように、直接犯人に傷つけられたわけでなくても、パニックになって逃げるうちにケガを負ってしまったという人もきっといますよね。

 

事件を知ってすぐ、Youtubeに上がっていた車内の様子の動画を見たのですが、恐怖で胸がドキドキしました。刺されることも怖いけれど、炎が燃え広がって爆発&どんどんこちら側に来るのも恐怖。。

 

純粋に作品を楽しむというより、先日の事件を思い出してしまって、そのことばかり考えてしまいました。。。

 

 

どのお話も読みやすく、いままでのザ・ベストミステリーズと比べても、読み終わった後ズーンという気持ちになる作品がほぼなかったです。

感想は書きませんでしたが、結城真一郎さんの「#拡散希望」は現代らしい作品で、実際にこういうYoutuberいそうだなと思いましたね。。

逆に、個人的には高校生探偵みたいな設定は好きじゃないんですよね~ラノベ感があります。

一番のオススメは「九月某日の誓い」かな~!