【技術士対策38】下水道への接続にっいて | 技術士を目指す人の会

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勉学を通じて成長をナビゲートする講師。
2008年に技術士合格後、「技術士を目指す人の会」を立ち上げ、多数の技術士を輩出。自身も勉学ノウハウを活かして行政書士、世界史検定2級、電験三種に合格。

●下水道への接続に関する熊本市の記事

msnのニュースで、熊本市の下水道に関する記事が掲載されていました。

以下の通りです。

 

熊本市の中央・西区土木センター(西区)が洗濯排水を近くの農業用水路に垂れ流していた問題でクローズアップされた下水道への接続。

同市の普及率は約90%だが、下水道が普及している地域で接続していない住宅や事業所は約7千件もある。7月中旬、水路を眺めながら「環境への意識が低い」とつぶやく近くの60代男性。男性によると、毎日、決まった時間に大根などの野菜くずが流れ、時に油や泡のようなものも浮いているという。市は野菜くずの出所を近くの食品加工業者と特定し、昨年5月、下水道に接続するよう業者に指導。この業者は取材に「昨年、指導を受けた際に初めて下水に接続しなければならないと知った」と話し、「来年には移転予定で、費用もかかるため工事をしなかった」という。業者によると、排水口にかごを設置していたが、雨による増水でかごが流失し、水路に大根などが流れ出ていたという。市は今年7月下旬と8月上旬にも指導したが、近くの男性によると、8月8日時点でも野菜くずが流れていたという。

くみ取り式トイレの場合、建物の撤去や改築などの予定がある場合を除き、下水管や公共ますが整備されて下水道が利用できるようになってから3年以内に、台所や浴室、洗濯排水の場合は6カ月以内に下水道に接続することが義務づけられている。工事費用は一般住宅で20~30万円ほど。市は利子補給などの支援策を導入して接続を呼びかけているが、接続していない住宅や事業所の件数は横ばいが続いている。

中央・西区土木センターが洗濯排水を垂れ流していた問題では、その後の調査で、市所有の35施設で下水道に接続しない違法な洗濯排水が見つかった。市給排水設備課は「土木センターの件は、監督する立場でありながら、指導不足だった」と釈明。「下水道の整備は生活環境の改善と公共用水域の水質保全が目的。下水道への接続は義務であり、戸別訪問するなどして継続的にお願いしていきたい」としている。

 

 

●2つの論点

この記事で注目したい論点が2つあります。

1つ目は、汚水処理人口普及率とは何か? についてです。

2つ目は、なぜ下水道への接続義務が果たされないのか? についてです。

まずは、汚水処理人口普及率について話をしていきたいと思います。

 

●汚水処理人口普及率とは何か?

汚水処理人口普及率は、総人口に対する汚水処理人口の割合です。

汚水処理人口は、家庭で発生するし尿と生活雑排水を汚水処理施設で浄化している人口です。

し尿は、ウンコやおしっこです。

生活雑排水は、風呂、選択、炊事等で使った水です。

汚水処理施設は、下水道、農業集落排水施設、合併浄化槽等です。

これら施設では、し尿や生活雑排水を生物処理して、海や河川等の公共用水域に放流しています。

では、汚水処理施設がない場所はどうなっているのか?

し尿については、くみ取りと単独浄化槽の2種類の方法があります。

くみ取りは、桝のし尿をバキュームカーで吸引して、し尿処理場に運搬する方法です。

単独浄化槽は、し尿を生物処理して、河川や水路に放流します。

つまり、し尿はちゃんと処理されているわけです。

では、生活雑排水については、どうなっているのか?

そのまま河川や水路に放流します。

洗剤や油が大量に放流されると、当然、河川は汚濁していきます。

このため、汚水処理人口普及率を高める必要があるわけです。

現在、我が国の汚水処理人口普及率は、92.1%です。

これをできるだけ早く、100%にしたいわけです。

 

●汚水処理が行われていない人口

東京都総務局統計部のデータによると、東京23区の人口は970万8655人です。

また、国道交通省のデータによると、東京23区の汚水処理人口普及率は99.9%です。

(ちなみに、この数値は、小数点第2位を四捨五入した数値なので、99.85%かもしれませんし、99.94%かもしれませんが、ここでは99.9%で計算します)

970万8655人の0.1%は9,701人です。

東京の一世帯当たり人口は1.9人なので、世帯数としては5,100世帯になります。

つまり、日本のど真ん中の東京23区でも、5,100戸の家々が汚水処理が行われていないわけです。

結構、多いですね。

ちなみにですが、東京23区の下水道の普及率は99.9%です。

これは汚水処理人口普及率と同じ99.9%です。

この意味について、ちょっと考えてみます。

広島市の場合、汚水処理人口普及率は98.2%で、下水道の普及率は95.8%です。

これら2つの数値に2.4%の差があります。

つまり、2.4%の方々が、農業集落排水と合併浄化槽を使っているわけです。

一方、東京は、これら2つの数値が同一です。

つまり、汚水処理とは下水道のことを意味し、農業集落排水や合併浄化槽を使うような場所は存在しないわけです。

東京23区は大都会ですから、全エリアで下水道がちゃんと整備されていることになります。

逆に言えば、下水道への接続義務を履行していない家が、5,100戸あるわけです。

多いですよね。

なぜ下水道への接続義務が果たされないのでしょうか。

それでは、もう1つの論点について、話をしてききます。

 

●なぜ下水道への接続義務が果たされないのか

家の前に下水道管が整備されたら、これに接続する法的な義務があります。

下水道法第10条に定めがあります。

ところがです。

下水道管に接続するためには、敷地内に桝と配管を設置する工事が必要です。

桝には、3種類あって、し尿用の桝、生活雑排水用の桝、これらを1つにまとめる集合桝です。

集合桝と下水道管までの配管の工事費は、市町村の負担です。

しかしながら、し尿用の桝、生活雑排水用の桝、集合桝に至るまでの配管の工事費については、個人の負担になります。

敷地の掘削が必要ですから、相応の費用です。

お金が必要になるわけです。

お金がかかるにしても、法的な義務があるわけですから、皆さん下水道に接続しそうなものです。

しかしながら、下水道法第10条には罰則がないんです。

そうなると、不法行為に対する損害賠償請求という形でしか、責任を追及できないです。

下水道に接続しなかった家が、生活雑排水を放流し続けた場合でも、これによって実害が発生しない限りは、損害賠償請求をできないことになります。

しかも、実害を受けた方が、それを証明する必要があります。

まとめると、下水道に接続するにはお金がかかるし、接続しない場合もペナルティーがない。

だから、下水道への接続がなかなか進まないというわけです。

 

 

ここからは、個人的な意見です。

下水道に接続しない家は、違法行為をしてるわけです。

でも、このことを認識していないかもしれませんから、まずは知ってもらうべきですね。

そして、接続が完了するまでは、生活雑排水を流し続けるわけですから、せめて、環境に優しい洗剤を使うとか、排水口には油やゴミは流さないようにするとか、放流口にはネットをするとか、そういった努力をするべきですよね。

同時に、環境施策を担う行政サイドは、こうしたことについて情報提供したり、啓発活動を行うことが重要になりますね。

 

 

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