「特定都市河川浸水被害対策法」とはどんなものか? | 新見一郎

新見一郎

勉学を通じて成長をナビゲートする講師。
2008年に技術士合格後、「技術士を目指す人の会」を立ち上げ、多数の技術士を輩出。自身も勉学ノウハウを活かして行政書士、世界史検定2級、電験三種に合格。

●特定都市河川浸水被害対策法とは

特定都市河川浸水被害対策法とは、河川における浸水被害を防止することを目的に、雨水貯留浸透施設の整備等を推進するための法律です。この法律のポイントは、①特定都市河川を指定することにより、②その流域において、③流域水害対策計画を策定し、雨水貯留浸透施設の整備等を促進できる ことです。

 

 

●特定都市河川浸水被害対策法が制定された背景

日本の国土が都市化する前、居住区には田畑があり、未舗装の道路が大半であったことから、雨水の多くは、地中に浸透していました。浸透した雨水は、地中に貯蓄され、時間をかけて地下水脈や河川に流れ出ていたわけです。

都市化が進展すると、コンクリート構造物の建物が立ち並び、道路はアスファルト舗装になりました。雨水の多くは、地中に浸透することなく、雨水桝等に集水された後、水路や下水道管に流れ込み、直接河川に流れ出るようになりました。下水道が作り出した雨水排除システムは、適切に機能していました。

ところが、近年、気候変動の影響で集中豪雨が頻発するようになりました。これにより河川の水位が上昇し、河川に接続された水路よりも高くなると、行き場を失った雨水が水路を越流して、その周辺地域が浸水します。これが内水氾濫です。さらに、河川の水位が上昇し、堤防が決壊すると、広い範囲が浸水するような災害が発生します。これが外水氾濫です。

 

図1 氾濫の種類(気象台HPより抜粋)

 

こうした浸水への対策としては、河川の拡幅、堤防のかさ上げ等の河川整備が有効です。ところが、こうした大規模な工事を行うためには、広い用地が必要です。市街化が進んだ地域において、用地を確保するためには、多くの住民に立ち退きを強いることになり、これは容易ではありません。

そこで、注目されたのが、雨水貯留浸透施設です。雨水貯留浸透施設は、雨水貯留施設と雨水浸透施設の総称です。雨水貯留施設は、降雨時に雨水を一時的に貯留し、雨が止んだ後に放流するための施設で、雨水貯留管、雨水貯留槽等があります。雨水浸透施設は、地下に雨水を浸透させる機能を有する施設で、水が透過しやすい材料で作られた浸透性雨水桝や浸透性舗装等があります。

雨水貯留浸透施設の整備は、行政が主体となって推し進めるべき取組ですが、その効果は限定的です。浸水する可能性が高い河川では、流域全体で対策を講じる必要があります。

そこで、流域を指定して、重点的に浸水対策を実施することにより、浸水被害を防止するために制定したのが、特定都市河川浸水被害対策法です。

図2 貯留・浸透施設のイメージ(国土交通省HPより抜粋)

 

●特定都市河川の指定

この法律のポイントは、①特定都市河川を指定することにより、②その流域において、③流域水害対策計画を策定し、雨水貯留浸透施設の整備等を促進できる ことです。

まず、「①特定都市河川を指定することにより」について説明します。

特定都市河川は、国又は都道府県の指定が必要です。要件としては、以下の3項目を全て満足する必要があります。

(1) 都市部を流れる河川(市街化率がおおむね5割以上)

(2) 流域において著しい浸水被害が発生し、又はそのおそれがある(過去の実績又は想定される年平均水害被害額が10億円以上)

(3) 河道又は洪水調節ダムの整備による浸水被害の防止が市街化の進展により困難

令和4年7月14日現在、特定都市河川に指定されているのは、東京都の鶴見川、大阪府の淀川水系寝屋川等の8河川です。

 

 

●特定都市河川流域

 次に、「②その流域において」について説明します。

特定都市河川の流域は、特定都市河川の自然流域だけではありません。その河川に接続された下水道排水区域が含まれます。以下のようなイメージです。このように、特定都市河川の流域に下水道排水区域を加えた流域を、特定都市河川流域と呼び、この流域に法律の影響が及ぶことになります。

図3 特定都市河川流域(国土交通省HPより抜粋)

 

 

●流域水害対策計画の策定と雨水貯留施設の整備

最後に、「③流域水害対策計画を策定し、雨水貯留浸透施設の整備等を促進できる」について説明します。

特定都市河川に指定されると、河川管理者、下水道管理者、都道府県及び市町は、「流域水害対策計画」を策定する必要があります。この計画は、以下の(1)~(3)等の内容を記したものです。

 

(1)河川管理者による雨水貯留浸透施設の整備

(2)下水道管理者による下水道の整備(雨水貯留浸透機能を有する排水設備等の設置)

(3)上記以外の者による雨水の一時的な貯留又は地下への浸透に関する取組

 

河川管理者や下水道管理者等は、この計画に基づき、雨水貯留浸透施設の整備等に努める必要があります。計画を策定することは義務ですが、その実施については努力義務です。

また、浸水災害対策は、雨水貯留浸透施設の整備以外の方法として、土地の雨水浸透機能を保持することが有効です。この法律では、特定都市河川流域内において一定規模(1,000m2以上)の無舗装の土地で、宅地や駐車場を整備する場合、都道府県への申請を義務付けました。都道府県は、その土地の雨水浸透機能が損なわれると判断した場合、申請を不許可にできます。

なお、申請者がその土地で宅地や駐車場を整備したい場合、雨水貯留浸透施設の設置等を行い、都道府県の許可を得る必要があります。

 

図4 雨水浸透阻害行為(国土交通省HPより抜粋)

 

 

●特定都市河川浸水被害対策法の改正

特定都市河川浸水被害対策法は、平成15年に制定されたものですが、令和3年5月10日に改正されました(施行は7月15日)。

主な改正ポイントは、以下の3点です。

 

(1) 特定都市河川の範囲拡大

(2) 流域水害対策に係る協議会

(3) 浸水被害防止区域の創設

 

まず、(1)についてです。改正前の特定都市河川は、市街化が進んだことにより河川被害の防止対策を講じることが困難な河川に限定していました。改正後は、自然的条件により河川整備等の防止対策を講じることが困難な河川を追加しました。

次に、(2)についてです。流域水害対策に係る協議会を設ける制度を創設しました。この協議会は、国、都道府県、市町村等の関係者が一堂に会して、官民による雨水貯留浸透対策の強化と浸水エリアの土地利用を協議するものです。これまで、河川・下水道管理者による雨水貯留浸透対策が中心でしたが、この協議の結果を流域水害対策計画に反映することにより、地方公共団体と民間による雨水貯留浸透対策の強化を図ることを期待したものです。

次に、(3)についてです。浸水リスクが著しく高いエリアを浸水被害防止区域に指定することにしました。この区域に指定されると、団地開発や社会福祉施設、学校及び医療施設の建設等を行う場合、都道府県の許可が必要になります。許可を得るには、擁壁の設置等を行う必要があるため、土地利用が制約されることになりますが、危険な場所に新たな建物が増えることを防止できます。

 

※ 法文については、 特定都市河川浸水被害対策法 | e-Gov法令検索  をどうぞ
※ 国土交通省のHPについては、 こちら をどうぞ。

 

●下水道の基礎知識

※「マネジメントサイクル」については こちら をどうぞ。

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※「下水道による排除・処理」については こちら をどうぞ。

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