令和8年度 上下水道部門Ⅰ-2【地球温暖化対策】
地球温暖化の進行に伴う気候変動は、降水量や降水パターン変化に影響を与えることから、水資源の変動、水質悪化、自然災害の激甚化など、上下水道事業において深刻な影響を及ぼしうるものである。これに対し、2015年に採択されたパリ協定を受け、我が国は2020年10月に2050年カーボンニュートラルを宣言し、さらに2030年度に2013年度比46%削減することとし、脱炭素社会の実現を目指している。上下水道分野においても、その施設がライフサイクル全体でエネルギーを消費し温室効果ガスを排出する特性から、脱炭素社会の実現に向けた積極的な役割が期待されている。このような背景を踏まえ、以下の問いに答えよ。
(1) 上下水道施設における地球温暖化対策及び脱炭素化を推進するうえで、技術者としての立場で多面的な観点から3つの技術的課題(ただし、人や費用の確保は除く)を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、その技術課題の内容を示せ。
(2) 前問(1)で抽出した技術課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その技術課題に対する複数の解決策を、上下水道部門の専門技術用語を交えて具体的に示せ。
(3) 前問(2)で示した解決策に関連して、新たに浮かび上がってくる将来的な懸念事項とそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。
(4) 前問(1)~(3)の業務遂行において必要な条件を、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から述べよ。
【解答例】
1 上下水道における地球温暖化対策等の課題
(1) 再生可能エネルギーの活用と創エネルギーの推進
上下水道事業は、広大な用地や水を移送するための施設を数多く保有しており、太陽光発電や小水力発電等の再生可能エネルギーを導入する可能性を有している。また、下水汚泥には大量の有機物が含まれており、これを活用したエネルギー回収が可能である。こうした観点から、上下水道施設における再生可能エネルギーの活用と創エネルギーの推進(これ以降「再エネ等」と言う)が課題となっている。
(2) 省エネルギー対策の強化
上下水道事業は施設型産業であり、浄水場、送配水施設及び下水処理場等において大量の電力を消費している。また、電力使用に伴う温室効果ガスの排出や電力価格の高騰は、事業経営に大きな影響を与えている。こうした観点から、上下水道施設における省エネルギー対策の強化が課題となっている。
(3) 資源循環・省資源の推進
下水処理場で発生する汚泥はリンや窒素を含有しており、これら資源の回収が期待されており、浄水場で発生する浄水発生土も含め、有効利用を推進することが求められている。
また、水処理における薬品使用量の最適化、管路の漏水防止等により、環境負荷を低減する必要がある。こうした観点から、上下水道施設における資源循環と省資源の推進が課題となっている。
2 最重要課題に対する解決策
前述の課題のうち、再エネ等は、温室効果ガス排出量の削減とエネルギー自立性の向上を同時に実現できることから、これを最重要課題に位置付け、以下に解決策を示す。
(1) 下水道における再エネ等
下水処理場において、下水汚泥を嫌気性消化することで発生する消化ガスを活用したバイオガス発電を推進する。下水汚泥の燃料化や固形燃料化を推進し、化石燃料の代替利用を図る。
さらに、下水汚泥、浄化槽汚泥、し尿及び家庭系生ごみを集約してバイオガス発電を行うことで、下水処理場を地域バイオマス拠点として活用する。
また、下水処理水が保有する未利用熱エネルギーを地域冷暖房等へ活用するとともに、下水処理場からの放流水を利用した小水力発電を実施する。
(2) 水道における再エネ等
配水池間を連絡する送水管等の有効落差を活用した管路内小水力発電を推進する。
また、太陽光発電を導入する際は、平常時の電力供給だけでなく、災害時における非常用電源としても活用することで、水道の安定供給を確保する。
(3) 上下水道共通の再エネ等
上下水道施設及びその用地を活用した太陽光発電を導入する。シリコン太陽電池に加え、今後は軽量かつ柔軟性に優れるフィルム型ペロブスカイト太陽電池の導入も促進する。太陽光発電は、天候や季節の影響を受けて発電量が変動するため、蓄電池の導入や複数の再生可能エネルギーの組合せにより、安定的なエネルギー供給を確保する。
また、再生可能エネルギー設備の導入に合わせて、AIやICTを活用したエネルギーマネジメントシステムを導入し、再エネ等と省エネルギーを一体的に推進し、地球温暖化対策と脱炭素化を推進する。
3 新たに生じ得るリスクとその対策
再能エネ等は、大規模な施設整備を伴い、多額の初期投資を要するほか、維持管理費も発生する。このため、ライフサイクルコストを踏まえた事業評価を行った上で最適な手法を選択するとともに、官民連携や広域連携を推進し、効率的かつ効果的な施設整備を行う。
また、地球温暖化の状況によっては、温室効果ガス排出量の更なる縮減を求められる可能性がある。このため、一連の取組みをPDCAサイクルにより継続的に改善する必要がある。
4 業務遂行において必要な要件
業務遂行にあたっては、水道法、下水道法、環境基本法等の関係法令を遵守し、公衆の安全、健康及び福利の保持を最優先にしなければならない。
また、上下水道に係る施設整備等が環境や社会に及ぼす影響を予見し、リスクの軽減に努める必要がある。
【出題された背景や狙い・解答に繋がるポイント】
この問題のリード文では、「2050年カーボンニュートラル」について言及しています。「2050年カーボンニュートラル」は、2020年に内閣が、2050年までに温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ実質ゼロにすることを宣言したものです。この宣言を受け、翌2021年に地球温暖化対策推進本部は、2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度比46%削減する方針を表明しており、この削減目標を踏まえた「地球温暖化対策計画」が閣議決定されました。その後2025年に「地球温暖化対策計画」が改定され、「2050年カーボンニュートラル」を「2050年ネット・ゼロ」と改め、その実現に向けて2035年度及び2040年度に温室効果ガス排出量を2013年度比でそれぞれ60%、73%削減することが明記されていました(図1参照)。上下水道分野においても、水道行政が厚生労働省から国土交通省へ移管され、従来のエネルギー消費型インフラから脱炭素化を担うインフラへの転換が求められ、脱炭素化に向けた取組が本格化しています。このような状況が、本テーマの出題された背景になっていると考えられます。
このリード文は、地球温暖化による水資源の変動、水質悪化、自然災害の激甚化が上下水道事業に深刻な影響を及ぼしていることに言及していますが、問題文(1)では、地球温暖化対策及び脱炭素化の推進について課題を示すことを求めています。このため、リード文に惑わされず、省エネ、再エネ、創エネ、資源循環、N2O排出抑制等について説明することが解答を作成する際のポイントになります。
【当該テーマについて上記以外で勉強するべき事柄】
地球温暖化対策と脱炭素化に関する必須科目の試験問題は、令和元年度に「上下水道事業における地球温暖化防止策」、令和4年度に「上下水道分野における事業活動に伴う環境負荷の低減」が出題されています。本テーマについて勉強する場合は、この解答を作成するために必要な情報を収集・整理しておけばよいでしょう。これら以外に、令和7年度の必須科目では「地球温暖化に伴う気候変動に起因するリスクへの対策」が出題されています。気候変動に対しては、省エネ、再エネ、創エネ等の地球温暖化対策だけではなく、浸水、渇水、高潮等への対策が必要になります。この点を踏まえて内容を整理しておくことをお勧めします。
また、上下水道部門の必須科目の頻出テーマとしては、地球温暖化対策と脱炭素化以外に、水循環の健全化、災害事故対策、事業の基盤強化があります。今後の試験対策として、これらテーマについても課題とその解決策について内容を整理しておくとよいでしょう。
●他の解答例
1つ前の問題の解答例を見たい方は こちら をどうぞ。
●テキスト
※ 技術士勉強法に関するテキストを見たい方は、 こちら をどうぞ。
●二次試験の過去問と解答例
※ 令和7年度の試験問題と解答例を見たい人は、こちら をクリックしてください。
※ 令和6年度の試験問題と解答例を見たい人は、こちら をクリックしてください。
※ 令和5年度の試験問題と解答例を見たい人は、こちら をクリックしてください。
※ 令和4年度の試験問題と解答例を見たい人は、こちら をクリックしてください。
※ 令和3年度の試験問題と解答例を見たい人は、こちら をクリックしてください。
※ 令和2年度の試験問題と解答例を見たい人は、こちら をクリックしてください。
※ 令和元年度の試験問題と解答例を見たい人は、こちら をクリックしてください。
※ 平成30年度の試験問題と解答例を見たい人は、こちら をクリックしてください。
●予想問題と解答例
※ 令和8年度の予想問題と解答例を見たい方は こちら をどうぞ。
※ 令和7年度の予想問題と解答例を見たい方は こちら をどうぞ。
※ 令和6年度の予想問題と解答例を見たい方は こちら をどうぞ。
※ 令和5年度の予想問題と解答例を見たい方は こちら をどうぞ。
※ 令和4年度の予想問題と解答例を見たい方は こちら をどうぞ。
※ 令和3年度の予想問題と解答例を見たい方は こちら をどうぞ。
※ 令和2年度の予想問題と解答例を見たい方は こちら をどうぞ。
※ 令和元年度の予想問題と解答例を見たい方は こちら をどうぞ。
●口頭試験について
※ 技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)の解説を読みたい方は こちら をどうぞ。
※ 口頭試験対策を見たい方は、 こちら をどうぞ。
