平成31年度、技術士試験制度の改正により、必須科目が記述式になります。上下水道部門では、上水道共通のテーマについて勉強する必要があります。そこで、新聞や雑誌で取り上げられた水循環、水道、下水道に関する記事のうち、技術士試験で出題される可能性がある事柄について解説をしたいと思います。
今日は、下水道による水の循環について、お話したいと思います。
●水の循環とは
●循環とは
『新下水道ビジョン』の目標は、循環のみちを持続・進化することです。
この目標を理解するためには、「循環のみち」が何を意味するのか理解する必要があります。
そもそもですが、何を循環させるのか?
それは、「水」と「資源」です。
「循環のみち」とは、下水道により水と資源を循環させるシステムを意味します。
●「水」の循環とは
自然界の水循環は、以下の①~⑤の循環です。
①雲が発生して雨が降り
②山間部等の地表に浸透する
③山、森等で貯水・浄化される
④水が川や地下水に流れ出す
⑤海や湖に流れ出し蒸発して雲が発生する
この自然の水循環に人間の営みが加わります。
具体的には、④と⑤の間に、上下水道が挿入されます。
以下の(1)〜(6)です。
(1)河川、地下水等から取水(水道用、工業用水道、農水もある)
(2)浄水場等で水処理
(3)水道水を配水管等により給水
(4)使用した水を下水管渠に排水
(5)下水処理場等で水処理
(6)海、河川に放流
上記のプロセスのうち、(1)の水道による取水が過剰になると、河川の枯渇、地下水の減少、地盤沈下等が発生します。また、(5)の下水処理が不適切だと、海域や流域が汚染されます。上下水道が自然の水循環に弊害を及ぼすことになるわけです。
このため、水道は、排水の抑制、漏水防止等により、適正な取水に努め、下水道は、適切な下水処理を行う必要があります。もしも、その地域の排水の水質が著しく悪化していたり、放流先の河川が汚濁していたりする場合は、高度な下水処理を行う必要があります。
そして、私たち国民も、異物、油、化学薬品等の汚濁物質を排水口や水路に流さないようにする必要があるわけです。
(図:内閣官房水循環制作本部HPより)
ここまでは、水循環の健全化に関する取り組みです。さらに、下水道ビジョンでは、下水処理場で処理した水の利活用を提言しています。具体的には、以下の❶、❷ようなことに利活用します。
❶ 放流によるせせらぎやビオトープ等の水辺環境の創出
❷ 再生水として使用(トイレ洗浄水、散水、冷却水等)
上記のうち、❶については、下水処理場が河川の下流域に建設されることが多いため、水辺空間の創出はそのエリア限定的な取組になってしまいます。このため、下水道ビジョンでは、河川の中流域に小規模な下水処理場を整備することを提案しています。これをサテライト処理場と言います。下水管渠の途中から分岐して、処理した水を枯渇したせせらぎに放流すれば、水辺を再生できるわけです。
このように、処理水の有効活用を実施することが、水の「循環」です。下水処理場での処理水を、そのまま公共用水域に放流するのではなく、まずは、処理水の水質を向上して、水を有効利用することにより、新たな循環を生むわけです。
また、人間の営みにより、山間部の団地開発、道路が建設されます。これにより、舗装部の増加し、雨水が、土壌に浸透せずに水路や地表面を流れるようになります。雨水が土壌に浸透していれば、地中にストックされますが、浸透しなければ、雨水がダイレクトに河川区域内に流入します。大雨により河川の水位が上昇している場合、河川区域周辺で浸水被害が発生します。これが内水氾濫です。
内水氾濫への対策としては、河川の水位が上昇しても、浸水しないよう、雨水ポンプを整備するのが一般的な方法です。ただ、下水道ビジョンでは、自然の水循環に近い方法を提言しています。
まずは、できるだけ雨水を地中に浸透させます。このため、舗装分や雨水桝を浸透性に変更する等、雨水浸透施設を整備することを推奨しています。
また、大量の雨水が短時間で河川や水路に流出しないよう、雨水貯留槽等を整備し、一旦、雨水をストックします。時間をかけて地中に浸透させたり、雨水を中水として有効利用したり、晴天時に放流する方法も有効です。
このように、処理水や雨水を循環させることを、下水道ビジョンでは「水」の循環と呼びます。
(写真:広島市HPより)
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