●観点について
技術士二次試験では、「観点」という言葉を使った問題が出されます。
例えば、令和2年度の上下水道部門の必須は、以下のような問題でした。
Ⅰ-1 (1)上下水道事業においても、健全な水循環構築のための取組が求められている。これについて、技術者としての立場で多面的な観点(水量・水質・水辺環境)から、健全な水循環の構築に関して上下水道事業に共通する課題を複数抽出し、その内容を観点とともに示せ。
Ⅰ-2 (1)上下水道事業を将来的に継続させるためのさまざまな取組が求められている。これについて、技術者としての立場で多面的な観点から、上下水道事業に共通する課題を複数抽出し、その内容を観点とともに示せ。
Ⅰ-1のテーマは水循環です。
観点は問題文に明記されていました。①水量、②水質、③水辺環境です。
Ⅰ-2のテーマは、事業のあり方です。
観点は問題文に明記されておらず、リード文から読み取る必要がありました。
リード文に書いてあった観点は、①厳しい財政状況、②技術者不足、③施設の老朽化対策、④過疎地域における上下水道の普及促進です。
必須科目は「観点」に沿って解答を作成する必要があります。
そもそもですが、「観点」とはどんな意味でしょうか。
辞書によれば、「物事を見たり考えたりする立場」という意味にです。
例えば、「環境保護の観点からハイブリッドカーを購入した」という使い方です。
なるほど、観点を立場に言い換えても意味が通用します。
技術士の「観点」からという使い方をすれば、技術士の立場からと言い換えることができます。
技術士とは課題遂行と問題点解消を行うエンジニアですから、「課題遂行と問題点解消を考える立場」という意味になります。
観点とは立場という意味というのは理解できます。
これはこれでいいのですが、技術士の試験問題で使われる「観点」は、立場という意味ではないような気がします。
実際のところ、令和2年度のⅠ-1で明示された①水量、②水質、③水辺環境という観点は、立場ではないです。
どちらかと言うと、「分類項目」、「構成要素」という意味です。
令和2年度のⅠ-2で明示された①厳しい財政状況、②技術者不足、③施設の老朽化対策、④過疎地域も立場ではないです。
こちらについては、課題の「分類項目」、「論点」という意味です。
両方に当てはまるのは、「分類項目」です。「カテゴリー」と言い換えてもかもしれません。
というわけで、
技術士試験における「観点」とは 「課題の分類項目」という意味になります。
試験問題で「観点」という言葉が使われている場合、あるテーマに関する課題を複数の「分類項目」に分けて整理することが求めらているわけです。
試験で観点を述べることが求められるのであれば、各テーマについて「観点」を事前にピックアップしておけば、試験対策として極めて有効です。
選択科目のテーマというのは、相当数あります。
全てのテーマについて、観点をピックアップするのは大変です。
しかしながら、必須科目の出題テーマというのは限られています。
繰り返しになりますが、「観点」とは課題の分類項目です。
いうわけで、
必須科目の出題テーマについて、事前に、「課題の分類項目」を整理しておけばいいわけです。
●上下水道の必須科目のテーマ
上下水道の必須科目のテーマは、以下のようなものがあります。
(1)水循環
(2)地球環境
(3)事故災害対策
(4)事業のあり方
(5)施設の老朽化対策
平成13年度から平成24年度までの12問、令和元年度から令和2年度までの4問、合計16問のうち15問が上記のテーマです。
平成22年度に業務指標に関する問題が出題されましたが、これ以外の15問は、全て上記5つのテーマから出題されています。
また、令和元年度以降、必須科目は2問から選択するスタイルになっていますから、これら5つのテーマから1問は出題されるはずです。
つまり、これらテーマについて、観点を示した上で課題を述べることが求められるわけです。
そう考えると、
勉強する段階において、課題の分類項目を複数用意しておくことが重要になります。
●各テーマの観点について
(1)水循環
基本的な観点は2つです。①水質、②水量です。
水環境の課題は、水質的に良好で、水量的に十分な状態を維持することです。
水質に着目すると、下水道は放流水と越流水の水質改善、水道は水道水の水質改善、それから水源涵養等が課題になります。
水量に着目すると、下水道は浸水対策が、水道は取水の適正化、それから渇水対策が課題になります。
正直なところ、水循環の観点はこの2つしかありません。
ただ、問題文としては2つの観点では少ないので追加が必要です。
というわけで、令和2年度の問題では、③水辺環境という観点が加わりました。
水質、水量という水資源そのものではないものに着目したわけです。
そう考えると、今後の試験対策として、④水インフラという観点もチェックしておく必要があります。
それから、少し見方を変えて、⑤水循環リスクという観点もあります。
これは河川の上流に終末処分場、下流に浄水場がある場合、終末処分場の機能不全が浄水場にとってリスクになるというものです。
(2)地球環境
基本的な観点は3つです。①自然エネルギー、②省エネルギー、③省資源です。
自然エネルギーは、太陽光、小水力、風力、バイオマスがあります。
下水道は、汚泥を使って発電することができますから、バイオマスについては必ず勉強しておくべきです。
省エネルギーは、インバーター制御、高効率機器の採用、LEDの採用、施設の再編や水運用の変更等です。
上下水道それぞれで特殊な設備がありますから、具体を計上して、対策を述べる必要があります。
省資源は、汚泥の有効利用、薬品使用量の削減、施設の長寿命化等です。
それから、地球温暖化を防止するのではなく、地球温暖化による影響を抑制するという見方も必要です。
④風水害対策、⑤海水面上昇対策という観点もあります。
地球温暖化により、風水害が増加する可能性が高まります。この対策が課題になります。
海水面が上昇した際、どのようにインフラを改善するか、こうしたことが課題になります。
(3)事故災害対策
基本的な観点は2つです。①自然災害、②事故です。
自然災害を一括りにするのではなく、もう少し細かく分類することもできます。
③地震、④風水害、⑤渇水、⑥落雷という観点です。
地震は津波を含みますし、風水害は台風、豪雨による浸水、土砂崩れを含みます。
事故についても、もう少し細かく分類することができます。
⑦施設事故、⑧水質汚染事故、⑨NBCテロという観点です。
施設事故は、老朽化による機能停止、職員による誤操作、漏水による道路陥没等があります。
それから、対策に主眼を置いた分類もできるはずです。
具体的には、❶被害の未然防止(施設の耐性強化と更新)、➋被害による影響の回避(バックアップの確保)、❸被害による影響抑制と被害の復旧(応急対応)という観点です。
事故災害対策は頻出テーマですから、様々な観点を準備しておくことが大切です。
(4)事業のあり方
基本的な観点は、上下水道で異なります。
それぞれでビジョンがあるからです。
水道ビジョンには、①安全、②強靭、③持続という3つの観点があります。
新水道ビジョンは、「時代や環境の変化に対して的確に対応しつつ、水質基準に適合した水が、必要な量、いつでも、どこでも、誰でも、合理的な対価をもって、持続的に受け取ることが可能な水道」を目標像としています。
その上で、この目標を実現するための観点として、水道水の安全の確保を「安全」、確実な給水の確保を「強靱」、供給体制の持続性の確保を「持続」を計上しています。
下水道ビジョンには、①水のみち、②資源のみち、③施設再生という3つの基本方針があります。
下水道ビジョンは、基本コンセプトとして「循環のみち」の実現を宣言しています。
これまでの下水道機能に加え、持続可能な循環型社会の構を図るため、健全な水循環及び資源循環を創出する新たな下水道を目指すものです。
さらに、この目標を実現するための観点として、水循環の健全化に向けて水再生・利活用ネットワークを創出する「水のみち」、資源回収・供給ネットワークを創出する「資源のみち」、サスティナブル下水道を創出する「施設再生」を計上しています。
それから、国家レベルでは、SDGsというビジョンが掲げられています。
SDGsでは、17の目標が設定されています。以下のとおりです。
①貧困をなくそう
②飢餓をゼロ
③すべての人に健康と福祉を
④質の高い教育をみんなに
⑤ジェンダー平等を実現しよう
⑥安全な水とトイレを世界中に
⑦エネルギーをみんなに そしてクリーンに
⑧働きがいも経済成長も
⑨産業と技術革新の基盤をつくろう
⑩人や国の不平等をなくそう
⑪住み続けられるまちづくりを
⑫つくる責任 つかう責任
⑬気候変動に具体的な対策を
⑭海の豊さを守ろう
⑮陸の豊さを守ろう
⑯平和と公正を全ての人に
⑰パートナーシップで目標を達成しよう
これらのうち、上下水道において、重要な観点になるのが⑥です。これは上下水道の普及と水質保全です。
これ以外にも、⑦
これまでにSDGsについては出題されていません。
このため、少なくとも、上述の⑥、⑦、⑨、⑪、⑫、⑬のキーワードは、憶えておいたほうがいいです。
それから、令和2年度は、目標ではなく、問題点がクローズアップされていました。
具体的には、①財政状況の悪化、②インフラの老朽化、③人口減少、④過疎化という4つの観点が示されていました。
この問題点を解消するため、上下水道は基盤強化が求められています。
そうなると、基盤強化を実現するための取組に主眼を置いた分類もできるはずです。
具体的には、❶広域連携、➋官民連携、❸ICTの活用です。
こうしたことを踏まえて、勉強をする必要があります。
(5)施設の老朽化対策
基本的な観点は2つです。①更新、②長寿命化です。
更新は、更新、更生、移設、統廃合があります。
長寿命化は、補修、補強があります。
更新と長寿命化この2つで十分なのですが、追加するのであれば、③アセットマネジメントという観点です。
アセットマネジメントは、ミクロマネジメント、マクロマネジメントで構成されます。
ミクロマネジメントは、施設の点検結果と機能評価結果に基づき、更新と長寿命化を適切に実施することで、マクロマネジメントは、施設全体の更新・長寿命化に要する支出を把握した上で、収入に応じて支出を調整することです。試験対策としてはマクロマネジメントの方が重要になります。
というわけで、
出題テーマについて、「課題の分類項目」を整理してください。
また、課題というのは、分類の仕方によっては、複数存在することに留意してください。
●技術士試験対策
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●下水道の基礎知識
※アセットマネジメントとストックマネジメントの違いについては こちら をどうぞ。
※「資源の循環」については こちら をどうぞ。
※「水の循環」については こちら をどうぞ。
※「下水道による排除・処理」については こちら をどうぞ。
※「新下水道ビジョン加速戦略」については こちら をどうぞ。
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●過去問と解答例
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