アセットマネジメントとストックマネジメントの違い | 新見一郎

新見一郎

勉学を通じて成長をナビゲートする講師。
2008年に技術士合格後、「技術士を目指す人の会」を立ち上げ、多数の技術士を輩出。自身も勉学ノウハウを活かして行政書士、世界史検定2級、電験三種に合格。

●アセットマネジメントとストックマネジメントの違い

 アセットマネジメント、ストックマネジメント、よく見る言葉です。

 これら2つの違いについてですが、国土交通省が公表した『アセットマネジメントの基礎解説』で、以下のような説明がしてあります。

 

『国土交通省では、下水道事業におけるストックマネジメントを 「下水道事業の役割を踏まえ、持続可能な下水道事業の実現を目的に、明確な目標を定め、膨大な施設の状況を客観的に把握、評価し、長期的な施設の状態を予測しながら、下水道施設を計画的かつ効率的に管理すること」 と定義している。

アセットマネジメントとストックマネジメントは混同されがちであるが、アセットマネジメントを構成している主たるものがストックマネジメント(モノのマネジメント)である、

そして、この核となるストックマネジメントの他に「資金(カネ)のマネジメント」と「人材(人)のマネジメント」を加えたものがアセットマネジメントという理解でよい。

 

 

(国土交通省HPより)

 

アセットマネジメントとストックマネジメントの違いを明文化してくれた文書は少ないので、とてもありがたいです。

『アセットマネジメントの基礎解説』は、以下のサイトで確認できるので、読んでみてください

www.mlit.go.jp/common/001184712.pdf

 

ただし、この説明でも、正直、少し解りにくいと思います。

ですので、もう少し噛み砕いた説明をしたいと思います。

 

まずは、施設の修繕・改築ですが、以下のような段階で向上していきました。

 

step1 =故障・損壊した施設の修繕

step2 =故障・損壊が発生する前に改築(数年間の改築予定)

step3 =耐用年数一律で検討した長期的な改築計画

step4 =施設診断等に基づき現実的な改築時期を見極めて策定した長期的な改築計画

 

修繕がstep1です。修繕は、壊れたところを治す処置です。

改築はstep2〜4です。改築は、更新、更生等により機能を回復させる処置です。

これを図化すると、以下のようになります。

 

 

横軸が時間軸で、縦軸が改築の需要です。太線で囲った部分が将来的な改築需要です。

step2では、数年間分の改築するべき施設を見極めています。中期的な計画は存在するわけです。ただし、将来的な改築需要は、全くわかっていない状況です。

step3では、将来の改築需要が見えています。全ての施設について改築時期を決定しています。改築時期は、建設年度に一律の耐用年数を加算して決定したものです。改築需要を見ると、大きなピークが存在します。これに対処するためには、資金的にも人的にも大きな負担を強いられることになります。

step4では、施設診断や施設環境を考慮して改築時期を決定します。step3よりも施設の長寿命化を図ることが可能になります。長寿命化はある意味で先送りです。このため、施設の健全性を継続的に確認するため、点検や診断を行うことが重要になります。そして、このstep4に到達することが、ストックマネジメントの実施になるわけです。

 

このstep4、ストックマネジメントに到達することにより、将来が明確になります。

この段階に到達するのも、大変な作業が必要です。

しかしながら、事業を将来的に渡って運営するためには、これらに必要な費用まで考慮する必要があります。

ここからがアセットマネジメントです。 

 

上図は、上側に支出、下側に収入を記しています。

まず、左図を見てみましょう。収入は減少傾向、支出は増加傾向です。

 支出については、将来的な支出はstep4の需要をそのままプロットしています。改築需要が増加するため、支出も増加傾向を示します。

 収入については、人口減少社会の到来により減少傾向です。このため、収入は減少傾向を示します。

 この段階では、収支のバランスがとれていません。このままでは、事業を継続的に運営することができません。

まずは、この段階に到達する必要があります。

そして、次の取組が必要になります。

収入を増加させる必要があります。

地方債や企業債を充当することで資金を確保できますが、こうした対応は経営悪化を招くので、上限を設定する必要があります。

さらに、新たな収益を確保する必要があります。

税金や料金を値上げが必要になります。

ただし、これらによる収入確保には限界があります。

このため、支出の抑制が不可欠になります。

支出を抑制するためには、施設の長寿命化をさらに実施する必要があります。

さらに、施設の統廃合、ダウンサイジング、省エネルギー等によるコスト縮減、自動運転技術の導入による省力化、スケールメリットを活かした広域化等が重要になります。

このようにな取組により、支出抑制と収入確保を実施し、収支のバランスを維持できるような将来的な計画を策定することが、アセットマネジメントになるわけです。

 

というわけで、最後にストックマネジメントとアセットマネジメントの違いについて再確認しておきます。

ストックマネジメントが、施設の修繕・改築等を最適化するための長期的な計画です。

アセットマネジメントは、ストックマネジメントに財政収支を加味したものです。 

 

●下水道の基礎知識

※マネジメントサイクルについては こちら をどうぞ。

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