見せびらかして、独り占めして (隼人)
ニルアドミラリ。隼人とツグミ恋人中。一つ前の紫鶴さんのと同じネタから書きましたが。最初 紫鶴さんで考えて、でも、隼人で書きたくて、3日かかって書いてみた。ら、やっぱり隼人らしさが足りなくて。紫鶴さんで書きなおしたら、やっぱり紫鶴さんだと筆が進んで1日でかけてしまった。と、宣伝用バナーというのがあったのとってきてみました。隼人さんのこの笑顔>_<*******すぐに真横から、ふわっと漂ってくるタバコの匂い。「久世さんもですか?」男の人らしい長い指がタバコを扱う姿は様になっていた。穏やかな低い声、優しげな風貌に似合った淡い色のスーツ。「そうですね」相槌を打ちながら、ツグミはお気に入りのミルクセーキに口をつけた。甘い香りと、ステンドグラスに反射する暖かい光につつまれた空間。昼とは違う、みながゆったりと過ごす濃密な空気の漂うフラマンローズの夜。ツグミは四角いテーブルの対面に座っている小瑠璃から、右の側面に座る男性へと視線を移した。非番の今日は午後から小瑠璃とここで待ち合わせをして、おしゃべりを楽しんでいた。お互いの近状。仕事の軽い話と、共通の友人の話題。一番盛り上がったのはやっぱりお互いの恋人の話。話もはずんで楽しい時間を過ごせたのだけれど、話が弾みすぎたせいで時間も遅くなって、この後社に戻る用があるという小瑠璃に付き合って夕食もここでとって帰ることにした。そんなときに、偶然やってきた小瑠璃の会社の先輩。初めて会ったこの男性は、小瑠璃によると、大きなニュースをいくつもとってくる、社内でもやり手の記者だそうで、そう紹介された通り、人の懐に入り込むのが上手く人好きのする笑顔で、あっという間に小瑠璃とツグミの席に収まってしまった。「あぁ。それはいい。それではこちらは読まれましたか?」「あ、私読みました」「私は………」食事をしながらの時間はあっという間に過ぎていって…それが突然、小さな不安に変わった。食事も終えたから、そろそろとツグミと小瑠璃が立ち上がろうとしたとき、男性が先ほど注文していた飲み物がタイミングよくテーブルに運ばれてきた。それもツグミ達の知らない間に3人分の注文をしていたようで、小瑠璃の前に置かれたのはオレンジ色と黄色のグラデーションの背の高いグラス。ツグミの前に置かれたのは白濁した桃色の底に透明な琥珀色と二層になった浅いグラス。グラスの淵に砂糖菓子が飾られていてとても可愛らしい。にこやかによかったらどうぞと勧められたそれを無下に断って立ち上がるのは難しかった。このグラスの型で気づくべきだったのに、ツグミは勧められるまま、その可愛さに気を許して口をつけてしまった。一口飲み込んで驚く。その綺麗な飲み物は紅茶の香りに果物の甘い味を纏ったアルコールだった。「先輩。これお酒ですか?」「あぁ、うん。二人ともお酒はダメだったかな?それはすまないね」男の人はにっこりと微笑む。裏はない。悪気はないというように。だけど、薄い縁の眼鏡の奥で微笑みをかたどった瞳に、獲物を狙うような記者らしい色があった。巧妙な大人の彼は上辺にはそれを隠していたらしい。だけど、それを見てしまった。そして、知らない間に飲んでしまったアルコール。ツグミの胸に不安が広がる。「私はダメということはないんですが、この後、社に戻る用事がありますし。ツグミちゃんの方は……お酒なんて飲ませたら、怒られちゃうかもしれないわ」「怒られる?ご両親かな?」「あ、え…えっと。これくらいで怒ったりはしないと思うけど」「ツグミちゃんは大事なお嬢さんですから」小瑠璃は男性に意味ありげに言ってみせる。隼人のことを話題に出されて、ツグミはからかわれたような気分で恥ずかしげに頰を染めた。「久世さんは職業婦人だと伺っていたけど、柾の友人ということは、本当は深層の令嬢なのかな…それもぴったりだね」男性はそれを見て、興味を持った様子だ。「よかったら口直しに他のものを頼んで」「いえ、もう…」遠慮して再び立ち上がろうとすると、男性も同じように立ち上がろうとする。「そうですか?じゃあ、もう夜も遅い。お嬢様方を送らせていただこうかな。こんな時間に女性を一人で帰すことなんてできませんし。柾はこの後、社に戻るんだったっけ、そちらに寄ってから久世さんを…」それが当然という話の流れに彼は持っていく。だけど、ツグミからすれば初対面の男性相手に二人きりでアパートに送り届けてもらうなんていうのは、考えにくい。ついさっきまでは気を許していたけれど、芽生えた不安はどんどん大きくなっていく。思い出せば、親切な顔、柔らかい物言いなのに、彼にはどうしても断りにくい強引さがあった。それを考えると断るのは難しそうだった。小瑠璃もその辺りを感じているのだろう。二人で顔を見合わせる。少し考えて、困った顔をしている小瑠璃に耳打ちする。それから再び席について、馴染みのウェイター呼んで、追加で温かい紅茶と、ウェイターにも耳打ちで頼みごとを済ませた。「私は………やっぱり、もう少ししてから帰ることにします。小瑠璃ちゃんはもう、行かなきゃいけない時間なのよね」「ええ。だけど、社までは車を使いますから、私はお先に失礼しますわ」小瑠璃は少し迷いながら、だけど安心したように先に店を後にした。男性は小瑠璃と私を見比べてから、元の席に戻った。二人で席に着くのは居心地が悪い。警戒心を抱かざる得ない相手が共だと一層。ツグミはすぐに運ばれてきた暖かい紅茶を飲みながら、残りの時間をやりすごすことにした。***ほどなくして、少しだけ乱暴に開いたフラマンローズの扉。扉から入ってきたのは、制服の上着を脱いだだけの格好の隼人だった。そちらを見て、ツグミは自然と笑みを浮かべた。「ツグミ」店を見回してツグミを見つけると、隼人も明るい笑顔を見せる。「お知り合いですか?ツグミさん」いつの間にか男性の呼び掛けは、久世さんからツグミさんに変わっていた。「はい」テーブルに近づいてきた隼人は、ツグミの手をとり立ち上がらせると背中に隠すように一歩前に出た。そうして華やかに邪気のない絵顔を向けた。「ツグミを迎えに来ました。それそろ俺たちはお暇しますね。ツグミは俺が責任を持って連れて帰りますので、ご心配なく」隼人の完璧な笑顔に彼は柔和に見える笑顔で対する。どちらもが一歩も引かないような笑顔のまま、先に折れたのは彼の方だった。「ああ。お酒を飲ませたら怒られるというのはこちらの御仁でしたか」隼人は一口だけ飲んでしまったアルコールに染められたツグミの頰を振り替えって確認した。「飲んだの?」「…気づかなくて」「私の不注意です。ツグミさんを怒らないでやってくださいね。こんなに可愛い人が私のせいで叱られるのは忍びありませんから」男性の言葉は気遣うようでいて、最後の爪痕にと波風を立てようとするものだった。ただ、もう自分が送るというような素振りを見せないのは引き際を心得ているのだろう。「ええ。こんなに可愛い恋人を叱るなんて。けれど独り占めしたいとは思ってしまいますので、失礼しますね」隼人はそれを、笑顔のまま無視した。***店の外にでると、外気は少しだけ肌寒い。澄んだ空には月が煌煌と輝いていた。明るい夜道には二つの影が手をつないでいる。隼人は何も言葉を発せず。それを見上げてツグミは不安な顔をした。「…ごめんなさい」「………謝るようなことしたの?」いつもの快活さを潜めた隼人がいう。並んで歩いていた足が少しスピードを落とし、ツグミを見下ろした。「柾さんとお茶とおしゃべりに行くって聞いていたけど…男が一緒だとは聞いていなかったな……」「そんなことは、ひとつもないわ。あの人と一緒になったのは偶然で」隼人の言葉を遮るようにツグミは否定した。「そう。だったら、話は後。今は早く帰ろう」それきり、隼人は言葉なくアパートへ足を向かわせた。いつもと違う様子の隼人に違和感を覚えながら、ツグミはそれについて歩いた。***明かりを灯さない隼人の部屋には、青白い光が窓枠の影をしだいに短くしていた。隼人はベットに腰掛け、ツグミはその横に所在なさげに佇む。「隼人……」見あげる隼人の瞳をツグミはまっすぐ見つめ返した。「うん」返事をする様子にいつもの明るさがなく。安心させるような柔らかさもない。「もともと…小瑠璃ちゃんと二人の予定だったの。あの男の人は偶然あのお店に来て。小瑠璃ちゃんの先輩だったから断るにも断れなくて」「うん。それで口説かれちゃったって?」隼人の言葉にツグミはビクリとしながら、瞳を戸惑わせる。「そう…なのかしら?」けれど思い当たる節はあって、それが今日のあの時の不安の理由だった。「でも、なんというか、強引というわけではないのに断り辛いというか…困ってしまって。それでいつものウェイターさんに頼んで隼人を呼んでもらったの」仕事終わりで急いで来てくれただろう彼の服装を見ていると、申し訳ない気持ちになってくる。「疲れているのに、ごめんなさい。迷惑をかけちゃって」「そんなことはちっとも迷惑だなんて思ってないよ」「ありがとう………」隼人の様子を見ても、怒っているわけでもなくて迷惑だと思っている様子もない。だけど、いつもの隼人とは違う気がする。何といって聞こうかと迷っていると先に言葉を発したのは隼人の方だった。「……かわいくしているツグミも、綺麗にしているツグミも好きだし、嬉しいんだけどね。あの男のためじゃないって言ったって、それを見てあの男がツグミに一目惚れしちゃう気持ちもわかるんだよね」ベットに腰掛けたままの隼人がツグミの髪をすくい上げる。「外の匂いがする。タバコの匂い…あの男の匂い」「あ…」呟くように言いながら、隼人が少し腰を浮かして伸び上がってくる。すぐ近くに迫った顔。唇が触れそうな気がしてギュッと目を閉じた。だけど触れなくて、すぐ近くに気配を感じたのは少しの間。「微かに甘いお酒の匂いがする。頰も熱いね」何が悪いとははっきり言わないけれど少し責めるような声だった。すっと隼人の温もりが離れて行くのが、見捨てられたみたいに寂しかった。「フラマンローズのだったから、つい…でも迂闊だったわよね」「………桃色の果物と紅茶の味のカクテル?たくさん飲んだの?」「すぐに気付いたから一口だけよ」「そう。その割にまだ頰が赤い」見つめられるまっすぐな視線が少し痛く感じる。やましい気持ちはない。だけど、何もしていないとは言い切れないから。「お酒。弱いのかしら…もう、よく知らない人と同席しないようにするわ」「だけど、柾さんの知り合いだったんだろう。仕方ないときもあるよね」「えぇ…だけど、よく知らない人から差し出された物を口にするのはよくなかったわ。油断しちゃった…」「油断。するくらいには気を許した…?」そう言われると、言い訳はできない。「もう少し早く席を立てばよかったわ。それとも、もう少し早く帰ればよかった……」考え出すと、いろいろなことがいけなかったような気がしてツグミの眉は下がっていく。「…ツグミ、柾さんとのおしゃべりは楽しかったんだろう?油断したの反省したなら、それ以上落ち込まない。こんなことでおまえを縛ったりしないよ?」その声は優しくて静かだった。どことなく寂しげに見える。「気をつけるわ…」「うん…禁止したりはしないけど。だけど、ねぇ、俺もやっぱり拗ねてしまうんですけど?」「え…」そう言ってから隼人は少し視線をはずす。彼は遠慮のないところはあるけど、いつも優しくて。弱みを自分で振り切って見せるような強さを持つ人だ。拗ねたって言うけれど、そんなことを引きずるより、正面からぶつかってくる人なのに…いつもの隼人らしくない。そう思ってしまうほどに彼に心配させてしまったのかもしれないと思った。「ごめんなさい……」「謝らなくていいから……ちょっとご機嫌ななめなの、だからさ……」途中、迷うように言葉を途切れさせた隼人は、耐えるように唇を引き結んだ。「だから?」「…ご機嫌とってくれる?」「………」小さな声が甘えるようにそんなかわいいことを言う。意外な言葉に本気なのかはかりかねて、ツグミは隼人を見るけれど、いつもまっすぐにツグミを見る視線はそらされて合わない。こんな姿を見たことがなくて、心配もあるけれど、どこか可愛くもみえた。(隼人は私が心細い時にどうしてくれるかしら)そう考えると、自然と指がのびる。半分背中を向けた隼人の肩に触れた。「隼人。今日は迎えに来てくれてありがとう。嬉しかった」背をなでると、隼人の背がピクリと震えた。もう一度様子を覗きこむけれどいつもの笑顔は見られなくて。やっぱり耐えるように引き結んだ唇。それが少しだけ緩みそうになっているのが見えた。(?)座った隼人の足元に跪いて膝に手を置くと、今度はツグミが隼人を見上げる。隼人は横に顔をそらして小さな声で何かを言った。「……」「なに?」聞こえなくて、尋ねたけれど返事をしてくれなくて、ツグミはまた考える。足の横に置いていた隼人の手を両手で握り、また見上げると隼人は困ったように反対の手を口許にもっていって隠してしまった。「ねえ……?大丈夫?」「………………もっと…」そうして、聞こえたのはねだる言葉。合わせてくれない視線。緩みそうな口許。隼人の気持ちが透けて見えて、ツグミは笑みをもらす。「……ふふ」最初はわからなかったけど、これは……拗ねてるふり。甘えた隼人。これも拗ねてる振りの為の演技。わざとなんだってわかったのに、なんだか胸の奥が疼く。甘やかすのが楽しいような嬉しいような……ツグミは隼人の手に頬を寄せる。「来てくれて、すごくホッとしたわ」隼人の大きな手に頬を寄せると、暖かくてツグミ自身も安堵した。今日の不安が溶けていく気がする。「…………なんだか安心するわ」「……」「隼人が迎えに来てくれたとき、あなたの笑顔を見て、うれしかった」立ち上がって、ベットに乗り上げる。「……っ」ツグミは隼人の背中に抱きついた。「隼人の笑顔、好きよ」左右長さの違う髪を指ですいて、見えた耳に引寄せられるようにキスする。「…………。……。」「あなただけ、大好き…」機嫌をとるためじゃなく、心から告げると、次の瞬間には抱きしめられていた。「隼人…」腕の中にとらわれながら見上げると、隼人の取り繕った真面目な表情も完全に崩れていた。「……あぁ。もう」「ふふ…」視線を合わせて、一呼吸の後、二人で笑いあう。「ねぇ。ご機嫌なおった?安心した?」「………もうちょっとご機嫌とってもらいたかったんだけど……もうダメ。我慢できない」隼人が髪に埋めるみたいに鼻をすりよせる。「我慢って…もう。すごく心配したのに」「ちょっとは本当に拗ねてたよ」それまで押し詰めていたような声とは変わって、明るく隠し事もなく言い切る声は、いつものとおりの彼だった。「それに、心配は盛大にした。だから…ちょっとお仕置きのつもりだったんだけどさ。怒った?」隼人は宥めるようにツグミの頭をポンと撫でる。「怒ってないわ…でも、反省はしたわ。それから、隼人がちょっと可愛いって思ってしまったわ」「可愛いって」困ったように隼人は首を傾ぐ。「えぇ。すごく甘やかしてみたいって思ったの…」「それ、本当?」ニヤリと笑う隼人はきっと意地悪を思いついたのだと察せられたけれど、今のツグミはさっきまでの影響で少し強気だった。「本当よ…隼人が好きよ。愛しい」ツグミから、言った勢いのまま頬にキスをされた隼人は落ち着きをなくしてうろたえてしまった。「っ………」「ふふ…その顔も。可愛いわ」「ツグミっ。なんかこれじゃいつもと反対。俺が翻弄されてるみたいじゃない…調子にのってると知らないよ?」照れた隼人が、表情を豹変させ余裕を見せた顔で口角をあげて体勢を変え、ツグミをベットに押し倒した。「きゃっ」ふわりと舞ったツグミの柔らかい髪から、ほのかにタバコの匂いが立ち上がる。隼人も気づいているだろう。急にそれがたまらなく気になって、ツグミは押し倒されたところから逃げ出そうともがいた。「私、あの。そういえばお風呂に…」「うん」頷いたけれど、隼人は腕の力を緩めようとはせず、ツグミをじっと見下ろした。「ツグミ。外に出ているんだからいろんなことあるよ……だけど、他の男に付いて行っちゃうなんて思ってないし、危ないとなったら、今回みたいに、ちゃんと俺に助けを求めてくれる。俺はツグミのこと信じてるよ…」心配はするけど。そう付け加えながら隼人は微笑む。「……うん」ツグミは嬉しさと安堵に瞳をうるめて隼人を見上げた。隼人は流れそうになるツグミの涙を唇でぬぐって、ツグミの恥ずかしそうに染まった頬を見てから、また悪戯な笑顔を浮かべた。「あのさ…ちょっと意地の悪いこと考えたって白状しようかな」「なに…?」「特別に綺麗でみんながほっておけないようなおまえを、俺のだって言って掻っ攫っていくのは、ちょっとだけ楽しかったって言ったら、悪いヤツだって思う?」「………そんなこと、思ってたの」「そうだよ。憧れの姫が俺のものだって宣言できるようになったわけだし。ときどき、自慢して見せびらかしたいとか思うんだ。だけど…同時に、こんなに可愛い恋人を独り占めしたいとも思ってしまうわけですけど」片目をつぶって茶化しながら、隼人の声は熱を込めて耳に熱い。なんだか恥ずかしくて居た堪れなくなってツグミは顔を背けた。隼人はぐっと耳元に近寄って囁く。「独り占め。してもいいよね……今夜は、この匂いがこのまま俺の腕の中で俺のになるまで離さない」「っ。…………うん」ツグミは一瞬固まったあと、はにかみながらそれに小さく頷いた。