チャラい設定の椿さん。

ちゃらくて軽い、エゴイスティックとまではいかないような、いくような?

「かーいー」「かわいい」言いまくってらっしゃる彼ですが、

どうにも憎めません。

というか、アザトイ 好きw

 

ブラザーズコンフリクト 椿さん〜の短いハナシ

 

 

***

 

リビングのソファに座って、届いた手紙の仕分けをしていると、扉が開いたから、誰か帰ってきたのかもしれない。

すぐに明るくて通りの良い声が弾んだ声で近づいてくる。

 

「ただいま〜。あ、絵麻じゃん。なにしてんの?」

「椿さん。お帰りなさい」

 

最後の一通を、椿さんの束の上に置いたときに、後ろから私の手元に影が落ちた。

 

「椿さんにもDMがたくさん届いてますよ」

「うん。あんがとー」

 

そう言いながら、椿さんはソファ越しに私の背中に抱きついてきた。

 

「絵ー麻ー。ただいまのぎゅう」

「椿、さんっ。………抱きつかないでください」

 

いつもどおりのスキンシップ。

 

「いいじゃんー。絵麻。好き」

 

かわいい甘えるみたいな好き。

 

「好き。好き。好きー」

「もぅ。椿さんはそればっかり」

「だって、ちょう好きなんだから仕方ねーじゃん」

「あぁ。もぅ………」

 

私は語尾をすぼめながら項垂れる。

胸の奥がトクトクいってる。

 

ちらっと後ろを見上げると、胸の奥がうるさい私とは反対に、椿さんは上機嫌で、にこにこと私の背中にしなだれかかっている。

 

出会ったときから、こんな調子の椿さん。

 

たくさんの好き。

それは、どうにも軽く聞こえてしまう。

 

真に受けちゃダメ。

 

そう、心の中で呪文みたいに唱えだしたのは最近のことじゃない。

好き。

って甘い声が鼓膜を揺らすたびに、私の耳の奥に刻まれていった。

 

好き。

になってしまった。

 

「なーにー?怒っちゃったの?絵麻?どうしてー?」

「いいえ」

 

私の肩口にグリグリこすりつけられる脱色した髪はふわふわで、私の耳にときどき椿さんの頬が触れる。

私は、本音を隠してにっこり微笑んだ。

 

「怒ってませんよ…昨晩放送してたアニメ見ました。あとラジオも。それに今日は椿さんの声のCMも見ましたよ!お仕事忙しそうですね。ご苦労様です」

「うん。見てくれたんだー。うれしー。ふふ、絵麻、だいすきっ。俺やばいっ。俺の妹が可愛すぎツーラーイーー」

「……そんなことで、だいすきなんて…」

 

椿さんは、私の心の中なんかには気づかずに、無邪気に好きを繰り返す。

 

期待しちゃダメ。

 

軽く受け流すように、そろそろ離れてください。と言うと、椿さんは更にぎゅうっとくっついてきた。

 

「絵麻?」

「……はい」

「………」

 

じっと、星を宿した瞳が私を探るように見つめてくる。

 

「ねぇ、絵麻〜ソンナコト。だったら毎日お願いっ」

「え?」

「さっきねー、オレが帰ってきたとき、キミが家にいておかえりなさい。って言ってくれたの。たまんなかったの…で、好きがあふれちゃった」

 

私をためすイタズラ猫みたいに明るい紫の瞳が、くるくる表情を変える。

 

「それに、俺の仕事を見守ってくれて。すっげ、嬉しい。なんかねー絵麻が俺の奥さんに見えた。だから毎日そうしてよ」

「奥さんって。っ…」

 

焦る私を見て見透かすように細められた瞳は、びっくりするくらい優しくて、見惚れながら胸の奥が締め付けられた。

 

「絵麻。好きだよ」

 

耳に口付けながら囁かれた好き。

いつもの好きと同じ声のはずなのに、魔法がかかった甘いキャンディを注がれたみたいにトクベツに響いた。