ドラマCD聴いてたら祈織さんがかいてみたくなりました!

祈織さんルートを終えて、ずいぶんだってるので、

細かいところを忘れてしまいましたが。

受験合格後すぐくらい?両思い後すぐの頃の設定です。

祈織さんの闇方向に傾いていく絵麻ちゃん。

 

***

 

「おはよう」

 

静かに、柔らかく、穏やかに、辺りを落ち着かせるような空気を纏う、その人の声は、まだ春の訪れない朝の冷えた空気とも交わらない。

私が振り向くと、祈織さんは瞳を細める微笑みを浮かべた。

端正な顔に綺麗な笑み。それはもう完璧。

 

「おはようございます。祈織さん」

 

祈織さんの全ては、いっそ作り物めいていて、そこには熱も、冷たささえも感じない。

ブライトセントレアの制服を着ているってことは、今日は学校へ行くのかもしれない。

もう受験も終わった祈織さんの制服姿は久々に見る。

この白い制服は祈織さんにとてもよく似合っていて、久々に見る制服姿に、思わず見惚れてしまう。

 

「今日は学校に行くんですか?」

「うん。そう。受験の報告とかで少し用があって。絵麻も学校だよね?」

「はい」

「ねぇ、絵麻。今日の放課後って何か用ある?」

「何もありませんよ」

「じゃあ、迎えに行ってもいいかな?一緒に行きたいお店があるんだ。デートしよう?」

 

祈織さんに側にいてほしいって言われて、私たちは恋人同士になった。

今でも信じられない部分もある。

嬉しい気持ちが大きくて、浮かれそうになるのに現実味が薄くて。

目の前の人が私の恋人。

とても、不思議な気分。

その温度を感じさせない様子にも、現実味がわかない。

 

「デート…………」

 

だから、恋人らしい単語に胸が跳ねた。

耳に馴染まなくてなんだかくすぐったい。

 

「どうかな?」

「もちろん行きたいです………あ!」

 

はりきって返事をした私は、その想像をしながら一つ思いついた。

 

「どうしたの。やっぱり何か用事がある?」

 

首を少しだけ傾げながら聞いてくる祈織さんに、私はおずおずと切り出してみる。

 

「あの…用事はないんですけど、お願いがあって」

「何だろう?君が望むならなんだって叶えたいな。ねぇ、言ってみてくれる?」

 

先ほども見た祈織さんの制服姿をまた見ながら口を開く。

 

「はい。もしよかったら…私、祈織さんと制服デートしてみたいです…」

「制服デート?」

 

思い切って切り出すと、祈織さんは一瞬、不思議そうな顔をした。

 

「ダメ、でしょうか…ですよね。私は普通に授業があるし、祈織さんは学校へ行ってもすぐ用事も終わっちゃうだろうし。制服姿で待たせちゃうことになりますよね」

 

見上げる私をしばらく見つめたあとに祈織さんは私の頰をそっと撫でた。

 

「っ………」

 

祈織さんの指先は冷たくて、でもそれだけじゃない感触に身がすくむ。

 

「いいよ。それくらいのことで、絵麻がそんなに嬉しそうにしてくれるなら僕はかまわないよ」

「………ありがとう、ございます。ちょっと憧れだったんです」

「そう。うん。じゃあ、いってらっしゃい。気をつけてね」

「はい。楽しみにしてますね」

 

私は、頰に灯った熱と、その学生らしいデートを楽しみに学校へ向かった。

 

 

 

 

***

 

 

「ねぇ、絵麻…今日は朝から顔が緩みっぱなしでございますことよ?」

 

放課後になってまほちゃんにそんなふうに声をかけられた。

 

「え?そう…?」

「うふふふふ…どうしてかなーって、委員会のせいでランチのときに聞きそびれちゃったから、放課後に追求しようかって思ったんだけど、わかってしまったわよ」

「え?」

「隠しても無駄よ?祈織さんとデートなんでしょう?」

「っっっ!?」

 

どうして分かってしまったんだろうって私は焦った。

別にまほちゃんに隠してたワケじゃないけど、言ってないのに当てられたらびっくりしてしまって息が詰まった。

 

「やっぱり?」

「そう、なんだけど…どうしてわかったの?」

「そりゃ。ねぇ。あれだけカッコイイ人が来たら目立たないわけがないじゃない…校門のとこ、すっごい騒ぎになってるから」

「あ!!!」

 

そこまで言われて、祈織さんが迎えに来てくれるということは、そういうことだって気がついた。

 

「ごめん。まほちゃん。詳しい話は、また今度ね!」

 

私は、教室から走り出た。

 

 

***

 

 

校門に着くと、祈織さんのいる場所はすぐにわかった。

校門を出て道を挟んだ先が、明らかに女生徒の密度が高い。

立ち止まって見る女生徒、歩きつつも視線がはずれない女生徒、その様子を遠巻きに見る男子生徒。

校門を出るほとんどの人の視線がそちらを向いている。

 

「ねぇ、かっこよくない?」

「本当。絶対見るべきって言った意味がわかるよ」

「でしょ、思わず教室まで呼びに戻っちゃった」

「あれって誰か待ってるのかな…?声かけてみる?」

 

そんな声が聞こえて、私は焦る気持ちを抑えきれず祈織さんに駆け寄った。

 

「祈織さん!」

「ああ。お疲れ様」

 

立ったまま本を読んでいた祈織さんは顔を上げて私に柔らかい笑みを向けた。

周りからその笑顔に反応した女生徒の息を飲む気配を感じる。

 

「お待たせしました。行きましょう!!」

「うん?」

 

ゆったりとした仕草で本を閉じる祈織さんの手を引いて、私は急いでその場を後にした。

 

 

***

 

「絵麻。どうしたの?」

 

校門を離れた頃に、祈織さんが私に尋ねてきた。

なんと答えようかしばらく考えた。

どうして、こんなに焦っているのか自分でも考えてから行動したわけじゃなかった。

 

「………あんなところで、待たせてしまってすいません」

 

やっとそれだけ言う。

 

「君が授業が終わるって教えてくれた時間に来たから、それほど待っていないよ。むしろ急いで出てきてくれたのかなって思ったくらい早かったけれど」

「…はい」

 

曖昧に頷く私に祈織さんは視線を細める。

 

「何か違う理由がありそうに見えるけど?僕には言えないこと?」

 

悲しげな声で言われてはっと見上げると…祈織さんの瞳の奥が暗く陰っているようにも見えた。

 

「祈織さん。騒がしいのがお嫌いなのにあんなところで待たせてしまったから…騒がれてしまいましたよね」

「ああ…大丈夫だったよ。声もかけられなかったし」

 

祈織さんはそう言ってくれる。

たぶん私の高校は、祈織さんの高校から距離があるから、みんな祈織さんのことを知らず、だから声をかけるのを躊躇ったんだろう。

だけど、もう今にも声をかけられそうだった。

それを思い出すと、焦る気持ちが湧いたのを思い出した。

 

もし声をかけられても、祈織さんが付いて行ってしまったり、そのことで怒ってしまったりすることは無いってわかってる。

でも、騒がれるのが苦手な人だから、騒がれないに越したことはないのに…そこまで考えて、ふっと自分の気持ちに気がついた。

 

そんなのは言い訳かも。

 

このモヤモヤした気持ちは、そんなことが理由じゃない。

 

「絵麻?」

 

黙ってしまった私を祈織さんが覗き込んでくる。

 

「何かあるのなら、話してほしいな。僕は君の全てを知っておきたいんだ」

 

澄んだ瞳と微笑。

その優しげな声の問いには、どうしてか抗えない力がある。

 

「私が、いやだったんです…」

 

私はその顔から視線をそらすようにうつむいて、こんなこと言ったら呆れられてしまわないかなと思いながら…自分の気持ちをこぼした。

 

「うん」

「祈織さんが、女の子に声かけられたり…かっこいいって騒がれてるの。ヤキモチ………やいちゃったんです。たぶん…」

「ヤキモチ?」

 

不思議と熱のこもった声で祈織さんがソレを繰り返す。

私はいたたまれなくなりながらも、言葉を続けた。

 

「はい…起こってもいないことにヤキモチやくなんて。こんなふうに心が狭くて…呆れてしまいましたか?」

 

その答えを聞くのが怖くて、つい握っていた手に力がこもってしまう。

それを返すように祈織さんが手を握る力もすこし強くなった。

 

「絵麻…」

 

名前を呼ばれたと思った瞬間、祈織さんが歩くのを止めて、私も歩くのを止めた。

叱られる子供みたいに顔を見ることができない。

 

「こっちに来て」

 

再び手を引かれて踏み入れたのは、大きな公園だった。

人気のないところで、祈織さんと向き合って立つ。

いつのまにか両手を握られていた。

 

「絵麻」

 

優しい声が熱を込めて私を呼ぶ。

 

「もう一度聞かせて」

「え?」

「ヤキモチ焼いてくれたんでしょう?ヤキモチやいてどう思ったのかもっと、聞かせて」

 

その声に、祈織さんを見上げる。

すると、祈織さんが熱を込めたような瞳で私を見つめていた。

その唇にのる笑みは、とても綺麗だった。

 

「あの…」

「僕に女の子と話してほしくなかった?」

「………はい」

 

迷いながら、私は頷く。

 

「それから他の人に見られるのが嫌だなって、思ってくれた?」

「っ…はい」

「僕のこと独り占めしたいって思った?」

「はい…」

 

答える度に、祈織さんの綺麗な笑みが嬉しそうな色を深める。

私はその顔を見ると、胸の奥が疼くような不安定な感覚を感じていた。

 

「閉じ込めて自分だけの物にしてしまいたい………二人だけの世界で、ずっと一緒にいたいって思わない?」

「…………」

 

その誘惑するような囁きが耳に吐息とともに触れる。

私は、頭の芯がしびれたみたいに頷いていた。

 

「そうしたら、きっと不安じゃなくなるんじゃないかな」