またもや組織的不正
今年3月に公表された日野自動車の不正問題について、第三者委員会による調査報告書が明らかにされました。当初、日野自動車は、トラックやバスに搭載されている4種類のエンジンについて、2016年以降に排ガスや燃費に関する不正なデータを国に提出して、生産や販売に必要な「型式認証」を取得していたとしていました。この不正公表を受けて、国は、排ガスと燃費のデータの不正が行われた中型と大型トラックなどについて今年3月に車の販売の許可にあたる「型式指定」を取り消す処分を行いました。この取り消しにより、大型と中型トラックなどの出荷の停止が今も続いています。ところが、当初不正開始時期について2016年秋以降としていましたが、少なくとも2003年以前から行われていたことが明らかになりました。対象車両も判明しただけでも2009年以降で56万7千台にのぼり、これまで公表していた台数から大幅に拡大しました。また、国交省により2016年から求められた排ガスや燃費試験を巡る実態調査に対しても虚偽報告していたとのことです。なんとも大胆な不正が長く続けられていたということになります。一連のエンジン不正は、エンジンの性能試験などを担う「パワートレーン実験部」で行われました。この部署は、エンジンの開発時に実施する排ガス性能や燃費の試験に加え、国土交通省から委託された認証業務の双方を担っていました。これは組織マネジメントとして歪んだ状態であると言わざるをえません。開発業務は、規制値や社内目標値をクリアする製品を開発することが目標です。一方、認証業務は、開発した製品が認証基準を達成しているかどうかを客観的に判定することが本来の業務です。開発部署が認証業務も担っていては、客観的な判定が難しくなることは容易に想像できます。また、日野自動車では、チームワークの面でも問題がありました。報告書では以下のような記載があります。“プロジェクトに参加しているパワートレーン実験部の担当者が課題を部に持ち帰っても、パワートレーン実験部の室長や部長も、あるいは担当役員も、課題を解決するための頼れる相談相手になっていない。結局、プロジェクトに参加したパワートレーン実験部の担当者は、プロジェクト内でも、パワートレーン実験部内でも、頼れる相手がおらず、孤軍奮闘を強いられ、課題を丸投げされ、次第に追い込まれていったように思われる。”さらに、会社全体としても課題があると指摘しています。“例えば、本問題のうち、排出ガス性能を偽る行為は、主として、パワートレーン実験部が行っていた劣化耐久試験において発生した。しかしながら、車両CE (Chief Engineer)も、エンジンCEも、エンジン主査も、総じて劣化耐久試験についてほぼ理解していない。劣化耐久試験の内容や手順が分からない以上、劣化耐久試験に要する時間やそれを踏まえた適切なスケジュールも分からないし、劣化耐久試験のために、いつ、何台のベンチが必要となるかも把握していない。車両CE、エンジンCE、エンジン主査のいずれも、劣化耐久試験や適合業務について、パワートレーン実験部に全面的に依存していたが、その業務内容をよく理解した上でパワートレーン実験部を信じて任せていたというよりは、業務内容が分からないために、パワートレーン実験部に丸投げしていたに過ぎない。”“日野の「エンジン至上主義」や「エンジン設計部門のエリート主義」、「領空侵犯しない風土」、「設計部署内のヒエラルキー」などは、従業員アンケートでも指摘されていた。こうしたエンジン設計を頂点とするヒエラルキーにこだわる者も、逆に、これを嘆く者も、「エンジン」部署の位置付けや社内での序列に囚われ過ぎているように見える。”さらに、社会の変化に対して向き合っていないことも指摘しています。“世の中の「物差し」の変化を受けて、多くの企業はそれに合わせて変容を図ってきた。ものづくりの企業は、新たな「物差し」に合うように、製品の商品性から、開発、調達、生産に至るまでの一連のプロセス、品質保証や品質管理の水準をアップデートしてきた。多くの企業が、このようなアップデートに取り組んできたのに、日野はどうであったか。少なくとも、従業員アンケートの結果や本調査の結果を踏まえる限り、日野は変わらなかった。”まとめとして次の3つの真因があるとしています。真因① みんなでクルマをつくっていないこと真因② 世の中の変化に取り残されていること真因③ 業務をマネジメントする仕組みが軽視されていたこと私なりにまとめれば、顧客も含めた関係者、取引先や社内の他部署の人々、さらにいえば社会に対して真摯に向き合っていない、自分たちにとって都合のよい部分最適だけを追求してしまった結果と思います。そして悪いことに、部分最適に一所懸命なため、自分たちの状態になかなか気づけない「タコツボ化」の典型であるといえます。会社はタコツボの集団と化し、本来あるべき組織力が十分発揮されていないのです。日野自動車は、日本を代表するトラック・バスメーカーであり、売上高は約1 兆4,600 億円、従業員数約3 万4,000 人の大企業です。こうした大企業でも容易に陥ってしまうのが「タコツボ化」の怖さです。