「人的資本情報」の開示が世界的に進んでいます。
人材を企業価値向上に必要な資本ととらえて、統合報告書などの開示情報に含めることで、投資家など人々が企業の価値を測りやすくするためです。
日本でも政府が今夏をめどに開示についての基本方針を発表する予定です。

政府は基本的な考え方として、1)共通して開示が推奨される項目、2)企業が独自性や創造性を発揮すべき項目、3)先進的な開示項目の3つを示しています。
米国では、米証券取引委員会(SEC)が、すでに義務づけている従業員数のほか、退職率、研修状況などを追加する方向です。
また、国際標準化機構(ISO)では、人的分野の管理基準として、すでに2018年に「ISO30414」を発表しています。それによると、人件費、採用コストなどの費用に加えて、「多様性」「リーダーシップ」「組織文化」「組織の健康度」「人材のスキル、能力」などの指標化を提示しており、SECによる会計基準としてよりも踏み込んだ内容になっています。

人材の適正な管理は、こうした「人的資本情報」の開示とは関係なく、もともと企業として最重要事項のはずです。やっとその点が企業情報の開示対象になってきたことにいまさらの感がありますが、株主資本主義の反省から生じていると思われますので肯定的にとらえるべきでしょう。
日本企業は「三方よし」の精神を風土として有し、従業員を大切にしているところが多いでしょうから、この流れに乗れないはずがありません。従来から行ってきたことに加えて、今日的な観点を取り入れて行えばいいのです。

人材管理の今日的観点とは、進展するIT活用を土台に、自社にとって大切なことについて、インプット(施策)とアウトカム(成果)を明確にして指標化し、定期的にKPI管理するということです。
クラウドやITソフトの進化により、大量データを正確かつ迅速に扱えるようになりました。人材管理においてもこの環境を十分に活用しなければなりません。
たとえば、人材ポートフォリオについては、男女や学位、担当職務はもとより、各人別に技術・能力、キャリア観といったように従来は扱ってなかったことも扱えるでしょう。エンゲージメントやモチベーションといった活力関係についても、一人ひとりはもちろんのこと、チームや部署といった単位での管理が可能です。
ほかにも、健康度、生産性、能力開発、関係性なども工夫をすることで管理が可能です。
多岐にわたる「物差し」の活用が可能で、見える化という表現が適切かどうかはわかりませんが、一定の明確な指標を用いて管理していくわけですから、従来の感覚的な管理よりははるかに適切にできるはずです。

日本においてこの点で一歩先にいっているのはエーザイです。人材価値の計算式を独自に考案し、統合報告書で公表しています。たとえば、男女の賃金格差の調整など賃金の質を高めた結果、343億円の価値を生み出したとしています。
人的資本と成果の関係は、因果関係を特定することは難しいでしょうが、相関関係は統計的処理によりかなりの程度明らかにすることが可能です。

「人的資本情報」をより確実に扱える時代になったので、政府の指針など待たずに、自社にとって必要な「物差し」をつくり、積極的に「人的資本情報」を扱っていかなければならないのだと思います。