一般的に我々は安いものを好みます。
そのためかどうかはわかりませんが、90年代半ばに、それまでのバブル景気への反省と世界的にみても物価が高かったことから、「価格引き下げ」の力学が社会に芽生え、物が安くなる現象が生じました。
記憶に残っているのは、牛丼の「価格引き下げ」競争です。老舗であるY社がそれまでの価格より100円以上も引き下げて驚いた記憶があります。
それ以来、様々な物の値段が下がり、つい先日まで物の値段が上がった記憶があまりなく、日本全体のGNPもほとんど上昇することなく現在に至っています。

最近になって、ロシアのウクライナ侵攻の影響などから資源価格が高騰し、それに伴い物価の上昇が顕著になってきていますが、30年振りの現象といっても大げさではありません。
物は安い方がいい、といった当たり前に思えることでも、何十年も値段が変わらないとどうなるのか、やっとその危険性に気づいてきたのではないでしょうか。
物の値段が変わらず、給与も変わらず、日本全体が貧しくなってきています。世界の先進国と比べて購買力が明らかに落ちてきているのです。
おまけに一部の金融資産獲得者とその他の人々との格差はますます拡大してきていますが、格差拡大よりももっと問題なのは、購買力が落ちたことに代表される全体の貧しさです。

それでもいいのだ、日本は島国でもともと自給自足経済なのだからそれを思い出して皆で質素倹約すればいいのだとナイーブなことを言う人が時々いますが、これだけグローバル化している社会では空論でしょう。米と味噌と漬物と魚の干物を食べ、夏は打ち水、冬は火鉢の社会に戻れるのでしょうか。
世界の、特に先進国経済と足並みを揃える努力を怠ると、どんどん貧しくなっていきます。現在がその途上にあるといっても過言ではありません。
貧しいとどうなるのか、考えたくもありませんが、社会の安定さが損なわれるのは間違いありません。

企業は利益を貯めこむばかりではなく、給与を上げる努力をさらに徹底しなければなりません。
国は日本の強みである、「和をもって貴し」の意識、つまり共同体意識や平等意識をもう一度思い出して、安直な市場原理に陥ることなく、日本の得意分野を伸ばすために、人々が協力して健全な競争を行える環境を整備することが求められるでしょう。

岸田首相肝入りの「新しい資本主義実現会議」の全体像はまだ見えてきませんが、議論のなかで富山和彦氏が「日本経済は物的資本主義から人的資本事業の転換に大きく後れを取ったという現実」を認めるべきだと発言しています。
世界は日本が「価格引き下げ」努力をしている間に、もっと重要なことに気づいていたのです。
しかもそれは、かつて日本が最も重視した価値観です。
人本主義という言葉もありました。
我々はあらためて先達から学べることが多いこと、知恵に溢れていることに気づくべきでしょう。