昔の今ぐらいの季節に、住んでいる場所から南の地方にある、とある鉱山へ行ってきた。現在は採掘を停止しているが、木造の選鉱場は斜面にそのまま残されている。「選鉱場(選鉱所、せんこうじょ(う))」とは、鉱山から採掘された岩石を砕き、選別して、有用な金属を取り出していた施設だ。工場はあえて斜面を利用して作られており、工程が進むにつれて、工場の下の方へと重い鉱石が移動していく合理的な構造となっている。
なお、この施設は廃墟状態だが、下部の少し離れた場所では現役の施設で鉱山の技術を生かした金属リサイクル事業を行っている。
倒壊した建物。
骨組みだけになったものも
今回の目当てでもある、トロッコ軌道。枕木にも鉄を用いて、レールと一体化しているのが、いかにも臨時軌道といった雰囲気だ。
幅は58cmか60cmだったような。しっかり計測して記録を残しておけば良かった。
崖沿いを行く軌道。落石にも注意。
二本の軌道がクロスしている箇所
軌道がコンクリートの台座で、下に空間がある箇所。トロッコを倒して、中の鉱石を降ろしていた箇所だろうか。
自然に同化するレール。今にして思えば9kgレールぐらいだったと思う。
水平方向の移動では、上部と下部の軌道が別々に存在していた。垂直方向(上下)には、約1.5mと幅の広い軌道と、頑丈なワイヤーケーブルが傾斜面に現存していて、巻揚げによって物資を移動させるインクライン形式で行っていた。
インクラインのケーブル巻き上げ室。操作を行っていたレバーもそのまま現存していた。
インクライン巻き上げ室の背面。陶器の碍子(がいし)と、ケーブルから、巻揚げの動力は電気だったのだろう。
落ちていた鉱石。白い石英の部分に、金や銀などの有用な金属が含まれている。
ちなみに鉱石を1トン集めて、そこから得られる金はわずか20グラム、銀が50グラム程度だったと記録にはあったが、金山の中ではこれでもかなり高品位な鉱石が取れていた。
しかし鉱石の枯渇、日本の経済成長によるコスト増などで、産業としての鉱山は廃止された。ただしコストが合わないだけで、現在も掘れば鉱石は出るには出るとのことだ。
先にも書いたが、今では同じ会社が少し別の場所で金属リサイクル事業を行っている。廃基盤や廃機械などから、金やプラチナ(白金)、パラジウムなどのレアメタルを取り出している。鉱山で培った技術は無駄にならずに、しっかりと生かされているのだ。
落ちていた一升瓶ととっくり、おちょこで酒盛りを再現。
平地面に残された建物。この時も少し傾いていたが、現在は倒壊してしまったようだ。
窓の外
消防用ホース。
別の場所にもあったインクラインの巻き上げ室
最上部から、斜面に建つ選鉱場の連なる屋根を撮影。
入ってすぐに巨大なコンクリート製の土俵のようなものが二つあった。おそらく鉱石をすりつぶすための施設があったのだろう。
木造の構造がすばらしい選鉱場の内部。機械類は撤去されている。
斜面にあるため立体迷路のような雰囲気すらある。ただし階段はこの探索時でもぼろぼろで、生きた心地がしない場所すらあった。
残された薬品やレンガなど。融雪剤などで使われる塩化カルシウム(CaCl2)もあったが何に使っていたのだろうか。廃鉱水にフッ素を含む蛍石などが出る鉱山では、処理に塩化カルシウムを使う事例もあるらしいが。