――1981年12月24日。

日本中が浮かれたムードに支配されるこの日。日本有数の歓楽街である新宿のこの界隈も、その例に漏れなかった。

そこかしこから聴こえるクリスマスソングが種々雑多に混じり合い、キツ過ぎる芳香剤の匂いにも似た、狂騒的なノイズとなってこの街に充満している。


そのダンススタジオは、そんな街中の古い煤けた雑居ビルのワンフロアにあった。
バレエ教室やダンススクールなど様々な団体が、曜日と時間を区切ってそのフロアを間借している。彼女が所属する――予定の――芸能プロダクション・K音もそのひとつだった。

周囲の騒がしい雑音も、ここには届かない。防音は行き届いている。
その用途に相応しく四方を鏡張りにしたその部屋は、静寂に包まれている。
コンセントに繋がれ、つい先程まで流行りのダンスナンバーを大音量で響かせていたラジカセも、いまは沈黙していた。

ただひとつ、鏡の壁にテープ貼りされた、杉村星奈のポスターだけが、奇妙な違和感と異彩を放っていた。

聴こえるのは、荒い、少女の息づかいひとつ。
バスタオルを床に敷き、そこに身体を横たえている。
つい先ほどまで、激しく身体を動かしていたのだろう。荒い息づかいとともに、腹部が大きく上下している。
真冬だというのに、少女の上衣はTシャツひとつだ。だが、まったく寒そうには見えなかった。汗にまみれた少女のTシャツを押し上げている胸の隆起は、彼女が見事なプロポーションの持ち主であることを物語っている。

そこにノックもせず乱暴にドアを開け、ことさらズカズカと足音を立てるように男が近付いてきた。その片手に、小さな手提げの紙袋をさげている。
歳の頃は初老だろう。渋味を帯びた容貌の頭髪には、白いものが混じっている。咥えタバコの煙をくゆらせて。

「おい」
男は不機嫌だった。むろん、少女の態度に気分を害しているのだった。

「なにもしゃちほこ張って気をつけしろとは云わねーがよ、その態度はねえだろ? おれが誰だか忘れたか、あん?」

「その必要が?」
少女が云った。身体を横たえ、眼は閉じたままだ。

「あなたとわたしは無関係。いまは。そうよね?」

「けっ」
吐き捨てるようにそう呟き、ついでに咥えタバコを二本の指で口からもぎ取ると、盛大に紫煙を吐き出してみせた。

「まだ怒ってんのか?」
呆れたような、困ったような、苦い表情で、男は口ではそう云いながら、その目線は床に仰臥したままの少女ではなく、鏡の壁のある一点に注がれていた。

(………?)
なぜ、杉村星奈のポスターがここに――? それは大いに興味をそそられる疑問ではあったが、いまは違う話が先であった。

「デビューは来年! 今年はミッチーの年だ。ジーザスと喧嘩はできねーよ」

 

[作者コメント]
ミッチー――男性アイドル・新堂ミチル(本名・充)のニックネーム。ジーザス事務所所属。
ジーザス――ジーザス事務所。ジーザス北村社長率いる男性アイドル専門の芸能プロダクション。男性アイドルはこのプロダクションの独占状態にあり、業界での権勢は絶大。他のプロダクションは男性アイドル分野から撤退を余儀なくされた。


「彼なんて、別に目じゃないのに」
苛立ちを隠しもせず、少女は云った。

「そう思ってるのは、お前だけさ。実力だけで勝てるほど、甘い世界じゃないんだよ。事実、去年、杉村星奈は田宮鋭彦とぶつかって、最優秀新人賞を逃した。――デビューが一年早けりゃあな。相手が竹内かぐやだって、それこそ目じゃなかっただろうよ」

 

[作者コメント]
田宮鋭彦――男性アイドル。ジーザス事務所所属。ニックネームは「トシ」。野口芳文、新堂ミチルとともに、三人組の「たのしんトリオ」として売り出されている。この姓名に覚えのあるひとは平井和正ファン。

竹内かぐや――覚えてますか?(笑) 創作ノート本編第一回に登場したシンガーソングライター。彼女が主人公・沢合素直に『けんかをやめて』を提供することになるのですが、再登場はいつの日か? モデルはもちろん竹内まりや。79年度のレコード大賞・新人賞に輝いています。(最優秀は桑江知子)


(くだらない――)
少女は思った。
業界の根回しで結果が決まる出来レースの賞など、その実態は早晩、大衆の知るところとなり、権威も注目も喪ってしまうだろう。
だが、少女はそれを口には出さなかった。議論をするのも、くだらなかった。少女は、こうした賞レースにそもそも関心を持たなかったのだ。

「幸い、来年ジーザスから有望な新人が出るという情報はない。だから、来年だ。来年――といっても、もうすぐだぞ?――君は『スター創生』で「合格」を獲り、晴れてウチの所属となるわけだ」

「それも出来レース……素敵なお話ね。ゲロ吐きそう。よその事務所と契約しちゃおうかしら?」

男はまた、盛大にため息をついた。
「あんまり、つまらんことを考えるなよ。話はついてるんだ。業界ぐるみでな。云っとくが、ウチだって結構“力”はあるんだぜ? ジーザスほどじゃないにしてもな。あんまり、ウチの会社を舐めるなよ? ところでよぉ――」
男は埒もない会話を切り上げ、先程から気になっていた疑問に、話を切り替えた。

 

[作者コメント]
ウチの会社を舐めるなよ?――知ってる人にはわかりやす過ぎる、某人気漫画からの拝借。


「なんだって、こんなところに、あんなものがあるんだ?」
鏡張りの壁に張りつけられた、杉村星奈のポスターを向いて云った。

「まさか、憧れてるってわけじゃないんだろ?」

ブッ――と少女は噴き出した。
「憧れてる? わたしが? あの女に――?」

ハッハッハッ――。
少女は、腹を抱えて大笑いした。文字通り、彼女は笑い転げたのだった。
「ああ、可笑しい――。今年一番の大爆笑」
そう云って、少女はすっくと起き上がった。

「憧れ? 冗談でしょ?」
そう云って、少女はそのポスターに近寄った。
そして、ダンッ――と杉村星奈の笑顔のすぐ横を掌で叩きつけた。

「これを見るとね――力が出るの」

目線で人を殺せるならぱ――そんなギラギラした目付きで、少女はポスターの星奈を睨みつけながら云った。

「キツくて、辛くて、クタクタに、ヘトヘトになって、もうダメ、限界、倒れそうになったとき、これを見るの……」
「………」
「するとね、身体の奥底から、燃えるような、力が湧いてくるの……。こんちくしょー! 笑うな! わたしがデビューしたら、お前なんか、わたしの足元に這いつくばらせてやるんだ! そう思ったら、まだ立てる。まだ動ける。弱音を吐いていたのは、ただ甘えてただけ……。そう気づかせてくれる。これは、そのためのもの……」

「その意気さ」
男はあらためて、少女のこの自信と、そして闘争心に、感嘆、感服していた。
生意気な態度に腹は立ったが、それさえも彼女の器のデカさの証だと、彼は買っていた。その彼の勘が、この職のベテランである彼をして、その気難しさに誰もがさじを投げたこのジャジャ馬の担当を買って出させたのだ。
「だが、女王に闘争心を燃やすのも結構だが、ライバルも大勢いるってことを忘れるなよ? うちは来年に標準を合わせたわけだが、考えてることはよそさんも同じさ。大変な年になるぞ? 来年、82年は――」

「まず筆頭は――」
男は続けた。
「今泉郷子。よそのデビュー前の新人で、おれが一番買っているのは彼女だ。それから、第二の西咲ジョージの妹、金沢秀美。堀地えみ。友松衣世。速水優里――」
さらに男は続ける。
「こいつらをぜーんぶブッ倒して、トップを獲るんだ。お前が」


「同期対決なんて、興味ない――」
少女の返答は、にべもなかった。

「的はひとり――ってか? まあいいさ」
男はシュラッグしてみせた。
そのキザったらしい仕草に、少女は少しイラッとした。

「ウチはお前がモノになってくれりゃあ、それでいいのさ。期待してるんだぜ、お前さんには。そうイラつくなよ。デビューは、もうすぐさ。それまで、しっかりレッスンに励んでくれよ? 玲(あきら)――」
踵を返して去ろうとする男の背に、少女は云った。

「ここ、禁煙なんですけど?」
機嫌を直して立ち去ろうとしていたところに水を差され、再び不機嫌な表情で振り返る。
「さっきからタバコの灰を床にばら撒かれて、迷惑なんですけど?」

「おれに向かってそんな口がきけるのは今のうちだ。正式にウチの所属になる前に、その口のきき方もしっかり直しとけ。許されるんだよ、おれは。ウチの息がかかってる所じゃあな」

「権力が振るえる場所でだけ横柄な、お山の大将。ジーザスにはビビってるくせに」
「お前な、いい加減にしろよ……?」

男の怒気をまるで意にも介さず、少女はさらに怖しい科白を口にした。


「黙っててあげるかわりに、一本恵んでくれません?」
「おいおい……」

 

男はさすがに狼狽を隠せなかった。

もしそうなら、ただ事ではない。写真一枚で致命傷だ。アイドルのイメージ云々以前に、彼女はまだ未成年なのだ。


プッ――と少女は噴き出し。また、笑い転げた。
今度は天真爛漫に、年相応の少女に相応しく。

「冗談です。喫煙の習慣はありません。本当ですよ?」

天使のような。悪魔のような。
ケラケラと笑うこの少女に初めて、商品価値を値踏みするのでなく、女としての魅力を心で感じた。もし自分が同年代のガキだったら、惚れていたな――と。
いい歳をした自分が、こんな少女に翻弄されている……。そのことに驚きを禁じ得なかった。
職業柄、いわゆる「美少女」はイヤというほど目にしてきた。
そんな彼の経験に照らしても、彼女はこれまでになく「特別」だった。

 

美貌やスタイルの良さは一目でわかる。歌唱力、ダンススキルの高さもよく知っている。しかし、それらに増して大事な素養があると、男は思っている。それは、ハートの強さだと。

そこが、この少女は規格外だった。


(本当に、超えられるかもしれない――)
(あの杉村星奈に、この娘なら――)

 

[作者コメント]
場面転換がわりに、こぼれ話を。
現実における82年の新人賞レースがどうであったか。ジブがき隊が、レコード大賞最優秀新人賞に輝いています。
ですから、ミッチーこと新堂ミチルとの対決をこぞって避けたがために、82年がアイドル当たり年になったというのは、あくまでもこのお話だけのフィクションです。
現実における82年のアイドルシーンがああいうことになったのは、本当に要するにただの巡り合わせ。あえて云うなら、神様の悪戯としか云いようのないものだったのだろうとワタシは思います。
ところで、現実における82年の最優秀ではない新人賞の受賞者は、石川秀美、早見優、堀ちえみ、松本伊代。……なんと、小泉今日子もあのひとも、「新人賞」を逃してたんですね!? 意外。そして、不思議に運命的なものを感じてしまいます。


その雑居ビルの一階エントランスで、男はインストラクターの青年と鉢合わせした。
「いらしてたんですか!? 仰ってくだされば――」
恐縮した表情で、その青年は云った。
「いやいや、急についでで寄ったもので。……いっけね、こいつを渡してなかった」
男は手に提げた紙袋を持ち上げて云った。
「それは――?」
「ケーキです。陣中見舞いの差し入れに。クリスマスなのでね。申し訳ないが、ここでお渡して構いませんか? 二人分あります。召し上がってください」
「いえ、どうかご自分で渡してください。彼女、よろこびますよ」
「どうだか――。それに、急ぎの用もありますので」
そうですか、それでは。――と青年は受け取った。

「どうですか、彼女は?」
男は青年に訊いた。
「根性ありますよ、彼女。こちらがたじろぐ程です。呑み込みが早いし、なによりひたむきで熱心です」
「そうですか……」
「真面目で、素直です。とても、いい娘だと思いますよ。確かに、ちょっとヒネクれてて、気難しくて、とっつきにくいところもあるけど、根は真っ直ぐな娘なんじゃないかなあ。それで、かえって小狡い大人の妥協ができなくて、周囲とぶつかって、誤解されることもあるような気がします」
「なるほど……」

 

[作者コメント]
河合奈保子がデビューした1980年、その年の紅白歌合戦出場を逃したのは、『大きな森の小さなお家』(1980年6月発売)『ヤングボーイ』(同年8月)だけでは、まだまだ実績不足だったから――という以前に、当時17歳という年齢では出場資格がなかったのだと、長い間思っていました。しかし紅白に限らず、この当時のテレビは、労働基準法などどこ吹く風、平気で未成年のタレントを夜の生放送に出演させていたようです。彼女が出場できなかったのは、普通に選にもれた、ということでしょう。
ちなみにテレビが未成年の夜間生放送出演を気にするようになったのは、ワタシの記憶と知識では、伊藤つかさから。当時大人気のつかさちゃん、早くお家に帰りたかったみたいです(笑)。後年、自分のせいで放送界のルールが変わってしまったことを気に病んでおられたようです。ワタシはいいことをしたと思いますよ。子供に遅くまで働かせちゃいけませんよ。


青年と別れて、男が新宿駅東口前に差し掛かると大型ビジョンでは、沢合素直がインタビューを受け、『紅白歌まつり』初出場の意気込みを語っていた。
「『紅白』出場は、わたしの夢でした。去年、同期の田宮くんや星奈さんがそこで歌っているのをテレビで見て、とても悔しい思いをしました。だから、今年の『紅白』に出られることをとても嬉しく、誇りに思います」
〈先日、あんなことがあって、不安に思っている人もいらっしゃると思います。そのへんのところ、いまの心境はいかがですか?〉
「あのときは、みなさんに本当にご迷惑とご心配をおかけしてしまいました。いまでも恥ずかしくて、消えてしまいたいぐらいです。――不安がないと云えば、ウソになります。でも、今度こそみなさんに恥ずかしくないステージを見ていただけるように、一生懸命頑張ります」
〈ありがとうございました。沢合素直さんでした。では次に、二度目の出場となります、杉村星奈さんです〉

アナウンサーは少し移動し、今度は素直の隣の杉村星奈にマイクを向け、インタビューを始めた。
大型ビジョンの映像では、杉村星奈が二度目の『紅白』出場に、堂々とその意気込みを語っている。その風格はまさに、早くもアイドル界の「女王」そのものだった。

 

[作者コメント]
新宿駅東口前の大型ビジョンと云えば、云わずと知れたスタジオアルタです。現実のアルタビジョンでは、重大事件のニュースなどはN〇Kの放送内容を映すこともあるにはあったようですが、このような『紅白』の番宣の放送を映すことは、ちょっと考えられません。この世界での新宿駅東口前の大型ビジョンは、アルタビジョンとは違うのかもしれません。
それから、このチョイあとのラストの描写ですが、この時代にはよくある光景だったのです。何卒、御寛恕の程を。


不敵な笑みを浮かべ、大型ビジョンの杉村星奈に睨みつけるような視線を注ぎ、男は思う。咥えタバコの煙をくゆらせて――。

(女王様気分でいられるのも、いまのうちさ。せいぜいひたっておくといい……)
(来年以降、あんたは女王の座から引きずり下ろされる……)
(ウチの中条玲にな……!)

男は紫煙をくゆらせるタバコをまるでそこに映る彼女に捧げるように、二本の指で持ち上げると、周囲には聞こえぬ程度の小声で、そっと囁いた。
(謹んで、御祝辞申し上げます。日、没するところの女王陛下に――)
「メリークリスマス!」
男はタバコを地面のアスファルトに落とすと、革靴の底で踏み消した。


「スマイル・フォー・ミー」創作ノート
 1st-extra 少女A
(了)

ending 中森明菜『少女A』

中森明菜『少女A』

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あとがき
○杉村星奈のこと
モデル松田聖子+若干の中森明菜要素の混合キャラ。だから、名前も「星奈」。それが「本編」の主人公・沢合素直にとりまるで勝ち目のない強力過ぎるライバルとしての、彼女の当初の設定でした。


○本作のヒロインのこと
でも、出てきてしまいました。やっぱり書いているうちに、こういうことは変わってくるものです。
杉村星奈にとり素直は、実力=人気+セールスで及ばないだけでなく、哲学=人としての生き方がまるで異なり、ライバルとしては噛み合いません。ガチッとギアがハマるような、実力でも、なにより己れの哲学において相通じる、同じタイプのライバルを出現させてあげたくなった、描きたくなりました。


彼女が『「スマイル・フォー・ミー」創作ノート』の「第三極」として本編で活躍するかとなると、それはないと思います。なぜなら81年の『紅白歌まつり』が、本編のほぼほぼクライマックスだからです。彼女のデビューはそのあと。そこから星奈と彼女がどのような、公私に渡る壮絶な鍔迫り合いを演じるかは、みなさまのご想像におまかせする領域です。『SLAM DUNK』(井上雄彦)における、森重寛みたいなキャラですね。さらにワタシの好きな『あさひなぐ』(こざき亜衣)に喩えるなら、主人公・沢合素直が東島旭なら、杉村星奈は宮路真春。本作ヒロインはまさに、真春に対する戸井田奈歩に相当するでしょう。

○本編伏線のこと
アナウンサーがインタビューで質問した「あんなこと」とはなんなのか? それは創作者としての秘中の秘です。発表のその時まで(いつになることやら……)お待ちください。ワタシはドキュメンタリーを書く気はなく(そもそも、その資格がありません)、あくまでも史実をモデルにしたフィクションを書いています。当然、史実よりも「盛り」ます。そうでなくては、現実のドラマに太刀打ちはできません。現実の河合奈保子さんが体験した事実よりも、さらに過酷な試練が沢合素直ちゃんには待ち構えています。


○改訂・再掲のこと
本作初稿を発表してから、丸一年が経ちました。50も過ぎると時間が過ぎるのが奔流のようです。実感としては、ついこの間の気がします。
改訂の必要に迫られたのは、「あのひと」の名前が変わるからです。本作単体なら、初稿のままでよかったし、むしろ初稿のほうが良かった。ですが実際に「2nd-extra」に登場するとなると、もっとカッコよくしたいと思うようになりました。
しかし、それに絡めた作者コメントもあり、このまま幻と消し去ってしまうのは忍びなく、当時は「期間限定」と謳いましたが、「初稿バージョン」として、一年前の発表のまま留めることにしました。


○多摩市カナメさんからのリクエストのこと
今回はendingをお送りしましたので、奈保子日記のいつものアレは割愛します。


○『「スマイル・フォー・ミー」創作ノート』本編のこと
本編はこちらです。「2nd-extra」ともども、こちらもどうぞよろしくお願いいたします。早よ、続き書けよ。

 


2024.12.24 初出 【期間限定特別企画】として公開
2025.12.24 改題・一部改訂・再掲

 

アイドル百科3 河合奈保子

アイドル百科3 河合奈保子

『夢・17歳・愛』※1や『さまーひろいん』※2などの写真集とともに、現役当時に購入し、いままで所持し続けていた数少ない奈保子アイテムのひとつです。
ですが懐かしさより、ほとんど初読の新鮮さを感じました。フォトページ以外、活字部分はろくに読んでなかったに違いありません。そういうファンだったんですよ、河合奈保子現役当時のワタシときたら。

(1)巻頭グラビア
本書トップバッターを飾るのは、60頁を超えるカラーフォトグラフ。後述する「カナリー・コンサート'82」の模様を始め、スポーツルック、レジャー、街中、お部屋での寛ぎなど、様々なシチュエーションの奈保子ちゃんを満喫できます。水着もちょっぴり。特に大きなシダの枝葉を砂浜に引きずる見開きのフォトは、数ある奈保子ちゃんの水着グラビアの中でもお気に入りのひとつでして、当時このパートだけで満足してしまった自分の気持ちは理解できます(笑)。

(2)カナリー・コンサート'82
本文パートの最初はこの年のコンサート。先月発売のサード・ライブアルバム&映像ソフト※3に収録されたあのライブを、さらに写真と活字で追体験、補完できる内容になっています。

(3)10デイズ奈保子
アイドル・河合奈保子が過ごしたお仕事の10日間。「たのきん全力投球!」「レッツゴーヤング」「ヤンヤン歌うスタジオ」「カックラキン大放送」……なにもかもみな懐かしい。「レッツゴーヤング」の項では一年前の事故についても、丸ごと一頁を使って語ってくれています。
「レコーディング」の項では、「LP」という云い方に時代を感じました。そして、こんな貴重な証言も。
 

デビュー曲「大きな森の小さなお家」のレコーディングのことは、今でもハッキリと思い出します。
あの時、西城秀樹さんも応援にかけつけてくれました。感激しましたネ。一生忘れられない思い出です。
――「初レコーディングの思い出」より


(4)ハッスル奈保子/奈保子ツアールポ
カナリー・コンサート'82に向けた「合宿」について綴られています。一年前の『ときめきのメッセージ』※4に通じています。あちらは写真集でしたが、こちらは活字主体の読み物。
今年は水着の奈保子ちゃんといっしょにプールはなかったんですか? 前述のカラーフォトにはプールサイドのグラビア(着衣)もあったし、そういうひと時はあったのかもしれません。あったとしても、ともにコンサートを作り上げる云わば「戦友」。ワタシのようなヨコシマな目で水着の奈保子ちゃんを見る者などいない……と思っていますが。.
さらに全国をまわったサマー・コンサートのルポも。厚木のコンサートでは衣装の背中のファスナーが壊れるトラブル、ねぶた祭りの最中におこなわれた青森公演、熱を出してめまいのなかやりきった横須賀――ツアーのエピソードが紹介されています。

(5)奈保子詩集
写真とともに綴られる、河合奈保子直筆のポエム。

 

昨日の涙は 笑顔のための雨でした

 

の一節が素敵です。なにかの機会に使わせてください。
のちに作曲をするようになりますが、作詞はあまりなさらなかったようです。そちらの才能も、あると思うのですけどね。

(6)奈保子バイオグラフィ
こちらもファン必携、貴重な成長の記録です。
「奈保子」は本名。ただし読みは「なほこ」。「奈」の字の由来は「奈良が近い」から。
出生~幼稚園~小学校~中学校~高校(デビュー前)~そしてデビュー、河合奈保子・19年間の思い出語り。

(7)奈保子・青春トーキング
河合奈保子・19歳の徒然なるエッセイ。十代最後の抱負(「オホホ」と笑うという誓いは、あっさり反故に)、故郷・大阪のこと、お料理のこと、血液型(O)、好きな季節(春)、運転免許取得の夢(夢でなくなることは、存じております。オーストラリア住まいで車なしでは生活できないでしょう。国際免許なのか、あちらの免許なのかは存じませんが……)、旅の思い出(オーストラリア好きはこの頃から)の7題。
 

水着もあまり好きじゃありません。だけど着るならワンピースよりビキニのほうが開放的でスキ!
――「春よ、はやく来い!」より


そう云ってくれて、ちょっと救われました。ファンとして。

決して、ウソではないと思います。でも、この一言を付け加えてくれるのが、彼女の優しさなのだと思います。


(8)奈保子ズームイン/奈保子ソングブック
演奏バンド・大石恒夫とザ・ムスタッシュのメンバー、マネージャーの紹介は資料価値高し。ほかには合宿場所「弥勒の里」や仕事現場のスナップなど。
シングル曲の譜面付きソングブックも同様に貴重。

それでは、ここでお聴きください。多摩市・カナメさんからのリクエスト、この本が発売された時点での最新シングル、河合奈保子『Invitation』をお送りします。

河合奈保子『Invitation』
YouTube


(9)奈保子ア・ラ・カルト
ラストは奈保子雑学辞典。占い、ワード連想ゲーム、交友録、好きな本・映画・音楽、プロマイド、CM、ボディチェック(お待ちかね?)、レコード会社(御存知、日本コロムビア)、所属芸能事務所(御存知、芸映プロダクション)、ディスコグラフィ、ファンレター、ファンが撮影したフォト、ファンが描いたイラスト大会、そして、ファンクラブ(いまだったら入会するんだけどなあ(苦笑))
印象に残ったところでは――

 

⑩カレーライス●バーモント!
――「インスピレーション」より


さすが(笑)。
あと「交友録」に触れておくと、「花の82年組」は語り草ですが、80年デビュー組も勝るとも劣らぬ錚々たる顔ぶれです。松田聖子は云うに及ばず、同じ事務所の大先輩・岩崎宏美の実妹・岩崎良美に、同期どころかデビュー日まで同じ同郷、「なおなお」「よしよし」で呼び合う大の仲良し柏原芳恵もいまなお現役(喫茶☆歌謡界、毎週視てます)、そしていまや政治家、左の蓮舫に対する右のじゅん子先生・三原じゅん子! 人生、いろいろですね!

最後の最後はこの本の「編集長」(一日警察署長よりはずっと「編集長」をおつとめだったと思います)である河合奈保子の「編集後記」、おまけに巻末付録の「'83年カレンダー」という内容になっております。

全体を通して、「カナリー・コンサート'82」の比重が高く、3枚目のライブアルバム・映像ソフトを視聴する上で、あわせて読んでおきたい副読本的内容になっています。

2025.12.22 一部訂正

 


※1

※2

※3

※4

 

 

グループA
フォーエバー・マイ・ラブ(1stアルバム)
イチゴタルトはお好き?(2ndアルバム)
ゆれて-あなただけ(B面)
グループB
アプローチ(4thアルバム)
黄昏ブルー(B面)
けんかをやめて
グループC
刹那の夏
ハーフムーン・セレナーデ
唇のプライバシー
グループD
LOVE(1stアルバム)
Can't Stop The Music(1stライブアルバム)
愛は二人の腕の中で(2ndライブアルバム)
グループE
鳥の詩(2ndライブアルバム)
ラブレター
Invitation
グループF
Mr.パイロット(2ndアルバム)
スマイル・フォー・ミー
エスカレーション
夏はSEXY(4thアルバム)
グループG
大きな森の小さなお家
17才
夏のヒロイン
グループH
甘いささやき(1stアルバム)
ハリケーン・キッド
(B面)
デビュー~Fly Me To Love~
十六夜物語


『NAOKO ANTHOLOGY SONGS』発売記念キャンペーンの締め切りが目前に迫っています。
「オリジナルスマホ用壁紙」のプレゼントもありますが、奈保子ライフに勤しむ者としては、この現代に行われる奈保子行事に参加せねば、一生モノの後悔をしてしまいます。
この企画が秀逸なのは、参加者が一票を投じて、その中からランキングを決めるのではなく、参加者にベスト10曲を投票させる点にあります。これは悩みますよ。そして燃えますよ。

頭だけで10曲選ぶって、なかなか難しいものです。そこで、ワタシは現時点で知る曲から好きな歌、印象に残る歌を、シングルだけでなく、アルバム、B面からもセレクトし、それぞれ対戦してもらうことにしました。
A~Gの8つのグループに分け、1位通過した歌をトーナメント形式で対戦してもらい、トップを決める。そのあとは順位が確定したトップを除外して、同じように対戦を繰り返し、10位までを決める。なので、仮に1~3位になるはずの歌が同じグループに固まってしまったとして、そのために2・3位になるはずの歌がグループ予選敗退に甘んじるといったことはなく、結果は最終的にそれらが1~3位になります。くじ運関係なし、いま現在のワタシの中の純粋なベストテンです。(なら「組み合わせ」どうでもよくない? というツッコミは御無用にお願いします。)
組み合わせは、ウェブサイトの乱数サービスを用い、厳正に決めました。この歌とこの歌がぶつかるとは!?――なんて組み合わせがけっこうあって面白い。
栄えあるマイ奈保子ベストテンの栄冠に輝くのはどの歌か? さらに世間との違いや如何に? 結果発表は『NAOKO ANTHOLOGY SONGS』が発売される12月24日過ぎに。『NAOKO ANTHOLOGY SONGS』を鑑賞しつつ、制作・アップしたいと思います。
決戦は帰りの新幹線の車中で実施します。出張中になにをやっているんでしょうか。.


(12月20日追記)
いまさらですが、すっかり忘れてました。多摩市・カナメさんからのリクエスト(笑)。
グループAにエントリー、ファーストアルバム『LOVE』より『フォーエバー・マイ・ラブ』。上記リンクでお贈りします。
シングルA面曲のない比較的やさしいグループですが、これを突破し、トップテン入りを果たすことができるでしょうか? 結果は後日。

2025.12.20 一部訂正・加筆

 

 

 

 

 

1983年公開のアニメ―ション映画『幻魔大戦』のシナリオ第一稿は、原作に忠実な――といっても秋田書店の漫画版ですが――月が接近するバッドエンドであったと云われています。

このシナリオ第一稿は、良くも悪くも原作をファミレスの味にする、りんたろう監督によって却下されます。当時の商業映画としては、無理もない選択だったかもしれません。

しかし、それを云い始めたら、平井和正の小説『幻魔大戦』なんて、もっと原作に忠実ではありませんでした。原作というよりは「原典」というべきですが。まさに前門のアニメ幻魔、後門の小説幻魔です。

 

秋田書店漫画版を忠実に映像化できたら、それこそ「シン・幻魔大戦」ですね。そんな商業ムービーが現実になるかはともかくとして、いまの時代なら少なくとも「現実味」はありそうな気はします。

「シン・幻魔大戦」が露骨すぎるなら、『幻魔大戦R』というのは、いかがでしょう。Real(=真)の「R」です。さらに、「Rebirth」の「R」でもある。
そのラストは「バッドエンド」ではなく、『幻魔大戦 Ribirth』へ繋がるプレリュードとなる。

平井和正ソロでの80年代の「幻魔大戦」(シリーズ)は、壮大な「サテライト」だったと思います。サイドストーリーの連続と云いますか。そして肝心の中軸を構築しないまま、途絶してしまいました。
 

余談ですが、小説『幻魔大戦』はまさにその典型で、GENKENという宗教的団体を舞台に繰り広げられる等身大の若者たちの群像劇は、それはそれで評価に値するし、美少女キャラ萌え小説として実際十二分に面白くもあるのですが、いかんせんタイトルは「幻魔大戦」なのに、超能力活劇としての「幻魔大戦」からは遠く隔たり過ぎていて、ちっとも幻魔と大戦をしないと、多くの読者を嘆きと混乱に陥れてしまったのは不幸な悲劇でした。


さらに後年かつ晩年、平井和正がけじめをつけた形の完結編は、大衆性・商業性フルシカト、あまりにも読者を選ぶ、作者の異次元境地全開の作品になってしまった。
 

それもさることながら、さすがにお歳を召されたかな、と思います。あくまで個人の感想ですが。作品からは、穏やかで幸福な老境を迎えられたことが感じられて、ファンとしては心温まる部分もあったことは否めません。しかし、過去のシリーズの圧倒的な凄味、重みは感じられない。ですがそうやって、真面目にダメ出しするのも野暮であって、2000年も過ぎた頃の作品は、もう書いてくれただけでありがたいと思います。――そのように思えるようになったワタシも、歳をとったのだと思います。


それでも、そこで平井和正が示した、秋田書店漫画版への回帰というエッセンスが、理解者で愛読者の漫画原作家・七月鏡一によって受け継がれ、大衆的エンターテインメントとしての超能力活劇『幻魔大戦 Ribirth』が、その名の通り再び誕生したのは我々読者にとっての幸いでした。
※「漫画原作家」という言葉はないようで、ほとんど造語です。この方の職業を言い表すには、こう呼ぶのが相応しいと思います。

元祖(秋田書店漫画版)『幻魔大戦』→『幻魔大戦 Ribirth』のリレー、アニメ化・映像化には申し分ない素材であることは間違いないでしょう。
ワタシはこれを「現実」にする立場にありませんが、一ファン、一読者としてそんなことを夢見、想像の翼を広げてワクワクしています。

今回の日記は唐突な印象をもたれてしまったかもしれません。ある方のアニメ―ション映画『幻魔大戦』について書かれた昔のブログを見て、触発されました。
平井和正を忘れたわけではありませんよ(笑)。

 

ドクロ月
――秋田書店漫画版『幻魔大戦』2卷より


2025.12.08 加筆

 

 

 

 

(1)〇〇だらけのあなたの部屋に
 

ペナントだらけの あなたの部屋に
こうして訪れるときが 来ると思ってた
招いた人はまだ 私だけだと
はにかむようなまなざしで 打ち明けられた


歌は「時代」を映す鏡と云われます。まさにそれを体現する、見事なセンテンスです。
「ペナント」が土産物として昭和の遺物であるというだけでなく、この「〇〇だらけ」というフレーズそのものが、現代の歌詞としては成立困難であるように思えます。

一般に「コレクション」と呼ばれる趣味そのものが、あまり恋愛のプラスには働かないからです。

「フィギュアだらけのあなたの部屋に」では、招かれた女の子もその場で別れを決意しそうです。
訊けるものなら、竹内まりやさんに是非お伺いしてみたい。
「ペナントだらけの あなたの部屋に」を、現代的な詞に書き換えができるものかどうか。

この「ペナントだらけ」のフレーズの絶妙さは、それに伴って「旅」や「登山」といった、健全かつ魅力的な、この彼のアウトドアライフを連想させる点です。

奈保子ちゃんの歌うこの詞の女の子も、初めて招かれた彼の部屋に、初めて招かれた彼女として、ときめきこそあれ、幻滅などすることはありませんでした。

それでは、ここでお聴きください。多摩市・カナメさんからのリクエスト、河合奈保子『Invitation』。

河合奈保子『Invitation』
YouTube

(2)『けんかをやめて』を反省?

前シングル『けんかをやめて』に続き、作詞作曲は竹内まりや。
前曲とは一転して、乙女チックなかわいらしい“奈保子スタンダード”な詞の仕上がりは、まるで河合奈保子のイメージとは真逆の大胆な詞で世を騒がせた、前曲を反省したかのようです。

ですが、おそらくそうではない。そう、ワタシは推察、かつ確信しています。

有名な話ですが、『けんかをやめて』は休業中の竹内まりやが、仕事の発注もなく、云わば趣味的に、勝手に河合奈保子をイメージして書いた曲だと云われています。
 

 

この話を知って、ワタシは大いに納得がいきました。だから、この詞なのかと!
そりゃそうだよなと。「河合奈保子のために、歌を書いてください」――そうオファーされて、あの歌は書かないよなと(笑)。
だから、オファーを受けた時点で、すでに書いた歌はあったといっても、だからといって、「丁度よかった。実は奈保子ちゃんのために書いた歌があるんです」――ハイ、どうぞ。そんなふうに提出したとは、ワタシには思えないのです。

この歌は、ないわよね? 竹内まりやさんは常識的判断として、きっとそう思ったのではないでしょうか?
だからこそ「仕事として」、河合奈保子のための歌を新たに書き下ろした。
それが11曲目のシングル、『Invitation』ではなかったか?――そんな話をどこかの関係者がどこかで語った事実をワタシは知りませんが、勝手な憶測としてそう思っています。

ではなぜ、『けんかをやめて』を河合奈保子サイドは採用、奈保子さんご本人は歌おうと決意したのか? それについてはすでに『けんかをやめて』の奈保子日記に私見を述べていますので、そちらをご覧いただければと思います。

 


(3)その日を夢見、でも今じゃない乙女ごころ
 

見つめられてること 知らぬふりして
キスさえ許さないわけを 見抜いてほしい


情景が目に浮かびます。部屋のベッドにふたりは腰かけている。
「彼」が頭に思い描くシナリオはわかります。手に取るように。

じっと彼女の横顔を見つめる。彼女もこちらを向く。見つめ合う、ふたり。
やがて彼女は目を閉じる。それは「OK」のサイン――。

でも、彼女はそれを許さない。

 

若さにまかせて 先急ぐ恋は
ときめいてる心までも すぐにさらってゆくから


わかってますね、彼女は。恋愛の機微というものを。
これを書いている当時の竹内まりやさんのような、大人の聡明さを具えています。

 

結ばれるその日を 夢に見ながら
お似合いの恋人になる 約束するわ


でも、彼女だって夢見ています。いつかそうなる、その日のことを――。

いつか彼と、そうなってしまうのね!? 急に彼が迫ってきたりしたらどうしよう!? キャッ、やだッッッ!!!

(ワタシのようなオッサンが云うと、キモい妄想になってしまいますが、それは云いっこなしということでお願いします……)

その夜、自室のベッドでそんなことを考えては独り身悶えしている、そんな少女の情景もまた目に浮かびます。

『けんかをやめて』の意外性・話題性のインパクトの前にどうしても陰に隠れてしまいがちですが、この歌もどうしてなかなか。“奈保子スタンダード”の一語では片付けられない、語り尽くせない。
彼の部屋に招かれた、その胸中をテーマに綴る、少女のしたたかさ、計算高さ、そして、かわいらしさ。それら「ビター」も「スィート」も、「ロマンティシズム」も「リアリズム」も、しっかり込もった竹内まりやの詞の世界。それを見事に表現し、しっとりと歌い上げる河合奈保子の持ち前の歌声と、なにより存在感。今回もメロメロの白旗です。

この歌は奈保子さんの「現役時代」の「ファン」として(>いまほど真剣ではありませんでした)記憶に留めていますが、こうしてあらためて深掘りすると……沁みますね。いい歌ですよ。

 

ワタシの場合、こうしてブログに書くことで、精度・感度が上がり、「発見」や「感動」に出逢います。ただ聴いたり視たりしているだけではダメで、それはワタシがブログを書く、大きな歓びのひとつです。奈保子さんに限らず。


超プライベートな自分の部屋まで来てくれたんだ。大願成就まであと一歩だぞ?
ここで焦るなよ? 強引に迫ったりするなよ?
彼女が許してくれるまで、ゆっくり、じっくり待ち続けるんだ。

傍目の視線でそう想うのは、歌の世界の彼を応援しているのか? それとも嫉妬か?(苦笑)

 

河合奈保子『河合奈保子ゴールデン☆ベスト~B面コレクション』~
YouTube

エンディングは、この曲です。
多摩市・カナメさんからのリクエスト、『Invitation』のB面、河合奈保子『木枯らしの乙女たち』。
タイトルに偽りなし、寒い冬にはこの歌がよく似合う。さすが奈保子ちゃんは、こういう歌を歌っても絶品! ビブラートが素晴らしい。
ワタシがこれまで聴いてきた彼女の全シングル、アルバム全収録曲を通じて、奈保子観測史上の最大級、過去に経験したとこのないメロウな曲調! こころのコートをしっかり纏ってお聴きください。

 

 

節目のごあいさつと年末までのスケジュール
とうとう『Invitation』まで、しゃべり終えました。
一昨年の9月からこの活動を始め、デビューには一足遅れたものの、ファーストアルバムリリースの同月同日からここまで、同じ時間をかけて河合奈保子の活動を追体験し、早いものでここまで来ました。感慨ひとしおです。

本文では「現役時代」の記憶に留めていると申し上げましたが、ワタシが奈保子さんの現役時代にファンであったのは、ここまでです。
事実、次のシングル『ストロー・タッチの恋』は、記憶にありませんでした。さすがにその次の『エスカレーション』は覚えていますが、もうその頃にはワタシは、奈保子さんへの好意を、関心を失っていました。そのことをどれだけ後悔しているかはこれまで散々語ったことでもあり、繰り返しません。
『木枯らしの乙女たち』に重ねるなら、愛を粗末にしてたから 罰が来たの ――という一節そのものです。
ですから、ここから先は、ワタシにとっては「未知の領域」です。現役当時の思い出、抜きの。
もちろん、四〇年遅れの推し活※1こと奈保子日記はこれからも続きます。これからが本番ですよ、むしろ。
リピートしてお読みくださっている皆様には、あらためて御礼と変わらぬご贔屓の程をお願い申し上げます。

師走もなかなか大忙しです。自分に鞭と気合いを入れるためにも、今月のナオ活(奈保子活動)の予定を上げておきます。
12/1週 「奈保子ディスコグラフィ」第四期工事(1983年の作品をアップ)
12/2週 (出張につき更新なし)
12/3週 『アイドル百科3 河合奈保子』
12/ 24 『NAOKO ANTHOLOGY SONGS』(新作!)
12/ 24 『「スマイル・フォー・ミー」創作ノート特別編』アップデート(昨年公開分を「エクストラ1st」として改訂・再掲)
12/ 31 第33回「紅白歌合戦」(『夏のヒロイン』で2回目の出場)
『NAOKO ANTHOLOGY SONGS』は、ただ視るだけような気がします(笑)。ファンとして。ブログに書けるのは、年明けかな? キャンペーン企画※2も始まったので、それについて何かお話しできるかもしれません。
余裕があれば『「スマイル・フォー・ミー」創作ノートエクストラ2nd』を書きたい。本音を云えば、いま一番書きたいのはこれ。でも、年内は難しいか……。


※1
※2


2025.12.07 一部変更

 

 

 

 

『Invitation』(1982年12月1日発売 )の奈保子日記で頭をいっぱいにしていたら、その前の11月21日にライブアルバムが出てたんですね。
これで早三枚目のライブアルバムです。
デビュー初年、記念すべきファーストコンサートを収録した一枚目。

 

 

二年目、いまだ怪我の癒え切らない身体で復帰したニューイヤーコンサートを収録した二枚目。

 


そして三年目、19歳を迎え“レディ”をテーマに掲げ、1982年10月17日、東京・芝・郵便貯金ホールで行われた秋のコンサートを収録した三枚目。
まるで彼女が歩んできた道しるべのようです。

そして、河合奈保子としては初となる映像ソフトが、このビデオ版として同時発売されています。(アナログ盤のレコードがCD化されたように、こちらもDVD化され、2025年現在正規販売されています。)
要所は共通していながらも、収録曲は双方で大きく異なり、相互に補完して視聴することができます。
特に映像版での後半の持ち歌の畳みかけが素晴らしい!
いままでのライブアルバムに感じないではなかった「カバーもいいけど、もう少し持ち歌を聴かせてほしいな」という不満を一気に解消してくれました。

洋楽カバー『Smile agein』の熱唱で第一部のラストを飾ると、続く第二部の幕開けは『けんかをやめて』。
日本コロムビア公式YouTubeチャンネルでおなじみの、あの音源です。

ここで恒例の、多摩市・カナメさんからのリクエストを挿入します。
河合奈保子『けんかをやめて』。日本コロムビア公式YouTubeチャンネルよりお贈りします。

 

 

レコードのこの曲には、イントロがありません。それがアニメーション映画『すずめの戸締り』(2022)では、挿入歌として効果的でもあったのですが、ここでは服部克久のアレンジによるイントロが加わっています。奈保子さんのピアノ弾き語りによって。

このコンサートの白眉とも云うべきこの歌を、公開してくださった日本コロムビアさんの太っ腹よ。
ところが、アルバムではさらにピアノ前奏が始まる前に、ハープの音(ね)が奏でられる部分が収録されているのです。ほんのちょっとした違いなんですけど、これがいい。ワタシは好きです。気になる方はぜひ、CD音源をお聴きになってみてください。

アルバムだけの収録曲として最も印象に残るのは、『シルエット・ロマンス』ですね。
熱唱型の邦楽をカバーすると、このひとの歌唱スキルの高さがよくわかります。
曲前のMCにも、二ヤッとしてしまいます。彼女の未来を知る人間からすると。

 

今年も一年を振り返ってみますと、いろんな出来事があったように思います。歌の面で言うと、最近はかなり大人っぽいものも歌っていますし、来生たかおさんのような落ち着いた感じのメロディも好きになりました。


もうすぐ歌うよ、彼の楽曲。むぅぅぅぎぃぃぃわぁぁぁらッのぉぉぉッ♪

 

青い渚 (L・O・V・E!)
急に駆けだしながら (奈保子!)
これが恋ねあなた イチ・二・サン・ハイッ
夏のヒロインに ハイッ (きっとなれる!)
熱いその胸で ハイッ (きっとなれる!)

――『夏のヒロイン』より

 

一目で気付かれてしまう この想い隠せない 私だから 行きますよ イチ・二・サン・ハイッ
(ためらいライライ・ラブレター!) なぜか震える指先 ハイッ
(ためらいライライ・ラブレター!) 秘密が増えてゆく年頃
好きです 言えないけど ハイッ
(好・き・で・す!) 言えないけど

――『ラブレター』より

 

ライブと云えば、ことにアイドルのコンサートと云えば、これですよ。コール&レスポンス。 音声を聴いているだけでも、まるで会場にいる観客の一人になった高揚感を味わえますが、今回はさらに映像も加わって、その効果は相乗です。

 

本当に、どうもありがとうございました。
どうもありがとう!
またいつか、お会いしましょう!
気をつけて帰ってね!

――『ラブレター』歌唱後MCより

 

アルバム、映像版を通じて、ラストナンバーは前述の『ラブレター』です。
「好きです 言えないけど♪」の女性コーラスと演奏がリフレインし、奈保子ちゃんの挨拶で幕を閉じます。ファンの家路まで心配してくれる、やさしい奈保子ちゃんです。
が、これだけ云わせてください。ほんとに蛇足ですけど。

 

どうも、ありがとうございました。↓↓↓↓↓


最後の最後、ここのひと言だけ、妙に声のトーンが低いんですよ(笑)。なんならここは、
ありがとうございましたァァァァァッ↑↑↑↑↑
って、一番声を張り上げるべきところじゃないですか。それがここへ来て急に声が低くなっちゃうのが、なんか可笑しくって。
いや、責めるつもりはありませんよ。奈保子ちゃんはきっと、全ての力を出し切ってしまったのでしょう。奈保子ちゃん、ガス欠。奈保子ちゃん、バッテリー切れ(笑)。

観客の「アンコール、アンコール」の歓声でフェードアウトすることに、ちょっぴりモヤモヤ。その先のアンコールがあるの?(『ラブレター』はアンコール曲)

アルバムはここで終わるのですが、DVDには<特典映像>があり、その先を視せてくれます。うれしいじゃないですか、きっちり補完してくれてますよ。
曲目は2ndライブアルバムにも収録された『愛はふたりの腕の中で〈Elmegyek〉』。
奈保子ライブではなおじみの日本語カバーにして、こちらもコール&レスポンスの名曲。それがどのようであったかは、前述の奈保子日記にしっかり書きましたのでそちらをご参照ください。この歌を映像で視てみたかった。視られてよかった。

 

歌唱中、感極まったのでしょう、珍しく歌声を震わせてしまう一瞬が垣間見られます。

スポットライトを反射する彼女の頬に光る水滴は、汗か。それとも涙だったのか。



巻末資料 収録曲リスト

ブリリアント~レディ奈保子 イン・コンサート~
〔〕内はカバー曲の代表的歌手
01. Ain't no mountain high enought〔マーヴィン・ゲイ&タミー・テレル〕
02. Xanadu〔オリビア・ニュートン=ジョン〕
03. いい日旅立ち〔山口百恵〕
04. Lady NAOKO Medley(ボーナストラック)
 ・You Keep Me hangin'on
〔シュープリームス〕
 ・雨〔ジリオラ・チンクエッティ〕
 ・スニーカーぶる~す〔近藤真彦〕
 ・愛をください
 ・Dancing queen
〔ABBA〕
 ・しあわせ芝居〔桜田淳子〕
 ・ダンスはうまく踊れない〔高樹澪〕
 ・100%…Soかもね!〔シブがき隊〕
 ・I hear a symphony〔アイズレー・ブラザーズ〕
05. Smile again〔ニュートン・ファミリー〕
06. けんかをやめて
07. 待つわ
〔あみん〕
08. シルエット・ロマンス〔大橋純子〕
09. ヤング・ボーイ
10. 夏のヒロイン
11. Reach out I'll be thear
〔フォー・トップス〕(ボーナストラック)
12. ラブレター
BRILLIANT -Lady Naoko in Concert-
01. Ain't no mountain high enought
〔マーヴィン・ゲイ&タミー・テレル〕
02. LADY ナオコメドレー
 ・You Keep Me hangin'on
〔シュープリームス〕
 ・雨〔ジリオラ・チンクエッティ〕
 ・スニーカーぶる~す〔近藤真彦〕
 ・フィーリング〔ハイ・ファイ・セット〕
 ・愛をください
 ・Dancing queen
〔ABBA〕
 ・For Once In My Life〔スティーヴィー・ワンダー〕
 ・しあわせ芝居〔桜田淳子〕
 ・Kiss of fire(演奏)
 ・ダンスはうまく踊れない
〔高樹澪〕
 ・Begin the Beguine
 ・100%…Soかもね!
〔シブがき隊〕
 ・ Yesterday Once More〔カーペンターズ〕
 ・I hear a symphony〔アイズレー・ブラザーズ〕
03. Smile again〔ニュートン・ファミリー〕
04. けんかをやめて
05. 秋桜
〔山口百恵〕
06. ヤング・ボーイ
07. 愛してます
08. 17才
09. スマイル・フォー・ミー
10. ムーンライト・キッス
11. 大きな森の小さなお家
12. 夏のヒロイン
13. ラブレター
14. <特典映像>愛はふたりの腕の中で〈Elmegyek〉
〔マーテー・ペーテル〕

 

2025.11.26 一部変更

2025.11.30 一部変更・加筆
2025.12.07 一部変更

 

 

 

※ただいま工事中

 

HIDEKIの弟妹募集!!全国縦断新人歌手オーディション 大阪地区大会
 
1980年2月10日
阪急ファイブで開催。石野真子「春、ラ!ラ!ラ!」を歌う(決勝大会も同じ)。定数は1名であったが、特別に2人目の代表として選出される。
日記
 
HIDEKIの弟妹募集!!全国縦断新人歌手オーディション 決勝大会
 
1980年3月15日
中野サンプラザで開催。西城秀樹の強い推薦により優勝。
 
大きな森の小さなお家
 大きな森の小さなお家
 
1980年6月1日
詞/三浦徳子 曲/馬飼野康二
B面/ハリケーン・キッド
詞/三浦徳子 曲/馬飼野康二
日記
 
ヤング・ボーイ
 ヤング・ボーイ
 
1980年8月25日
詞/竜真知子 曲/水谷公生
B面/青い視線
詞/伊藤アキラ 曲/川口真
 
LOVE
 LOVE
 
1980年10月10日
アルバム
収録シングル/大きな森の小さなお家、ヤング・ボーイ
日記1日記2
 
愛してます
 愛してます
 
1980年12月10日
詞/伊藤アキラ 曲/川口真
B面/そしてシークレット
詞/伊藤アキラ 曲/川口真
日記
 
LIVE
 LIVE
 
1980年12月10日
ライブアルバム
1980年10月14日、東京・芝・郵便貯金ホールにて行われた1stコンサートの模様を収録。
日記
別冊近代映画 河合奈保子特集号
 
 
1981年1月15日
ムック
日記
夢・17歳・愛 心をこめて奈保子より
 
 
1981年3月1日
エッセイ
日記1日記2
17才
 17才
 
1981年3月10日
詞/竜真知子 曲/水谷公生
B面/キャンディ・ラブ
詞/竜真知子 曲/水谷公生
日記
 
TWILIGHT DREAM
 TWILIGHT DREAM
 
1981年5月10日
アルバム
収録シングル/愛してます、17才
日記1日記2
スマイル・フォー・ミー
 スマイル・フォー・ミー 
1981年6月1日
詞/竜真知子 曲/馬飼野康二
B面/セレネッラ
詞/櫛田露孤、伊藤アキラ 曲/川口真
日記1日記2
 
音楽専科臨時増刊 河合奈保子 そよ風のメッセージ
 そよ風のメッセージ
 
1981年6月26日
写真集
日記
 
近代映画増刊 河合奈保子 フォトメッセージ
 奈保子フォトメッセージ
 
1981年8月5日
写真集
日記
 
DIARY
 DIARY
 
1981年8月10日
アルバム
収録シングル/スマイル・フォー・ミー
日記
 
ムーンライト・キッス
 ムーンライト・キッス
 
1981年9月1日
詞/松本礼児 曲/馬飼野康二
B面/あなたはロミオ
詞/松本礼児 曲/江戸光一、松本礼児
日記1 日記2 日記3
 
セリ穴落下事故による重傷 1981年10月5日
NHKホール「レッツコーヤング」収録リハーサル中、舞台昇降装置を設置したセリ穴に四メートルの高さから落下、「第一腰椎圧迫骨折」の重傷を負う。
日記
 
ときめきのメッセージ NAOKO ON TUOR 河合奈保子写真集
 ときめきのメッセージ
 
1981年10月15日
写真集
日記
 
退院、記者会見 1981年11月16日
渋谷病院を退院。コロンビア・レコード本社で記者会見。
 
Angel
 Angel
 
1981年11月25日
ベストアルバム
収録シングル/ヤング・ボーイ、大きな森の小さなお家、愛してます、17才、ムーンライト・キッス、スマイル・フォー・ミー
日記
 
ラブレター
 ラブレター
 
1981年12月5日
詞/竜真知子 曲/馬飼野康二
B面/No No Boy
詞/竜真知子 曲/馬飼野康二
日記
 
Naoko in Concert
 NAOKO IN CONCERT
 
1982年2月25日
ライブアルバム
1982年1月6日に日本青年館ホールで行われた、新春コンサートの模様を収録。
日記
 
愛をください
 愛をください
 
1982年3月10日
詞/松宮恭子、伊藤アキラ 曲/松宮恭子
B面/春よ恋
詞/伊藤アキラ 曲/馬飼野康二
日記
 
ほほえみ・ステップ
 ほほえみステップ
 
1982年3月27日
写真集
日記
 
夏のヒロイン
 夏のヒロイン
 
1982年6月10日
詞/竜真知子 曲/馬飼野康二
B面/ゆれて-あなただけ
詞/竜真知子 曲/馬飼野康二
日記
 
別冊近代映画 河合奈保子スペシャルPART3
 別冊近代映画 河合奈保子スペシャルPART3
 
1982年7月1日
ムック
日記
 
SUMMER HEROINE
 SUMMER HEROINE
 
1982年7月21日
アルバム
収録シングル/ラブレター、夏のヒロイン
日記
 
さまーひろいん
 さまーひろいん
 
1982年8月1日
写真集
日記
 
けんかをやめて
 けんかをやめて
 
1982年9月1日
詞/竹内まりや 曲/竹内まりや
B面/黄昏ブルー
詞/竜真知子 曲/馬飼野康二
日記
 
河合奈保子全曲集
 河合奈保子全曲集
 
1982年9月21日
ベストアルバム
収録シングル/「大きな森の小さなお家」~「夏のヒロイン」までの全シングル。
※カセットテープのみのリリース。
 
ブリリアント~レディ奈保子 イン・コンサート~
 ブリリアント
 
1982年11月21日
ライブアルバム
1982年10月17日に東京・芝・郵便貯金ホールで行われた秋のコンサートを収録。
日記
 
BRILLIANT -Lady Naoko in Concert-
 BRILLIANT -Lady Naoko in Concert-
 
1982年11月21日
映像ソフト
上記コンサートの映像ソフト。
日記
 
Invitation
 Invitation
 
1982年12月1日
詞/竹内まりや 曲/竹内まりや
B面/木枯らしの乙女たち
詞/尾関昌也 曲/尾関昌也
日記
 
アイドル百科3 河合奈保子
 アイドル百科3 河合奈保子
 
1982年12月20日
ムック
日記
 

 

工事日記 2024.01.05
公開しますが、工事中です。第一期工事としては主に1980年にリリースされた作品をまとめました。音楽に限らず、映像ソフトや写真集・エッセイなどの出版物も取り上げていくつもりです。
今後の日記で奈保子史に触れる際などにリンクして使用するほか、ワタシ自身のスケジュール表として(笑)使っていきたいと思っています。
工事日記 2024.06.09
更新をサボっていたら、セカンドアルバムが出てました。マメにメンテしないといけませんね。
81年末までのシングル、アルバム、出版物をアップしました。奈保子さんの芸能人生のなかでも最大の、激動のシーズンに差し掛かろうとしています。
工事日記 2025.01.01
第三期工事では1982年発売の作品を中心に、河合奈保子史に記録すべき大きな出来事も記載しました。今年も盛り沢山です(>今年じゃないけどな)。怪我はいまだ癒えず、腰にコルセットを着けてではあるものの、仕事に復帰。紅白歌合戦への初出場を果たしました。河合奈保子のいわゆる「アイドル」時代の、後半期とワタシは思っています。歌手人生の転機となった竹内まりや作詞作曲『けんかをやめて』が、今年は控えています(>今年じゃないけどな)。

 

  プロローグもしくはエピローグ

人間には必ず、失意の時が訪れる。
――これは平井和正著『幻魔大戦』(1巻)※1の言葉だ。もっとも、当時のベストセラーだったこの小説を彼女は読んでいなかったし、ゆえにその一節を彼女が知るはずもなかったのだが。
それでも、阪急・大阪梅田駅の改札を抜ける人の波に、流されるように身をまかせる彼女の心境を言い表すとすれば、それはまさに「失意」の一語をおいて他になかっただろう。

彼女は失恋をした。愛する男に、残酷な裏切りの憂き目を被ったのである。
驚かせてやろう、そして喜ばせてやろう。その一心で、手作りのバースデーケーキをもって、チャイムも鳴らさず、合鍵を使って、彼の部屋の扉を開けた。
彼女は見た。青ざめた顔で目を見開いたベッドの上の彼の裸体と、その隣でシーツで身を隠す裸体の女を。

彼には、何もかも捧げてきた。欲しいものは何でも買い与え、乞われるままに金も与えた。
そのために、バイトに明け暮れた。大学にもろくに行かず。このままでは単位の取得もならず、留年は必至だった。それでも構わなかった。そんなことは、どうでもよかった。彼を愛し、彼に愛されることだけが、彼女の人生の全てだったのである。

利用されている――?
彼女の意識の奥底は、その警報をずっと鳴らし続けていた。
だが、彼女はそれに耳を塞ぎ、目を背け続けた。湧き上がろうとする猜疑心、警戒心を封じ込め、気付かぬ振りをし、彼との愛欲に溺れた。その当然の結末として、いまこの時を迎えたのだった。

怒りにまかせて、合鍵を彼に向けて投げつけたことをいまは後悔している。
あれがあれば、いくらでも復讐の手立てが考えられたものを――。(鍵を付け替える金銭的余裕が彼にあるとは思えなかった。)

どこをどう歩いてきたのかさえ、彼女は自覚しなかった。
阪急三番街の空間に響き渡る、紀伊国屋書店前の大型スクリーン※2から放たれる歌声が、彼女をハッと我に帰らせた。

 けんかをやめて
 二人を止めて
 私のために争わないで
 もうこれ以上

(けんかぐらい、しとくんやったわ――)
スクリーンで歌う、沢合素直を見上げながら、彼女は思った。
(ムカつくわぁ、この歌も。この女も)
そう思う彼女の口角は、微かに上がっていた。それは「自嘲」にほかならなかったのだが。

自分はいったい何をしているのだろうと。
この女は、こんなにスターになったというのに――。

いまになって、泪があるれそうになる。
でも、泣かなかった。眉間に皺を寄せて、それに耐えた。意地でも、泣いたりするものか。
泣いたら、負けだと思った。

あの時も、そうだった――。
あの時も、彼女はあふれそうになる泪を堪え、この女に、笑みを向けたのだ。

(出世したやん、あんた――)

彼女は自覚的にこのことを意識したわけではない。だが、まるで運命の神様の悪戯とでもいうのか、いま自身が置かれている「失意」に重ねるように、眼前に映し出されたビジョンは、否が応でも、彼女の記憶の奥深く、厳重に鍵をかけ閉ざした重い扉を開け放ち、呼び起こさずにはおかなかった。
遡ること約三年前。あの時に味わった「失意」を。
思えばあの時の「失意」を埋めるために、忘れるために、彼女は見せかけの愛欲に溺れたのではなかったか。

彼女の名は、鴻巣千種(こうのすちぐさ)。
かつて、スクリーンで歌う沢合素直とは、ともにオーディションを競いあった間柄である。
彼女――鴻巣千種の意識の中で、その約三年前の日々が一瞬のうちに凝縮されて蘇った――。


「スマイル・フォー・ミー」創作ノート 2nd-extra
けんかをやめて プロローグもしくはエピローグ 了

 

 

用語解説
※1 平井和正著『幻魔大戦』(1巻)
第1卷刊行は1979年11月。全二十巻。原作をつとめた同名SF漫画の小説版を意図して始まったが、主人公が起こした宗教的組織を舞台とする群像劇へと発展する。
※2 紀伊国屋書店前の大型スクリーン
通称「BIG MAN」。1981年7月設置。大阪梅田の待ち合わせのメッカ。

 

なかがき
本作主人公のモデル・小林千絵さん(1963年11月生まれ)と河合奈保子さん(1963年7月生まれ)とは、同い年で同学年。小林さんが芸能界デビューの再チャレンジを決意するのは彼女が高3を迎える頃と云われており、「史実」とは約一年の時間差があります。
『けんかをやめて』に絡める意図もありますが、それよりも設定上、どうしても大学生にはしておきたかったという事情によります。そこは史実をモチーフにしつつも、あくまで「フィクション」であるということでご勘弁を願いたいと思います。
「HIDEKIの弟妹募集!!全国縦断新人歌手オーディション」が、小林千絵をデビューさせるための出来レースだった――という根強い風説があります。これもまた小林千絵さんを始め、関係者は誰ひとり認めていない、あくまで「風説」に過ぎません。それについての筆者の見解はまたの機会に譲りますが、本作はこの風説に基づくフィクションです。小林千絵さん側の視点で描く。
『スマイル・フォー・ミー創作ノート』本編は、例の「事故」を描こうとしています。今回は噂の、そして因縁の「オーディション」に挑みます。
全て書き上げてから発表したかったのですが、次のシングル『Invitation』(1982年12月1日発売 )の奈保子日記も迫っており、このタイミングにこのパートだけでもということで、発表させていただきました。
「本編」の「事故」は、いつ書くんだ?――とツッコまれそうですが、これもまた、それに必要な道のりなのです。そういうことにしといてください。


2025.11.22 初出

2025.12.24 改題

 

第3週 「ヨーコソ、マツノケヘ。」

歳をとると、ドラマの見方も多層的になります。複数のレイヤーで、ドラマを見るようになるのです。
ごく単純な例をあげると、たとえば主人公が苛立ちのあまり、家族に心無い言葉をぶつけてしまったとしましょう。
それはダメだよ、ひどいよと、まるで自分がその場にいる友人のような目線で想う。
――これが第一層。ドラマの世界そのものに入り込んだ見方です。

違和感を覚える。さては筋立ての都合で、口にするはずもない科白を云わせたな?
そのように一歩引いた目線で、「脚本」レベルでドラマの出来を判定する。――これが第二層、という具合に。
 

もう知っちょるけん…。
知っちょります、全て。
私が、おじ様と、おば様の子供で…。松野の父と母は、育ての親だということでございます。
誰に聞いたわけではございません。ですが、自然と…、そうなのではないかと。

――『ばけばけ』第15回・10月17日(金)放送分より


この前段階、雨清水傳が営む織物工場は借金まみれの火の車であることが、長男・氏松の置き手紙で発覚します。氏松は出奔。雨清水家は女中に暇を出しますが、生粋のお姫様育ちのタエ=北川景子は、粥ひとつ満足に作れない。米に直接火をかけて、あやうく火事を起こしかける始末。
見かねたトキ=髙石あかりは、過労で倒れた傳=堤真一の看病を申し出ます。

夜、トキの看病を受けた傳とタエとの会話を、三男・三之丞=板垣李光人は聞いてしまいます。明くる日、傳、氏松の不在(次男は死別)で混乱する工場の現場で、病床を抜け出し、差し入れのカステラをもって訪れた傳に、その惨状を叱責された三之丞は、その「秘密」を、みなの前でぶちまけてしまうのでした。

トキ、気付いてたのか!?――という第一層の驚きはもちろんですが、それにも増して、よく出来た脚本だなぁ――と第二層で感服しました。

トキは知っていた。
だからこそ、先週放映の「あの、あの話」※1に、疑問を差し挟みませんでした。
トキにはわかっていたのです。あのとき、彼らが何を騒いでいるのかということを。

ふつう、変だと思いますよ。
「『あの話』ってなに? なにか私に隠し事してない? してるよね? 絶対なにか隠してるよね?」

それを訊くのがふつう。視聴者にそこをツッコまれないのは、コメディ展開の一幕だから。そこは深い入りせず、スルーしておきましょう。あんまり、うるさい指摘をするのも野暮だから(笑)。――そう視聴者には思わせておいて、どっこいちゃんと整合性がとれている。

 

おじ様。失礼を承知で申し上げるのですが…。私が、こちらでお運びしてもよろしいでしょうか? 少しでも召し上がっった方が、ご回復も早いかと。
あっ…、まあ、ですが…。

(傳)いや、いや、いや…、そうじゃな…、すまぬが…、頼むとするか。
――『ばけばけ』第14回・10月16日(木)放送分より


看病をするトキは、粥を匙で傳の口元にもってゆくのですが、傳は笑ってしまいます。
 

どうかなさいましたか?
(傳)いや…、何だか…、赤子のようで、てれくさくてな。
あっ、やっぱり、やめましょうか。
(傳)いやいや、いやいや…、いや、次は笑わぬ。
――同


それでも笑ってしまう、傳。

きっと傳は、うれしかったのでしょう。
うれしくて、うれしくて、泣きそうなになるのを胡麻化すために、照れ笑いのていを装ったに違いありません。

父であることを隠して、娘の世話になる父と、
そうであることを知りながら、黙って父の世話をする娘――。

トキは、何もかも知っている――。
そのことをわかった上で、あらためてこのシーンを視返すと、より一層、胸に迫るものがあり、ウルッと来てしまいます。
『あんぱん』第12週※2の再来ですね。

前述のタエとの会話で、傳は「危ないところじゃった」と口にしています。特筆すべきは、この「さりげなさ」です。どんなに勘のいい視聴者でも、初見ではまず見逃してしまう。それをのちの場面、配信など振り返りで「そういうことか!」とハッとさせる。この仕掛けがお見事です。そういう筆者自身も、これを書いているいま、ようやく気付いたところです(笑)。
 

このシーンだけではなく、この週の全話を、是非もう一度視直してみてください。そのことをわかった上で振り返ると、土曜のダイジェストからは端折られてしまう細かいシーンの端々、科白に、表情に、ちゃーんとそのことが「盛り込まれている」ことがわかります。これは全視聴者にオススメしておきます。

家業の危機という、大きな心残りを抱えたままにはなりましたが、それでも今生の最期に、実の娘と真実を分かち合えた傳の旅立ちは、幸せなものであったに違いありません。

 

 

ドラマを視て疑問に思うのは、三男・三之丞に、なぜもう少し仕事のことを教えてこなかったのかということ。
やはり「現実」の「史実」は、なかなか身も蓋もないようです。いや、あるいはこのドラマなら、それすら辻褄を合わせてくれるかもしれませんが。

2025.10.19 加筆・一部変更

2025.10.21 一部訂正


※1

※2

 

第2週 「ムコ、モラウ、ムズカシ。」

(1)気にならないこと

オープニングがいいですね。
これは自分の勉強不足に過ぎませんが、未知のアーティストってところが、まずいいです。ヒロインの「初主演」がそうであるように、オープニングを飾る歌も「初主題歌」「初ヒット曲」が理想です。
歌っているのは「ハンバート ハンバート」。名前で選んだ?(笑)
夫婦のデュオです。写真も相俟って、なんだかまるでトキとヘブンが歌っているように聴こえます。
 

クレジットのフォントも、オープニングの「絵」には合っていると思います。

フォントの小ささは気にしません。
ワタシからすると、オープニングロールのクレジットって「柄」なので。

だって、ちゃんと読んでしまったら、今回は誰が出てくるってドラマ視聴の前にわかってしまって、ネタバレになっちゃうじゃないですか?

そして、ドラマを視てしまったら、その情報はほぼほぼ要らない。
あの役で出てきた人、名前なんていったっけ? そんな時ぐらいですよ。オープニングのクレジットを(再視聴で)注視するのは。歳のせいか、そんな機会もちょくちょく増えてきましたけど。

でも、やっぱり世の中には、オープニングのクレジットをしっかり、きっちり読む人って多いんですね。真面目だなぁ。

 

 

それでは、お聴きください。多摩市・カナメさんからのリクエスト、ハンバート ハンバート『笑ったり転んだり』。
 

 

(2)気になってググったら答えが見つかったこと

タイトルロゴの一文字目と三文字目、濁点の位置が違うんですよね。
何か意図があるのだろうかと思ってググってみたら、制作者の談話を紹介したページがありました。

(さらに「け」のフォントも微妙に異なります。ネット情報で知りました。)

『ばけばけ』
Google

ワタシなりの要約、もしくは追加の解釈を試みるなら、似た者同志だけれど、それでもやっぱり同じじゃない――そんなトキとヘブンの個性の違いを表している、といったところでしょうか。
やっぱり、安易にネットに頼っちゃいけませんね。書くモチベーションが削がれてしまう(笑)。今回はどうしても、自分なりの解答も出てこなかったので仕方なく。

(3)ググっても話題を見つけられなかったこと

間もなくNHK ONEの無料見逃し配信も終わるタイミングに、すみません。録画をまとめておさらいしてたら気付きました。というか、気付いた気でいたら、自分の勘違いであることがわかりました。

ワタシだけかなあ? 第7回のアバン(オープニング前のプロローグ)を前回ラストの振り返りだと思ってしまい、それにしては台本から違う芝居になっていると驚いてしてしまったのは。

 

(三之丞)あ~。おトキ、おはよう! (トキ)おはようございます。
(三之丞)ねえ、聞いた? おせんちゃんも祝言決まったんだって。
(せん)あっ! (トキ)えっ?
(トキ)へえ~! う、う、占いどおりだが。おめでとう。これで暮らしも楽になるね。
(せん)ハハ…、うん…、ありがとう……。
(三之丞)なんか、笑顔が怖いね。 (せん)ええ…。
(氏松)おい、三之丞、何をしてる? (三之丞)兄上。
(氏松)ここは、お前の来る場所じゃないと言ってるだろう。 (三之丞)ですが…。
(氏松)父上に見つかる前に早く行け。 (三之丞)はあ…。
(傳)おはよう。 (一同)おはようございます。
(傳)あ~、おトキ、おはよう。
――三之丞、自分には目もくれず、トキに声をかける傳をムッとしたように睨む。
(トキ)おはようございます。
――愛想だけはいいが、こわばった表情でそそくさと通り過ぎる、トキ。
(傳)なんか…、笑顔が怖いのう。

――『ばけばけ』第6回・10月6日(月)放送分より
(三之丞)あっ、おはよう、おトキ。 (せん・チヨ)おはよう…。
(トキ)おチヨも決まったんだ~。 (チヨ)ごめん…。
(トキ)え~、なして謝るの? おめでとう。アハハ…、フフ…。ただ、呪うけんね。 (3人)えっ?
(トキ)えっ? うそ、うそ! 冗談、冗談! (3人)(笑)
(三之丞)じゃあこうなったらもう、私がおトキの家に婿入りしてあげようかな。
(トキ)うち、貧乏長屋ですけど、我慢できますか?
(三之丞)アハハ…、ごめんね、無理、無理。
(氏松)三之丞、お前は座敷童か。
(三之丞)いえ、違いますが。 (氏松)わかっとる。早く行け。
(傳)おう、おはよう、おトキ。 (トキ)おはようございます。
(傳)今日、工場のあと、空いておるか? (トキ)はい。帰るだけですが。
(傳)では、わしと、ランデブーをしないか? 

――『ばけばけ』第7回・10月7日(火)放送分より


この二つは違う場面。前者は、せんの祝言が決まった際の工場での一幕で、後者はチヨのそれ。
こうして文字起こしすれば判ります。でも、たぶん制作者がワザとやっている部分もあると思いますが、場所と登場人物とシチュエーションが同じ、そして前回ラストと今回のオープニング前と、ほぼ連続していて、寝ぼけまなこで(チコちゃんに叱られるぐらい)ボ~ッと見ていると、前回の振り返りだと勘違いをしてしまう。
そして目覚めていてもワタシのように天然ボケが入っていると、同じ場面の振り返りなのに台本が違う!――とビックリしてしまう(苦笑)。

朝ドラでまさかのマルチバース展開があるのか?――その布石かと思ってしまいましたよ(笑)。
十中八九そうではないとしても、なにしろ小泉八雲モデルの物語ですから、残りの一~二割、そんなこともあるのかもと思ってしまいました。
道理でググっても見当たらないわけだわ、この話題。せっかくの面白勘違いなので、朝ドラ日記のひとつとして書き留めておくことにしました。
録画ないし動画配信で再視聴できる方は、ぜひ見比べてみてください。

(4)軽妙の妙に感服すること

トキ=髙石あかりの最初の見合いは、堂々たる侍のいで立ちで臨んだ勘右衛門=小日向文世、司之介=岡部たかしのお陰で破談に。仲人で縁戚の雨清水傳=堤真一・タエ=北川景子夫妻の前に、一家そろって詫びに参上。
タエはトキにだけ話があると告げ、松野家の三人に外すよう命じます。

 

(司之介)あの…。あの一体、どげな話を…?
(傳)それを言ったら、外す意味がないじゃろう。
(司之介)そげですが…、あの話ではございませんでしょうな?
(傳)何じゃ? あの話とは。
(司之介)あの話は、あの話でございます。
(傳)だから、どの、あの話じゃ? その、あの話とは。
(司之介)ですから、その、あの話は、あの、あの話でございます。
(傳)あの、あの話?
(勘右衛門)あの、あの話でございます。
(タエ)あの、あの話ですよ、恐らく。
(フミ)ええ…、あの、あの話でございます。
(傳)ああ! あの、あの話か! あの、あの話など、この場でするわけがないじゃろう。
(タエ)ええ。
(司之介)では、どの、あの話を?
(傳)だからそれを言ったら、外す意味がないじゃろう。もう…。
(司之介)いや、そげですが、あの、あの話だけは…。
(傳)あの、あの話ではない!

――『ばけばけ』第8回・10月8日(水)放送分より


このドラマのこういうとこ、好きだなあ(笑)。
明治維新後の没落武士、しかも舅殿は侍のプライドだけは超のつく人一倍、そんなおよそ最底辺の家庭環境。貧困ぶりでは朝ドラ史上トップクラス、これを凌ぐのは、かの『おしん』の生家をおいてない、それほどの貧しさで、あちらが「大根めし」なら、こちらは「しめこ汁」※1を啜っています。それでも一家には笑いが絶えず、幸せそうです。
それは描く状況は過酷・深刻であっても、描き方は軽妙でユーモラス。そんなこのドラマの作風を反映しているようです。

松野の家には、娘・トキには隠した秘密があります。
それはトキが、司之介とフミの間に生まれた、実の娘ではないということ。本当の両親は、傳とタエ。だからこそ「遠縁の娘」でしかないトキに、今回の二度にわたる見合いしかり、二人はなにくれとなく目をかけてきたのでした。

傳・タエ夫妻は、トキに婿を取ることをやめ、嫁入りを勧めます。そのために家族を遠ざけたのでした。
その申し出を、トキは静かに、かつきっぱりと断ります。

 

嫁入りは、いたしません。だって、つまらんですから。
私一人だけ、幸せになっても、つまらんと申しますか…。幸せだないと申しますか…。みんなで幸せになって、初めて幸せなので。ですから、今までどおり、松野家に婿をお迎えして、一家で借金を返していけたらと。せっかくのお話、申し訳ございません。

――『ばけばけ』第9回・10月9日(木)放送分より


「だそうだ。司之介殿」
そう云って障子の外で聞き耳を立てている(育ての)父・司之介に呼びかける傳のカッコ良さ! このあたりの鋭さは、さすが元・武士。
 

(タエ)よき娘を持ちましたね。
(司之介)はい!
(タエ)では、もう一度だけ、おトキのために、気を入れて、世話をいたしましょう。

――同


「おば様~!」
そう云って、トキはタエに抱きつきます。そして、傳にも。
その様子を開け放たれた庭先で、雨清水家の三男坊・三之丞=板垣李光人がそっと見つめています。その心中には父に顧みられず、家にも、父が経営する織物工場にも居場所のない彼の、「嫉妬」が伺えます……。
そこに通りがかった兄・氏松=安田啓人がボソリ。


「やはり、かわいいんだな」「この大変な時に…」
 

こういうことを、わざわざ口にする。仕事場では邪険にしていても、兄の弟に対する、そこはかとない愛情を感じます。
こういう何気ない、ちょっとした芝居に、人間性の機微を籠める繊細さに、今期ドラマの「当たり」を予感してしまいます。

かくして、二度目の見合いは無事成立!? 祝言をあげるのでした。
最近の朝ドラは、結婚も二度するのが流行りなんですか? まあ『あんぱん』と同じく、こちらも史実なんでしょうがないんですけど。


※1