WEB 小説 「怨みの里」 | |
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陰陽師 河辺名字と 安倍清明、そして 近未来っ子たいぞうが、 怨みを持って時空を 渡る鬼達に立ち向かう 近未来ファンタジー小説 |
9/8日まで 毎日 朝7:00 更新 (クリックお願いします) 8/20 その1 陰陽師二人
8/21 その2 陰陽師現代へ
8/22 その3 ヴァーチャルクローン 8/23 その4 ヴァーチャルクローン2 8/24 その5 もう一つの世界 8/25 その6 夢ひとつ 8/26 その7 酒呑童子現る 8/27 その8 式神(しきがみ) 8/28 その9 頼光都を発つ 8/29 その10 夜叉童子 8/30 その11 大江山 8/31 その12 羅刹童子 9/01 その13 黒歯童子 9/02 その14 曲歯(きょくし)童子
※ 9/03 その15 奪一切衆生精気童子
9/04 その16 鬼とは……
9/05 その17 鬼の肉体滅ぶ時
9/06 その18 虎熊童子
9/07 その19 恨みの魂
9/08 その20 酒呑童子消ゆ |
曲歯(きょくし)童子
渡辺綱が守る草むらから長い髪を振り乱した鬼と真っ青の痩せ細った鬼が現れた。反対側を守る坂田金時の前には象の様な牙を持つ鬼と髪に小さな髑髏を沢山付けた鬼が現れた。
金時が言った。
「おい、今度は俺様の番だ、かかってきやがれっての、卜部と碓井は休んでおけ」
「おいおい、大丈夫かよ」
「やい! こらっ お前はシャレコウベ集めるのが趣味か! それにそっちのお前はそんなでかい牙をしていると重くて動けんだろう。ぎゃははは、情けない格好だ」
髑髏をぶら下げているのは無厭足(むえんそく)童子。そして曲がった牙で睨んでいるのが曲歯(きょくし)童子。
「金時、油断をするなよ」
「くっやしー、くやしー!」
「おいおいおい、なんだ横のシャレコウベは」
「くっやし! くっやし!」
「何が悔しいんだよっ」
横にいた曲歯童子の額と牙がどんどん大きくなってきた。
「何だこっちは、牙の豚め」
ギューゲェー
曲歯童子は金時との間にあった大きな岩に突進した。岩は割れ金時の方に向かって飛んできた。
「何の、このっ」
金時は飛んできた岩を掴み、鬼に向かって投げ返した。
岩は曲歯童子の額に当たって粉々に砕け散った。
「テメー、石頭め」
ギィーギュェー
曲歯童子は猪のように金時めがけて突進を始めた。金時は腰をかがめて童子の曲がった大きな牙を捕まえた。曲歯童子と金時との力比べが始まった。
「くっやしー、くやしー!」
無厭足童子が自分の体にぶら下げた小さな髑髏をもぎ取っては金時めがけて投げ始めた。
髑髏は段々大きくなって口を開ける。
「なんだ、こいつは!」
碓井貞光が金時の前に立って次々と髑髏を払いのける。
「くっやしー、くっやし!」
「だから、何が悔しいんだよ!」
曲歯童子の牙を掴んでいる坂田金時の体は見る見ると赤く紅潮してきた。
「うーぐうー、むわーっ」
バキッ
ムギャー
とうとう金時は曲歯童子の牙をへし折って、その牙を曲歯童子の背中に突き刺した。
「はあっはあっ、どんなもんだい! この豚鬼野郎!」
ポカッ
「あへっ」
ドサッ
碓井が受け損ねた髑髏が金時に当たり、金時は脳震盪を起したのか倒れてしまった。
「金時!」
「ぐわっ」
金時が倒れたのを振り返って見た碓井の肩に髑髏が噛み付いた。それでも飛んでくる髑髏を払う。
「くっやしー、くっやしー、ギェーッ!」
無厭足童子の右目に矢が突き刺さった。無厭足童子は矢が刺さった目を両手で覆いながら倒れ、転げまわった。やがて蹲るように丸くなって動かなくなった。
「碓井ーっ、大丈夫かー、コノッ、クソッ、むー」
卜部が碓井に噛み付いた髑髏を漸くの事で引き剥がした。
「いかん、血を止めよう」
卜部は碓井の袖を破り、肩に巻いて止血を下。
「肩が砕けたかもしれん、卜部、わしはいいから綱殿と助けてやってくれ」
「わかった、碓井、何とか頑張っていろ」
「うーん」
気絶していた金時がやっと目を覚ました。
「シャーッ」
長い髪を武器に多髪(たはつ)童子が渡辺綱を襲っていた。綱は刀で襲ってくる髪を切りさばく。
「おんまえのっ、せいじゃー!」
長い髪で渡辺綱を襲う多髪童子は妖艶な女の鬼だった。
「女、女、ヒヒッ」
不気味な持瓔珞(じようらく)童子は、妖艶な多髪童子の揺れる胸元を見ながら、涎を垂らして笑っている。
渡辺綱は子供と女性は殺さない。
「綱殿、そいつは女ではないぞ。鬼だ。迷うことは無い」
渡辺綱のそばから卜部が声を掛けた。
「おんまえのっ、せいじゃー!」
多髪童子は髪の毛を振り乱しながら搾り出すように叫ぶ。
「おまえのって、わしらが何をしたというのだ」
「お前らが私の子供をっ殺したのじゃ、このっ糞共め!」
「糞って、俺らは何にもしてないではないか」
「やったやないかー、今日も、やっているやないか!」
「今日もって、こいつは参ったなあ……」
「おんまえのっ、せいじゃー!」
多髪童子はまた髪を振り乱しながら暴れだした。
「斬るのは容易いが切れぬのだ」
「どうしますか」
「出来れば殺さずに縛りたい」
「縄ならある」
「この髪が邪魔だ、下手に首にでも絡むと絞め殺されるぞ」
「髪をとことん斬りますか」
「さきほどからやっているがどんどん伸びてくる、限が無いのだ」
頼光が声を掛けた。
「正面は俺が守っている。金時も加えて羽交い絞めにしろ」
髑髏に当たって気絶していた金時はこめかみに大きなコブを作りながら起き上がっていた。荷台から縄を取り出して、女めがけて突進した。女の髪が金時を襲う。それを卜部と渡辺綱が斬り捨てる。とうとう金時は女を羽交い絞めにした。
「ちくしょー、離せー、離せこの豚、ブタ!」
「うるせー、ブタブタ言うなー」
鬼が全て強いわけではない。鬼というものはそういうものではない。
綱と卜部はその間も女の髪を斬っていた。ようやく女を縄で縛り終えた金時は別の縄で女の口も髪も絞め上げた。
「フグー、フグフー!」
巻き終わった金時は女鬼を闇の中へ放り投げた。
「フグーフグー」
渡辺綱が多髪童子に向かって声を掛けた。
「すまんな。しばらくそうしていてくれ」
その間、持瓔珞(じようらく)童子は正気の顔に戻り、つまらなさそうにブツブツ喋りながら暗い山の中に消えていった。
「隣の変な鬼が逃げたぞ」
「仕方ない、放っておけ」
「あと何人だ」
「多分四人、ではなく四匹だと思う」
そのありさまをジッと見ていた羅刹童子は、側にいた鬼に声を掛けた。その声は闇を動かす程に重くて大きい。
「奪一切衆生精気(だついっさいしゅじょうせいき)童子よ、お前の怨み見せてやれ」
奪一切衆生精気童子。白装束で青い顔をしたこの鬼は笑うことも無くフラフラと頼光に向ってゆっくりと歩き出した。距離はある。
先ほどよりこの辺りだけ何故か薄明るい。そしてその中でこの鬼の白装束は闇に浮く幽霊のように浮かんで見えた。
上空には清明を乗せた式神朱雀が朱い羽根をゆっくりと羽ばたかせ心配そうに見下ろしている。
碓井貞光は砕かれた肩を固定するために荷車にもたれながら座り込み縄で自らを縛り直していた。ふと後ろを見ると先ほどすれ違った老婆が杖を支えに立っていた。
「婆さん、ここは危ない。しばらくあっちで待っていてくれ」
「なんじゃいな、怪我をしとってんか」
「ああ、ちょっと鬼に襲われた、というか今も襲われている所ですよ、だから危ないから」
「なに、こんな婆など、生きても死んでも、どっちでもだんないで(構わないから)。どれどれ見せてみなあ」
「かたじけない、ではこの紐をねじるのを手伝ってくれますか」
先頭で構えていた源頼光は、正面からフラフラと歩きながら近づいてくる白装束の女鬼を見て考えていた。女鬼の周りは真っ黒な闇のオーラに包まれているように見える。
(不気味な女鬼だ、このまま構えて待つのは不利だな。こちらから進んで、術にかかる前に斬って捨てよう)
頼光はそう思い自ら女鬼に向かって歩み始めた。
「綱殿、見ろ! 頼光殿が危ない」
碓井が頼光を見て渡辺綱に声を掛けた。
「おお、何だ、どうしたと言うのだ」
渡辺綱は、あわてて頼光の方に向かった。
「頼光殿! しっかりされよー」
碓井が大声で頼光に声を掛けた。
(早くあの女鬼を切り捨てねば)
頼光は気合を込めて歩み寄る。
しかし、他の者から見れば片手で刀をだらしなくぶら下げ、口を開け、足を引き摺りながら夢遊病者のように女鬼に近づく頼光に見えた。
(おかしい、歩いても歩いても、どうして近寄れないのだ)
「頼光殿、どうなされた頼光殿、聞こえぬのか。金時! 頼光殿を連れ帰ってくれー」
渡辺綱が振り返って金時を呼んだ。
奪一切衆生精気童子は武器も何も持たずにゆっくりと歩いてくる。
渡辺綱は白装束の女鬼を見て慌てた。
(なんだこの女鬼は、いかん。心を抜かれそうだ)
金時がやってきて、頼光を担ぎ上げた。
「おいおい、どうなっているの」
「直ぐに引き返せ、いかん、この女鬼は精気を吸い取る。一旦引き返すのだ」
渡辺綱と金時は腑抜けのようになっている頼光を抱えて、後ろにさがった。
「卜部、あの女鬼には近寄れない、弓を放ってくれないか」
「わかった。やってみよう」
卜部は弓の達人だ、離れたところからでも確実に心臓を射抜くことが出来る。弓矢をしっかりと引き付けて、鬼女めがけて矢を放った。放った矢は軽い放物線を描いて鬼女の心臓を射抜いた。かに見えた。
しかし、その直前、鬼女の後ろから鎖の付いた玉石が飛んできた。そして矢を見事にへし折ってしまった。
「なんだ、後ろに僧侶のような鬼がいるぞ」
僧侶のような鬼、すなわち皐諦(こうたい)童子。
皐諦(こうたい)童子は鎖の付いた石の文殊玉(もんじゅぎょく)を三つ、肩にぶら下げていた。頭は無髪で目は常に閉じている。見えないのかもしれない。奪一切衆生精気童子を守るように後ろに控えていた。