WEB 小説 「怨みの里」 | |
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陰陽師 河辺名字と 安倍清明、そして 近未来っ子たいぞうが、 怨みを持って時空を 渡る鬼達に立ち向かう 近未来ファンタジー小説 |
9/8日まで 毎日朝7:00更新 (クリックお願いします) 8/20 その1 陰陽師二人
8/21 その2 陰陽師現代へ
8/22 その3 ヴァーチャルクローン 8/23 その4 ヴァーチャルクローン2 8/24 その5 もう一つの世界 8/25 その6 夢ひとつ 8/26 その7 酒呑童子現る
※ 8/27 その8 式神(しきがみ)
8/28 その9 頼光都を発つ
8/29 その10 夜叉童子
8/30 その11 大江山
8/31 その12 羅刹童子
9/01 その13 黒歯童子
9/02 その14 曲歯(きょくし)童子
9/03 その15 奪一切衆生精気童子
9/04 その16 鬼とは……
9/05 その17 鬼の肉体滅ぶ時
9/06 その18 虎熊童子
9/07 その19 恨みの魂
9/08 その20 酒呑童子消ゆ |
酒呑童子現れる
翌日も店に寄った。
たいぞうは福子と出会えてすっかり打ち解けて、喜びで一杯になっていた。
カラーン
入り口の鐘が鳴り、黒服の男が四人入って来た。
「…………いらっしゃいませ」
福子は急に険しい顔になり、たいぞう達のテーブルから離れた。
男達はたいぞう達が座る窓際の席より二つ手前のテーブルに座った。
福子は水とお絞りを持って、男達のテーブルに置いた。
男の一人が水を一気に飲んで音を立ててグラスをテーブルに置いた。
「ねーちゃん水無くなったあ、みずみずー」
「灰皿足りんでえ、早よー持って来いやあ」
福子は黙って灰皿を持って水を注ぎ足しに行った。
たいぞうは四人の男が福子に絡みかけているのを心配そうに見ていた。
清明と名字は、と言えば。
「おっ、そこそこ、その茶色い所をもう一度くれ」
「だめだ、おまえもコーラ何とかを頼んだだろう」
「あーコーラフロートね。これはかき回していたら、なんだか土気立った泡になった。おいしそうではないのだ。お前は今日もチョコパではないか」
「何を言うか、その泡にまみれた白いものはこれと同じアイスクリームではないか、美味しいはずだ。自分のを食え」
「名字が頼んだチョコパとわしが頼んだコーラフロートとはどうしてこんなに違うのだ」
「あっ、わしのチョコパだぞ、横から取るな。何で自分で頼まないのだ」
「これは美味い、現代に来てよかった」
「現代のそのまた中のヴァーチャルクローンだ」
「と言うことは、これは本物ではないな」
「いや、感覚として感じると言う意味では現実そのものだろう」
「チョコパにも出会えたし、たいぞうも福子さんに会えたし良かった」
ここで漸く名字がたいぞうの強張った顔色に気づいた。
「たいぞう、どうしたのだ」
「しーっ」
たいぞうの視線の先には福子の緊張した顔があった。
「お願いです、こんな所にまで来ないでください、店の迷惑にもなりますから」
四人の中で最も若く、調子の高い男が答えた。
「俺らは何もしてませんでえ、お嬢様あ」
「そうそう、払うてくれるものがあったら、こいつらももっと大人しいんやけどなあ」
男達の声は小さな喫茶店に不釣合いな大声だった。
「お願いです、静かにしてください」
「そんなこと言われても地声やからしゃーないやろ」
「わしは、アイスコーヒーな」
「俺はビールって無いわな、コーラ頼むで」
「棟梁、何しはりますか」
「わしはアイスティーにするか」
「ほれほれネエチャン。そういうことや」
「清明、何だかあいつら変だな」
清明は真面目な顔に戻って、窓の外を見ながら答えた。
「名字よ、ひょっとするとあの一番大きな男は酒呑童子かもしれん」
「清明は何度か会っていたな」
清明は小さな声でたいぞうに声をかけた。
「たいぞう、たいぞう、こっちを見ろ」
「ん?」
たいぞうの顔が僅かに清明の方を向いたが目は男達を見たまま返事をした。
「たいぞう、そんな強い顔していると絡まれるぞ」
ようやく目をそらせたたいぞうが不安そうに清明を見た。
「福子さん、なんだか心配だなあ」
「何かを払えと言っていたな」
男達に飲み物が運ばれて、暫くしてから男達が立ち上がった。
「さー、ゴチになったし、ぼちぼち行くかあ」
四人の中で一番の大男が小柄な店のマスターを覗き込むように威圧した。
「マスター、ちょっとこの娘借りてゆくでえ」
マスターは小声で答えた。
「あのー、それはちょっと」
「あー大丈夫、すぐ返しますから」
そう言った大男は福子のほうを向いて話しかけた。
「さあ、ちょっと表で話しましょうか、別にここででもええけどな」
福子は下を向いて、何かに必死に耐えていた。
「……」
また先ほどの一番若い男が福子の周りをゆっくりと廻り始めた。
「お嬢さん、ちょっとお話しましょ」
他の男もマスターの肩を叩いた。
「マスター、心配せんでもええで、わしらは善良な市民やさかいになあ」
「ちょっとだけお借りしますよ。さーお嬢さん」
男の一人がドアを開けて手招きをした。
「わかりましたっ」
暫くうつむいていた福子は意を決っしてそう答えた。
たいぞうは慌ててついて行こうとしたが、ドアを閉められてカウンターまで戻ってきた。
「マスター、いいのですか、インターポリス(警察)呼びましょうか」
インターポリスとは、このヴァーチャルクローンの治安を守る警察のことである。
小柄で気が弱そうなマスターが言った。
「ああいや、まだ何をされたわけでもないし、ちょっとした訳もあるし………」
たいぞうはマスターに必死で訊ねた。
「訳ってなんですか、教えてください。さっきの話だと、借金か何かですか」
たいぞうは清明と名字以外に客が誰もいない事を確認しながら話した。
「ああ、あの娘は母親と二人暮らしで、母が病気なのです。父は暴力男で出て行ったらしい。病気の母を一人手で養っているのです。この不況になって職が無くなって、現実世界よりは手取りが悪いが、職はあるのでここで働き出したのですよ」
「なんで借金があるのですか」
「こんなこと、話して良いものかどうか…、何でも彼女の知らぬ間に、出て行った親父の借金の保証人になっていたらしいよ」
「なんと」
名字がたいぞうの肩を叩いて言った。
「表が心配だ、見に行こう」
店の表では細い路地を四人に囲まれた福子が立っていた。
「なあ、ねえちゃん、解っていると思うけれども、こんな仕事をやっていたら、何時までたっても借金は返せないよ」
「あれは、私が同意した契約じゃあありません」
「そんなことは表の世界の話や」
「だから、そんな借金があるなら父から取ってくださいよ。あんな奴、煮て食うなり焼いて食うなり好きにすればいいです」
一番若い男が冷やかす。
「おうおう。実の父親を煮て食うとは、えげつないのお」
大男がなだめるように話した。
「どんな親でも親なんやから、子供が助けるのも親孝行やでえ、そうやろ」
福子は、そう言った大男をキッと見据えて反論した。
「あんな奴、親でも父でもありません!」
「ねえさんよ、親父は何処に行ったか行方知れず、お母さんは病気。そして借金もある。冷静に考えてみてごらん、こんな所で働いても埒があかないことくらいあなたならわかるでしょう」
「………」
「なあに、悪いようにはしませんよ。わしらは借金取りの鬼かもしれないが、鬼は鬼でも気持ちのわかる鬼ですからね、どうです、私がもっといい働き場所を見つけてあげましょう」
福子は何か必死で考えていた。
「………」
大男は福子に優しく説明を続ける。
「心配しなくても大丈夫だから。そうすると、母さんにもちゃんとした病院で病気を治せるようになるし、借金も返せますよ。ほんのニ,三年頑張るだけでいいのですからね」
その時、大男の後ろからたいぞうが怒鳴った。
「お前ら! 福子さんに手を出すな」
若い男が振り向いてたいぞうの方に近づいた。
「おーい、おーえおえおえおえ! 誰や青年、なんやおまえオタクか」
他の男も凄んで来た。
「にいちゃん、やめときやめとき、仕舞に怪我すんでえ」
たいぞうは体が震えていたが声はしっかりしていた。
「おまえらこそ、やめろ」
「なーんやとコラ、それにその後ろの変な二人はなんや」
「はーっはっはっは、ニッカポッカと七三サラリーマンとオタク兄ちゃんか。お前らは芸人さんか、変なやっちゃのー」
大男が後ろを振り向いて男共に声をかけた。
「おい、関係の無い奴らは相手にするな、ん、その後ろの二人」
大男の視線は安部清明に向いていた。
「おまえは、もしかすると、酒呑童子か」
清明は大男に話しかけた。
「フッフッフッハーッハッハッハ! お前ら、誰かと思えば都のへたれ陰陽師コンビではないのか」
「やはり酒呑童子、お前は茨木童子、星熊童子に羅刹童子だな」
「ひゃっひゃっひゃ、こんな所に陰陽師さんが。何をしているのかなーヒャッヒャッヒャ」
調子のいい若い男は茨木童子だった。
「お前らこそ、こんな所で何をしている」
「わし等は退屈凌ぎにここで知り合った金融屋の手伝いをやっておるだけだが」
酒呑童子は清明達を無視するかのように福子の方へ話しかけた。
「さあ、ねえさん、すまんが今日はバイト休んでくれよ。面接に連れていったるからな」
福子はもう店には迷惑を掛けられないと思った。男達の言うことを聞くとどうなるかは大体の想像がついていた。
暫くうつむいていた福子だが、意を決した様に酒呑童子を見た。
「わかりました。10分程待っていてください」
「あっ、福子さん、駄目です。ついていったら」
「あなたは関係ありません」
福子はわざとたいぞうに対してきつく答えた。
清明が酒呑童子に話しかけた。
「酒呑童子よ、お前は大江山に棲んでおるのであろう」
「安部清明か、その通り。大江山は俺の山だ、おまえは阿呆貴族の相手に飽きてここに来ているのか、それにしても何だその格好は。ふぁっはっは」
「棟梁、この清明という男が貴族におべんちゃらしている奴でしょう、おい清明、そのヘボ祈祷でわしらを退治できるか?はっはっは」
清明は真顔で茨木童子を睨みつけた。
「お望みとあらばやってやろうか」
「茨木童子よ、今はやめておけ、相手にするな」
そこへ福子が戻ってきた
「お待たせしました、この人達は関係ないですから」
「解っておる。さあ行くぞ、この娘を届けねばならん」
「おっ、おい待て」
そういうたいぞうの前に茨木童子が割り込んで、直ぐに酒呑童子らを追いかけた。
「オタクにいちゃんは怪我せん内に早よーマミーの所に帰りなサーイ」
酒呑童子達は福子を連れて歩き去る。
清明と名字はジッと立っていた。
たいぞうは泣きそうなほど興奮しながら二人に言った。
「どうして助けてくれなかったんですかあ」
「たいぞう、少し落ち着け」
「そうだ、頭に来て乱れると負けだぞ、我慢して冷静に考えろ」
「名字、お前はたいぞうに付いてやってくれないか」
「清明はどうする」
「丁度、帝に呼ばれておる。時代に戻って、この機会に鬼の討伐の命を出していただくように持ってゆく、平安の時代から鬼共をやっつける」
「なるほど、歴史の根源を断つのだな、わかった。たいぞうは任せておけ」
「それではわしは早々戻る、たいぞう、冷静にやれよ」
「わかりました。私達は一旦現代に戻ってからまたここに来て、もう少しマスターの話を聞いてみます」
福子は酒呑童子に聞いた。
「私を売り飛ばすのですか」
「そうではない、先ほども言っただろう、仕事を紹介してやるだけだ」
「どんな仕事ですか、体を売るのでしょう」
「まあ、売ると言えばそうだが、恐らくお前が思っている意味ではない」
「どういう意味ですか」
「祇園にクラブがある。人手不足だそうだ、ひとまずそこで働いてもらう」
「働いたお金は全部取るのでしょう」
「いーやいや、そんなことをしたら病気の母さんもお前も潰れてしまうではないか、心配ない、潰すようなことをしたら元も子もないだろう」
「………」
「いいな、お前は器量良しだ。ちゃんと部屋も用意してやる。一日に一回は現実社会にも戻れる、頑張れば借金など2年で返せる。心配するなわしを信じろ」
「………」
平安時代に戻った清明は藤原足長を訪ねた。
「足長殿、どうでしたか」
「問題ない、帝様はすぐにでも見てみたいと言われたし、右大臣様(藤原道長)も同じ意見だ。明日の夜でも大丈夫か、場所は内裏の清涼殿の庭になる」
この頃藤原道長は、兄である藤原道隆、道兼の相次ぐ病死によって、一挙に藤原氏の長者へとのし上がっていた。そしてとうとう右大臣にまで昇格していた。
「大丈夫だ、内覧(ないらん)の件も問題ないのでしょうな」
内覧とは、天皇に会える権利である。いかに上流貴族でも内覧の権限がなければ天皇には会えない。清明は帝から特別に内覧の許可が下った。
「ちゃんと話が通っておる、明日は大変な人出になるぞ、上手くやってくれ」
「ご心配なさるな」
名字はたいぞうに頼んだ。
「家に着いたら直衣(のうし)に着替えさせてくれ、どうもこのスーツとやらは堅苦しくていかん」
「いいですよ、着替えたら直ぐに戻りますよ」
たいぞうの家に戻った二人は、身なりを整え直して再びヴァーチャルクローンへ入って行った。
二人は再び先ほどの喫茶店の中に立っていた。
店には客は居なかった。マスターが小さくなって皿を洗っている。
「マスター、戻って来ました」
「おお、たいぞう君、先ほど心配になってインターポリスに電話をしたんですよ」
「それで、どうだったのですか」
「センターからIPV6のアドレスを元に、居場所を探しますと言っていました」
「それなら直ぐに居場所はわかりますね」
「おっ、さっそくインターポリスからメールが届いた」
「どうでした?」
「『このアドレスの人または物体は、現在祇園橋本町2ノ1に居ます(またはあります)。ショット画像から人物または物体を特定させますか、特定した人物(物体)はインターポリスによって24時間監視・追跡が可能です。ただしプライバシー保護によってお見せすることはできません』だって」
「どんなショットがあるの」
「沢山あるね、んーん、あっこれだ、この赤い服、福子ちゃんじゃないかな」
「本当だ、道を歩いている、男四人も鬼達だ。30分前のショット」
「これをクリックすると監視してくれるのかな」
「監視してもらおうよ」
たいぞうはまだ付き合っている訳でもないのに、福子の事を気が気ではなかった。今頃どうなっているのだろう、鬼共に素っ裸にされて、いたぶられているのではないかと思うと、ジッとはしていられなかった。
「この辺りは昔ながらの御茶屋さんが沢山あるところだね。橋本町なら丁度鴨川を渡った所ですよ。けれども行っても解らないだろうな」
「酒呑童子は大男だから、聞いて廻ると手がかりが掴めるのじゃないかな」
「直ぐ近くではないか、行って見よう」
「うん、行って見よう、マスター、これ私の携帯番号です。なにか解ったら教えてください」
「わかりました、じゃあ、私はインターポリスに監視を依頼しておきますから」