WEB 小説 「怨みの里」 | |
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陰陽師 河辺名字と 安倍清明、そして 近未来っ子たいぞうが、 怨みを持って時空を 渡る鬼達に立ち向かう 近未来ファンタジー小説 |
9/8日まで 毎日 朝7:00 更新 (クリックお願いします) 8/20 その1 陰陽師二人
8/21 その2 陰陽師現代へ
8/22 その3 ヴァーチャルクローン 8/23 その4 ヴァーチャルクローン2 8/24 その5 もう一つの世界 8/25 その6 夢ひとつ 8/26 その7 酒呑童子現る 8/27 その8 式神(しきがみ) 8/28 その9 頼光都を発つ 8/29 その10 夜叉童子 8/30 その11 大江山 8/31 その12 羅刹童子 9/01 その13 黒歯童子 9/02 その14 曲歯(きょくし)童子 9/03 その15 奪一切衆生精気童子 9/04 その16 鬼とは…… 9/05 その17 鬼の肉体滅ぶ時
※ 9/06 その18 虎熊童子
9/07 その19 恨みの魂
9/08 その20 酒呑童子消ゆ |
鬼の肉体滅ぶ時
ここは再び平安時代。大江山の山中にある谷間に、突然現れる寝殿造りの大御殿。夜になっても松明の明かりが御殿を明るく映し出す。
その中で、留守居をしていた白髪の虎熊童子と赤顔の金熊童子が酒を飲んでいた。
既に頼光達と羅刹童子の戦いは二人の耳に入っていた。
「のう虎熊童子よ、羅刹童子が都の者にやられたそうだ。どうしてやろうか」
「こっちに向かっておるのか」
「そのようだ。羅刹童子を殺る程だ。都の者でも侮れんぞ」
「確かに侮れん。しかし逆にこの屋敷に誘い入れよう。なあに、中に入れて取り囲めばこちらの物だ」
「そうは易々とは屋敷に入って来ないだろう」
「羅刹童子の事は知らぬ事にしておけば良い、酒でも出してやればよいのだ」
「そうだな、この辺りで野宿するわけにもいかんからな。」
「野宿などしようものなら、次の朝には熊に襲われて骨だけになっておるわいっはっはっはっは」
「はっはっは確かにそうだ。皆に伝えておこう」
頼光と四天王は、酒呑童子の屋敷の前まで来た。
遠くから見ても立派な屋敷で、屋敷の周りには多くの鬼共が警護に当たっているのが見えた。それを見て頼光が卜部に言った。
「なんと、見事な屋敷ではないか」
「こんな所に、あんな屋敷があるとは。酒呑童子とは恐ろしい権力を持っているのでしょうな」
「先程の羅刹童子との戦いがばれていなければ良いのだが」
一行は、先ほどの戦いで汚れた山伏の服装を捨て去り、荷物を運ぶ商人の姿で屋敷へ向かった。
金時が大声で屋敷の門番に声をかけた。
「お頼み申す。我々は商いの荷を運ぶ者。屋敷の隅でも構いません。一晩泊めていただけまいか」
門番には大柄で良く肥えた男が立っていた。
「道にでも迷うたか」
「いえそうではございません。この屋敷に来れば、荷の者を買うてはくれまいかと思い参ったのでございます」
「では暫くこの場で待たれよ」
太った大男は、そう言って屋敷に消えた。
屋敷の入り口には檜を使った大きな扉があり、屋敷の周りは人の背よりも高い塀が張り廻らされている。入り口を入った所は白い砂利が敷き詰められて所々で松明が焚かれている。その奥は相当に大きな屋敷で瓦葺の屋根がどっしりと構えていた。
「これは思ったより広い。都に戻ったような雰囲気だ」
暫くして、門番が戻ってきた。
「お泊りなされ、案内いたす」
「かたじけない」
門番の大男に続いて五人は屋敷の中に入っていった。周りには意外と人が少なかった。五人は用心の為に言葉は少ない。
「ここが貴殿一行の部屋になる」
その部屋は広い廊下を何度も曲がった奥にあった。
「かたじけない。ところで主はおられますでしょうか、酒も持ってきました故、一緒に如何かと」
「しばらくこの部屋にてお待ちあれ」
五人は五十畳もあろうかと思われる部屋の隅を陣取って、腰を降ろして待つことにした。
「しかし、見事な屋敷ですな」
「都でもこのような建物はなかなか見られないな」
「みろ、あの天井の梁を、金時の腹よりも遥かに太いぞ」
「あの壁に描かれた白い生き物はなんだろう」
卜部は頼光に聞いた。
「あれは、見たことがある。大陸にいる虎という生き物だな。熊よりも強いと聞く」
熊と聞いて金時が答えた。
「熊よりも強い。そんな動物がいたのか」
奥の部屋では金熊童子と虎熊童子が酒を飲んでいた。そこへ、先ほどの案内人が入って来た。
「虎熊童子様、一行を虎の間に案内しました。一緒に酒でもどうかと言っておりますが、どうなされます」
「暫くしてから、こちらに案内させてくれ。くれぐれも殺気を見せるではないぞ」
「わかりました」
頼光らは、くつろぎながら壁一面に描かれた虎の様子に見とれていた。
清流の周りに竹笹が多く茂り、その合間から白く大きな虎がこちらを覗き見ている。
「あれっ、あの虎の目が動いたぞ」
金時が虎を指差した。
「壁の絵が動くわけが無いだろう」
「おかしいな、確かに動いたと思ったのだがなあ」
暫くして、先ほどの案内人が戻ってきた。
「主は既に酒を始めておられるが、貴殿達も一緒にということでござる」
「それはありがたい、旅の話でも致しましょう、それではみんな、お礼の品などを持って行くぞ」
そういって、鎧や剣や布などをそれそれが手に持って主の部屋へ移動した。主の部屋も五十畳はあろうかと思われるほどの部屋だった。
中央に大男が座り、その周りに数人の男が座っていた。そして一行に一番近い位置に真っ赤な顔をした男と、見事に白髪の男が酒を飲みながらこちらを見ていた。
中央に大男が座り、その周りに数人の男が座っていた。
と見えたが精密に作られた蝋人形の様なものがが座っていた。
真っ赤な顔をした男と、見事に白髪の男は本物の人間だった。
金熊童子と虎熊童子。
源頼光と四天王の渡辺綱、碓井貞光、卜部季武そして坂田金時は広間に案内された。頼光は商人の格好で挨拶をした。
「お初にお目にかかります。我々は物を売りながら旅をしている者でございます。わたくしめはヨリ彦、後ろに居ります者は、綱(つな)、光(ひかり)、武(たけ)そして時(とき)でございます」
それを聞いて虎熊童子が答えた。頼光らの前に、酒と肴が配られた。
「まあ、酒でも飲んでくだされ。ほれ、遠慮なく。今日は道に迷うたかと思ったが、この屋敷目当てに来られたそうな、いかなるご用件でしょうな」
「はい、ではお言葉に甘えさせていただきます。皆も折角のご馳走だ、いただきましょう。その品の事でございますが、実は平安の都にて、幾つかの貴重な品を手に入れましてございます。しかし、都で裁くと、勘解由使の目もございます、それで地方の有力な方を頼って旅をしておりました。大江の山におられる酒呑童子様は有名な方でございます、皆で話して、まずはお訪ねしようという事になりましてございます。」
「成る程、しかし生憎(あいにく)であるが、酒呑童子様は現在留守にしておられる。あのように留守の時はふざけて人形を置いて行かれる、はっはっは」
「これはこれは、中央におられる方が酒呑童子様でございますか、まるで生きているかのような人形ではございませんか」
頼光はそう言いながら、綱から受け取った者をゆっくりと前へ差し出した。それは白い布で覆ってあった。
「はっはっは、ん? これは、何であるか」
頼光は白い布を外しながら説明した。
「先ずはこのお酒。これは本日のお礼と申しますか、どうぞお飲みくださいませ」
酒好きな虎熊童子の目が光った。
「これは、かたじけない。酒には目がないものでな、はっはっは、早速いただくとしよう、なあ金熊よ」
「そうだな、皆で飲むとするか、それでその横にある見事な兜は」
「これが、お売りしたいと思っております兜でございます。なんでも都では源氏代々伝わる貴重な宝とか」
金熊童子は兜を手に持って隅々まで見た。
(これは、僅かながらの血の臭い、良質な鉄、そしてこの妖気。それになにやら印が結ばれておる)
「これは、源氏かどうかはわからぬが見事な兜であることは間違いない。して、これをどうやって手に入れた」
「それは、実は、大きな声では申し上げられないのでございます」
「こんなところでヒソヒソしていても仕方が無い。我々が都の者を奪って来ることくらい解っておるであろう。だからこそ、そのような品をわしらに売りに来たのではないのか、はっはっは」
「いや、なんとも図星。実はこの品は、とある盗賊より買い受けた物。なんでもその盗賊は八幡の八幡様にあるこの兜を夜な夜な忍び込んでは盗ってきたまでは良かったが、売りさばけずにとうとう私に売ってくれと頼まれた物でございます」
「八幡の八幡神社か。それならば源氏かもしれんの」
「いかがでございましょう」
「幾らになる」
「私の見た所、これは中々貴重な品と」
「おい、誰かいるか」
さきほどの案内人とは違う男が部屋に入って来た。
「なんでございますか」
「銀杏の間にある銀貨が入った壷をもってこい」
男はすぐに壷を抱えて持ってきた。男の腹ほどもありそうな壷だった。
金熊童子はその壷の中身を見もせずに頼光に差し出した。
「これでいかかでござろう」
頼光も壷の中身を見ない。
「では、有難く頂戴いたします。その兜をお受け取りくださいませ」
「はっはっは、後で酒呑童子様が戻ってこられると喜ばれるぞ、なあ虎熊よ」
「そうだな、中々の兜だ。ここに暫く置いて眺めながら酒でも食らおう」
「虎熊様に金熊様、この屋敷は見事な屋敷でございますね、一体どれくらいの人がお住まいなのでございますか」
「金熊よ、どれくらいだったかな」
「そうだな、都の者も合わせて二百というところかな」
(やはり、都の者をさらっておったか)
「それは凄い数ではございませんか」
「わしらが盗賊であることくらいは解っているだろう。しかし、さらって来た者共は誰も逃げたりはせんのだ。ここで取れる鉄を掘って家も建ててやり、宮津で採れる海の幸や福知山で作る米などと交換する。都の者は皆鬼にでも食われたと思っておるから、都に逃げ戻っても鬼になったと相手にはされぬ。だからここで平和に過ごして行くようになる。わしらも鬼などと呼ばれてはいるが、ここへ攫った者共を殺したり食ったりはせんからな。はっはっは」
(しかし、お前らは別だぞ。生きては帰れまいて)
「なるほど、我々も旅に飽きれば再びこの屋敷を頼って住まわせていただきましょうかな、はっはっは」
「そうすれば良い。来るもの拒まずじゃ、この酒は中々の酒だな、酔いが快い、ところで、その大きな箱には何が入っておる」
「これでございますか。実は他にも貴重な品がございまして、もし兜が駄目なら次の品をお見せしようと持ってきておりました」
「それも見せてくれ」
「かしこまりました」
頼光はその黒い大きな箱を差し出して、蓋を開けた。中には刀が数振りの他に、布や金銀の飾り物が入っていた。
それを見た金熊童子は、刀に血の臭いを嗅いだ。
(やはり、羅刹と戦った時のものか。それに、これも印が結ばれておる)
「見事な刀であるな。この刀は沢山の血を吸っておる。血が新しいではないか」
その一言で、場の雰囲気が硬くなった。
頼光は、金熊童子と虎熊童子の前に差し出した黒い箱を一気に後ろへ滑らせた。その箱を後ろで控えていた渡辺綱が掴み蓋を開けた。
頼光ら五人は箱の中の刀や弓を取り出し、剣を抜いて身構えた。
「さあ、皆よ。思い切り暴れるぞ」
「おうよ」
その声と共に、金熊童子は後ろに大きく飛びのいた。虎熊童子は白い髪の毛を逆立てて五人の前に立ちはだかった。
「はっはっは、お前らの行動なぞ、とうにお見通しだ。生きては帰さんぞ」
その声は大きく、廊下の奥から隠れていた鬼があふれ出てきた。
虎熊童子の髪が空を踊った。すると壁に描かれた白虎の目が動き、壁からゆっくりと這い出てきた。白虎は低く唸りながら標的を探す。
「やっぱり、目が動いたのは嘘じゃなかったのだ、この虎は金時様に任せろ。虎如きこのキンタロウ様に勝てると思うなよ、さあ来い!」