小説 恨みの里 9 頼光都を発つ |         きんぱこ(^^)v  

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      砂坂を這う蟻  たそがれきんのすけ

WEB 小説 「怨みの里」 

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陰陽師 河辺名字と

安倍清明、そして

近未来っ子たいぞうが、

怨みを持って時空を

渡る鬼達に立ち向かう

近未来ファンタジー小説

9/8日まで 毎日 朝7:00 更新

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8/20 その1        陰陽師二人

8/21 その2       陰陽師現代へ

8/22 その3   ヴァーチャルクローン

8/23 その4  ヴァーチャルクローン2

8/24 その5      もう一つの世界

8/25 その6         夢ひとつ

8/26 その7       酒呑童子現る

8/27 その8     式神(しきがみ)

8/28 その9       頼光都を発つ

8/29 その10        夜叉童子

8/30 その11         大江山

8/31 その12        羅刹童子

9/01 その13        黒歯童子

9/02 その14  曲歯(きょくし)童子

9/03 その15   奪一切衆生精気童子

9/04 その16       鬼とは……

9/05 その17     鬼の肉体滅ぶ時

9/06 その18        虎熊童子

9/07 その19        恨みの魂

9/08 その20       酒呑童子消ゆ


頼光都を発つ



翌日早く、源頼光と四天王は、山伏の装束で山伏扮する従者を従えて京の都を発った。

源頼光(みなもとよりみつ)、渡辺綱(わたなべのつな)、碓井貞光(うすいさだみつ)、卜部季武(うらべすえたけ)そして坂田金時(さかたきんとき)の5人は、従者数名に鎧兜などを隠し持たせて都を出立した。

出発に先立って都にある熊野神社にて祈願を行い、摂津に住む渡辺綱が住吉大社に詣でて「神便鬼毒酒(じんべんきどくしゅ)」なる不思議な酒を頂いて来た。また源頼光と卜部季武は岩清水八幡宮に詣でて源氏秘蔵の鎧兜を拝借した。

一行は、京の都に別れを告げる老ノ坂峠(おいのさかとうげ)を越えた。

老ノ坂峠は京都盆地の北西にあり、峠を越えると亀岡盆地を過ぎ、三戸野峠(現在の観音峠)を越えて福知山盆地へと続く。福知山盆地の北西の山が鬼が棲むと言われる大江山だ。そしてその先は日本海。

老ノ坂峠を越えると三戸野峠までは平坦な田園地帯となる。この辺りを亀山(現在は亀岡)と呼び都の米はここで作られていた。

一行の後ろから荷駄に沢山の荷物を詰んだ旅人が二人、ゆっくりと迫ってきた。

旅人は前を行く山伏五人を不思議な思いで見ていた。

「こやつら、何か変だのう」

「そういえばそうだ。山伏が何で下人を使ってあのような荷物を運んでいるのだ」

「商いでもしているのか」

「山伏が商いなどできないであろう、それにあの歩き方」

「そうだ、山を登りなれている男の歩き方ではないな。しかも歩く足が遅い」

「追い抜いて様子を見るか」

「よし、そうしよう」

話していたのは旅人に化けた虎熊童子と夜叉童子だった。丁度都を荒らして奪い取った戦利品を運んで帰るところだった。

旅人はどんどん山伏に近づく。

「もーうし、恐れいります、お通しくだされー」

「お通りなされー」

それに気づいた山伏一行は道の端に寄った。答えたのは碓井貞光だった。

旅人は腰を曲げて深くお辞儀をしながらゆっくりと抜き去る。

互いに言葉は無く、ただ荷駄を運ぶ車の音が聞こえた。

(なんだ、商人か。ここは山陰に抜ける道。出雲まで行くのだろうか。大変だのう)

源頼光はそう思って荷駄が通り過ぎるのをのんびりと見送った。

一方荷駄の後を歩いていた夜叉童子は、山伏の後ろについて来ている従者の荷物を見ていた。

(なんだろう、兜がある。山伏がなぜ兜など持っているのだろう。旅の資金にどこかの受領にでも売り飛ばすのか。それにしても何処で手に入れた。盗んだか。山伏にも色々居るものだ)

夜叉童子も通り過ぎた後に、腰を低くして振り返り、山伏共に挨拶のお辞儀をした。

前方から虎熊童子が後ろにいた夜叉童子の所に来た。

「どう思った」

「そうだな、少し違和感はあったが、まあ最近の山伏は修験が足りんな」

「はっはっはそうだな。どうせかっぱらった物を何処かで売るのだろう、わしらが買ってやっても良かったがな。似非山伏めが」

「何が買うだ、奪うだろう、はっはっは」

「星熊童子が待っている。先を急ごう」

山伏扮する一行は、三戸野の峠を越えて、綾部(あやべ)に向かった。

綾部は大江山がある福知山の手前にあるが、福知山と同じ盆地の中にある。福知山・綾部盆地を越えると宮津(みやず)・舞鶴(まいづる)となり、日本海が見えてくる。

5人は源頼光の顔で井倉(いのくら)にある荘園領主の屋敷に泊まった。(頼光は各地の受領を歴任しているので顔が広い)その夜は翌日の決戦を控えて緊張をほぐすかのように酒宴が開かれていた。

卜部が、酒を飲みながら言った。酒の肴には由良川で取れた鮎の塩焼きが並べられていた。

「さあ、明日はいよいよ鬼退治ですな」

酔いが廻り始めた坂田金時が答えた。

「なあに、鬼なんて居るものか、どうせその辺りに潜む山賊だよ、俺が蹴散らしてやる」

碓井が話しに入った。

「いや、鬼は居るぞ。女子供をさらって山に連れ込みその生き血を吸って人肉を焼いて食べていると聞いたぞ」

「そんな話嘘に決まってら、俺が小さな頃に住んでいた金時山には鬼なんか居なかったぞ」

「おまえが鬼だったのじゃないのか、はっはっは」

「その頃おれはまだ童(わらべ)だぞ。そんなかわいい鬼なら居たっていいじゃねーか」

卜部が領主の村上氏に聞いた。

「どうです、この辺りも鬼に女子供を攫われて大変なのではないですか」

 村上氏は穏やかな顔で答えた。

「いやいや、確かに鬼が居るとは聞いておりますが、噂ばかりで見たものが居るのかどうか。地元ではあの山に入る者が居りません。修験者の話では山腹に大きな御殿が建っており、修験者を泊めてくれると聞きました」

「都の噂と、えらく話が違うじゃないか」

「鬼はもっと悪い奴だろう、そうに違いない」

「どうも大江山の鬼は本当に居るそうでして、都に対して相当な恨みを持った連中が集まっていると聞きました。それも何代にも及ぶほどの恨みがあるとか」

「それで、都の者ばかり女子供まで攫うのだな」

「そのうち攫われまくって、京の都には人が居なくなり、大江山が京の都になるのではないか、はっはっは」

「やはり、退治しておかなければいかんな」

「清明殿の話しによれば酒呑童子らは部下三人を連れて現代という所に行っているのだろう」

「それにしても、清明殿が言っていた現代というのがわからん」

金時は清明の話を信じてはいない。

「千年後だと? そんなの解る訳ないだろう。清明殿も本当は鬼なのではないか、なんか信じられん。俺達を騙して殺そうとしている隠れ鬼とか」

 卜部が言い返した。

「殺すのなら、今までに既に殺しているさ。式神とやらだって帝の前で見事に呼び寄せたそうだ」