小説 恨みの里 16 鬼とは…… |         きんぱこ(^^)v  

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      砂坂を這う蟻  たそがれきんのすけ

WEB 小説 「怨みの里」 

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陰陽師 河辺名字と

安倍清明、そして

近未来っ子たいぞうが、

怨みを持って時空を

渡る鬼達に立ち向かう

近未来ファンタジー小説

9/8日まで 毎日 朝7:00 更新

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8/20 その1        陰陽師二人

8/21 その2       陰陽師現代へ

8/22 その3   ヴァーチャルクローン

8/23 その4  ヴァーチャルクローン2

8/24 その5      もう一つの世界

8/25 その6         夢ひとつ

8/26 その7       酒呑童子現る

8/27 その8     式神(しきがみ)

8/28 その9       頼光都を発つ

8/29 その10        夜叉童子

8/30 その11         大江山

8/31 その12        羅刹童子

9/01 その13        黒歯童子

9/02 その14  曲歯(きょくし)童子

9/03 その15   奪一切衆生精気童子

9/04 その16       鬼とは……

9/05 その17     鬼の肉体滅ぶ時

9/06 その18        虎熊童子

9/07 その19        恨みの魂

9/08 その20       酒呑童子消ゆ



鬼とは……



大江山には鬼の岩屋という巨石がある。

余談だが、大江山という山は無い。鍋塚(なべづか)、鳩ヶ峰(はとがみね)、千丈ヶ嶽(せんじょうがたけ)、赤石ヶ嶽(あかいしがたけ)という四つの連山を総称して大江山と呼ぶ。古代中世の日本では与謝の大山(よさのたいさん)とも呼ばれていたらしい。ちなみに私の物語は伝説とは異なる。


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鬼の伝説話は、「丹後風土記残缺」、「西北紀行」(貝原益軒)、「秋山の記」(上田秋成)「太邇波記」(北村総元)などで記載があるが、与謝の大山と書かれた書物は平安中期の丹後風土記残缺で他の書物には大江山と書かれている。おそらく大江山(おおえやま)と呼ばれるようになったのは江戸時代以降なのかもしれない。

千丈ヶ嶽から北へ数キロ歩いたところに鬼の岩屋はあった。

巨石の中から涎を垂らした男が出てきた。男は河辺名字と安部清明が焚いた護摩の火を頼ってフラフラと歩き出した。

狭い道には時々鹿が横切り、熊が姿を現した。しかし、この男に動揺はない。

大きな鬼瓦の前に結界を張り、河辺名字は祈祷を続けていた。中央のセーマンに座っている安部清明はじっと動かない


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結界の周りには相変わらず百匹程の小さな子鬼が駆け回っていた。その中の一匹が結界の中に入ろうとした。

ビー

恐る恐る伸ばした手に電流の様なものが走り、その小さな星熊童子似は飛び上がって転がった。

ケケケケケケ

それを見ていた他の小鬼達がケラケラと笑っている。

ここは現代ヴァーチャルクローンの大江山。結界の中ではたいぞうが少女を肩に乗せて歩き回っていた。少女の名は大陰(たいおん)。少女の姿をした清明の式神。

「護摩木が無くなったわ、ほら、足元にある護摩木取って」

「はいはい、賑やかなお姫さん」

二人は賑やかに離しながら護摩木をくべて廻った。

「加奈子ー」

見物人の中から誰かが叫んだ。

「だれか、私の娘を見ませんでしたか、赤い服を着た五歳の子供です。あの、あなたは見ませんでしたか」

男は広場に座っている見物人を次々と訪ねて廻った。

「どうしたんですか」

「ちょっと目を離した隙に、居なくなったんです。だれか、見ませんでしたか」

見物人たちは、まだ陰陽師と鬼との本当の戦いを知らない。

誰かが男に声を掛けた。

「そういえば、少し前にその林の近くで人形を抱いた赤い服を着た女の子が居た気がしますね」

「そうです、加奈子だ。加奈子に違いない」

男は林の方へ駆けて行った。

見物人も心配になり男の後を追う。

暫くして男の悲鳴が木霊した。

「かなこー」

見物人たちは、その声の方へ集まった。

結界の中に居たたいぞうと式神の大陰は立ち止まって悲鳴の方角を見た。

男は木陰の草むらに何かを抱いて蹲っていた。

「かなこーっ、かなこっ、どうしてこんなっ、誰がこんなことをっ」

そこには嗚咽に混じって搾り出すように泣き崩れる男の姿があった。

良く見れば、男が抱きしめているものは、素っ裸にされて血まみれになった少女の体だった。

見物人たちは皆その様子を見て凍りついた。

「だれかー、救急車呼んでー」

暗闇の木立の合間を、懐中電灯の光が揺れ動く。

「キャー」

凄惨な少女の姿を見た女性の悲鳴が木霊する。

「しっかりしろー」

広場の西の端で、誰かが叫んだ。

「愛実、何処行ったの、愛実! パパ、愛実が居ない!」

「えっ、愛実!あいみーっ!」

広場の西の端でも、誰かが叫んだ。

「あいみーっ!」

見物人達は騒然としてきた。

結界の中で大陰を肩に乗せているたいぞうは、心配そうに言った。

「きっと見物人を鬼が襲っているんだ。助けなきゃ」

「だめ。約束でしょ、何があっても結界から外へは出ないって」

「けど、放っておいたらどんどん殺されて行くよ」

「それでもだめ。人間だって何もしないわけがないわ、ここは現代のヴァーチャルクローンの中でしょ。管理人に通報しているはずだから、何かしてくれるはずよ、自分がヒーローになろうとしないで」

「そうだね、管理人が何とかしてくれるよね、急いでほしいな」

しかし、管理人は現れなかった。

ヴァーチャルクローン(V01)バージョンにはバグがあった。全ての人間、動物、物にはIPV6というアドレスが割り振られていた。しかし今,ここにいる一つの生き物に割り振られたIPアドレスは無い。この生き物は、平安時代より鬼の岩戸を潜って出てきた変質鬼、無厭足(むえんそく)童子だった。

この変質鬼はたった今、五歳になる少女を裸にして興奮していた。少女は既に息絶えていた。

動かなくなった少女を見て、変質鬼はつまらなさそうに舌打ちをして歩き出した。

清明や名字が作った結界を眺めていた酒呑童子が、隣にいた星熊童子に聞いた。

「あの騒ぎを起している者は誰だ」

「恐らくは無厭足(むえんそく)童子という者でしょう。羅刹童子についてまわっていたはずです。何でここにいるのか」

「ということは平安の時代からここに来たということか」

「恐らくはそうでしょう。みごとですな」

「見事ではない」

酒呑童子は立ち上がった。見かけはスーツを着てブルガリの時計や指輪をつけた紳士の身なり。この大江山に似合わないといえば似合わない。

酒呑童子は一人で見物人の中に入っていった。

無厭足童子が林の中をフラフラと歩いていた。

その前方に黒い大きな影が立ちはだかった。

「おまえが無厭足童子か」

「……」

「ここで何をやっている」

「ヒヒヒ、何も、ヒヒヒ」

「もっと少女が欲しいか、連れてきてやろうか」

無厭足童子の目が光った。

ギャー

暫くして、搾り出すような断末魔の悲鳴が聞こえた。

両手両足が切り取られた肉の塊が、宙からドサッと地面に落ちた。

まもなくして酒呑童子が星熊童子の所に戻ってきた。

「棟梁、何処へ行かれていた」

「片付けて来た」

「もしかして、無厭足童子のことですか」

「そうだ」

「どうして」

「我々は確かに鬼と呼ばれている。大江の山には色々な者が来る。希望を失ったもの、心が折れた者、どうしようもない荒くれ者、全身を恨みで塗り固めた者、何もしていないのに親に見離された者。そんな者共がこの山に来たのはお前もわかるだろう」

「勿論です。私も親に捨てられ、棟梁に育ててもらった」

「無厭足童子とやらはどうだ。確かに過去に何かがあったかもしれん。しかし、あの者は自らの快楽のためにこうして少女のような弱いものを殺める。もはや生を受けて生きる資格はない、肉体と本能のみとなり、心と魂の無くなった者。一時だけそうなる場合はあるだろうがな、ずっとこの状態ならば消し去ってやるほうがそいつのためにもなる」

「体が朽ちても魂が残れば、千年も生きられるが、その逆は生きぬほうが良い」

「そうだ、現代風に言えば、快感というシステムだけが組み込まれたロボットが、無意味に動いているだけだ。」

「なるほど、ではわし等はどうなのでしょう」

「幸せになりたいと思いながら生きるもの、今を満足して生きるもの、死にたいと思いながら生きるもの、希望をもって生きるもの、そして恨みをもって生きるもの。色々あるがすべては心を持って生を受けたものだということだ」

「心を持って生を受けた者」

「そうだ、この地球というところは、生を授かり心と魂を宿した者が生きるところだ。人間と鬼の違いは何かわかるか」

「何度も聞いたことがあります。友情、愛情、つまりは情を捨て去った者が鬼ですな」

「そうだ、だから無厭足童子はもはや鬼でも人でも無かった」

星熊童子は酒呑童子から話を聞きながら、ジッと見物人たちを見ていた。

「羅刹の戻りが遅すぎる」

酒呑童子は立ち上がった。



河辺名字は結界の中で、酒呑童子の動きをジッと見ていた。

(酒呑童子を過去に戻してはいかん)

酒呑童子が動く気配がした。

名字は更に式神を呼んだ。

まもなく天女のような美しい女性が現れた。

たいぞうは驚いて言った。肩に乗った大陰が答えた。

「綺麗な人が来たなあ」

「貴人(キジン)よ。私達のおかあさんみたいな感じ」

「式神のボスなの」

「だれがボスなどというものはないの。けど、あの人の言うことはみんな素直に聞くの」

貴人が名字に声を掛けた。

「あれは、酒呑童子ではありませんか」

「そうです。あの男を今、平安の時代に帰してはならないのです。出来れば退治したい」

「私の言うことを聞く輩ではありませんが、話すだけ話してみましょう」

「かたじけない」