小説 恨みの里 11 大江山 |         きんぱこ(^^)v  

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      砂坂を這う蟻  たそがれきんのすけ

WEB 小説 「怨みの里」 

きんぱこ(^^)v  -1


陰陽師 河辺名字と

安倍清明、そして

近未来っ子たいぞうが、

怨みを持って時空を

渡る鬼達に立ち向かう

近未来ファンタジー小説

9/8日まで 毎日朝7:00更新

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8/20 その1        陰陽師二人

8/21 その2       陰陽師現代へ

8/22 その3   ヴァーチャルクローン

8/23 その4  ヴァーチャルクローン2

8/24 その5      もう一つの世界

8/25 その6         夢ひとつ

8/26 その7       酒呑童子現る

8/27 その8     式神(しきがみ)

8/28 その9       頼光都を発つ

8/29 その10        夜叉童子

8/30 その11         大江山

8/31 その12        羅刹童子

9/01 その13        黒歯童子

9/02 その14  曲歯(きょくし)童子

9/03 その15   奪一切衆生精気童子

9/04 その16       鬼とは……

9/05 その17     鬼の肉体滅ぶ時

9/06 その18        虎熊童子

9/07 その19        恨みの魂

9/08 その20       酒呑童子消ゆ


大江山



平安時代で頼光一行が大江山へと向かう中、ヴァーチャルクローンでは河辺名字と安部清明、そしてたいぞうが酒呑童子達を追っていた。

京都のクラブではたらくことになった福子から、酒呑童子達がどうやら大江山に行くらしいという情報を受けたためだ。

酒呑童子とその子分は鬼の交流博物館までやってきていた。この地は第二次世界大戦中に銅やニッケルが取れた河守(こうもり)鉱山の跡地である。そしてそこは、平安時代に住んでいた酒呑童子の屋敷が建っていた場所でもあった。

辺りはキャンプ地にもなっており、ちらほらと旅行客の姿が見えた。

「お前達、ここが千年後のわしらの屋敷跡だ」

酒呑童子の前に進んで辺りを見渡した茨木童子が振り向いた。

「ほーお、木が切り倒されて広くなっとるで」

星熊童子も辺りを見渡して言った。羅刹童子は滅多に話さない。

「流石に、あの大きな屋敷は無いですな」

「あたりまえやで、千年も経ったんやからな」

「しかし見よ、あの大きな鬼瓦で出来た鬼の像を。わし等は時空を越えて鬼の名を残すことが出来たのだ。これは素晴らしいことではないか」

「棟梁はこれを見せるために我々を現代に連れて来られたのですね」

「そうだ。数多の人類や生き物が生を受けて死んで行く。普通の魂は名も無く、離散して空(くう)に溶ける。しかしわしらの魂は今でもここに生きている。名を失わない魂だけがなせる技だ。わし等は千年を生きたのだ。どうだ、素晴らしいとは思わんか」

「素晴らしい。数々の恨み辛みを身に沁み込ませて生きてきた鬼共も、これを見れば成仏出来るというものだ」

「そういうことだ、ひとまずここは後にして隠れ岩戸が残っているか見に行こう」



暫くして、たいぞう、河辺名字、そして安部清明達も鬼の交流博物館にやって来た。

「清明さん名字さん、これからどうするのですか」

「平安時代の頼光様一行が大江山に向かっているはず。夜になってから我々はここで式神を呼ぼう」

「そうだな、ここで行なうと式神が千年前の大江山と現代を行き来出来るから何かの助けになるだろう」

「あの大きな鬼瓦の像を北に見る場所にセーマンを描き、その周りに結界を張ろう。まだ早い。実行は夜だ」

 たいぞうは辺りを見渡した。

「周りでキャンプをしている人の迷惑にならないかな」

「大丈夫だろう、何かの祭り事位にしか思わないだろう」

 名字は原をさすりながら、

「清明、ここに来る途中に蕎麦屋があっただろう、腹が減ってきた。食いに行こう、たいぞう、わしらが持ってきた金はまだあるだろうか」

「あるってものじゃないですよ、蕎麦一万杯頼めば別ですけど」

「そんなには食えんな。そういえばこの間たいぞうのところで映画というものをやっていただろう」

「ええ、まあいつでもやっていますけどね」

「そこに、『食えん!足らん!ってーの』という奴がいた」

「なんですかね……。あー『フロムダスク・ティルドーン』のクエンティンタランティーノでしょ」

「そうだが、なんだその、フロムダスクなんたらというのは。どういう意味だ」

「夕暮れから夜明けまでっていう意味ですよ、しかし、今から対決なのに名字さんは緊張感ないなあ。」

「一旦式神を呼ぶと緊張の連続だ。今はこれくらいが丁度いい」

「夕暮れから夜明けか、あの映画たら言うやつと良く似た事になるかもしれんな」

「げ、結構怖いのじゃないですか」

 名字は先に歩き出して答えた。

「大丈夫だ、早く蕎麦を食いに行こう」


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茨木童子が酒呑童子の方に振り向いた。

「ここがそうやね。棟梁」

 酒呑童子は岩肌をさすりながら言った。

「おお、無事に残っていたか。ここは異界の出入り口でもある。俺が居なくともここに入れば平安時代に戻れる。昔とは地形も変わっているから場所を良く覚えておけ」

「さっそく行って見ましょうか」

「いや、何かがあった時でよい、いや待て。羅刹童子、平安時代に残っている奴らは皆大江山にいるのか」

「いや、確か夜叉童子は民(たみ)に化けて綾部福知山のあちこちを歩き回っている。石熊童子は鬼ヶ城に居るはず」

鬼ヶ城とは、大江山の南にある山で、綾部福知山一帯を見渡せることが出来る。

何時の日かこの山にも鬼が棲み、地元の民衆から鬼ヶ城と呼ばれるようになった。

「そうか。羅刹童子よ、やはり一度昔に戻って様子を見てきてくれ」



石熊童子



その頃、源頼光と四天王は、鬼ヶ城の麓にある私市(きさいち)の古墳群を歩いていた。

金時が辺りを見渡しながら首を傾げた。

「ん、おっかしいなあ。卜部兄さんさっきあそこに岩があったよな」

「どこに」

「あそこだよ、ほれ、あそこの小山の上」

「あったかなあ」

雑木林の杉の木の上から、源頼光ら一行をジッと見ている者がいた。

石熊童子の子分、竹の子童子。

カーア カーア カーア

カアッカアッカアッカアッカアッ

所々で烏が鳴く。それはまるで頼光の居所を連絡し合っている様にも思えた。

日も少し傾いた頃、一行は私市を少し越えた野道を歩いていた。

周りにはまだ石で組まれた小さな古墳が散らばる。

金時は先ほどの不思議な石の事が気になり、辺りを見渡した。

「のどかな所だなあ、カラスの鳴き声しか聞こえないぞ、しかしおかしいなあ確かにあったはずの石が無い」

「石が動くかよ」

「この辺りは古墳が沢山ございます。この私市を抜けると鬼ヶ城の裏手を抜けて、蓼原へゆく道がございます。近道ではございますがこの鬼ヶ城にも鬼が棲んでいるそうでございます。道中お気をつけくださいまし」

源頼光が従者に聞いた。

「鬼はどれだけ居るのか知っていますか」

「私が知っているだけではございますが、棟梁が酒呑童子、副将が茨木童子、虎熊童子、石熊童子、星熊童子、羅刹童子、金熊童子。そして蜘蛛の術で我々を襲った夜叉童子。それぞれに数人の子分がいるはずです」

「今聞いただけでも、残り7人か。わし等は5人。何か策を取らねばならんな」

渡辺綱が答えた。

「先ずは酒呑童子の屋敷周辺を探らねばなりませんな」

「それでしたら、今から参ります蓼原荘の者が詳しいはずです」

「そこで作戦を練ってから大江山に乗り込もう」

一行は私市を越えて道を右に曲がり、報恩寺にある竹薮を越えようとしていた。

「あれっ道が塞がれているぞ」

「なんだあの石の小山は」

竹薮の中を縫う小道に、大型犬程の大きさもある石が何段にも積み重ねられていた。

「参ったのう、これでは進められんぞ」

金時が進み出た。金時は怪力の持ち主である。

「誰だーこんなことする奴は」

そう言って石を持ち上げて左右に放り投げ始めた。三つ目の石を持ち上げた時、石がフニャッと動いた感じがした。

「ふひゃあっ」

持ち上げかけた石をそのまま落としたので整然と積まれていた石が左右にゴロゴロと崩れ落ちた。

「石が動いたぞ、気持ち悪い!」

「石が? 動くわけがないだろう」

碓井が笑って答えた。

突然、卜部が荷駄から剣を取り出し、皆に放り投げた。

「おい! 妖怪だ。気を付けろ」

辺りは静かだが、どこかで鶯が鳴いていた。金時は卜部に向かって頷いた。そしてもう一度石を持ち上げて、頭上から切り取られた竹の上に力任せに放り落とした。

ギャッ

石から声が漏れ、竹に突き刺さった。

「なんだ、これは」

竹林の上の方がざわめき出した。

シャーッ

渡辺綱が近くにある一番太い竹を切った。

「イテーッ!」

竹の上から笹だらけの男が落ちてきた。

「……なんだ、こいつは」

小柄な笹男。竹の子童子はすぐに近くの竹に飛び移り、木登り猿が見下ろすような恰好でニヤけた。

「おい!笹団子!お前らは何者だ」

その時、転がっていた石が動き出した。石から手が出て足が出て、むくむくと起き上がる。そしてその後ろにいつの間にか丸坊主の大男が立っていた。

「お前らは何者だ」

渡辺綱が答えた。

「わしらは修験の者だ」

「見かけはそのようだが、修験の者がどうして剣を使う」

「剣を使ったことがあるからだ」

「どこへ修験に行く」

「大江の山だ」

丸坊主の大男は考えた。

(大江の山を攻めるには人が少ないではないか。修験にしては屈強過ぎる。何であっても怪しいな)

「大江の山へ行くこと、まかりならん!」

「おまえは何者だ」

「わしは石熊童子。お前らは都の者だな。悪いことは言わん、今すぐ都へ帰れ」

「わしらは修験の途中だ。引き返さぬ」

「では、他の山へ行け」

「大江の山は元伊勢である。修験の道で避ける訳には行かぬ」

「ヌケヌケとエセ修験者共め。もう見抜いておる」

石熊童子は小石を頼光一行ではなく一行の頭上に放り投げた。

一瞬の静寂の後、頭上からドンドンと大石が落ちてきた。大石で竹薮が拉げてゆく。

「うわーっ! 危ない。皆一箇所に固まれ」

一行は一か所に固まった。大男の金時が頭上に落ちる石を掴んでは撥ね退ける。

「おい、幾らでも落ちてくるぞ」

ギャッ

下人の一人が下敷きになった。

「おのれ石熊!これでも喰らえ!」

金時は落ちてきた石をことごとく石熊童子に投げつけた。

「はっはっは届かん、届かんなあっはっはっは」

「金時、もう少し我慢せい」

金時の後ろで卜部が声をかけた。そして石熊童子に見えないように弓を取り出した。

ヒュッ

弓は笑っていた石熊童子の右目に刺さった。

ギャア

「ぐあーっ。おのれ、竹の子童子ィ! 行けー」

石熊童子がドオッと倒れたと同時に石の雨が降り止んだ。

「碓井!笹団子を追え」

竹の子童子は竹の幹を猿のように飛び越えながら逃げてゆく。

卜部が弓を上に向けて射抜いた。

弓は放物線を描き竹の子童子に向かって落ちてきた。

しかし、笹の葉が邪魔となり当たらない。

「ヒッヒッヒ、当たらん当たらん」

碓井は追いつき、剣を抜き無造作に周りの竹を伐り始めた。

何本目かの竹を切った時、竹の子童子がその竹に飛び移って来た。

支えの無い竹に移った竹の子童子はそのまま地面に落ち、斜めに切られた竹に突き刺さった。

ギャッ

暫くして頼光達が追い付いてきた。

「仕留めたか」

「ああ、何んとか」

「逃げられるとまずかった」

「もうすぐ日も落ちる。先を急ごう」

夕焼けが雲の背を赤く染める頃、一行は鬼ヶ城を抜けて、蓼原の荘に着いていた。