小説 恨みの里 3 ヴァーチャルクローン |         きんぱこ(^^)v  

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WEB 小説 「怨みの里」 

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陰陽師 河辺名字と

安倍清明、そして

近未来っ子たいぞうが、

怨みを持って時空を

渡る鬼達に立ち向かう

近未来ファンタジー小説

9/8日まで 毎日 朝7:00 更新

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8/20 その1        陰陽師二人

8/21 その2       陰陽師現代へ

8/22 その3   ヴァーチャルクローン

8/23 その4  ヴァーチャルクローン2

8/24 その5      もう一つの世界

8/25 その6         夢ひとつ

8/26 その7       酒呑童子現る

8/27 その8     式神(しきがみ)

8/28 その9       頼光都を発つ

8/29 その10        夜叉童子

8/30 その11         大江山

8/31 その12        羅刹童子

9/01 その13        黒歯童子

9/02 その14  曲歯(きょくし)童子

9/03 その15   奪一切衆生精気童子

9/04 その16       鬼とは……

9/05 その17     鬼の肉体滅ぶ時

9/06 その18        虎熊童子

9/07 その19        恨みの魂

9/08 その20       酒呑童子消ゆ


ヴァーチャルクローン



二人はたいぞうの家を訪ねた。

「たいぞう、来たぞ」

「あっ、こんにちは」

「何をしているのだ」

「ブログを見ていますよ」

「ぶろぐ?」

「インターネットといって絵や文字や気持ちを電気や電波を使って遠くへ運ぶのです」

「いんたーねっと」

「そうです、このパソコンから文字を入力すると、地球の裏側へも一瞬で送ることができるのです」

「文字や気持ちか、面白そうだな。たいぞう、人間は目に見えるものを信じるだろう」

「えっ、ええ、そうですね」

「目に見える物や物事を中心にして考えることが多くないか」

「そうですね、俺なんか特にそうかもしれませんね」

「陰陽師は逆なのだ。精神世界の一部に『目に見える物』があるのだ」

「何だかでっかいですね」

「そういう考えができないと、陰陽師にはなれないぞ。それに時空も渡れない、死も怖くは無い」

「へー、俺なんか、人と会うのが嫌でっていうか、怖くてっていうか」

「たいぞうは過去に色々とあったのだな」

「え、まっ、まあ」

「無理に言うこともない、話したくなったら教えてくれ。たいぞう今晩はお前の家に泊めてくれ」

「いいですよ、どうせ親父も釣りだから、本当の親父じゃないですけどね」

「そうか、ただとは言わぬ、ちゃんと金銀を持ってきたぞ、何処かで今のお金に換えればよい」

清明はたいぞうに絹の袋を手渡した。たいぞうは中を覗いて驚いた。

「すんげー、金の塊だ。ところで陰陽師さん、風呂に入りますか」

「風呂?今日は何日だ」

「十一月の一日ですけど」

「だめだ、今日は入れぬ」

「えっ、どうしてですか」

「一日に入ると短命になる」

「なんですかそれは」

「たいぞうは具注暦(ぐちゅうれき)を知らぬはなあ」

「ぐちゅうれき」

「陰陽師や貴族が使う暦だ」

「他に何日が風呂に入れないのですか」

「八日に入ると長命になる。十一日に入ると目が良くなる。十八日はだめだ、盗難に会う。」

「本当ですかあ」

「本当だ、午(うま)の日や午の時刻(十二時から十四時)に風呂に入ると愛情を失うぞ。他にもある、亥の日に入ると恥をかくぞ」

「はっはっは、名字さんそんなことを考えていたら風呂に入る時がないじゃないですか」

「笑うではない、具注暦を笑うと鬼にやられるぞ」

「なるほどね、それで実際は何日間隔で風呂に入っていたのですか」

「そうだのう、わしらは5日に一度くらいだろう」

「ええっ名字さんは五日に一度ですか、なんだか痒くなりませんか」

「ならぬが、どうも現代に居ると空気が汚れているからだろうか、体を拭きたい気持ちにはなるな。なあ清明そう思わないか」

「そうだ、それにやたらと鼻毛が伸びるのが速い。ほれ、もうこんなに」

「ぎゃはは、いいですよ見せなくても。これで切ってください、ついでに爪きりもありますよ」

 たいぞうは机にあった鼻毛切と爪切を渡した。

「清明、今日は何の日だ」

「今日は寅の日だ」

「じゃあ、足だな」

「ええっ爪を切るのにも決まりがあるのですか」

「そうだ、丑(うし)の日には手の爪を切り、寅の日には足の爪を切る。常識だろう」

「ええ常識っ、何だか堅苦しい世界だなあ、それでいつまでその服を着ているのですか、何でしたっけ、直衣(のうし)でしたっけ」

「そうだ、まあ、大体は直衣(のうし)だな、束帯(そくたい)は滅多に着ないな、ここは現代だから着替えるとするか」

「はい、これ、二人分のジャージ」

「ジャージ」

オウム返しに聞き返すのは何時も名字。

「これはまた身軽な着物だの」

「なんだか頭だけ陰陽師ですね。ぎゃははは」

「頭は面倒くさいからこのままだ、たいぞう、酒をくれ」

「そこの棚にありますよ『鬼ころし』が」

「良い名前だ。たいぞうは飲まないのか」

「私は飲めないからいいですよ」

「では、遠慮のう頂くとするか」

たいぞうは側の机に座ってパソコンを使い出した。

パソコンの画面には現代と良く似た町並みが映し出されていた。

「たいぞう、それはなんだ」

「これは、ヴァーチャルクローンと言う架空世界です」

清明がパソコンを覗き込んだ。

「ほお、ヴァーチャルクローン、面白そうだな。説明してくれ」

「何というか、仮想空想の国なのですけれど、その中に自分の分身を入れて生きて行くのです。その分身がとてもリアルなのです」

「りある」

「本物そっくりというか、サイトの管理会社に写真と体の特徴と性格分析を送ると、そっくりな自分を作ってくれるのです。素っ裸の自分が送られて来て、それが体の隅々まで、例えば太ももの内側にあるホクロまでそっくりなのです。もちろん、自分を知られたくない人や化けたい人は嘘の情報を送りますけど。それは人それぞれ」

「ほう、それで、どうするのだ」

「その国の中のどこかの街に住んで生きて行くのです。このヘルメットを被ります」

「へるめっと」

「烏帽子みたいなものです、けど、脳波を捕える機能があって、それがヴァーチャルクローンの中の自分に伝わる仕組みになっています」

「なるほど、それならば肉体を伴わない自分自身がこのヴァーチャルクローンの中に居ることになるな」

「そうですね喜怒哀楽や反射神経は脳波から直接自分のクローンに伝わるので、本当に自分が居るみたいになるのです」

「しかし、人間は元々狩猟肉食の獣だぞ、その国は秩序がないと乱れるだろうな」

「そうです、人殺しもあれば略奪事件も差別もいじめも全てあります。しかし、サイト管理会社の規則にモラルも盛り込まれていて、警察もあれば裁判もあるのです。犯罪者は殺人ならば使用禁止になるし悪質なら死刑、つまり一生使用禁止になります」

「いくらモラルがあるからといっても女性にとっては怖いのではないか」

「最初はそう言われていたのです、けれども運営が開始された途端、驚いたことに男性より女性の入会者のほうが多かったのです」

「ほー、肉体的恐怖と、現実は自分では無いという気持ちが、女性を大胆にさせているのかな清明」

「そうだな、自分が見えない、捕まらないとなると、女性も普段は心の奥に持っている欲望や欲求を表に出してくるのだろう、これは陰陽師の持つ精神世界に近いな。となると、心の会話に近づくから、心は傷付く」

「ところで、どうやって、その画面に出ているたいぞうとお前が繋がっているのだ」

「えっとね、インターネットって言うのはIPアドレスという番号を持っているのです」

「ほう、数字で管理しているのか」

「この数字はIPV4(アイピーブイフォー)と言って四十二億通りあるのですけど、沢山の人や会社が使いすぎて足りなくなったのです」

「四十二億、すごい数なのに足りないのか」

「そうなのです、だから今はIPV6(アイピーブイシックス)というアドレスを使うようになったのです」

「そのアイピーブイシックスとやらはどれだけ使えるのだ」

「ざっとなんですけど三百四十澗(かん)です」

「さんびゃくよんじゅっかん。解るか清明」

「なんだそれは、貴族が遊ぶ蹴鞠(けまり)でいうと幾つになるのだ」

「三百と四十澗(かん)ですよ」

「……すまなかった、質問が悪かった」

「私も知りませんでしたが、三百四十兆の一兆倍の、そのまた一兆倍だそうです。」

「豆腐を三百四十丁にもう一丁のそのまたもう一丁だな」

「ということは三百四十二丁か」

「名字よ、おまえは何を言っているのだ。豆腐をそんなに沢山パソコンに詰めると壊れてしまうではないか。なあたいぞう」

「……」

「清明お前こそ。何の話をしていたか忘れるではないか」

「要するにとても沢山と言うことだな、今ひとつどれくらいかわからないな」

「蟻や動物や葉っぱの一つひとつにこの番号を付けていっても十分余るそうですよ」

「それはすごい、解ってきたぞ」

「その番号をもらって実際の私とクローンの私とで互いに確認を取りながら連絡し合うのです」

名字は後方に両手をついて天を仰いだ。

「ふー難しいものだ、たいぞう、お前は賢いな」

「俺、このヴァーチャルクローンに好きな女の子が居るのです」

「よしっ!」

「よく言ったっ!」

「わしらは、たいぞうがそれを言うのを待っていた」

「なんでですか名字さん」

「何を言っているのだ、世の中は広いのだ。人間、一生の内に自分の人生を左右する異性に出会う機会が三度あると言う」

「本当ですかあ」

「あっ、おまえ、たいらのみやこ(平安時代)を馬鹿にしておるだろう。男と女の事ならわしらの時代の方が上を行くかもしれないぞ。わしらはおまえに良い女の子が出来るように応援したいのだ」

「いいですよ、私はこっそり生きているのですから、しまったなあ、言うのじゃなかったな」

「心配するな、出しゃばりはしない。たいぞうの人生と運命だからな」

清明がたいぞうの肩をポンと叩いた。

「俺たちもそのヴァーチャルクローンに入れてくれ」

「けど、帝に会わないと駄目なんでしょ」

「別に構わない。帝は直ぐには死なないし、定子様も帝とは仲良く遊んでおられるから退屈はしないだろう」

「じゃあ、今日はゆっくり寝て明日にしましょうよ、手続きに結構時間を取るのですよ」

「よしわかった、では寝よう」

「じゃ、おやすみなさい」