そんな彼女の目下の悩みといえば、証明写真の顔の収拾がつかないことだそうです。顔の収拾って?
高円寺のカフェにて、その証明写真を見せてもらいました。
私はこれまで、こんな不思議な表情の女を見た事が、いちども無かった(←太宰風)。
同じ写真なのに、なぜか8人全員表情が違うのです。考えられるのは、いつも道端で拾ってきた霊を20人ぐらい引き連れて歩いているため、その霊がここぞとばかりに一枚ずつ映り込み自己表現しているという可能性。同じなのに、ぜんぶ違う顔。見るものを言いようのない不安に陥れる、エッシャーのだまし絵のような写真なのです。
いつも個性を発揮しすぎてクビになるので、今度こそ心を入れ替えたスジャータ女史。どこにでもいそうな、替えが効く女になりたくて、フツーの黒髪にフツーの白シャツにフツーの黒いカーディガンという何の変哲もない没個性ファッションに身をまとい、再チャレンジしてみたの!ともう一枚の写真を見せてもらいました。
するとそこには、左肩にもやのようなものが映った心霊写真が…。あんたに没個性は無理なのよ、という怒りというか嫉妬というか、もはや怨念のようなものを感じます。
私はそれを見ながら大爆笑していました。
すると、スジャータさんがおもむろに、「あー、なんかこのへんがモコモコするわー」といって、下半身に手を突っ込み、中から丸まった靴下を取り出しました。そして、それを、どうするかと思ったら、カバンの中に、ふつうに入れました。
……なんか今、ものすごくおもしろいものを目撃したような気がするんだけど幻かな、と訝しく思いながら、「あんた、この路線で心霊証明写真集出しなさい」と私は言いました。
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