原田マハさんの『さいはての彼女』を読みました。
『さいはての彼女』は表題作を含む4つの短編集です。
どれも女性が主人公です。第4話目を除いて、みな「仕事のできるオンナ」という共通点があります。
もう一つ共通点を挙げるとすれば、4作とも全て「旅」に関係するお話しという点でしょうか。
それぞれのタイトルと、出だしをご紹介しましょう。
・「さいはての彼女」
25歳で起業した若き女性社長 鈴木涼香。
仕事ができるだけに、他者にも厳しく、部下にキレることもある。キレると結構怖い。
そのせいだろうか、信頼を寄せていた仕事のできる秘書がこの度退職するという。
その秘書に任せた最後の仕事は、沖縄一人旅の手配。
飛行機、レンタカー、宿泊先、何もかも一流を使うのが涼香流。
秘書はそれを心得ているので、安心して全て任せてあった。
ところが、乗った飛行機の行く先は女満別。沖縄じゃない、北海道ではないか!
しかもレンタカーはボロボロの軽自動車。
「お前みてーなポンコツにに乗れるかっつーの!」
レンタカー相手にキレる涼香……
一人旅の続きはいかに?
・「旅をあきらめた友と、その母への手紙」
36歳のハグ、こと波口喜美は都内の大手広告代理店に勤めていた。
人生設計通り、35歳で課長職にまで漕ぎ着け、あとは38歳までに結婚、40歳までに部長に昇進、さらに43歳までに出産……とプランを立てていたが、彼に振られたことでガタガタと計画が崩れてしまった。
「おれは君の成功のアイテムじゃないから」
それが彼の別れの言葉だった。それ以降、仕事でもつまずき、ついに退職を余儀なくされた。女性の再就職には35歳の壁がある。ハグもその壁に直面した。
そんな時、旅に誘ってくれたのが大学時代の親友ナガラ。あちこち一緒に旅行するうちフリーランスの仕事が軌道に乗るようになった。
この度ナガラと一緒に行くはずだった伊豆旅行。
直前になって行けないと連絡が入った。母親が倒れてしまい、看病のため旅行には行けないとのこと。
ナガラと行くはずだった伊豆に一人で旅するハグ……。
・「冬空のクレーン」
陣野志保、日本を代表する大手都市開発の企業で課長的なポストにつき、年収は970万円。
ブランドバッグを買うときに金額を原因に迷うことなどない。それはとても誇らしい気分だった。大きな案件を抱え、充実した毎日だ。
ところが、中途採用の新入社員をみんなの前で叱りつけたところ、立場が微妙になった。
その新入社員はアメリカで働いていた経験があったのだが、他の社員の前で面罵されたことで傷ついたと、出社を拒否。それだけではない、会社を相手に訴訟を起こすというではないか。
最近の若い者は使えない、と憤慨していた志保のもとに、上司がやってきた。
なんとしても訴訟を避けたい、ついては志保にその社員の家まで出向いて謝って欲しいというのだ。直属の上司だけではない、社長までもがこの件を重く受け止めているという。訴訟で会社の名前に傷がつく、と。
やっていられない、と思った志保は長期休暇を取り、旅行に出ることにした。
私がいなければどれほど仕事が滞ることだろう、そう思いながら…。
・「風を止めないで」
バイク事故で夫を亡くしてもう8年。
事故にあったとき、バイクに同乗していた娘は大怪我をしたが、助かった。
夫が身を挺して娘を守ったのだという。
そんな体験をしたのに、娘は今もバイクを愛し、自分で運転するようになった。
娘がバイクで出かけるたびに心配になるのだが……
(原田マハさん『さいはての彼女』の目次よりタイトル引用、私なりに物語の出だしを紹介しました)
私は小説を読むときには主人公を客観視して読む時と、共感しながら読む時があります。
「さいはての彼女」と「冬空のクレーン」は、思い切り、主人公の立場で読みました。
私はメルヘンな女性主人公より、はっきりぱっきり、仕事のできる女性主人公が好きなのです。
私もどちらかといえば気が強く、口調も優しくありません。
そのせいで失敗することもあります。
だから「さいはての彼女」の鈴木涼香と「冬のクレーン」の陣野志保の、口調や態度が原因で窮地に陥る様子は自分ごとのように感じました。
だけど、二人にはそれぞれの言い分があることもよくわかります。
そんな彼女たちが旅先で出会った人や体験をきっかけに少しばかり角が取れる様子が嬉しい。
元々仕事ができるんだから、この旅の後はきっと職場でもいい人間関係が築けるはず。
そんなことを思いながら読んでいたら、無性に旅がしたくなりました。
最初は、どれか一話だけピックアップして主人公や出だしのストーリーを紹介するつもりでしたが、四話とも捨てがたくて、ついつい全て紹介してしまいました。
旅がお好きな方、バイクがお好きな方には特におすすめします。
いつもお送りしている声の書評。
4つの短編の中から「さいはての彼女」について語っております。
よろしければお聞きください。
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