WITHコロナで、新型コロナ感染者が出た学校は3日ほど休校し、その後通常運転に戻るケースが増えてきました。
状況はなお流動的ですが、コロナ休校で大幅に進行が遅れているのはどこも同じ。
物理ネコ教室も再開します。重力中の運動の続きから。
冒頭イラストはもちろんガリレオ。ピサの斜塔の【伝説】で有名なガリレオですが、宗教裁判に負けて軟禁された後に書いた『新科学対話』で、等加速度運動に関する詳細な実験と理論を展開していて、のちのニュートンによる運動の研究の礎を築いています。
ぼくの講義プランでは、ガリレオの慣性の考えを重要視し、重力中の物体の運動を、慣性による等速直線運動と落下運動の組み合わせで理解するようにしています。基本的な考えは、すでに前回の単純な投げ上げのときに、解説しています。
これがもっとも効果を見せるのが、立体的な運動をするとき。つまり、今回の水平投射と次回の斜方投射ですね。
1の最初の実験は、今の講座プランにする前は、生徒に聞くと予想を間違える者がいっぱいいました。長い距離を進むBの方が落下まで時間がかかると考える人が多かったのです。
しかし、左の図にあるように、慣性運動と落下運動の組み合わせで最初から説明するようになってから、正答率がぐっと上がりました。
2の水平投射の式は、初速と加速度を方向別に見つけるのが、初心者にとってはわかりにくいので、かならず各自でチャレンジしてもらっています。初速と加速度の4つの( )を正しく埋められれば、そこから運動の式を作るのは比較的簡単です。でも、単純そうに見える「方向別の初速と加速度」を判断するのが、なれていない人には、意外にむつかしいのです。
間違いをしながら修正し、正解を見つけていくために、近くの人と議論することが、非常に重要です。
3は数学との関係で一通り説明してありますが、物理の問題を解くときにはほとんど使われません。
3は標準的な問題です。(1)は、「まず4つの式を自分で作ってから、設問ごとに条件をあてはめて解いていけばいい」という手続きを覚えてもらうために、わざと追加している小問です。普通の問題だと、(2)以降の小問から始まります。
4はこの時点では、1年生の場合は数学的な準備ができていないので、無視してもらっています。あとで三角比を習ってから、振り返ることができるように、紹介はしてありますが。(物理を2年生から学ぶ場合は、1年のときに三角比を習っていますから、これらの工夫は必要なくなります)
では、書きこみを見て行きましょう。
1の実験は、ぜひ見せておきたいですね。
器用な人なら、2つのスーパーボールをそれぞれ左右の手に持って、片方はそっと放し、もう片方は真横に投げ出せば、この実験ができます。
不器用な人は・・・
装置を使って行います。
理科教材で売られている装置はあるのですが、ぼくはいつもこちらの手作り装置を使っています。
厚紙で定規にぴったりはまるように、Tの字方の部品を取りつけます。折り曲げた上部の厚紙に底部の厚紙を貼り合わせただけの部品です。
これに、ペットボトルのキャップを2つ乗せ、空中に2つが水平になるように持って、定規を曲げ、手を放します。
片方のキャップは水平に投げ出され、同時に、もう片方のキャップは自由落下します。
自由落下と水平投射が同時に落下するのを見せる実験装置は、理科教材がありますが、これならほとんどタダで作れます。
なお、この実験装置はずいぶん前から広まっているもので、ぼくのオリジナルではありません。
普通は十円玉などを使って実験しますが、演示実験として行う場合は、硬貨だと見づらいので、ぼくはペットボトルのキャップを使っています。
教卓の上に落とすくらいの実験だと、落下距離が50センチくらいなので、ペットボトルのキャップをそのまま使っても、空気抵抗の影響を受けません。ほぼ同時に落下します。
もっと高いところから落とす実験をするときは、キャップに10円玉を何枚か詰め込んでセロテープで留めたものを使います。
2の運動の式の作り方は、投げ上げのときと同じで、2通りの導き方があります。等加速度運動の一般式に初速と加速度を機械的に代入する方法と、初速による慣性運動と重力による落下運動(自由落下)の組み合わせで式を作る方法です。
最初は、一般式を使う方法にしておきます。
方向別の初速、加速度がプリントの( )のようになることがわかったら、式を作ります。
x方向は、初速にVo、加速度に0を代入。y方向は、初速に0、加速度にgを代入。
この4つの( )が、初心者はなかなか正解できません。
ほかの人との議論が大事になります。
これさえクリアすれば、運動の式はすぐに作れます。
でも、ここで、慣性運動と落下運動の組み合わせとして式を見直すことも、今後の理解には非常に重要です。
プリントに青ペンで四角く囲った部分を見てください。
x方向の式は初速による慣性運動つまり等速度運動の式になっています。
y方向の式は自由落下の式になっています。
投げ上げ・投げ下げのときは、慣性運動と落下運動の式を組み合わせて、それらの式を足し引きしたのですが、水平投射では、x 方向が慣性運動、y方向が落下運動となっていて、組み合わせ方が変わっています。
しかし、登場する式のパーツは、投げ上げのときと変わらず、初速による等速度運動の式2つと、自由落下の式2つです。
重力中の運動の式は、どんな複雑な運動でも、この4つの式の組み合わせになります。
このことに気がつくと、式を作るのがぐっとカンタンになります。
3については、数学で習うyとxの関係式とグラフについて、まとめてありますが、物理の問題を解くときにはあまり使いませんので、一通り見てもらうだけにしています。(なんでもかんでも丁寧に説明するのは考え物ですね。重要なところとさして重要でないところを、めりはりよく伝える方がよいでしょう)
3については、記入してある通りですが、初心者は、図のx軸y軸と、自分使う式とのつながりがきちんとできていないので、問題をやりながら、間違えやすいポイントについてコメントするとよいでしょう。
たとえば(2)で地面の条件として、何も考えずにy=0としてしまう人が結構います。「地面だから高さは0」と単純に考えてしまうのですね。
原点がビルの屋上であることとy軸が下向きにとってあることの意味がピンと来ていないと、こういうミスが生まれます。むしろ、ミスをすることで、それを意識してもらうとよいでしょう。
(4)の地面にぶつかる角度を求める問題は、注意が必要です。
というのは、この問題をノーヒントで解いてもらうと、角度θを出すのに、落下点のxとyの値で三角形を書いて求めようとする人が続出するのです。
図にその三角形を描きこめば、三角形の角度と物体が地面にぶつかる角度θが同じでないことはあきらかですが、それがなかなかわからないのですね。
ここでは、問題自体に、速度を求めてθを出せというヒントが書いてあります。
【物体の進む方向=速度の方向】ということがわかるのには、少々のなれがいるようです。
4は例によって、この時点では無視してもらうコーナーになっています。
最初に三角比を教えれば、1年生でも教科書通りにやれるじゃないか、というご意見もあるでしょうが、それは、よほど数学に自信のある学生さんの場合。
一般の学生は数学で習っていない数式をいきなり使うことには慣れていませんから、よけいな負担をかけます。結局、そのために、物理の内容そのものに集中できない、という事態が生じます。
三角比については、ひとしきり重力中の運動が終了してから、ゆっくり説明していくことになります。
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