物理ネコ教室012重力中の運動(演習)計算よりアタマを使う問題 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 物理ネコ教室、今回は重力中の運動で、興味深い問題を取り上げます。このブログでは原則として演習問題については公開していないのですが、興味深い問題については、その限りではありません。

 

 等加速度運動や重力中の運動を物理的なイメージでどうとらえるかは、今まで見てきた通りですが、この分野は算数でなんとかなる分野でもあります。物理的な意味がもうひとつわからない学生でも、公式を覚えて当てはめる練習を積めば、問題がかなり解けるようになります。

 そう言う意味では、論理思考の訓練があまりなされていない日本の学生にとっては、等加速度運動と重力中の運動から物理学に入るという順序は、結果的にありがたいことなのかもしれません。

 

 しかし、物理学の本質は計算ではなく、物理現象のイメージをどうとらえるかにあります。とくに共通テストでは、そのイメージができていないと解きにくい問題が、じつによく出題されます。

 

 今回の演習問題は、タイトル通り「計算よりアタマを使う問題」です。イメージなしに公式に当てはめるだけの解き方では、非常に時間がかかったり、解くことが難しくなる問題を集めました。

 

 その代表がモンキーハンター(モンキーハンティングともいわれます)。冒頭のイラストは、それを実験する装置の一例で、飯田さん考案によるものです。(*1)

 斜めの台の上で実験できるので、セッティングがカンタンであることと、運動をスローモーションで見せられることで、非常に有効な演示実験装置です。ぼくも、毎年必ず使っています。

 

(*1)『いきいき物理わくわく実験1』改訂版(日本評論社)の「百発百中! やっぱり法則通りだ!」に詳しい記事があります。【お知らせ】のリンクで、本をお手元においていただければ幸いです。

 

 実際の装置は、こちら。

 

 

 これは実験風景ではなく、こんな感じでぶつかるというイメージ画像です。ピンポン球でも実験できますが、最近はスーパーボールを使っています。本当は鉄球がいいのですが、教室へ持っていって実験すると、落下した鉄球が教卓をへこませてしまうので、教室でやるときは傷のつかないスーパーボールを使っています。

 

 では、プリントを見て行きましょう。

 

 

 1.がモンキーハンターの問題。

 ふつうは【弾丸はサルに当たるか?】という設問なのですが、ぼくの講義プランに合わせて、設問を変えています。

 ぼくの講義プランでは、最初から重力中の運動を初速による等速度運動と重力による等加速度落下運動の組み合わせで教えているので、弾丸がサルに当たるのは【当然】という理解がしやすく、【弾丸はサルに当たるか当たらないか?】という設問が意味なくなるのです。

 

 したがって、ここでは、【当たるのは当然として、その理由をちゃんと文章で説明できるか】という観点で問題を出しています。

 これが、なかなか難しいのです。

 なんとなくわかっているのと、本当に理解するのとは違う、ということが実感できます。

 

 (2)は、ずいぶん昔に作った、ぼくのオリジナル問題です。といっても、今では、似たような設問は普通にあると思いますが。

 

 2.は1.の関連で出しました。どう関連するかは、書きこみプリントをご覧ください。AとBで運動の開始時間がずれるので、それをどう表現するか、という問題もあります。

 

 

 3.は共通テストの過去問です。イメージが大切だとわかりますね。

 

 4.は、以前職場でお世話になった先輩の伊藤ヒデさんが、好んで出していた問題。運動の分解を理解するのに非常によい問題だと思い、使わせていただいています。

 

 5.は、すでに学習済みの【合成速度】を用いる問題ですが、この演習問題の最後にこれを入れたのには、別のもくろみがあります。

 

 それは、次の力の分野で、慣性を理解するための、導入とするためです。

 

 この問題は実験により答えることもできるので、実験方法を教えて、答えてもらっています。

 

 左手のひらを気球に見立ててその上にペットボトルのキャップを乗せ、手のひらごと真上に移動させている途中で、右手を添えて同じように真上に動かしながら、右手の指で、左手の上のキャップを真横に弾きます。

 

 この実験はだれでも出来ますから、やってみてください。

 キャップを弾くとき、つい左手を止めてしまいがちなので、止めないように、フォロースルーをしっかり取ってください。

 

 では、書きこみを。

 

 

 1.(1)の誤答の代表は【弾丸もサルも同じ重力がかかるから】と【弾丸もサルも速度が同じだから】の2つです。

 

 【弾丸もサルも同じ重力がかかるから】について:

 弾丸とサルにかかる重力が同じ大きさでないことは明らかです。サルの方が、弾丸の何十倍、何百倍もの重力を受けています。

 こう書いた人は、弾丸にもサルにも重力がかかっているから、というのを【同じ重力】という表現で表しているのですが、【同じ重力】は【同じ大きさの重力】の意味になるので、まちがいです。

 

 【弾丸もサルも速度が同じだから】について:

 初心者が失敗するのは、速度と加速度の違いを理解できないところです。

 速度は運動を示す指標ですが、加速度は運動の向きとは一致しません。

 こう答えた人はその違いを理解できないまま、【弾丸とサルの落下は同じ】ということを表現したかったのでしょう。でも、弾丸とサルの速度はまったく異なるので、【速度が同じ】は間違いです。

 

 正しい解答は、【弾丸もサルも同じ加速度で落下するから】もしくは、【弾丸もサルも同じ距離落下するから】です。

 

 (2)は、答え方が何種類もあります。

 相対速度で考えるのが、物理的にはもっともカンタンなのですが、物理的な思考方法に慣れていない学生には、思いつくこと自体が難しい答です。でも、理系に進もうという人は、こういう考え方が出来るようになってほしいものですね。

 

 相対速度で考える発想を突き詰めると、弾丸もサルも同じように落下運動をしているので、サルから見た弾丸の運動からは、落下運動の分がキャンセルされて見える、という発想です。

 この発想で考えると、弾丸はサルに向かって【落ちないで】等速直線運動をしてやってくる、と考えられます。

 だから、実際の距離を、弾丸の初速(サルから見るとこの速度でやってくるのが見える)で割ったものが、衝突までにかかる時間、ということになります。

 

 2つめの解答は、一般の学生がもっとも多く使う答。

 運動を分解して、水平方向の運動で考えます。

 もっとも、思いつきやすい発想でしょうね。

 実際、学生に聞いてみると、この考え方で答にたどり着く学生がもっとも多いのがわかります。

 

 水平方向は等速直線運動なので、距離=速度×時間という、中学校で習った単純な式が使えます。

 水平方向の運動の速度は初速の水平方向成分ですが、水平方向の距離も、実際の距離の水平方向成分になります。この比率はどちらも同じなので、割り算して時間を出すことが出来ます。

 時間=水平方向の距離/水平方向の速度=実際の距離/実際の初速で、答を出すことができますね。

 

 なお、この書きこみにはありませんが、学生に配る解答には、第3の解答も紹介してあります。それは、鉛直方向のyの値を用いた解き方です。

 衝突地点でサルの落下距離y1と弾丸の高さy2を合計するとhになりますから、その式を作ると、衝突時間を求めることができます。

 

 2.もまた、相対運動の発想がないと、カンタンには答えられません。

 

 まず、時刻を一致させましょう。

 

 Aが落ちてから2秒後にBを投げ下ろすので、条件を公平にするため、Bを投げ下ろした時刻を0にしましょう。そうすると、このとき、Aがどんな速度で動いているかを知る必要があります。

 

 2秒後、Aの速度はvy=gt=9.8×2=19.6m/sになっています。

 

 AもBも、同じ加速度で落下運動をしているので、BからAを見ると、それぞれの落下運動はキャンセルされ、19.6m/sで下向きに等速度運動をしているように見えます。

 

 したがって、後発のBがAより大きい速度(19.6m/sより大きい速度)で飛びだしたときに、BはAにおいつけるようになるでしょう。

 

 もちろん、この問題は、地上までの距離が無限大であるという、単純な前提に基づいて作られています。

 

 地上までの距離が有限の場合は、追いつく場所が地面より上か下かで、実際にBがAに追いつくかどうかを判断できますから、ここで述べた解法は意味なくなります・・・

 

 

 

 3.は共通テストの問題そのままです。

 2つの物体が同じ点で出会う=2つの物体の出会う高さは同じ=鉛直方向に飛び出す速度(もしくは速度成分)は同じ・・・という発想の連鎖で、この問題は解けます。

 

 4.は、【運動を分解する】ということの意味がはっきりわかる例題ですね。単純に水平方向の運動だけ、鉛直方向の運動だけを見れば、思いの外カンタンに問題が解けます。

 

 5.この気球の問題は、次の力の講座で、ガリレオとニュートンが見つけた、慣性の法則につながる問題として、設定してあります。

 

 詳しいことは次の力の講座のときに書きますが、慣性については、次のような事情があります。

 

 ガリレオ以前、何千年にもわたって、【物体が動くのには動く向きに力が必要だ】と考えられていました。

 

 それを、【運動をそのまま続けるのには力は必要ではなく、それは物体の持っている慣性によって生じる現象である】という新しい解釈をしたのが、ガリレオとニュートンです。

 

 もっというと、この発想の原点は、ガリレオ以前に中近東の学者たちの研究にあります。

 

 科学の暗黒時代、ヨーロッパ中世に途切れたギリシャ自然哲学は、実利を尊ぶアラブ世界の人々によって受け継がれ、それがルネサンス期にヨーロッパに逆輸入されたことが、ガリレオやニュートンの研究の礎になったと考えられます。

 

 ニュートンが有名な運動の法則の【第Ⅰ法則】を、ガリレオの発見をより正確に表現した【慣性の法則】にしたのも、何千年にわたる【力に関する誤解】を解くもくろみがあったに違いありません。

 ニュートン自身はプリンキピアでそのような発言はしていませんし、ガリレオの慣性の発想は完成されていなくて、いわゆる円慣性も認めていたようですが、2人に共通するのは、【物体が動いているからと行って力がその向きに働いているわけではない】という、それまでの【常識】に対する攻撃だったのでしょう。

 

 5.で、実験も含めて、動いている気球から打ち出された物体の運動を確認するのは、このことを示すための【前振り】になっています。(意識的に配置しています)

 

 では、次回から、いよいよ、物理的イメージが炸裂する【力】の物理学に突入します。

 

 

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