ガリレオ・ガリレイが等加速度運動を研究し、それを正式に本にしたのは、宗教裁判に敗れて軟禁されたときに書いた『新科学対話』でのこと。
でも、その研究自体は、ピサ大学にいたときに行われていたようです。現在の慣性の法則に通じる記述が、すでに『天文対話』にあります。
さて、今回は、1年向け(何度もいっているように、これは3年間で物理基礎・物理を教える学校の教程を想定したときの【1年向け】という意味です)の公開講座4回目です。
他の学年向けの物理ネコ教室にも書いていますが、物理ネコ教室では、講義内容を中心としたナンバープリントを公開しています。練習用の演習問題プリントもナンバープリントと同じくらいの量あるのですが、煩雑になるので、そちらは原則として公開していません。
しかし、最初の演習プリントは、物理を過程で学ぶときの練習方法の解説もかねて、公開する必要があると思いました。
実際の講座でも、この演習には時間をさいて、自分で学習するときのポイントを解説しています。
では、演習プリントを。
問題だけ見れば、なんのへんてつもない、ふつうの問題集にのっている問題ばかりですが、じつは、基本的な学習方法を学べるように、問題を配置しています。
1.と2.はグラフからいろいろな物理量を読み取る練習で、それほど難しくはないのですが、高校で初めて物理を学んだ学生にとっては、とっつきにくい問題でもあります。
3.はふつうに加速運動の式をもちいて解く問題です。
ごくふつうの問題ですから、問題集をやるように指示すればよさそうなものです。でも、これらの手作り問題をわざわざつくって、学生に配っているのには、ある事情があります。
過去に、問題集についてわからないと質問にくる学生と話していて、大きな問題点に気づいたからです。
それは、問題集の答や解説が、かならずしも教育的に作られていないということです。
物理学は基本的な考え方を理解すれば、その組み合わせで複雑な問題も解決できる学問です。しかし、市販されている問題集の解答を見ると、そういう観点では書かれていないのですね。
問題集をマジメに学習した学生ほど、その解答のブキミさに戸惑います。教科書でならった基本的な考え方ではなく、問題ごとに特化した解き方をしているケースが少なからずあるからです。
そうすると学生は【教科書に書いていない別のルールも覚えないと問題は解けない】と考えてしまいがちです。これは、たいへんなストレスですし、そもそも物理学の基本から外れています。
そこで、講義で学んだ方法ですべての問題が難なく解けることを示す必要にせまられ、こういう自作の問題とその解答を配布するようになりました。極端にいえば、問題は市販のものと同じでもよいのです。しかし、解答・解説は、講義で伝えた基本的なルールだけで解いたものが必要となります。
というわけで、初めて物理を学ぶ人向けに、原則を破り、講義で配布している演習プリントと、その描き込みを紹介しておきますね。
4.も加速運動の式の演習問題。5.は運動のグラフから物理の諸量を求める問題です。
書きこみを見た方が、それぞれの問題の意味合いが、わかりやすいでしょうね。
問題文に赤丸をつけてあるのが、実際に講義で解いてもらい、解説を加えている問題です。
1.は、グラフに隠された諸量を求める基本的な問題ですが、これは、講義のプリントのどこに同じ問題があるのかを探す例として載せています。
講義で習ったナンバープリントとの関連がわかったうえで解かないと、講義中に習ったことと、自宅での学習が連携しません。その練習ですね。ナンバープリントのどこに同じ内容があるか探し出せた人は、かんたんに問題を解くことができます。しかし、どこにそれが書かれているのか、見つけ出せない人が、意外に多いのです。
おそらく、中学校で、先生がいつも大きな声で「ここを見ろ」「あそこを見ろ」と細かく指示してきたせいでしょうね。指示通りにやるという学習態度が(悪い意味で)身についてしまっている学生は、なかなか該当箇所が探し出せません。
この単純でバカみたいな問題には、【自分で判断して学習するためのノウハウを確認するための練習】という意味があるのです。
1.ができれば、2.も同様の問題ですので、こちらは自宅でやってもらいます。
3.は、教科書や問題集の【公式を丸暗記して問題を解く】ということにたいする警告をこめた問題です。代表的な問題として、講義では(3)と(4)だけ扱います。
等加速度運動の式は、速度vの時間に関する式、変位xの時間に関する式、そして、その2式から時間を消去して作った第3の式の、3つがあります。
でも、この3つを丸暗記して解くというのは、どうでしょうか。
本当は、物理的な意味がわかりやすい、vの式とxの式の2つだけを組み合わせて解くのが、わかりやすいし、ほとんどの問題はそれで解けます。
じっさい、3.(1)〜(3)の3つの問題は、この2つの式だけで解けます。
ところが、時間tが隠されている問題の場合、vの式とxの式の2つの組み合わせだと、非常に解きにくくなるのです。
もちろん、算数の得意な学生なら、この2つを連立方程式として解けば、かならず答にたどりつけます。でも、高校で初めて物理を学ぶ大多数の学生は算数がにがてな人が半分以上いますので、これでは解けません。
3.(4)の緑の字で書いた[ ]のコメントをご覧ください。
未知の文字aとtがどちらの式にも含まれているので、ふつうには解きにくい方程式になっていますね。
こういう判断を脳内で行い、解くのが困難だなと思ったとき、使えるのが、第3の式です。解答をみていただければ、第3の式をつかうとあっというまに解けるのがわかるでしょう。
だから、3つの式を闇雲に覚えて解くのではなく、vとxの式を【初速による運動と加速による運動の組み合わせ】として意味づけて理解しておき、困ったときに第3の式を使う、というぐあいに軽重をつけて利用した方がいいのです。
(第3の式にも物理現象として、ちゃんとした意味があるのですが、それがわかるのはもっとのちにエネルギーや仕事を習ってからなので、この第3の式だけは当面は【覚えて使う】でよいでしょう)
高校で物理を学ぶ場合、陥りやすい間違った考え方の代表は【物理は公式を覚えて解く】という思い込みです。
物理は数学のパズルではありません。
物理現象を実際に扱う学問ですので、【公式を覚えて解く】という方法はなじまないのです。
何が起きているのか、物理現象のイメージをよく理解した上で解かなくてはいけません。そのためには、公式よりも、むしろ、物理用語の意味を理解することの方が大切です。
ここで、その象徴的なお話をしておきましょうか。
この演習問題を相談しながらやってもらうと、かならず聞こえてくる言葉があります。
「このaって、なんだっけ」「このvは何?」などなどなど・・・
彼らは、公式はとりあえず覚えているのですが、vやaが何を意味する記号なのか、覚えていないのです。これでは、問題はぜったいに解けません。
物理用語をきちんと理解するためにぼくがいつもアドバイスしているのは、【講義内容が一区切りついたら、必ず教科書で該当ページを読んでおく】ということです。
【物理は公式でなく、言葉だ】これは、ぼくが何かにつけて学生にいっている言葉です。
教科書を読むことで、物理用語の意味をきちんと確認し直すことができるので、実力がアップします。(このへんの話はまた、どこかで書くことにします。ひとことだけ言っておくと、受験に関して、この教科書をちゃんと読んでおくということが、決定的です)今から、習慣づけておきましょう。
4.は3.の応用にすぎない、とも思われがちですが、ある重要な意味があるので、講義で扱っています。
(1)(2)とも、あるポイントが理解できないと、【うっかり】致命的なミスをする問題です。
講義ではいつも、このポイントを考えるように事前にいって、相談してから答えてもらっています。
(1)は、問題文から速度vの式を使って解く問題であることは明白です。
(1)のポイントは、v=v0+atの式の各所に数字を正しく入れられるかどうかです。
うっかりものは、問題文の数字をそのままつかって、2=8+a×4と書きます。
一番最初のナンバープリント【1】でコメントしたように、向きを持つベクトル量では、中学校まで習ってきた算数の【1+1=2】という計算ルールが使えません。
ただし、運動が1直線上のときに限り、【1+1=2】のルールを【無理矢理つかう】ことができます。
が、無理矢理なので、限界があり、いろいろおかしな事が起きます。それは、マイナスの数が出てきてしまうということなんですね。
そのマイナスを、本当の意味でマイナスの数ととらえず、【ベクトルの向きが逆向きであることをしめす記号】として理解すると、ベクトルの計算に通常の計算ルールをつかうことができるようになります。
(1)の問題の場合は、問題文に【左向きに2m/sの速さ】とあるのに、2=8+a×4という式をつくったのでは、【左向きに2】が式に表れませんね。
ここは、【マイナスが逆向きを示す記号】という発想をつかい、−2=8+a×4と書くべきでしょう。
おもしろいもので、自分でそういう判断をして、正しい式が書ける学生は、そこそこいます。正答率は、クラスでの話し合いや議論の進み具合によって、大きく変わります。
(2)の問題は、物理の問題が算数の問題と本質的に違うことをわかってもらうことがポイントになっています。
算数の問題だと、問題文の中に、すべてのヒントが書かれています。しかし、物理の問題は物理現象を扱っていますので、重要なポイントが問題文に【わざと書かれていない】ことが圧倒的に多いのです。
(2)では、物体がUターンする瞬間に、物理的にどんなことが起きているのか、見抜けない人には、問題が解けないようになっています。
といっても、物理現象ですから、じっさいに実験してみればわかります。消しゴムを上空にほうりなげてみれば、Uターンする頂点で、消しゴムが【一瞬止まっている】ことがわかります。
これは、全員が気がつけるわけではありませんが、じっさいに消しゴムをなげた学生のほとんどが気がつきます。
5.は、本来ならあえて講義で取り上げなくてもいい問題なのですが、初めて解く学生がすごく間違える問題なので、わざわざ扱っています。
ついでに、vのグラフの傾きと面積がどんな意味を持っているのかを、一つの図にまとめる意味でも、今までの講座のまとめとして扱っています。
さて、5.で、学生がすごく間違えるところは、どこだと思いますか?
それは、(1)の加速度aのグラフです。
0〜2秒、6〜12秒のところを、水平な線でなく、斜めの線で書いてしまう学生がものすごくたくさんいるのです。
0〜2秒、6〜12秒の間では、グラフの傾きは一定なので、加速度の値はそれぞれ一定のはずです。したがって、加速度aのグラフはその値で一定、つまり、水平な線になるはずなのですが、学生の感覚として、そういう階段状のグラフを見たことがないので、その線をつい斜めに書いてしまうのですね。
これは、【習っていないことを勝手に創造してしまう】という、物理の学習でよくありがちな間違いです。
自分一人で学習していると、これらの勘違いやミスがそのまま放置されてしまうので、【勉強時間のわりに理解できない】という現象が生じます。
ぼくは、これらの書きこみに相当する解答・解説を配布し、それを教師がわりに使うように指示しています。
わからない問題は解説にざっと目を通し【こういう視点で考えればよいのか】がわかったら、解説を伏せて自分で解きなさい、と指示します。
市販の問題集の解説が、こういう配慮の上で書かれていたら、こんな余分な演習プリントとその答のプリントを作らなくてもいいのですが・・・
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