物理ネコ教室003加速運動 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 おさまっていた北九州市で、ふたたび新型コロナ感染者が急増しました。

 第2次世界大戦前後のスペイン風邪のとき、日本では収束するまで5年かかっているそうです。

 緊急事態宣言はいったんおしまいになりましたが、今後も予断を許しません。

 物理ネコ教室1年、力学の講座公開を、もうしばらく続けていきます。

 

 物体の運動を時間との関係で調べる手法は、ガリレオ・ガリレイから始まったといわれています。

 

 冒頭のイラストはぼくが『ミオくんと科探隊』シリーズのためにカリカチュア(マンガ化)した、ガリレオ・ガリレイのキャラ絵です。

 ガリレオはすごく激しく頑固で、養う家族や親戚は面倒をかける者ばかり。唯一、ガリレオを純粋に慕っていた長女のビルジニアは、病気でガリレオより先に逝ってしまいました。

 

 かの宗教裁判も、世界史の講義などでいわれているような、宗教対科学みたいな単純な構図ではなく、ガリレオがもちまえの頑固さで、宗教的解釈にまで口を出したのが原因ではないかという説もあります。

 

 ガリレオが力学についてまとめた『新科学対話』は、本として出版されたのは有名な宗教裁判の後、幽閉されてからのことです。しかし、その研究の大部分は、『天文対話』を出版したパドヴァ大学のころになされています。

 『天文対話』にも、物体の落下運動がアリストテレスの主張とは違うことや、物体に慣性があることについて、きちんと書かれています。

 

 高校の物理教科書で最初に習う等速度運動、等加速度運動について、16世紀末にガリレオが基本的なことをすべて見つけていたというのは、驚きです。

 

 では、講義のプリントを見てみましょう。

 

 1.は、前回の結果を受けて、もう少し一般の運動でも、グラフを描くことでさまざまな量がわかるということをまとめています。

 

 厳密には、数学の区分求積法(おそらく、理系3年くらいでならう内容。ぼくが高校生のときは、物理の講義で普通にこれを習っていました)などを利用して証明すべき内容ですが、それをまだ高等数学を習っていない1年生に要求するのは無理というもの。ここでは、知識として紹介するだけにしています。

 

 2.は、加速度の定義。ガリレオの定義を代数的に表したものですね。

 

 3.の等加速度運動は、まさしくガリレオの研究結果。『新科学対話』にくわしく述べられています。今のような時計がなかった時代に、よくこれだけの研究ができたものです。ガリレオの研究方法については、次のプリントで。

 代数は、ガリレオと同時代のデカルトが研究し、幾何学と同等の地位に引き上げました。それまで、代数は幾何学に比べると低劣な数学と考えられていました。

 ガリレオの後、登場するニュートンが書いた本『プリンキピア』も、代数ではなく幾何学を使ってさまざまな物理現象を説明しています。これも【高尚な学問はラテン語と幾何学で】という、当時の風潮を反映したものです。

 

 ガリレオは『天文対話』など、一連の書物を、ラテン語(古い時代の言葉)ではなく、イタリア語で書いています。当時の研究者の態度としては、すごく革新的な発想ですね。

 

 4.は、加速運動を表すグラフです。

 1年で物理を始めた場合、数学的な準備ができないままなので、じつに様々な問題が生じます。

 式とグラフの関係も同様。

 数学で式とグラフの関係をやったあとなら、数式を見てグラフを描く、なんてことはお茶の子さいさいになるのですが・・・

 

 では、描き込みを見ながら、講座内容を紹介していきます。

 

 

 

 1,はまとめなので、さきほど書いたとおりですが・・・

 

 変位xのグラフの各点の傾きが速度vになること、速度vの面積が変位xになることは、これから先、複雑な運動(さしあたって、等加速度運動ですが)を調べるのに、強力な武器になります。

 

 2.は、加速度の定義。

 きちんと定義しておかないと、加速度という概念が速度とごちゃごちゃになります。【加速】という概念は、一般の社会でもある程度、浸透していますから、順を追って説明すれば、混乱することはなくなります。

 

 3.の等加速度運動は、普通の展開とはちょっと違います。

 

 教科書などでは、いきなり等加速度運動の式はこれこれであると書かれ、それに対応するグラフはこれこれと説明されてしまいますが、それは科学ではありません。

 

 自分で納得して、式とグラフを理解する必要があります。

 

 未知数の記号を使っていきなり式を立てるのは、抽象的な思考に慣れていない高校1年生には難しい。具体的な数字を使って考えた方がラクです。記号を使って一般化するのは、その後でじゅうぶんです。

 

 3.の図を見てください。

 初速5(m/s)、加速度3(m/s^2)【s^2はsの2乗という意味で使っています】で進む【物理ネコ】(普通の物体はこんなふうに運動してくれないので、いつも物理的に動いてくれるネコに登場してもらっています。ぼくの学校でのアダナの原因ですかね)を調べます。

 

 この問題をやってもらう前には、加速度の意味を教えておく必要があります。

 例えば加速度3(m/s^2)は、1秒に3(m/s)だけ速度が増えることを意味します。

 

 だから、この問題の場合、最初の速度はv=5ですが、1秒後は3増えて、v=5+3=8、2秒後はさらに3増えて、v=5+3+3=5+3×2=11となります。

 ここから予測して、t秒後のvの式がv=5+3tとわかります。

 具体的な例をもとにして発問すると、ほとんどの学生が答にたどりつけます。

 

 あとは、それを記号に変えるだけ。初速をv0、加速度をaとして式を書き直します。

 v=v0+atですね。

 

 これで、等加速度運動の式は、半分、できあがり。

 

 次の変位xの式は、1.の結果をグラフにして(そこまでやると時間がかかりすぎてテーマからずれるので、グラフはすでに描いてあります)、その面積から求めます。

 

 面積の計算はほとんどの学生ができますので、自力で変位xの式を導けますね。

 

 x=5t+1/2・3・t^2とわかります。これで、vとxの式はできましたが、まだ一般化する必要があります。初速5を記号v0に、加速度3を記号aに変えて、一般的な等加速度運動の式を作ります。

 x=v0t+1/2・at^2です。

 

 この2つの式は、物理的な意味合いがはっきりしているので、丸暗記はしないほうがよいでしょう。

 

 v=v0+at

 x=v0t+1/2・at^2

 

 v=(初速)+(加速によって増える速度)

 x=(初速によって進む変位)+(加速によって余分に進む変位)

 

 という、意味合いです。

 

 どちらの式も、(初速による運動)と(加速による運動)の合成になっていることがわかります。

 

 なお、第3の式にも物理的な意味があるのですが、この時点では理解できません。将来、エネルギーと仕事という概念を知るようになる時を待ってください。この式がエネルギーと仕事の関係を意味する式になっていることがわかるのは、もっと後になってからです。

 

 4.に移る前に、<オマケ>をやっておきましょう。

 1ページめの等加速度運動の2つの式、v=v0+at、x=v0t+1/2・at^2があれば、等加速度運動のすべての問題が解けます。

 しかし、この2つの式だけだと、問題の条件によっては、答をだすのに複雑な計算が必要になります。数学が苦手な学生にとっては困りますね。

 そこで、この2つの式から時刻tを消した第3の式を作っておきます。2つの式で解きにくい場合は、第3の式を使えばカンタンに解けるようになります。

 

 2年生ならともかく、まだ数学的な準備ができていない1年生にとっては、<オマケ>の計算でもかなり難しく感じます。

 

 数学が苦手な学生には、数学計算の能力を身につけるまでは、第3の式を覚えて使うという補助的な方法でもしかたないでしょう。さいわいなことに、物理など自然科学では、数学以上に単純計算の訓練ができますから、数学がにがてな学生も、自然科学で基本的な計算技術が身についていきます。本当は、数学でこそ、やっていただきたいことなんですが。

 

 4.は、いつも、ガリレオのやった実験を見せています。(実験装置の写真は、記事にのちほど追加する予定です)

 (1)の斜面を転がる球の加速運動です。ガリレオは、同じ時間間隔で球の動く距離が、1:3:5:7・・・と増えていくのを発見しています。

 

 ここで、遊びの質問。

 

 振り子の等時性を発見したのは1581年のガリレオ。実用的な振り子時計がホイヘンスによって発明されるのは、1651年。現在のような1/10秒、1/100秒が測れる時計が生まれるのは20世紀になってからです。

 

 ガリレオは、どうやって時間を測ったのでしょうか。

 日時計はこの実験には使い物になりません。

 質問をすると、思いつく人がかならずいます。

 

 ・・・

 

 「脈をつかう」いいですね。「水がしたたり落ちるのを使う」これもいい。

 ガリレオは人間の脈拍を使って時を数えています。また、比較的長い時間の実験では、水の落ちる量で時間をはかる水時計も使っていたようです。

 

 この演示実験では、ガリレオの時代にもどって、感覚的な時計として、拍手を用います。

 まず、球が等間隔に打った目盛り1、2、3、4・・・を通過するとき拍手してもらいます。

 拍手の間隔はどんどん短くなり、すぐに手がたたけなくなります。

 次に、目盛りが1、4、9、16・・・を通過する時に拍手してもらいます。

 拍手の間隔は等間隔になります。

 この実験は飯田さんから教えてもらった実験ですが、等加速度運動の特徴を、カンタンに知ることができる実験です。

 

 4.の具体例で加速度運動の式を作り、グラフを作成すると、xのグラフにこの特徴が現れていることが確認できます。同じ時間ごとに進む距離が1:3;5;7・・・とのびていっていますね。

 

 これは、初速や加速度の向きにかかわらず、いつも成り立つ性質で、グラフを見ると1:3;5;7・・・の比があちこちに登場するのがわかります。

 

 共通テストでもよく問われるポイントですので、受験対策としても大切ですね。

 

 グラフを実際に描くのは、難しくはありませんが、大切な作業です。たくさん練習しておきましょう。

 

 では、今回はこのへんで。

 

 

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