物理ネコ教室009重力中の運動・投げ上げ投げ下げ | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 こちらは、ガリレオの『新科学対話』の表紙の模写で、マンガ『さりと12のひみつ』に使ったもの。マンガでは、もっと小さい画像にして使っていますので、こんなあらっぽい模写でもなんとか本物っぽく見えたんじゃないでしょうか。

 

 ガリレオの運動に関する力学的な研究を集大成した本です。岩波文庫から復活版が出版されていますので、興味のある方はぜひご一読を。

 

 さて、物理ネコ教室の続き。今回は、いわゆる【投げ上げ・投げ下げ】というものです。

 

 通常の高校教科書では、自由落下→投げ上げ・投げ下げ→水平投射→斜方投射の順で公式をひとつひとつ並べて理解していくように構成されています。

 

 これだと、5種類の運動と5種類の式、5種類のグラフを、ひとつひとつ覚えることになってしまいます。簡単なもの→複雑なものという順になっているので、学習しやすい、という発想なのでしょう。

 

 しかし、前回述べた通り、これらの運動は5種類ではなく、たった1種類あるだけです。

 すべて、自由落下運動なのですから。

 

 ぼくのプリントでは、思いきって、最初からこの理解を進められるように組んでいます。

 

 そのためには、斜方投射を理解するのが一番てっとり早いのですね。もちろん、いきなり式を立てることはしませんが、運動の基本的な理解には、投げ上げ・投げ下げより斜方投射の方がよいのです。

 

 では、実際にプリントを見ていきましょう。

 

 

 1.がすべての自由落下運動を統一的に理解するための図です。初速による慣性運動と、重力による自由落下運動の組み合わせで、複雑な運動を考えれば、非常に単純になるという解説をします。

 

 これについては、描き込みを見ながら説明した方が早いので、先を急ぐことにします。

 

 2.以降の例については、1.の考え方でいきなり説明すると、まだ頭を使うことに慣れていない学生には逆に難しくなるので、通常の等加速度運動に代入していく式の作り方と、初速による運動と重力による落下運動の組み合わせで考えて式を作る方法を併用します。(学習が進むと、後者の考え方の方がはるかにカンタンになります)

 

 

 

 3.は投げ上げの練習です。さらに、4.で投げ下げの式を作り、5.で練習するように構成してあります。

 

 では、描き込みを。

 

 

 1.では、左図の単純な自由落下と、右図の複雑な斜方投射を比較することで、同じ時間の落下距離が左図でも右図でも等しくなっていることに注目します。

 

 重力がなければ、右図の物体は初速の方向にまっすぐ等速直線運動をします。その間に、左図と同じ距離だけ落下運動をするので、その結果、右図の物体は、複雑な曲線(放物線といいます)を描いて進みます。

 

 2つの運動を組み合わせただけなのだとわかれば、どんな運動も同じ発想で考えればいいので、5種類もの運動を別々に覚えなくてもよくなります。

 

 2.では、その考え方を、少しずつ導入していきますが、あまり急ぐと、逆にわからなくなってしまう人が出てきます。人間の思考方法は人それぞれ。いかにすばらしい考え方だといっても、それを初心者におしつけるのは、かえって混乱を招きます。

 

 ここは、まず、これまで習った等加速度運動の応用で式を立て、それを新しい運動の組み合わせという発想で見直していきましょう。

 

 2.の最初は、以前のプリントで学んだ等加速度運動の式(プリントの四角枠の欄外に書いた3つの式)に、初速voと加速度aの具体的な値voと-gを代入する方法で、自分で式を作ってもらいます。

 

 voもaもベクトルなので、向きを+−で表すことを指示しておくと、より丁寧かもしれませんが、そのへんは自分で考えてもらった方がよいでしょう。間違えることでより印象が深く、理解も深まります。自然科学は、間違えるのが普通の学問なので、間違えるチャンスを学生からどんどん奪っていくと、本来の自然科学の講義から、どんどん遠ざかってしまいます。

 

 これは天下りにはやらず、まずvoとaを正しく書けるかどうか個々で試し、それがあっていたら式に移る、というやり方で、学生一人一人に考えてもらいます。式を立てるときのポイントを、段階的に理解していくためです。

 

 最初は間違える人もたくさんいますが、話し合っていくうちに正解者がどんどん増えていきます。四角枠の3つの式が早めに正解できた人には、他の人が追いつく間、4.の投げ下げのケースの式を作る作業をしてもらいます。

 

 ある程度の時間をおいたら、式の答合わせをし、その後、冒頭でやった、初速による運動と重力による落下運動の組み合わせで、式を見直すことができることを示します。

 

 初速による運動は、一番最初に習った等速直線運動の式になっています。重力による落下運動は、前回習った自由落下の式そのものです。

 

 結局、重力中の運動を表す式は、4つのパーツ(vo、vot、gt、1/2・gt^2)の組み合わせでできているだけだということがわかれば、これから先の運動の理解がカンタンになります。

 

 これらのパーツは、今後もくり返し出てきますが、これ以外の新しい式はありません。どう組み合わせるだけかがポイントなのだとわかれば、新しいことを覚えなくてもいいからラクチンですね。

 

 物理の得意な人ほど、いわゆる【公式】を丸暗記しようとはしないものです。

 

 

 3.の例題では、書きこみにあるように、(1)の式をもう一度、最初から作ってもらうところから練習します。今度は記号でなく、数値で書いてもらうのですが、そう指示しても、ちゃんと指示が守れず、相変わらずvoやaを使って式を書く人が絶えません。公式のイメージが強すぎて、自分がなにをやっているのか、まだ理解できていない人たちですね。でも、これも相談しながらやっていくと、正しい書き方のできる人が増えていきます。ようは、慣れなんですね。

 

 (4)のもとの場所にもどってくる時間の求め方は、2種類あります。

 y=0として代数的にtを求める方法と、重力中の運動の対称性を利用して、tを求める方法があります。

 運動の対称性を利用して問題を解く場合は、単純にt=3×2=6などと式だけ書いても、なんの式かわかりませんので、説明文をつける必要があります。さすがに【運動の対称性より】というのは高校生が使うのにはかっこよすぎると思いますので、上りと下りの時間が同じになることを指摘すればよいでしょう。

 

 なお、前回も注意しましたが、通常の問題にはこの(1)に相当する小問はついていません。

 

 まず基本的なvとyの式を立てておき、それをうまく使って問題を解いていく、という、基本的なやり方を身につけるための(1)です。教育的な配慮でつけている小問ですので、慣れてきたら、(1)の小問はなくして練習する必要があります。

 

 この物理ネコ教室では、演習用のプリントは、原則として公開していませんが、学生に配るこの分野の演習問題は、前半が小問(1)がついている形式、後半が(1)がついていない形式になるように配慮しています。

 

 4.投げ下げの式は、2.投げ上げで苦労した人の半分くらいは、うまく作ることができます。(もちろん、まだうまく作れない人もいますが、2.のときよりは、明らかに増えます)

 

 等加速度運動の式にvoとaの具体的な値を代入する方法でも、初速による運動と重力による落下運動の組み合わせによる方法でも、好きな方で作ってもらいます。

 

 少しだけ、初心者がよく混乱するポイントを書いておきます。

 

 余分なことを考えてしまうためか、4.の式で、片方がvo+gtとなっているのに、もう片方がy=vot-1/2・gt^2という具合に、+ーが入れかわってしまう人がいます。

 vの式とyの式は、+−が連動していますから、ご注意ください。

 

 5.の練習も単純ですが、初心者は地面の条件をあまり深く考えず、y=0としてしまいます。

 自分の立てた式がどのような条件で立てているのかを意識せず、習った通りに書いてしまうのが原因ですね。

 (1)の式は、屋上を原点にとって立てた式であり、y軸を下向きにとっていますから、この場合の地面の条件はy=19.6となります。

 

 これで、物理基礎での重力中の運動については終了で、次からは物理の内容になります。

 

 しかし、今までの共通テストでは、そんな教科書の構成はまるで無視して、平気で水平投射や斜方投射が出題されています。

 

 共通テスト対策で物理基礎の内容しか教えない場合、受験には非常に不利になります。

 

 これは、共通テストをつくるのが大学の先生であることにより生じる問題点で、なかなか解決されない問題ですね・・・

 

 さて、物理教室1年の公開は、ここでいったん、小休止させていただきます。(コロナ関連で必要が生じたら、さらに続くとは思いますが・・・)

 

 

<物理ネコ教室1年>

 

 

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