物理ネコ教室008重力中の運動・自由落下 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 新型コロナの第2波到来でますます事態は流動的になってきました。コロナ休校で遅れた分を回復すべく、来週から学校の始まるところも多いようです。

 

 物理ネコ教室1年は等加速度運動や相対速度が終わり、いよいよ重力中の運動です。冒頭のイラストはぼくの電子本『さりと12のひみつ』より。ガリレオがピサの斜塔で木の球と鉛の球を落として、地面に同時に落ちる様を民衆にみせたという【伝説】を扱ったマンガです。

 

 物語の方は、電子本の方を読んでいただくことにして、少しだけ科学史的なことについてコメントをしておきます。

 

 この【伝説】はガリレオの弟子ヴィヴィアーニの書いた『ガリレオ伝』に書いてあるのですが、この本は史実に忠実でないということで、歴史家の間では不評の本だといわれます。実際、ガリレオ自身が書いた『天文対話』『新科学対話』には、ピサの斜塔という言葉はいっさい出てきません。

 しかし、ピサの斜塔より低い場所、あるいは高い場所から木の球、鉛の球、石の球を落とした実験結果については、詳しく書かれています。

 

 ピサの斜塔より高いところから落とした場合、石と鉛ではほとんど差がなかったが、鉛と木では、指何本か分の差があったと、明確に書かれています。これらの落下実験はピサ大学でガリレオが教鞭をとっていた頃に集中して行われたものですが、ガリレオの本に書かれている実験の高さでピサの斜塔の高さにぴったり一致する物はひとつもありません。

 

 ガリレオはこの落下実験のとき、差がでる原因を空気抵抗だと、見抜いています。そのため、いろいろな高さから落としたり、小石を水中で落下させるなど、空気や水の抵抗が運動にどう関係するかを詳しく調べています。さすがですね。

 

 ガリレオの物理学上の発見は、高校物理では、【落下運動と等加速度運動】の解明が有名ですが、大学以上の物理教科書では、もっと重要な発見として【相対性原理】(アインシュタインの特殊相対性理論のもととなったものです】が必ず紹介されます。こちらについては、当ブログ記事では、【物理ネコ教室006相対速度】や、【宇宙の中心はどこ?(前編/後編)】をごらんください。ぼくの本『いきいき物理マンガで冒険』の第1話【天球と地球】で、ガリレオの相対性原理と天動説地動説の宗教裁判のことを詳しく描きましたので、こちらもお読みいただければと思います。

 

 前振りが長くなってしまいましたが、いよいよ重力中の運動のその1【自由落下】です。

 

 

 

 プリント冒頭の落下実験は、かならず演示実験として、学生と議論しながら見せています。

 この実験の重要性を知ったのは、岐阜物理サークルの小川さんたちからです。学校の先生方が集まる勉強会で【ピンポン球と鉄の球、どちらが早く落ちるか】という問題に挙手で答えてもらったのですが、なんと、ほとんどの先生方が【同時に落ちる】と答えたのですね。実際にやってみると、たしかに、ほぼ同時に落ちます。しかし、もっと高いところから落とすと、鉄の球の方が早く落ちるのです。

 そのとき、小川さんたちは、小学生に聞くと【鉄の球の方が早く落ちる】という答が多く、中学生、高校生と、学年が上がって行くにつれ、【同時に落ちる】という答が優勢になってくる、という統計結果を紹介したのです。

 

 教科書で【同時に落ちる】と習ったために、事実と反する答を選んでしまうようになるとのことでした。つまり、【習えば習うほど間違う】という逆説的な統計でした。

 

 これは、【結果だけを教えようとする/結果だけを習おうとする】教育の弊害です。

 

 では、プリントに入ります。まず、前半。

 

 ぼくは、この講義では最初にガリレオの伝説を紹介し、本当だろうか、と問題提起した後で、プリントの冒頭にあるざっくりとした実験を見てもらっています。

 

 机の上で、両手にそれぞれ持った木の球と鉄の球を、同時に手を放します。手を放すタイミングもあるので、何度か見せますが、同時に落ちるのが確認できたら、ガリレオの実験で、もっと高いところから落とせば空気抵抗で差が出るはずだということは紹介しますが、その実験を教室の中でやるにはどうしたらいいかを問います。

 

 これは、いろんな意見がでますね。詳しくは、描き込みのところで。

 

 では、後半。

 

 

 重力中の運動の基本となる、自由落下について学びます。

 

 ところで、高校教科書では、初速ゼロで落とした場合だけを【自由落下】と呼びますが、物理の専門家は、重力だけを受けて動く運動はすべて【自由落下】と呼びます。高校で初速ゼロの場合だけを【自由落下】と呼ぶようになった歴史的な経緯はよくわかりませんが、高校レベルで物理を学ぶ上では、それほど弊害になることでもないので、特に触れなくてもよいと思います。

 

 この自由落下のvとyの式は、以前やった等加速度運動に当てはめればつくれますが、これから学ぶ様々なケースの基本となる式でもあります。

 

 では、描き込みを見ていきましょう。

 

 

 さて、1.の空気抵抗で木の球の方がおそくなるという実験ですが、例えば、校舎の屋上くらいから落とせば、少しは差が見られる実験になるでしょう。それを実際に行うのも意味のあることだとは思いますが、ここでは、教室内で同様の結果が得られる代替実験を考えてもらう方がおもしろいのではないでしょうか。

 

 「うちわで下からあおぐ」

 

 これは、意外によく登場する案です。空気抵抗を大きくするためのアイディアです。うちわや下敷きで、じっさいに扇いでもらって実験をしてみると・・・

 

 ・・・影響ありません。

 

 うちわで扇ぐ程度では、木の球と鉄の球の落下には差がでないようです。

 

 なかなか思いつかないのが、

 

 「木の球を、もっと軽い球に変える」

 

 【木の球と鉄の球】という最初の条件に引きずられてしまい、落とす物体の種類を変えるという発想にたどりつく人は少ないですね。それでも、ときどき、思いつく人はいますので、そのときの学生の資質次第、というところでしょうか。

 

 こういう発想は、時間を与えれば生じるというわけではないので、適当なところで見切りをつけて、より軽い(正式には、密度の小さい)球に変えるという実験をやってみせます。

 

 発泡スチロールの球にすると、教室内でも、鉄球にくらべて少しだけおそく落ちるのがわかります。さらに差をつけたい場合は、中空のスチロール球があればよいのですが、これはかんたんに手に入るものではありませんので、ティッシュをくるくると丸めて実験してもよいでしょう。最後にティッシュを広げてより空気抵抗を大きくすると、圧倒的な差が生じるのを見ることができますね。

 

 2.は、重力加速度の値を模擬実験データで調べる方法を示しています。実際には、これは学生実験として記録タイマーを用いて行いますが、この実験は中学生の時やったことがあるという人もいます。学校の先生次第ということでしょうか。

 

 今年はコロナ騒ぎで学生実験はなかなかやりにくいので、演示実験を中心に講座展開をしています。

 

 この表計算ですが、ノーヒントで計算させると、とんでもない計算をする人が出てきます。

 

 平均速度や平均加速度の計算はそれぞれにかかった時間(この場合は0.1秒)で割ることで出すのですが、この時間0.1秒というのが思いつかず、時刻で割ってしまう人が現れるのです。

 これでは、正しい結果は得られませんね。

 

 それぞれの区間の運動の時間感覚が0.1秒であることをいっておかないと、初学者は見当ちがいの計算で迷宮にはまってしまいますので、ご注意を。

 

 ちなみに、ちょっとしたトリビアですが、高校や大学の教師でも、あまり気にしない人がいますので、重力加速度gの記号について、書いておきます。

 

 重力加速度は特別な物理定数(実際には地球定数ですが)で、重力gravityもしくはgravitationの加速度という意味合いで、記号gを使うのですが・・・

 

 このgはこの字体を使うのが、国際標準です。

 これを無造作に手描きで、シッポをくるりと回して書くのは、あまりお薦めできません。手描きで書いた場合、グラムなのか重力加速度なのか区別がつきにくいからです。

 

 なお、それとは別に、ぼくのプリントでは、物理量を表す記号を筆記体のイタリックで書いていますが、これは筆記体になれていない最近の学生にはかえってわかりづらい表記になります。

 

 ぼく自身は筆記体がふつうなので、ついプリントに筆記体を使ってしまうのですが、講義の板書では、なるべくブロック体で書くようにしています。(実際には、筆記体だろうとブロック体だろうと、どちらでもよいのですが、筆記体をちゃんとならったことのない学生の書く筆記体の文字は、判読が難しいものが多いのです)

 

 ついでに、もうひとつだけトリビアをいっておくと、教科書などの活字本では、物理量を表す記号はイタリック体で、単位を表す記号はゴチックのブロック体で書くことが、表記法のルールとしてありますので、覚えておいてください。このルールに基づかない本は、ほとんどないはずです。

 

 もちろん、手描きで書くときはこのような字体の区別は無意味ですので、単位記号には( )をつけて区別するのが一般的です。

 

 描き込みの一番下に小さく【オマケ実験 落下時計(いきわく製)】と書いてあるのは、講義に余裕のあるときにやっています。(今年はコロナ休講で、今のところ割愛していますが、いずれ機会をみてやりたいと思います。というわけで、この実験については、またの機会にコメントすることにしておきます。

 

 3.の自由落下のいわゆる【公式】は、描き込みにあるように、等加速度運動の式に条件をあてはめることで、カンタンに作れます。

 

 高校の教科書や参考書の多くは、重力中の運動のさまざまなケースごとにそれぞれ【公式】を作って、それを学生に覚えさせて問題を解かせるという構成になっています。

 

 これは、わざわざ覚えることを増やすだけでなく、統一した物理現象の理解をさまたげる教授法で、感心できません。

 

 それを統一的に理解して使えるようにマスターする方法は、次のプリントから紹介していきます。

 

 自由落下の式は3つありますが、加速度がgと確定している重力中の運動の場合、3つめの式の出番は激減します。ですから、思いきって3つめの式は無視し、vとyの2つの式をつくることに集中した方が得策です。

 

 4.の具体的な計算例を解く場合も、覚えた公式を使うのではなく、最初からもう一度式をつくる練習をしてから、問題を解きはじめる方がよいでしょう。

 各問題の(1)はそのために作ってある設問です。

 

 ただし、これは教育上の配慮でつけてある小問ですので、慣れてきたら、いきなり(2)の内容を解くことになります。その場合も、自分でまず(1)の式をメモってから解くくせをつけると、より見通しがつくようになります。

 

 物理の得意な人ほど、公式をなるべく覚えないように学んでいます。

 

 それを、忘れないようにしましょう。

 

 

【追加】少し記事内容を追加しました。

 

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