おさまるかに思えた新型コロナ、首都圏ではまた増え始め、地方でも少しずつ増えてきているようです。今後、どうなっていくか、予断を許さない状況になってきました。
ということで、物理ネコ教室を再開します。
今回は、自然科学と数学をわける象徴的なものである【有効数字】を扱います。
物理・科学・生物・地学は【自然科学】ですが、数学は【自然科学】ではありません。単純に【理系】【文系】と分けたときには数学と理科は同じ【理系】に分類されてしまいますね。でも、数学は【数学】という【自然科学】とは違うカテゴリーの学問なのです。
その違いが一番はっきりするのが数値の扱いです。
たとえば数学で【9.86】といえば、9.86そのままの数値です。
しかし、自然科学で【9.86】と行った場合は、9.86そのものではありません。
詳しくは、プリントを見ながら解説していきます。
ところで、冒頭のイラスト、ガリレオ・ガリレイは、16世紀から17世紀にかけての人。1589年頃、物体の落下運動の研究を行っています。その3年前の1586年には、オランダの数学者ステヴィンが分数を小数に表せることを示したとされています。
小数自体の起源は、1530年にドイツのクリストフ・ルドルフが出版した何冊かの本だといわれています。ルドルフは小数点のかわりに縦棒【|】を使っていますから、さきほどの【9.86】は【9|86】と表します。
なお、小数点記号は様々な表し方があり、【9・86】【9,86】などとも表します。
こうした数の歴史については、また別の記事でまとめますので、このくらいで。
ガリレオの時代にはすでに小数が存在していましたが、ガリレオの本には小数が登場しません。同じ時代のケプラーは数学に詳しく、1619年に発表されたケプラーの第3法則には【1.5乗】という表現が使われています。これは1614年にスコットランドの数学者ネイピアが発明した対数を用いた両対数グラフの傾きから求めたものです。(ネイピア自身も、小数を大いに使っていました)
前置きが長くなりましたが、有効数字のプリントを見ていきましょう。
描き込むところはほんの少ししかありません。
タイトルナンバーが【0】になっているのは、授業プランのどこにでも入れられるようにするためです。
本当は、物理の講義の最初に有効数字の説明をして、数学と自然科学の数値の違いを話すべきでしょう。ぼくも、以前はそのように教えていたのですが、学生は有効数字の扱いに気を取られて、かんじんの物理現象に集中できないのですね。それで、物理の学習になれるまでは、有効数字を教えないという方法に切り替えました。
ぼくの講義プランでいうと、プリントの1〜4までで、等加速度運動や相対速度を学び終わり、定期考査を一度経験したあとに、有効数字を教えています。ちょうど、このあと、重力中の運動を扱うので、その問題演習をしていくとき有効数字を知っていると便利なのです。
1.は有効数字の意味を教えるとともに、数学と自然科学の数値の【決定的な違い】に言及します。これは、描き込みのプリントを見た方が、わかりやすいので、そちらを見ていきましょう。
でも、その前に、1.の鉛筆の図を見て、描き込む枠のところにはいる数値を考えてみてください。
定規のめもりから鉛筆の長さが9.8より大きいことはわかります。その次の数字は、最小めもりを10等分して、目寸法で読まなくてはいけません。
では、いくつと読めたでしょうか?
プリントには【9.86】とありますが、ぼくはいつもクラス全員がどの数字を選んだか、その場で人数を調べ、黒板に書いて見せています。
これは、クラスごとに違う数字にして講義をします。そのクラスでその値を選んだ人が多い数値を書いています。
クラスによっても、年度によっても、一番人数の多い数値は異なります。
この描きこみを作成した年度の学生は【9.86】を選んだ生徒が最多数でしたので、それをもとに描きこみを行いました。今年の学生は【9.85】を選ぶ生徒が最多数でしたね。
もちろん、その数字の前後の数字を選ぶ学生も多いのですが、結果はかなりばらつきます。
同じように【9.86】と読んだ人もいるでしょうし、【9.85】や【9.84】【9.87】と読んだ人もいるでしょう。
つまり、それほど、人間の目(というより、判断)は当てにならない、ということです。
自然科学で扱う数値はほとんどがこのような【測定値】ですので、数学の数値のように【確定した数】ではありません。
【測定値】は測る人により異なるのです。これは、どんなに注意深く測定しても生じる違いで、専門用語では【必然的偶発誤差】といいます。
有効数字の説明とその意味は、描きこみの通りですが、大事なことなので、解説しておきます。
まず、測定値【9.86】の3つの数字【9】【8】【6】は、実際に測定した意味のある数なので、有効な数字すなわち【有効数字】と呼びます。
また、このように【有効数字】が3つ並んでいる数値のことを【有効数字3桁】と呼びます。ここでの桁数は通常の意味の数字の桁数ではなく、あくまでも【有効な数字がいくつ並んでいるか】という意味です。
この【有効数字桁数】が、実際の計算での有効数字の扱いでは重要になりますので、この言葉を覚えておいてください。3.1なら有効数字2桁、3.12なら有効数字3桁です。詳しくはプリントの2.に書いてありますが、2.の話はもう少しあとに説明することにしておきます。
つぎに、測定値として得た【9.86】という数値ですが、それがぴったり9.86だと考えた人はほとんどいないでしょう。実際の鉛筆の長さは【9.85から9.87の間の数値】と判断し、その中で一番近い数字として【9.86】を選んだはずです。
【9.85〜9.87】を【9.86±0.01】と書くこともできます。この【0.01】が【誤差】と呼ばれるものになります。ですから、誤差とは【間違った値】ではありません。むしろ、この範囲の中に真の値があるという【測定者の自信の幅】を示す量です。
最後に、もっとも重要なことが、【9.86】が【不確かさを含んだ数値】であるということです。ここが、数学との決定的な違いです。
アンケートで集計したように、【9.86】はたまたまこの年度の学生が選んだ【最多の値】というだけであって、もしかしたら【9.85】や【9.87】かもしれないのです。一番最後の数字【6】は【5】かも【7】かもしれない、【不確かな数字】だということですね。(実際、さきに述べたように、ほかの年度では【9.85】が最多になったりします)
そうすると、これらの測定値を使って他の量を計算する場合、その不確かさがどんどん拡大していくことになります。
そこで、自然科学では、計算した結果の数値がどの程度不確かであるかを知る方法が必要になるのです。それが【有効数字】を用いる意味なのですね。
それでは、プリントの順番とは違いますが、後半の3.を見てみましょう。
このプリントの3.(1)(2)の筆算を使った解説は、ぼくのオリジナルではありません。昭和29年に出版された『誤差論』(一瀬正巳:倍風館)に原型があります。(もちろん、ぼくが手に入れた本は昭和53年に刷られたものですが)
このプリントの説明は、不確かな数が広がってい様子をこの本より少しだけ、わかりやすく書き直したものです。
【不確かな数】の印として、数字の下にギザギザ線〜〜をつけました。この数字がかかわる計算は不確かな値となるので、その部分にも〜〜をつけてあります。
(1)では【3.2×86.7】という計算を例にしてありますが、これはもちろん、単なる計算ではなく、物理的な意味があります。定規のような細長い、幅3.2センチ、長さ86.7センチの長方形の板の、面積を求める計算だと、考えてください。
この筆算には計算により不確かさ〜〜がどのように広がっていくかがわかるようになっています。
たとえば、筆算のうち【8×32】が【256】になる列を見てください。
確かな【3】(30と考えます)と確かな【8】をかけた【24】(240と考えます)は問題ありませんが、不確かな【2】と確かな【8】をかけた【16】は、不確かな数になります。【2】がもし【1】なら結果は【08】だし、【2】がもし【3】なら結果は【24】ですから、【16】がいかに不確かな数かおわかりですね。
【256】は確かな【240】と不確かな【16】を足した数ですから、【256】の【56】が不確かな数であることはすぐにわかります。(『誤差論』の説明では【6】だけに不確かな数の印がつけてありますが、これではわかりにくいので、ぼくのプリントではこのように変えてあります)
こうして筆算を見ると、最終的な答である【277.44】の数字のうち、【2】以外はみんな不確かな数であることがわかります。
【277.44】の最初の【7】が不確かなのに、それ以降の【7】【4】【4】に何の意味がるでしょうか?
そこで、最初の【7】が【7】と【8】どちらに近い数かを知るために、次の【7】を四捨五入し、その後の数字はすべて捨てます。
こうすると、【277.44】は【280】となりますね。
でも、この【280】の【8】は不確かな数なのですから、それを明確に示す必要があります。このプリントで説明に使った〜〜マークを【8】の下につければよいのですが、必要以上に記号を増やすのは考えものです。
そこで、【測定値では一番最後の数字が不確かだ】というのにならって、不確かな数が数字の並びの最後にくるように書くことにします。
【280】を【2.8×10^2】(*1)と書けば、【8】が不確かな数だとわかります。
(*1)このブログ記事のように、テキスト形式の文章だと指数が書けません。一般的にはテキスト形式で指数を表す場合、【10の2乗】を【10^2】と書くことが多いので、ここでもその例にならっています。
さて、長々と数値の中の不確かな数がどのように計算結果に反映するかを述べてきました。これは、説明のためにやったことですので、実際に有効数字を扱うさいには、この結果だけ使えればじゅうぶんです。
もう一度、計算する前の数字と、計算後の数字を見てみましょう。
計算に使った測定値【3.2】は【有効数字2桁】です。【86.7】は【有効数字3桁】。そして、この2つをかけた結果の【2.8×10^2】は【有効数字2桁】になっています。
この例から、有効数字についてのルールが見えてきますね。
有効数字桁数の異なる数値をかけ算した結果の数値は、【有効数字の少ない方の桁数になる】というルールです。
これは、わり算の場合も同じになります。
まとめると、【かけ算わり算では、計算した結果は有効数字の少ない方の桁数になる】となります。
これは、実際の計算作業では、とてもカンタンで強力なルールとなります。
問題文に出てくる数値をざっと見れば、答の有効数字が何桁になるか、最初からわかるのですから。
たとえば、その数値が14.7、9.8、3.0などと書いてあったら、有効数字が3桁、2桁、2桁の数ですから、これらの数を用いて計算した結果は、有効数字2桁になるとわかるのですね。
でも、(2)の足し算、引き算のときは、これとは違うルールになります。
これはプリントの筆算を見ていただければもうおわかりかと思いますが、足し算や引き算の場合は、結果的に小数点以下第何位かでそろえる計算になります。(2)の例では、小数点以下第1位でそろえる計算になっていますね。
中学校では、計算は【小数点以下第1位まで求めよ】なんていう問題がよくありますが、これは有効数字の【足し算と引き算のルール】だったんですね。
さてさて、有効数字について、3(1)と3(2)の2種類の計算方法があるというのは、とてもややこしいのですが、安心してください。通常、ほとんどの問題の場合、かけ算わり算と足し算引き算が混ざった計算になりますので、結局、3(1)のルールが支配的となります。
当面の間は3(1)だけ覚えておけばじゅうぶんです。純粋な足し算と引き算のときだけ、中学校の時のルールを使うんだったな、と思い出してもらえればよいのです。
なお、3(3)では、測定値を次々に計算していく場合に、不確かさが無意味に広がらないようにする具体的な手順を紹介しています。これも、実際の計算では必須の知識になりますので、よく理解しておきましょう。
こちらは、細かい解説をしなくても、プリントを読んでいただければ、すぐにわかると思います。
問題が小問に分かれている場合、問1で出した答を問2で使う、という場合があります。有効数字の桁数を考えて出した答を、次の問に使うと、計算の結果の数値が、まとめて計算したときよりずれていくのですね。このズレを防ぐために、二つの方法がとられます。
1つめは、【計算の途中で出た数値をそのまま次の計算に使う】というもので、もっとも単純な方法になります。
でも、その数値をそのまま使わなくても、最終的な有効数字の桁数(例題の場合は有効2桁)より1桁だけ余分にとって使うという方法があります。実例を見てもらえれば、その場合も、最終的に有効2桁にすると、そのままの数値を使って計算したときと同じ値になることがわかりますね。(もちろん、少しずれることもありますが、そのズレはわずかです)
2つめが、このやり方になります。【最終的な有効数字の桁数より1桁多くとって残りは捨て、次の計算に使う】という方法です。
これは、無理数など、数字が延々と続く数値を使って計算する場合にも使えます。例2をごらんください。
プリントを少し戻りますが、最後の最後に、前半の2.に戻り、有効数字を表記するときの注意事項を見ておきましょう。
初心者がよくやるまちがいを書いてあります。
もっとも多いまちがいが、【位取りの0】を有効数字の桁数に加えてしまうというもの。
プリントには物理での具体的な例が書いてありませんので、ここで紹介しておきます。
たとえば、長いものの長さをあなたが定規で測って【31センチ】という測定値を得たとします。(ずいぶんあらっぽい測り方ですが、話を簡単にするためです)
この【3】【1】はともに測定した値なので、有効数字です。有効数字2桁の数値ですね。
でも、これをメートル表記したら、どうでしょう。
【0.31メートル】となりますね。小数点の前の【0】が自動的に現れてしまいました。この【0】は【位取りの0】といって、単位を変えたときに現れるもので、測定した【0】ではありません。だから、この【0】を有効数字の桁数に入れてはいけないのです。
でも、もし測定値が【0.30メートル】だったら、【3】の右側の【0】は書かなくてもいいものをわざわざ書いていますね。これは、この【0】が測定した有効な数字だから、わざわざ書いてあるのです。
簡単に覚えるなら、左側の【0】は【位取りの0】、右側の【0】は【有効数字】となります。
2.に書いてあることは、有効数字の扱いに慣れてくると、間違える人はほとんどいなくなります。(いつまでも間違えている人は、ものごとを自分の頭で考えずに学習している人でしょうね。こういうのを学習といっていいのかどうか、疑問ですが)
では、今回はこのへんで。
たいへんな状況が続きますが、新型コロナに負けず、自分の頭で考えて、学習していきましょう。
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