物理ネコ教室002物体の運動 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 物理学の基礎手段、つまり、実験により理論を検証するという方法は、ガリレオ・ガリレイから始まりました。

 上のイラストはガリレオと同時代の人で、惑星の軌道が楕円だと見抜いたケプラー。

 ケプラーはガリレオと違って、天文学主体の研究者ですが、今回のテーマにはちょっとかかわりがある人なんですね。

 

 あまり知られていないことですが、向きのある物理量ベクトル(vector)は、もともと惑星の楕円軌道において、楕円の焦点にある太陽と惑星を結ぶ線を意味する言葉だったそうです。(*1)

 それが向きのある物理量を表す言葉として使われるようになり、もともとの意味はなくなってしまいました。

 

 物理で最初に学ぶのは、力学といわれる分野です。一言で言えば、粒子の運動を扱う分野ですね。

 それでは、プリントを見て行きましょう。

 

 

(*1)バークレー物理学コース「力学」より

 

 

 高校ではわりと本格的な物理を学ぶのですが、物理の本質を伝える、という観点でいうと、日本の物理教科書は、物足りないですね。

 

 ぼくの講義では、その辺を埋められるように構成しています。

 

1.ベクトルとスカラーは、物理の学ぶ前に、いわゆる【物理量】(オブザーバブル)について、ざっくり二種類ある(本当はもっとあるのですが、高校では2種類しか扱わないので)ことを説明。

 

 これは、知識だけ伝えても感覚的にわからないので、いつも具体的な質問から入ります。

 

 例えば、ネコがいて、それが1秒間に5メートル進むことがわかっているとします。そのネコをつかまえるのは、どうしたらいいでしょうか?

 

 この答は、のちほど。

 

 この宇宙には、向きのあるベクトル量と向きのないスカラー量があり、向きのない量に通用する算数の規則が、向きの無い量には通用しないことを説明します。

 

 端的に言えば、1+1=2となるのが、向きのないスカラー量の規則ですが、ベクトルに関してはこのルールが適用できません。

 

 まだ数学でこれらのことを習っていない学生に、1+1が2にならない量があるよと告げるのは、むつかしいですね。

 

 もともと、ベクトルは数学ではなく天文学や物理で生まれた概念ですが、それはあくまでも歴史的なお話し。学習の順序としては、数学でベクトルを習ってから物理の講義を受ける方が効果が高いでしょう。

 

 ベクトル(vector)はケプラーの楕円軌道に由来する用語だという事はわかったのですが、はたしてスカラーというのは何語なんでしょうか。

 

 いろいろ調べましたが、いまのところ、最初にこの言葉を使った人はわかりません。

 

 どうやら、sclaleつまりスケールという言葉から生まれた専門用語のようです。つまり「測れるもの」という意味の言葉らしいですね。

 

 この宇宙に存在する物理量は、スカラーとベクトルの2種類・・・というわけではないのですが、高校で扱う範囲では、このくらいの仕分けでじゅうぶん、ということでしょう。

 

2.物理量と単位も、深く話せば1時間ではすまない、深い内容を含んでいます。でも、初めて物理を学ぶ学生には、むつかしすぎる話でもあります。

 ですから、教科書も、物理量と単位に関しては、本当にちょろっとしか説明しません。

 本当は、単位というものは、自然科学にとって、非常に深い意味があるのですが・・・

 このプリントでは物体の運動がテーマなので、この内容については、軽い扱いにしてあります。

 

3.と4.は、物理用語でよく混乱する変位と距離、速さと速度の関係です。単純に用語の問題なのですが、無用の混乱を招いています。

 

5.から先は、ガリレオの研究結果ですね。

 最初から、今と同じ内容を研究していたのがスゴイですが、この頃はまだ代数的な数式の扱いはありません。教科書にある数式は、その後、代数が発達して数式で表すようになった式、ということになります。

 が、それは表現上のことであって、物理的な内容は、すでにガリレオがこの時期にすべて見抜いています。

 

 運動も含め、物理学の法則は長い間、幾何学で説明されてきましたが、それを代数的(つまり、みなさんのよく知っている文字の式)に表すのは、ガリレオと同時代の数学者、デカルト(むしろ、哲学者として有名)が始めたことです。

 

 等速度運動(等速直線運動)は、もっとも簡単な理想的な運動です。

 

 これを本格的に調べ、それまでやみくもに信じられてきたアリストテレス的な世界観に、実験結果を盾にして挑んだのが、ガリレオ・ガリレイです。

6.は平均速度と瞬間速度の紹介ですが、ぼくはいつも、ゼノンのパラドクスを紹介して、学生に考えてもらっています。

 

 ゼノンのパラドクス【飛んでいる矢は、止まっている】・・・すごい速さで動いている矢も、瞬間瞬間は止まっているので、矢の運動は、止まっている状態の連続だ、というパラドクスです。

 

 あなたは、どう答えますか?

 

7.ついに、等加速度運動。これも、ガリレオが完璧に研究しています。

 

 では、歴史的なことはこのくらいにして、実際の講義内容に移りましょう。

 

 

 

 さて、運動の基礎に入りますが、物理量の多くが向きを持つベクトル量であることは、中学校までは無視されています。

 

 そこで、そのイメージをわかりすくするための具体例がいりますね。

 

 描き込みのメモに【ブーメラン】とありますが、いつもこの講義の時は、手作りブーメランや動くおもちゃなどを持っていって、実際に動かして見せ、向きの変わる運動を見てもらっています。

 

 【向きの変わる運動】を実際に目で見て体験するのが、ベクトルの性質を考えるのに、一番わかりやすいからです。

 

 ベクトル量のうち、もっとも単純なのが、変位ですが、変位という概念は初めて習うので、なかなかわかりにくいですね。

 

 最初の問に戻りますが、1秒間に5メートル進むネコが1秒後にどこにいるか、わかるでしょうか?

 運動には方向がともないます。ネコが西に向かって5メートル進むのか、東に向かって5メートル進むのかわからなければ、ネコをつかまえることはできません。

 

 さらに、ベクトル量の足し算のルールも、普通の足し算とは違うことがわかります。

 3.の問題を解いてもらうと、答は学生によって千差万別。でも、A→Bの距離を26mとする人がけっこういます。

 これは、距離と変位の区別がついていないからですね。

 

 さらにいえば、14mという値はわかっても、答に向きをつけない人が圧倒的に多い。

 変位は向きがある量だと教えても、具体的な問題を解くと、ほとんどの人が答に向きをつけ忘れてしまいます。

 

 だから、こういうバカバカしいような例題をやっているのですが・・・

 

 でも、おもしろいもので、この問題で間違えた人の多くは、次の似たような問題で間違えなくなります。

 教育成果、ということでしょうか。

 

 ところで、変位は【位置の変化分】・・・英語のdisplacementも、位置(place)の変化分(dis)で同じ意味の言葉ですから、変位は英語の直訳です。

 

 変位は位置の変化分ですから、本当は描き込みにあるように、立体的な関係で変位を理解する方がわかりやすい。

 【東へ5m+北へ5mの合計は?】

 と聞くと、変位のイメージを理解していない人はかならず「10m」と答えます。

 

 実際に動く様子を絵に描けば(プリントの描き込みを見てください)、ネコは北東へ向かって5√2mつまり約7m進んだことがわかります。(プリントの書きこみでは東へ2m+北へ2mで北東へ2√2mになっていますが、この数字は、そのときの気分で変えています。5mの方がよいでしょうね)

 5+5=10でなく、5+5=7が正解。

 これが、向きのある量、つまりベクトル量の計算です。

 つまり、1+1=2という、当たり前のように信じてきた算数のルールは、ベクトル量にはまったく通用しない、ということです。(このベクトルの足し算については、もう少し後の講義でじっくりやります)

 

 しかも、この宇宙にある物理量の多くがベクトル量なので、小学校中学校を通じて覚えてきた1+1=2という算数のルールは、自然科学の世界では役に立たないことになります。

 

 ちょっとショックですが、のちのプリントを見てもらえれば、まるっきり役立たないということではないことがわかります。安心してください。

 

 4.の速度も、やはりベクトル量。例えば、新幹線が時速200キロで走っているとして、その運動がわかるでしょうか?

 新幹線の列車が東京に向かっているのか、大阪に向かっているのかわからなければ、いくら時速がわかっても、列車の運動を知ることはできません。

 

 運動に関わる物理量はほとんどすべてベクトル量なので、大きさと向きを持ちます。

 

 しかし、初学者にとって困るのは、習い始めの二つの物理量である【変位】と【速度】が、二重の名前を持っていることです。これは、学生にとっては、混乱のもとです。

 

 多くの物理量がベクトルなので、向きと大きさの両方を持ちます。したがって、例えば【力】の場合、【力の大きさ】と【力の向き】という、単純な表現で力の二つの要素を表します。

 つまり、ある物理量○○がある場合、それを【○○の大きさ】と【○○の向き】という表現で表すのですね。

 

 ところが、よりによって、最初に学習する二つのベクトル量、【変位】と【速度】はとても特殊で、物理量の大きさを表す言葉が別にあるのです。

 

 【変位】(displacement)の大きさを示す【変位の大きさ】という言葉はほとんど使われず、別名として【距離】(distance)という言葉を使います。

 同じように、【速度】(velocity)の大きさを示す【速度の大きさ】という言葉はほとんど使われず、別名の【速さ】(speed)を使います。

 

 じつは、このように、ベクトルの大きさを示す言葉が別立てになっているのは、【変位】と【速度】だけなんですね。それ以外の物理量は、すべて【○○の大きさ】と【○○の向き】という表現で表すことになっています。こちらは単純なので、混乱しません。

 

 ベクトル量として初めて習う【変位】【速度】が、例外的な言葉の使い方をする物理量であるため、初学者はかなり混乱します。物理的な内容を理解すると同時に、新しい言葉も覚えなくてはならないからです。

 

 ぼくは、講義では、このへんの事情を早めに話して、こういう特殊な言葉遣いをするのは【変位】と【速度】だけだから、基本的には【○○の大きさ】と【○○の向き】でいいといっています。

 言葉の使い分けまで覚えるのは、物理の本質ではありませんから。ほんと、どうでもいい。ぼちぼち身につければいい知識です。

 

 ちなみに、すべての例題を、ぼくは生徒に質問して、まず解いてもらっています。

 間違えることに意味があると思っているからです。

 

 3.の答はほとんどの学生が【向き】の記述を忘れて間違えますが、一度間違えると、もう二度と間違えません。

 こういう【洗礼】を体験すると、4.の問で、向きを書き忘れる学生は、ほぼいなくなります。

 

 5.から先はガリレオ・ガリレイの研究成果そのものですので、400年以上前のことを学習していることになります。

 

 中学校では、平均の速度と瞬間の速度を区別していませんので、それをチェックしておく必要もありますね。

 

 これも、動物などのおもちゃを歩かせてみると、すぐにわかります。

 おもちゃの運動は、刻一刻、速くなったりおそくなったりをくりかえしていて、一定の速さで動くことはありません。

 

 

 6.の平均速度、瞬間速度。

 速度を定義するのには必ず異なる2点が必要です。それは、平均の速度の式を見れば明らか。

 ゼノンのパラドクス【飛んでいる矢は止まっている】の間違いは、瞬間の速さをただ1点で定義しようとしたために生じたものです。

 平均速度を計算する2点をどんどん近づけていけば、その平均速度は1点を通過するときの瞬間速度にどんどん近づいていくはずだ、というのが、近代以降の物理学の立場です。

 ですから、すごく短い時間Δtの間に、すごく短い変位Δx動くとして、Δx/Δtを瞬間速度とするのです。

 この値は、直接ΔxとΔtを測る実験によって求めることができません。

 ΔxもΔtも限りなく0に近い大きさだからです。

 

 これを数学的に計算するには、微分という新しい数学が必要ですが、高校生の場合は、2年の最後あたりで学習する内容になっているので、使うことができません。

 したがって、高校物理は微分を使わずに教えるように構成されています。

 

 本当は、物理学は微分と積分を使わないとかえってわかりにくくなる学問です。だから、大学以降では、物理の講義は微分積分の嵐。

 そもそも、微分は物理の計算をするために、あのニュートンが考え出した数学なんですから。

 

 瞬間速度の式v=Δx/Δtは、微分ではv=dx/dtと表されます。ほとんど同じ形式ですね。

 

 ・・・と説明すると、「じゃあ、微分をならってからじゃないと瞬間速度を求めることができないじゃないか」と思ってしまいます。

 

 だいじょうぶ。

 

 微分・積分を知らなくても、それに相当する計算方法が別にあります。

 

 7.を見てみましょう。

 

 教科書などでは、等速度運動を数式で表し、その数式をグラフにして・・・と、すいすいと説明が進んでいきますが、これはどうでしょう。

 

 そもそも、数式とグラフの関係も、数学での予備的な知識がないと、わからないものです。

 

 このプリントでは、そういうテキトーさは避け、具体的な運動を調べて、表を作り、その値をグラフに1個1個点を打つことで、グラフのイメージがわかるようにしています。

 

 1秒後、2秒後、3秒後の速度vと変位xを書きこみ、さらにt秒後も考えてもらいます。

 v=5、x=5tという式は、ほとんどの人が自分で書くことができます。

 

 次に、それを横軸をt、縦軸をvやxにしたグラフ上に、点を打ってなめらかにつなぎ、グラフを描きます。

 

 ここで、ちょっとした発見遊びをします。

 

 プリントにヒントがありますが、xのグラフの傾きには、ある量が隠れています。また、vのグラフの面積には、ある量が隠れています。それを探そう、という遊び。

 

 全員がわかるわけではありませんが、どのクラスにもカンのいい人がいて、ちゃんと見つけてくれます。

 

 変位xのグラフの傾きは速度vに当たり、速度vのグラフの面積は変位xに当たります。

 

 もっと複雑な運動でも、この関係はそのまま保たれるので、変位xのグラフを描いてその傾きを求めれば、速度vが求まります。

 これは、さきほど紹介したv=Δx/Δtの計算と同じ内容なんですね。

 したがって、微分を知らなくても、グラフの傾きを求めることが、微分計算をしたことと同様の結果になるのです。

 

 また、速度vのグラフで面積を調べることが、積分計算に相当しますので、やはり積分を知らなくても、同等の計算ができることになりますね。

 

 微分積分を駆使して計算するのは、2年ほどお待ちください。

 

 

【追記】ひさびさにやらかしてしまいました! 書きかけの内容を、下書き保存するはずが、まちがえて公開してしまいました。読んでいて「なんかおかしいな」と思ったアナタ、正解です!

 科学史的な記述は、記事の前半に、講座の様子は後半になるように、記事を編集し直し、書いていなかったプリント後半の内容を追加しました。

 書きかけの記事を読まれた人は、ぜひ、もういちどご覧ください。

 あ〜、ハズカシ!

 というわけで、公開しなおします!

 

 

<物理ネコ教室1年>

 

 

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