物理ネコ教室006相対速度 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 相対運動の本質は、すでにガリレオが発見しています。「ガリレオの相対性原理」と呼ばれるものがそれです。一言でいうなら、止まっている人から見た世界と等速度運動をする人から見た世界は、同じ物理法則が成り立つので、実験により区別することができない、というもの。

 ただし、これは力学についての話で、電磁気の法則になると、うまく行きません。それを電磁気も含めて拡張したのが「アインシュタインの特殊相対性原理」です。(アインシュタインは、さらに加速運動をする人から見た世界にもある考えを導入することで、同じ物理法則が成り立つという「一般相対性原理」も提唱しています)

 

 高校物理では相対速度について、「相対性原理」を中心に置いた教え方はしません。しかし、相対運動の本質は「相対性原理」にあるので、本質的な理解がほしいですね。

 というわけで、ぼくのプログラムでは、「相対性原理」に基づいた相対速度の理解ができるようにしています。

 

 その方が、より物理現象の本質がわかり、相対速度を理解しやすくなるからです。

 では、プリントを見ていきましょう。

 

 

 物理を学ぶ高校生には【苦手】となる分野があり、ここで学ぶ【相対速度】も、その一つです。

 はっきりいえば、この【相対速度】を学生が苦手とする理由は【教える側】つまり【教科書】や【教師】にあります。

 どの出版社の教科書でもよいから、手に取って、相対速度のページを見てください。

 

 どの本でも、【相対速度=相手の速度から自分の速度を引いたもの】という説明がなされています。

 

 この説明は、二重の意味で、よろしくない。

 1つめの理由は、数学でベクトルなどの数学的な素養を身につけている前提で、記述されていること。

 1年で物理を学習するカリキュラムになっている高校が増えているにもかかわらず、教科書は相変わらず昔のままで、これでは、初めて物理を1年でならう学生は、たまったものではありませんね。

 

 2つめの理由は、より本質的です。

 【相対速度=相手の速度から自分の速度を引いたもの】という説明が、そもそも、物理的な説明を放棄しているのですね。

 なぜ、速度を引いたものが【相対速度】になるのか?・・・その説明がありません。

 教科書では、ある特定のケースを用いて説明をしてます。(それは、プリントの4.別の作図法に書きましたので、そちらをごらんください)

 

 しかし、汎用性のない説明なので、より本質的なことを知りたい【未来の物理学者】にとっては、意味のない解説になっています。

 

 ぼくの講義では、相対速度の解釈を、物理現象を基本において説明しています。

 

 昔は自分がやっている解釈は【物理を本格的に学んだ者なら当然の解釈】だと思っていたのですが、長年やってきて、どうやらそうではないとわかってきました。(そうでなかったら、とっくの昔に、ぼくがやっている解釈が教科書に採用されているはずです)

 

 その内容については、描き込みを見ながら、解説します。

 

 

 このプリントの右側は、一直線上の運動の相対速度を数値計算で行う方法を確認し、作図と計算の演習を行うようになっています。合成速度でも同じことをやっていますので、新しいことではなく、単なる応用ですが、一直線上の運動に限れば、数値計算もよく使いますので、理解しておく必要があります。

 相対速度の作図は、慣れないと間違いやすいので、じゅうぶん練習しておきましょう。

 

 では、描き込みを見ていきます。

 

 

 ぼくが講義でいつも最初にいっているのは、プリントの一番上にイラストで描いた内容です。

 走っているネコが、座っているネコに対して「オーイ、どこ行くの?」と聞いています。座っているネコは「動いているの、そっちでしょ」と冷ややか。その傍らで第3のネコが「じつは【絶対静止】なんてないの」とつぶやいています。

 これこそが「ガリレオの相対性原理」です。

 

 ちょっと長くなりますが、重要なことなので、少し詳しく解説しておきます。

 

 教科書では「動いている人からほかのものを見たときの【みかけの速度】が相対速度である」というような記述が、一般的です。

 イラストの例でいうと、座っているネコは、やっぱり止まっている、動いているネコから座っているネコが動いているように見えるのは【見かけの現象】だ、という理解です。

 

 しかし、これは、ニュートン以降、19世紀末までの物理学者の理解です。ニュートンは宇宙のどこかには絶対静止している場所があるという前提で物理理論を組み立てています。

 

 20世紀に入ってまもない1905年、アインシュタインが「ガリレオの相対性原理」をすべての物理法則に拡張した【特殊相対性理論】の論文【動いている物体の電気力学】を発表し、物理学に革命が起きます。

 それまで、ニュートンたちが当たり前だと考えていた【絶対的に静止している空間】が、じつは存在しないことを、アインシュタインが提唱したのです。

 

 この相対性理論は、その後実験的にも実証され、【絶対静止】は過去の幻想になりました。

 それが、第3のネコがいう「じつは【絶対静止】なんてないの」という言葉なんですね。

 

 ぼくは相対速度の講義の時、かならずこの話をします。

 そもそも、すべての運動が【相対的】なのですから、速度はすべて相対的なものです。だから、【相対速度】という言葉自体が無意味なのですね。

 でも、高校物理では、普通、そこまで本質的な話は触れませんので、相対速度は「みかけの速度」という扱いになっています。

 

 ぼくは、物理を初めて習う学生にとっても、こういう重要な【知識】は、物理教師が伝えるべき内容だと信じていますので、この話題は必ず紹介しています。

 

 では、お待たせしました。プリントの解説に入っていきましょう。

 

1.逆ベクトル

 こんな質問をされたら、どう答えますか?

 「このプリントでは、あるベクトルと同じ大きさで逆向きのベクトルがいっぱい出てきます。そこで、そのベクトルの記号を決める必要があります。一目見て、そのベクトルと大きさが同じで向きが逆とわかる記号がいいですね。物理学者はいろんな記号を考えますが、数学者はそれらの記号には反対し、別の記号を提唱します。そして、数学的な記号については、ほとんどの場合、数学者の提唱した記号が使われるようになります。では、自分の思いついた記号を言ってください。みなさんの中で、数学者と同じ発想の人がどのくらいいるでしょうか」

 

 物理学者に限らず、自然科学をやっている人たちは、記号については無頓着で、その場その場で思いついた記号を平気で使います。

 でも、数学の人たちは、それまでの数学の資産が生きるように、もっともふさわしい記号を使うんですね。

 

 さて、学生に次々に聞いていくと、でるわでるわ、物理学者と同じ発想の人がいろんな案を言ってくれます。

 

 一番多いのが、ベクトルの記号として物理量の記号の上に描く矢印(→)を、反対向きに描く(←)方法です。

 他には、文字にダッシュマークをつける、文字を大文字で描く、文字を鏡文字で描くなど・・・書ききれないほど、多くのアイディアがでます。

 

 でも、数学の人が採用したのは、ベクトル記号の前にマイナス符号【−】をつける記号法。

 なぜなら、あるベクトルと大きさが同じで向きが逆の逆ベクトルを足す(連結法でつなぐ)と、点になってしまいます。つまり、ゼロベクトルですね。

 数学には、向きのないスカラー量について、ある数と−数を足すとゼロになるという資産があります。例えば【2+(ー2)=0】のように。

 数学の人は、これらの資産がそのまま生かせるように、ベクトルに関しても−符号を使うことで、ベクトルもスカラーも同じように扱える可能性を残したんでしょうね。そして、それは見事に成功しています。(数学の人、スゲー!)

 

 どのクラスでも、ベクトル記号に−をつければいいいという発想に思い当たるのは、多くても数人です。いかに、数学的な思考方が特殊な才能であるか、わかりますね。

 

2.相対速度

 

 ここに書いてあるのが、いってみれば【ひろじオリジナル】の解釈。というより、本格的な物理学での相対速度の解釈になります。

 

 動いている人から、まわりの景色を見れば、景色が後ろへ流れていくのが見えます。

 

 自分が時速100キロで動いていれば、当然、景色は時速100キロで後ろへ流れていきます。

 つまり、動いている人から見た全世界は、後ろ向きに流れている【川】になってしまっているんですね。

 そうすると、その流れる世界で進むほかの物体は、前のプリントでやった【二つの速度の合成】の運動をすることになります。

 なんのことはない、前回理解した【川の上をすすむ船】の応用として【相対速度】を考えることができるんですね。

 

 2.の図にあるように、クルマAに乗っている人には、まわりの景色がーvAでうしろへ流れていくのが見えますから、クルマBはその流れる景色の中で進むわけです。つまり、Aさんから見たBさんの運動は、【もともとのBの運動+流れる景色の運動】という、合成運動になるのですね。

 結果的には、すごくカンタンで、【Bの速度vB】+【流れる景色の速度-vA】が【Aから見たBの相対速度vAB】になります。

 

 これを数学的に表現すると、vAB=vBーvAとなります。ベクトルの引き算ですね。

 

 でも、学生のもっている問題集や教科書は【ベクトルの引き算】で説明していますから、ベクトルを数学で習っていない学生にわかれという方がおかしい。

 

3.は、相対速度の作図の練習です。「景色が流れる」というのは、実体験に即した説明なので、それほど理解がむつかしくありません。「流れる景色の中を相手が進む」と考えて図を描くだけです。

 

4.は、相対運動の本質ではありませんが、次善の策として、相対運動をなんとか理解しようというときに使われる説明です。参考書や教科書によく採用されている説明です。

 自分と相手の出発点をむりやり同じ場所に移して、その後の運動を考える、という発想です。

 1秒後には自分も相手もそれぞれの速度分の距離、速度の向きに進んでいますから、ちょうどそれぞれの速度ベクトルの終点(矢印のアタマ)に来ています。自分から見ると、相手はこちらの矢印のアタマからむこうの矢印のアタマに向かう矢印の方向に、その矢印の距離だけ離れているので、図のようにこちらからあちらに伸ばした矢印が相対速度を表します。

 描き込みの図は、2.の例を用いて書き直したものです。

 

 これは「自分の速度から相手の速度に向かって矢印を引けば、それが相対速度になる」と覚えることで、一見、簡単に覚えられる方法に見えます。が、その前提として、「自分と相手の出発点を同じ場所にする」という作業を入れないといけないので、十分気をつけましょう。

 例えば、3.の問の図なら、うっかり次のように描いてしまいがちです。

 

 

 こんな図では、大失敗ですね。

 

5.の問は、2.の応用の練習問題ですが、相対速度のもう一つの物理的な意味を確認するための問題でもあります。

 4.と2.のどちらの作図でもよいのですが、描き込みの図のように、vBAはvABと同じ大きさで逆向きのベクトルになっていますね。

 これは、運動の相対性を考えれば当たり前のことですが、うっかり忘れがちになることですので、気をつけておきましょう。

 

 では、後半を見ていきます。

 

 

 

6.一直線上の運動の相対速度

 ここでは、合成速度でも説明した、「向きをプラスマイナスで表して式に代入して計算する方法」を解説しています。これは、今までの等加速度運動の計算でも、使っていた方法ですから、すでに身についている方法ですね。

 でも、ちゃんと確認しておいた方がいいので、しっかりやっておきましょう。作図による方法と数値計算による方法を併記しておきましたので、描き込みをよく見て、理解してください。

 

7.は数値計算による相対速度の練習問題です。

 

8.以降は、相対速度の代表的な練習問題です。とくに9と10は間違いやすいので、よく理解しましょう。7まではvAとvBがわかっていてvABを求める問題ですが、9と10はvAとvABがわかっていてvBを求める問題なので、作図する順序をよく考える必要があります。

 自分で解いた答えと、プリントの描き込みを比べて、よく答え合わせをしておいてください。

 

【追記】

 この記事は、もとになるプリントの構成を変更したため、それに合わせて解説文も全面改訂しました。また、冒頭イラストも、記事内容に合わせてファインマンからガリレオに変更しました。(2020.5.10)

 

 

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