素粒子の謎は深く、宇宙の謎はもっと深い・・・
アメリカのリチャード・ファインマンが生み出した「ファインマン・ダイアグラム」という素粒子反応の経路積分の方法は、それまで無限大が生まれて計算不可能だった素粒子反応理論の問題点をさらりと解決して見せました。同じく無限大の問題を「くりこみ理論」で解決した日本の朝永振一郎、アメリカのジュリアン・シュウィンガーとともに、ノーベル賞を受賞しています。本当はもうひとり、この3人の理論が同等の物であることを証明したイギリスのフリーマン・ダイソンがいますが、ノーベル賞は同時に3人までというルールがあり、その犠牲になりました。
ファインマン・ダイアグラムがなぜうまく行くのか、その物理的な意味は深く、まだ明らかにされていません。粒子が過去から未来へ進むことと、その反粒子が未来から過去へ向かうことを、数学的に同等と見なすことで、なぜか無限大の問題を解決することができたのです。そこにかくれている意味がわかれば、素粒子の世界の謎がさらに明らかになるかもしれません。
では、物理ネコ教室、最後(プリント順での最後ですが)のプリントです。
ガモフの「ビッグ・バン」理論は、もともとガモフ自身がつけた名称ではなく、論争相手のフレッド・ホイルがなかば茶化し気味に「それじゃあ大爆発で宇宙ができたというのか」といった言葉が一人歩きして定着したものです。
ガモフは、宇宙誕生当時に輻射平衡にあった光が、宇宙の膨張によって薄まり、絶対温度3Kに相当するエネルギーの光となったと、計算しました。(ガモフの最初の計算では、当時の宇宙についてのデータが現在とは異なっていたので、7Kくらいだったと思います。なお、現時点では宇宙の3K背景輻射は、輻射と物質が輻射平衡状態にはありませんから、3Kが宇宙の温度、ということにはならず、あくまでも背景輻射が3Kだということですね。今より宇宙が小さかった当初はこれが3000Kの輻射になっており、輻射と物質が熱平衡状態にあったと考えられています)
宇宙の3K背景輻射は、たまたままったく別の分野の研究で発見され、それがガモフのビッグ・バン理論の証拠だと分かって、ガモフの理論は宇宙論の定説になりました。
・・・が、宇宙の観測が進むにつれ、むしろ謎は深まる一方です。
・・・せめて、現在の通説を紹介することで、がまんしていただきましょう。
ビッグ・バン理論による宇宙の歴史については、教科書でも「宇宙の晴れ上がり」など、けっこう詳しい話が載るようになりました。
4つの力は、もともとは1つの力だったと考えられています。この発想は、もともとアインシュタインが考えたもの。アインシュタインが統一場理論を考えたときは、電磁気力と重力だけしか発見されていませんでした。それでもアインシュタインは「力が二つもあるというのは自分には複雑すぎる」といって、一つの力にまとめようとしたといわれています。
現在の理論では、図にあるように、宇宙の膨張に従って力が順に分離し、現在の4つの力になったと考えられています。
アインシュタインの統一場の試みは失敗しましたが、現在でも4つの力のうち、重力だけがなかなか統一できないのですから、アインシュタインが失敗したのも無理はありません。
では、書き込みをご覧ください。
・・・といっても、前半は書き込むところがありませんので、書き込みについては、後半についてだけ解説します。
後半の【統一場理論への道】は、4つの力をまとめる試みをまとめました。
電弱統一理論、大統一理論、超大統一理論と、羅列しましたが、さきほどの力の分離系統図を見ると分かるように、力の分離の歴史を逆にたどるようにして理論が進んでいます。もっとも昔に分離した重力は、なかなかの難物・・・ということになりますね。
いわゆる物理の「最終理論」として、もっとも有望視されているのが、数学的な対称性が一番つよい理論である「超弦理論」です。
これは、前にも登場した南部陽一郎が提唱した「弦理論」をきっかけにして生まれた理論です。
南部の弦理論は、宇宙を物質の集まりと考えず、仮想的な弦の集まりと考えます。そして、弦が切れたとき、弦の二つの断面が粒子と反粒子となる、と考えました。
この話をある会で南部が発表するやいなや、ファインマンが立ち上がって「そんなバカな!」と叫んだという話が伝わっています。どこまで本当の話かあいまいですが、2人の発想の違いがよくわかる逸話ですね。
なお、前回のプリントで紹介しなくてはいけなかったお話ですが、ゲルマンのクォーク理論をさらに発展させた量子色力学も南部の理論です。これも素粒子論者特有の言葉遊びにより命名されているのですが、クォークに3つの「色」(赤・青・緑)を想定し、それらの組み合わせでクォークの組み合わせを理解するというものです。
南部は本来なら、何回でもノーベル賞をとれるような研究をしてきているんですね。なかなか受賞機会がなかったのは、本当に謎です。
小林・益川両氏と共に南部がノーベル賞を同時受賞したとき、益川氏が涙ながらに「南部先生と同時受賞できたのがうれしい」「南部先生はぼくたちのヒーローだった」と語ったのが印象的でした。
南部の弦理論はうまくいかなかったのですが、数学的な対称性を高めた「超弦理論」が誕生すると、最終理論の最有力候補となりました。(といっても、まだどうなるか、わかりません)
超弦理論にもいろいろな種類があり、もっとも有名なのは、10次元の理論です。宇宙ができたとき、そのうち6次元分がおりたたまれてどこかへ隠れてしまい、残りの4次元(空間3次元、時間1次元)分だけが現在の宇宙を作ったとされます。
5【これからの展望】には、科学の矛盾が象徴的に現れています。
新しい技術の発展で、観測データが詳細に取れるようになり、あいまいだったハッブル定数(宇宙の膨張を示す重要な比例定数)を確定されました。そのため、宇宙の年齢がかなりはっきりといえるようになったのです。
137億年プラスマイナス1億年。
これは、すごい精度です。
ところが、ここまで観測が進んでくると、今まで見えてこなかったものまで見えてきます。
それが、最後に書いたコメントです。
最近の天文物理学の研究では、ダークマターと呼ばれる、いまだに観測にかからない物質が、宇宙のどこかに大量にあること、そして、ダークエネルギーと呼ばれるなぞのエネルギーが宇宙の膨張運動に不可思議な要素を与えていることがわかってきました。
そして、ダークマターとダークエネルギーを合わせると、よくわからない謎のものが、宇宙全体の96パーセントほどを占めると予想されるようになってきたのです。われわれにわかっているのは、宇宙全体の4%にすぎない・・・と。
つまり、観測技術が進んだことにより、われわれはまだほとんどなにもわかっていないということが、わかるようになったのです。
・・・なんということでしょう(と、ボケている場合ではないですね)・・・
これを聞いて、大宇宙に対し、人間はじつにちっぽけな存在だと、嘆く人もいれば、むしろ嬉しいと感じる人もいるでしょう。
嬉しく思う人は、科学に向いている人だと思います。
ファインマンは、物理(科学)をやっていく上でもっとも重要なことは「疑問をもつことだ」といっています。それこそが、科学研究の原動力だからです。
謎に満ちた宇宙は、なにからなにまで疑問だらけですから、当分の間、科学をこころざす人たちにとって、疑問のネタが消えることはなさそうですね。
さて、これで、ぼくが理系3年でやってきた授業プリントの公開は、一区切りということになります。
ながながとつきあっていただいて、ありがとうございました。
理系3年生の強い要望で、今年一年、3年の授業プリントの公開をしてきました。なんとか、センター前までにひととおりの内容を紹介することができたので、ほっとしています。
まだ、1年と2年の授業プリントの公開については、ほとんど手つかずですが、それはまた、要望があったときに考えたいと思っています。
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