ボーアは、『マンガで実験』にも『マンガに冒険』にも登場しますが、上のイラストは『マンガで冒険』からとりました。
ボーアの水素原子モデルは量子論の黎明期に登場したので、研究が進むたびに変更が追加され、円軌道が楕円軌道になり・・・世界中を講演に飛び回るボーアについては、前回は円軌道だといい、次はあれは間違い、じつは楕円軌道だと訂正し、次に来たときは軌道はなかったという・・・という笑い話のような逸話が残っています。
ボーアの原子モデルは、水素については成功を収めましたが、その他の原子についてはまったく合いませんでした。しかし、原子のエネルギーがとびとびであるということ、そのエネルギーの差が放射される光のエネルギーに一致するという2点に関しては、どの原子についても成立することが、フランクとヘルツの実験により明らかになりました。
プリントを見て行きましょう。
2のフランクとヘルツは、水銀蒸気の実験から、ボーアモデルとの共通点を見つけました。
水銀原子の構造は水素原子に比べて非常に複雑で、ボーアのやりかたで理論化することはできませんでした。
こういうときは実験物理学の出番です。
この装置では、陽極に飛び込む電子の数が回路に流れる電流値として現れます。これは、光電効果の装置と同様。
しかし、全体にかける電圧を上げていくと、4.9Vに達したとき、いきなり電流値が下がります。さらに、電圧を上げるとまた電流が増えていくのですが、電圧がさらに4.9V増え、9.8Vになるとまた電流値が下がります。これをくり返すわけですね。
この実験結果から予想されることは一つ。
水銀原子にも水素と同様にとびとびのエネルギーの定常状態があり、そのエネルギー差が電圧4.9V分のエネルギーではないか。(もっとも低い基底状態のエネルギーとその上の励起状態のエネルギーの差と考えられます)
電子を1Vの電圧で加速して与えることができるエネルギーを1eV(エレクトロンボルト)といいます。1.9×10^ー19(10のマイナス19乗)Jに相当するエネルギーです。
したがって、この実験から予測できる水銀原子の定常状態間のエネルギー差は4.9eVです。
水銀原子は電子のエネルギーを吸収して励起状態に上がり、次に基底状態にもどるとき、4.9eVのエネルギーに相当する光(紫外線)を発光します。
いったんエネルギーを失った電子は陽極とその前のグリッド(網)との間の逆向きの電圧0.5Vを超えることができず、回路の電流が激減します。
さらに電圧を上げると電子のエネルギーはまた増し、陽極に届くようになりますが、9.8Vになったとき、グリッドの直前では電子のエネルギーはふたたび4.9eVになり、水銀との2回目の衝突でエネルギーを水銀原子に奪い取られ、電子が陽極に達しなくなります。
このくり返しが、プリントのグラフになります。
こちらもまた、原子の定常状態を示す実験。
(1)連続X線は、陽極の金属との衝突で急激に減速した電子が、失ったエネルギー分の光を放射することで生まれます。これは、電荷が揺れれば電磁波が放射されるという、波としての電磁気理論で説明がつきます。衝突のしかたを考えると、衝突後、止まる電子もあれば、跳ね返る電子もあるという具合に、衝突後の電子の運動エネルギーはさまざまで、それに応じて、放射される光(X線)のエネルギーも、さまざまなものが連続的に分布します。
(2)固有X線は、グラフの中で、角のように飛びだしている部分です。これは、陽極の金属の種類で決まっていますから、衝突した電子ではなく、陽極の金属原子から放射された光(X線)だと考えられます。
フランク・ヘルツの実験と同様に、モリブデンなどの原子にも定常状態があることが示されたのです。
それでは、書き込みを見て行きましょう。
といっても、今回は書き込むところが少ないのですが・・・
最後の(問)「4,9Vとなったとき、電流が激減するが0にはならない。なぜか」は、盲点ですが、実験のデータの解釈という点で、重要です。(入試問題でもときどき見かけます)
クラスで聞くと、1人2人は、原因に気がつく生徒がいます。
もちろん、書き込みの通り、希薄な水銀原子の気体ですので、中には水銀原子に衝突せず、陽極へ直接飛び込む電子もあるわけですね。
その分があるため、電流が0に戻ることはないのです。
書き込みの( )は、連続X線が衝突した電子から放射された連続光であること、固有X線が衝突された金属の原子から放射されたとびとびの光であることを、簡単にまとめてあります。
最後の(問)は、やはり実験データの解釈の問題。モリブデンで固有X線の「つの」が見られるのに対し、タングステンやクロムでは「つの」が見られないのはなぜかを考えてもらいます。
もちろん、タングステンやクロムにも固有X線があるはずですが、実験では加速してエネルギーを与えた電子を金属に当てていますので、その電子のエネルギーが金属の固有X線のエネルギーに足りなければ、当然、固有X線は放射されません。
答は、書き込みの通り、「実験のエネルギー範囲内に、タングステンやクロムの固有X線のエネルギーがないため」となります。
これで、高校で学ぶ量子論はだいたい終了です。
しかし、実際にはこの後も、量子論はさらに研究が進み、現在の量子力学として完成しました。
それが、パソコンやスマホなどの現代のIT機器を動かしているのです。
大学で物理を学んだら、ぜひ量子力学まで頑張りましょう。
では、このへんで。
つぎは、特殊相対性理論です。
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