物理ネコ教室280質量欠損 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 20世紀に生まれた新しい物理学(現代物理学といいます)の一つ、量子力学については、初期の量子論について、一通り学びました。次は、もう一つの新しい物理学、相対性理論です。

 

 といっても、高校で扱うのは、ドイツのアルバート・アインシュタインが1905年に発表した特殊相対性理論の方。1915年に発表した一般相対性理論(重力の理論)は、高校では扱いません。

 

 特殊相対性理論も、その成果のごく一部、原子力発電に関係する部分だけをピックアップして取り上げます。

 

 そのため、知識だけ使う内容になっていて、まるで暗記科目みたいです。ばからしいことですね。

 

 この原因は、アインシュタインが特殊相対性理論で導いた、有名な式E=mc^2(cの2乗)の解釈がいいかげんであるためです。また、その成果の一つである結合エネルギーについて、知識だけが与えられるため、本当に何が起きているのかわかりません。

 

 ぼくのプログラムでは、アインシュタインのE=mc^2の本来の意味を最初に理解し、その上で結合エネルギーを理解する(というより、結合エネルギーという概念を使いません)ようにしています。

 

 通常の教科書では扱わない方法ですが、高校生にはこちらの方がよっぽど理解しやすいのです。

 

 では、見て行きましょう。

 

 1は、E=mc^2の本来の意味を押さえています。

 2は、ぼくのオリジナルですが、そもそもどうして質量欠損が生じるのかという原理を説明しています。

 3は、原子核内の核子1個あたりの質量が、原子が大きくなるにつれ、どう変化するかを、2の理論に基づいて計算しています。

 

 4は、核子1個あたりの質量が鉄原子あたりから再び増えていく原因を探っています。やはり、ここでも2で説明した原理を用いて考えます。

なお、4のグラフは、大学の教科書でもなかなか出てこないグラフですが、非常に重要なグラフです。高校の教科書では、一度も見たことがありません。

 

 5は、結合エネルギーと質量欠損の関係をまとめています。

 ついでに、簡単な計算もやっています。

 

 では、書き込みプリントで見て行きましょう。

 

 ぼくのオリジナリティーが非常に高いプリントなので、他の高校の先生が見ても、不思議な感じがするかもしれません。

 

 

1【エネルギーと質量の等価性】

 そもそも、E=mc^2は、エネルギーEと質量mが同じ物であることを示しています。

 が、それをきちんと教えるためには、具体的なイメージが必要です。

 高校の教科書には、その正しいイメージがないのです。

 

 まずいのは、「質量mがすべてエネルギーに変わるとmc^2になる」という一面的なとらえ方です。これはE=mc^2の一面でしかありません。これしか知らないと、なぜ質量欠損が生じるのかという原因が、さっぱり見えてきません。

 

 ここで押さえておかなければならないのは、つぎの「エネルギーEはE/c^2の質量としてふるまう」ということです。質量として振る舞うということは、重力に反応するということですから、その分重くなるんですね。

 

2【原子核の質量】

(1)の例は、現実には測定することができませんが、アインシュタインの式を正しくイメージできれば理解できる話です。そして、これが原子核の質量の理解に直結します。

 二つの玉PとQを理想的なバネでつなぎます。

 バネが自然長のときはばねの弾性エネルギーは0ですから、全体の質量はPとQの質量を足した分だけです。

 しかし、間のバネがのびているときはバネが弾性エネルギー1/2・kx^2を持ちますから、アインシュタインのE=mc^2によれば、そのエネルギーをc^2で割っただけの質量が増えることになります。

 したがって、バネがのびているときと自然長のときのPとQとバネを天秤にのせると、のびている方が下がります。

 

(2)は、これを原子核に当てはめた説明になっています。

 比較しやすいように、陽子一つと中性子一つで出来たデュートロンという原子について考えています。

 陽子と中性子がまとまって原子核を作っているとき、陽子と中性子は安定した位置関係にあります。陽子と中性子は核力とよばれるバネに似た力で結びついています。近づきすぎると反発し、遠ざかると引きあいます。原子核を作っているときは、近づきすぎず、遠ざかりすぎない、ちょうど(1)でバネが自然長になっているのと似た状態になっています。

 

 陽子と中性子を引き離すと、当然、その間にある核力のバネ(これは目に見えません)が引きのばされ、核力のバネのエネルギーがBだけ増えたとしましょう。E=mc^2の式にしたがって、B/c^2の分だけ、全体の質量は増えます。つまり、この状態、陽子と中性子が引き離された状態の方が、陽子と中性子が原子核を作っている状態に比べて、核力のバネのエネルギー分だけ、重くなっているのです。

 

 ところで、核力のバネのエネルギーは、普通のバネのエネルギーと違い、陽子と中性子が遠く(じゅうぶん遠ければよい)離れたときを基準に取ります。一番エネルギーが高いときを0としますから、陽子と中性子が原子核を作っているときのエネルギーはマイナスになります。これは、書き込みの図の通り、基準面をずらしているだけなので、原子核を作っているときの核力のバネのエネルギーは、ーBとなります。

 

 ですから、この基準で考え直すと、陽子と中性子が離れているときの質量は二つの質量の和に等しく、陽子と中性子が原子核を作っているときは、核力のエネルギーが少なくなる分だけ、質量が「軽く」(小さく)なっているのです。

 

 これが、原子核で生じる「質量欠損」の正体です。

 

 じつは、質量が「欠損」しているわけではなく、単純に、核力のバネも含めた中性子と陽子の全エネルギー(あるいは全質量)が、ばらばらのときより原子核をつくっているときの方が小さくなるだけなんですね。

 

3【原子核内の核子の質量】

 いま見てきた陽子1個、中性子1個のモデルを、核子を1個ずつ増やしていくと、何が起こるでしょうか。これは、簡単なモデルを用いた思考実験で予想できます。

 かんたんのため、陽子と中性子、つまり核子の質量を1(u)、核力のバネのエネルギー(マイナスB)をー0.2(u)としておきます。この数字は思考実験のための便宜的な値です。

 

 表の図を見ていただくとわかるように、核子の数が増えると、核子間をつなぐ核力のバネの数はそれ以上に増えていきます。

 

 核子数を表のように2個→3個→4個→と増やしていくと、核力のバネの急増加のため、核子1個あたりの質量が、0.9(u)→0.8(u)→0.7(u)と、急激に軽く(小さく)なっていくことがわかります。

 

 これが、次の4のグラフで、水素Hから原子核が大きくなるにつれ、核子1個あたりの質量が急激に減っていくグラフの原因になっています。

 

 では、プリントの後半を見ましょう。

 

 

 

4【原子核の大きさと原子核の質量】

 4のグラフは、原子核の質量数(核子数)を横軸に、原子核内の核子1個あたりの質量を縦軸にとったグラフです。

 3で説明したように、単体の陽子(つまり水素Hの原子核)から、核子2個のデュートロン、核子3個のトリトン、核子4個のヘリウムと、原子核が大きくなるにつれ、核子1個あたりの質量が急激に減っていっています。

 これの原因は、核子間をつなぐ、核力のバネの負エネルギーがどんどん増えるためでしたね。

 

 ところが、このグラフは、鉄原子Feまで行くと、それ以降は逆に上り坂になっていき、核子1個あたりの質量が徐々に増えていきます。

 アインシュタインのE=mc^2によれば、質量が増えるのはなんらかのプラスのエネルギーが増えていることになります。

 

 いったい、このエネルギーはなんでしょうか。ぼくはいつも、生徒に聞くことにしています。

 

 高校生に聞くと「万有引力!」「重力!(万有引力と同じですが)「磁力!」など答が返ってきますが、やがて「陽子と陽子の間に働く静電気力」という答が必ず出ます。やるなあ。

 

5【質量欠損と結合エネルギー】

 ここでは、質量欠損と結合エネルギーの関係を簡単に説明しています。

 結合エネルギーというと特別なものに見えますが、要するに、ばらばらのときに比べてどのくらいエネルギーが減っているかを示す値なので、質量欠損をエネルギーで表しただけのものです。

 

 高校の教科書では、さきほどの4のグラフのかわりに、単体のHとの核子1個あたりの質量の差を縦軸にとったグラフがよく使われます。これが、核子1個あたりの結合エネルギーのグラフということになります。要するに、4のグラフの上下をひっくり返したグラフですね。

 このグラフでは、鉄原子Feが山の頂点に来ます。

 直観的にわかりにくいグラフなので、のちに核融合、核分裂を理解するときに困ります。

 

 4のグラフなら、鉄が一番軽いので、鉄より左側の小さな原子核はくっつきあうことでよりエネルギーが低くなり安定する(つまり核融合が起こる)こと、鉄より右側の大きな原子核は分裂して小さな原子核になることでエネルギーが低くなり安定する(つまり核分裂が起こる)ことが、一目でわかります。

 

 「水は低いところへ流れる」という格言が、原子核反応でも通用するわけですね。

 

 質量欠損の簡単な例題はやっておいた方がよいので、書き込みをみて、やり方を学んで下さい。それほど難しくありません。

 

 では、今回はこのへんで。

 

 

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