J・J・トムソン(ジョセフ・ジョン・トムソン)はキャベンディッシュ研究所の第3代目の所長。イギリスのマンチェスター生まれですが、家族はスコットランド出身。今回のイラストは、かなり簡略化して描いてみました。いかがでしょうか。
「トムソンの実験」により、電子を発見した人であり、その後、原子モデルとして有名な「プリンモデル」を提案した人でもあります。同じ時期、日本の長岡半太郎が原子モデルとしてやはり有名な「土星モデル」を提案していて、ヨーロッパではトムソンと長岡の原子モデルが並んで紹介されています。こちらは次回のテーマになるので、これ以上深入りはしないでおきましょう。
講義はわかりやすいと評判で、周りの人たちから「JJ」と呼ばれて慕われていたと伝えられます。
さて、前回のプリントにはトムソンの実験の概略を書きましたが、具体的にどんな実験方法だったのかを押さえておく必要があります。
トムソンの実験の理論的説明は、基本的な力学と静電気学の総合的な内容であるため、センターレベルの問題として扱われることも多いのです。(筆記試験レベルだと、プリントの後半に登場するローレンツ力を用いた解析も必要になってきます)
では、プリントを見てみましょう。
内容的には難しくないのですが、延々と計算をするので、講義形式で授業をすると、眠たくなってしまいます。
力学と静電気の応用問題として、生徒の手で解いてもらった方が、教育的にも、記憶の定着としてもよいでしょう。
やりやすいようにヒントが与えてありますので、最後の式まで自力でたどりつける人も結構います。もちろん、答合わせとしての解説は行いますが。
意外にひっかかるのが後半(7)〜(9)。コンデンサーの作る電場を抜けた後は等速直線運動をするので、むしろ簡単な運動になるのですが、物理現象としてのイメージがつかめていない生徒は混乱します。
コンデンサー内では電場から静電気力を受けて電子が放物運動をし、コンデンサー外では電気力をうけず直進する・・・たった、これだけのことなんですが・・・
さて、左側の計算がすむと、回転の速い生徒なら、左側の内容だけだと電子のe/mが測れないことがわかります。
電子の初速度Voが必要なのですが、それを知る術がありません。理屈の上では装置の「電子銃」と呼ばれる部分で電子が高電圧の電場で加速されて打ち出されるので、電子の運動エネルギー=電場からされた仕事=電気エネルギーという計算でVoが求まるのですが、それはあくまでも理想的な話。現実の実験で電子の初速がいくらかは、別の方法で測ってみなければわかりません。
そこで、その足りたいところを埋めるための実験が、磁場を用いて同時に行われます。
こちらは、電子の進路を磁場のローレンツ力で曲げる実験で、電場の実験で電子をy方向に曲げるとき、磁場の実験では電子をx方向に曲げるようにします。こうすると、実質的に電子の初速を測ったのと同等の実験になります。
最初のページの1式と、次のページの2式を比べることで、電子の初速Voには関係なくe/mの値が求められるからです。
では、書き込みを見て行きましょう。
書き込んだ通りですので、自分やった計算と比べてみて下さい。基本的な知識の組み合わせなので、みかけほど難しくありません。
最後の1式を見ると、未知のe/mを測定値のyから求めたいのですが、もうひとつ未知の量、初速度のVoが式に含まれていることがわかりますね。このため、1式だけでは、e/mの値が求められません。
コメントに書いたように、もう一つの実験を同時に行うことで、結果的にVoを求めることが必要なのです。
では、次のページ。
こちらは・・・書き込むところがありません。というのは、ローレンツ力により生じる電子の運動の軌跡が円運動。実際の計算は無駄に複雑であるため、わざわざ授業時間を割いて説明する価値に乏しいからです。
途中の計算を逐一追うより、計算の結果、やはりこちらでも変位xの式の中にe/mが含まれており、全ページの変位yの式と組み合わせることで、測定できなかった電子の初速度Voを消し去ることができることを押さえておくべきでしょう。
3式を見ればわかるとおり、変位xと変位yを測定することで、電子のe/mが間接的に測定できるんですね。
ちなみに、受験用の問題などでは、この実験で電子に与えるローレンツ力をy方向にして、静電気力とローレンツ力をつりあわせることで、電子を直進させる実験が登場します。原理としては同じなのですが、こちらは軌道が直線になるので、数学的な扱いが簡単になるんですね。
そちらは、みなさんのもっている問題集などにかならず載っていますので、そちらをご覧ください。
では、今回はこのへんで。
次はいよいよ、原子核の発見です。
※いくつか打ち間違いがあったので、訂正しました。
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