物理ネコ教室267放射能と放射線 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 ドイツのヴィルヘルム・コンラート・レントゲン。

 1895年にX線を発見して、それがそのまま装置の名前にもなっているので、誰でも知っている人。

 

 『アシモフの雑学コレクション』から、レントゲンのことを書いた逸話を紹介すると・・・

 

◆レントゲンは1895年にX線を発見した。その透視作用がのぞきに利用されると思う人が多かった。ニュージャージー州では、X線オペラグラスの使用禁止条例が成立し、ロンドンではX線防止の下着を販売する人が出現した。

◆ドイツの物理学者レントゲンは、1895年にX線を発見したが、特許も申請せず、金銭的利益も受けようとしなかった。ノーベル賞を受けたが、賞金は第一次世界大戦後の大インフレで消え、貧しさの中で死んだ。

 

 「X線オペラグラス」は、当時(もちろん今でも)作れるはずがない装置ですが、科学に関する無知がまぬけな法律を作ったんですね。

 

 さて、いよいよ放射線です。

 

 原子の話より放射線をさきにやっているのは、歴史的な順序(α・β線などは電子と同時期に発見されている)もありますが、以前、物理1と物理2に分けられていた時代に、センター試験で出題される物理1の範囲に放射線が含まれていたことが大きいですね。

 

 それでは、プリントを見て行きましょう。

 

 

 1は放射線発見の歴史です。また、「放射能」という言葉が一般には「放射性物質」を示す言葉として誤用されることが多いので、コメントもつけました。マリー・キュリーのラジウムの発見に関しては、ドラマチックな逸話もあるのですが、後の機会に譲ることにして、今回は割愛しておきます。

 

 また、(4)にあるように、原子番号の大きな原子が不安定で放射性をもつことは、押さえておきたいところです。

 

 3種類の放射線α/β/γ線は、共通点が高エネルギーであることです。

 

 原子核の周りを回っている(本当は回っていませんが、これものちほど扱うことにします)電子の静電気のエネルギー(クーロン力による位置エネルギー)のレベルをはるかに超えるエネルギーであることから、飛び出して来た放射線が、もっとエネルギーレベルの高い場所=原子核の中=からやってきたことが予想されます。

 

 その謎が本当に解けたのは、もっと後になってからですが、このプリントではその結果についても触れる必要があります。後半を見てください。

 

 

 α崩壊とβ崩壊の仕組みは、素粒子レベルの高エネルギー反応が理解されるようになって、ようやくわかるようになりました。

 

 例えばβ線は高エネルギーの電子なのですが、原子核の中には電子が含まれていません。どこからやってきたのか・・・それが理解できないと、結果だけを丸暗記する授業になってしまいますね。

 

 では、書き込みをご覧ください。

 

 

 2は結果だけまとめました。

 

 前回のプリントで紹介した素粒子の核子数Aと電荷数Zの意味をよく理解しておかないと、α崩壊とβ崩壊反応式が自分で求められなくなります。表の3列目「記号」の欄を見てください。

 

 ヘリウム原子核はわかるでしょうが、電子と光子について、核子数A、電荷数Zの数字ともども知っておかないと、反応式が理解できなくなります。

 

 また、放射線の電離作用が粒子の持つ電荷量で決まること(当然、他の物質と電気的に相互作用することで他をイオン化するわけですから、電荷が重要です)から、電荷の多い順に電離作用が大きいことを理解しておく必要があります。

 

 さらに、今度はエネルギーと仕事の関係から考えれば、電離作用が大きい粒子ほど他を大きく破壊して進むため、それによって自らのエネルギーを失うのが早くなり、物質を透過しにくくなるのも、理解できるでしょう。

 

 α線〜γ線の電離作用の大小、透過力の大小は、丸暗記するのではなく、このように理論的に理解しておくことが大切です。

 

 電場や磁場をかけたときの各放射線の進み方は、以前のセンターではよく出題されていました。

 

 

 3(2)のα崩壊、β崩壊の仕組みは、単純に覚えるより、その背景も含めて理解した方がわかりやすくなります。

 

 α崩壊の場合、なぜ、原子核からとびだすのが陽子2個・中性子2個のヘリウム原子核なのか。別の原子核(リチウムやベリリウムなど)でもいいじゃないか・・・

 

 β崩壊の場合、電子は原子核のどこに隠れていたのか・・・

 

 ちゃんと理解しないと、すっきりしませんね。

 

 プリントには全部書いてありませんが、授業では話しています。

 

 α崩壊の謎:なぜ、ヘリウムの原子核が飛び出すのか?

 

 それは、他の原子核に比べ、ヘリウムの原子核、つまり陽子2個、中性子2個の組み合わせが、エネルギー的に非常に安定しているからです。水が低いところに流れるように、飛びだしてくる粒子もエネルギー的に低いものが選ばれるんですね。(のち、質量欠損の話になったときにより詳しい話ができますので、このくらいで押さえておけばじゅうぶんでしょう)

 

 β崩壊の謎:電子はどこからやってきたのか?

 

 こちらは大事なので、その一部がプリントにも少し書いてあります。

 

 β崩壊のさいには、原子核内部で、中性子が陽子と電子になるという反応が起こります。

 

 n→p+e

 

 書き込みの式をみていただければわかりますが、このとき、ちゃんと核子数Aと電荷数Zの和が、反応式の左側と右側で等しくなっていることがわかります。

 

 飛び出して来た電子はこの反応で生まれた電子なので、非常に高いエネルギーを持っているのです。

 

 また、原子核内部で中性子が陽子に変化するため、中性子の数が1個減り、陽子の数が1個増えます。原子の質量数Aはその結果、変化なしとなりますが、陽子が増えたため、原子番号Zは1増えることになります。

 

 プリントには書いてありませんが、なぜ中性子が陽子に変化するかというと、中性子と陽子はもともと同じタイプの素粒子であるため、双方の数が等しい方がエネルギー的に安定するからです。

 

 原子核では中性子の数は陽子と等しいか、陽子より多くなっています。原子核が巨大になるほど、陽子数に対して中性子数が増えていくのですが、これは、電気的なエネルギーの安定性のためです。陽子が増えるほど、陽子の正電荷同士の反発が増え、静電エネルギーが大きくなりますから、陽子数と中性子数が同数のまま巨大化するわけにはいかなくなります。必然的に、中性子の割合が増えることになりますね。

 

 α崩壊とβ崩壊の反応式は、核子数Aと電荷数Zの保存則を用いれば、HeとeのAとZがわかっていれば、生成する原子核のAとZがわかります。これなら、簡単ですね。

 

 4の崩壊系列の計算は、単純な数学パズルですので、書き込みをみてください。だれでも解けますが、ポイントは、Aが変化するのはα崩壊のときだけだということです。

 

 霧箱は以前は話だけで、ビデオを見せるくらいだったのですが、簡単で非常に性能のいい霧箱(自然放射線が見える!)が林ヒロさんによって開発されましたので、ぜひ生徒に見せてあげたいですね。(ぼくの本『いきいき物理マンガで実験』に詳しい作り方を紹介してありますので、ご覧ください)

 

 では、このへんで。

 

 

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