物理ネコ教室268半減期 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 放射線の研究といえば、普通の人が思いつくのはキュリー夫人でしょう。ポーランド出身のマリー・キュリー。ノーベル賞を2回受賞しています。

 夫のピエールと共に、放射性元素のラジウム、ポロニウムを発見しています。ポロニウムは祖国ポーランドの名から命名。

 

 この頃はまだ女性の科学者の立場はよくなかったのですが、マリー・キュリーの場合は、研究者の夫と共同研究をしていたおかげで、いわれない差別からは守られていたようです。

 

 「アシモフの雑学コレクション」では、マリー・キュリーについての逸話がこんなふうに紹介されています。

 

◆キュリー夫妻は、ラジウム精製法の特許を取らなかった。世界のためのもので、それでもうけるべきではないと。イギリスの化学者ウォーカーは、自分の発明は人々にとって重要だと、特許を取らなかった。それは、マッチ。

◆ラジウムの共同発見者のキュリー夫人は、放射線による最初の死者。骨髄の破壊によるもので、それまで危険性は知られていなかった。

 

 キュリー夫人の時代には放射能障害に関する知識は当然ありません。素手で放射性物質を持ち歩いていたのですから、当然の結果でしょう。

 この例にかかわらず、新しい物質の研究は、幾多の科学者の犠牲の上になりたっています。例えば、フッ素の研究中、その激しい反応性のため、何人もの化学者が亡くなっています。

 

 放射性物質のすべてに、放射性崩壊の時間に関する共通の数学的なルールがあります。

 

 これは、放射性崩壊が伝染性の原因でなく、原子自体の確率的な原因にしたがって起きていることの証明にもなっています。より詳しいことは次のプリントで紹介しますが、まずは、そのルールの概略を見て行きましょう。

 

 

 

 1は、いわゆる「半減期」を用いた放射性崩壊の法則です。

 

 習い始めの人が最初に疑問に思うのは「なぜ半減期なのか」でしょう。どうして自然は半分になる時間を基本に物理法則を組み立てているのか・・・

 

 だいじょうぶ、自然はそんなふうに恣意的に作られていません。

 

 半減期は、われわれ人間が「半分」という数を使いたがるために現れた、見かけ上の数値です。

 

 より詳しくは、次回のプリントをご覧ください。

 

 

 後半は放射能の利用と問題点に関して、さらりとおさらい。

 

 本当は、もっと詳しく触れるべき知識です。

 

 一時期(10年間)、原子/原子核の分野、熱の分野が選択となりました。大学入試も、選択制になりましたが、実質上選択制を採用する大学は少なく、ほとんどの大学が熱の分野を出題しました。

 

 この時期、愛知物理サークルの例会で、次のようなアンケートを挙手でとったことがあります。

 「今、学校で原子/原子核の分野をちゃんと教えている人は挙手を」

 参加者はたくさんいたのに、手を上げたのは、ぼく一人でした。

 ぼくはびっくりして、どうして?・・・と聞いたのですが・・・

  学校の事情(受験シフト)で、選択分野の熱に時間をかけるため、どうしても原子/原子核をきちんと教える余裕はない、ということでした。

 

 ぼくは高校生には、文部省(当時)がなんといおうと、物理のすべての分野を教えるべきだと思っています。原子/原子核の分野は20世紀の物理学を扱う分野なのに、19世紀までの話で高校物理が完結してしまうなんて、ありえないと思っていました。

 そのときは「やっぱりひろじは変人だ」と、冗談半分にいわれましたが・・・

 

 やがて、あの福島原発の事故がありました。サークルでも「原子/原子核の分野を教えるのは重要だ」との論調になってきました。

 

 事故が起こってからそう考えても、おそいよ・・・

 

 せめて、愛知物理サークルの人くらいは、条件の悪い中でも、そういう意識を持っていて欲しかったなあ・・・と。

 と同時に、自分が易きに流れず、ずっと原子/原子核の分野を教え続けてきたことに誇りを持ちました。

 

 受験に振り回されすぎだよ、みなさん・・・

 予備校じゃないんだからさあ・・・

 

 では、書き込みを見て行きましょう。

 

 

 さてさて、半減期です。

 

 ぼくはいつも、黒板に○×のゲーム用の札を16枚ぶら下げて、実演しています。

 最初は全部○。

 半減期過ぎるごとに、その半数を適当に選んで、×に変えていきます。

 これだけで、半減期のイメージができ、数式を作るのがたやすくなります。

 

 でも、もっと重要な意味もあります。

 

 最後のひとつになったとき、こう聞きます。

 「あと半減期たちました。この○はどうなる?」

 

 ・・・・

 

 どうでしょう?

 

 ここで、正しい答を思い浮かべることの出来る生徒はほとんどいません。

 

 それは、物理の法則に確率がかかわるという量子力学的な発想は、今まで古典物理学しか習ってきていない高校生には不可能だからです。

 

 逆に言えば、これが、新しい物理学への架け橋にもなるんですね。

 

 正しい答は・・・

 

 半減期経ったとき、○が×になっていることもあれば、○のままのこともある。この実験を例えば100回行えば、50回くらいは○が×になっていて、50回くらいは○が○のまま残っている。

 こういうと、放射性崩壊が、原子自体の確率的な原因によって起きている現象であることがイメージできます。

 

 ところで、半減期の式は、プリントの書き込みを見ていただければ、かんたんに予測がつくことがわかります。

 最初の放射性原子の数Noと時間が経った後の放射性原子の数Nの比N/Noが、1/2のt/T乗になることが、簡単に示せますね。書き込みのメモをご覧ください。

 

 半減期の問題は、tがTの整数倍のときは、式に頼らなくても答が予測できます。半減期経つごとに半分になるんですから、例えば半減期が4回分時間が経てば、4回半分になり、1/16になります。

 tがTの整数倍でないときは、半減期の式の両辺の対数をとって、数学的に計算する必要があります。理系に行く人は、このくらいの計算はできなくてはなりません。

 

 では、プリントの後半です。

 

 

 ベクレル、グレイ、シーベルト(昔はレムとかラムという単位もありましたね)難しい単位です。ベクレルとグレイは物理的な単位といえますが、シーベルトは医学的な単位といえます。

 

 α線の危険度を他の20倍と想定して決めた単位です。20という数字に絶対的な基準はありません。

 

 なお、この三つの単位は人の名前ですが、トリビアを一つ。

 

 国際的に「もう物理の単位に人名をつけるのはやめようじゃないか」という機運が高まったとき、放射線関係の研究者たちが、確信犯的になだれ込むようにして、この三つの単位を決定したという話を聞いたことがあります。偉大な先人の名を残しておきたかったんでしょうね。

 

 ところで、物理選択の生徒は生物を選択していません。プリントの最後のところで「造血器官」「生殖器官」とあるので、それはどこかと聞くと、「造血器官」の方は珍妙な答が返ってきます。

 

 肝臓、心臓、腎臓・・・

 

 骨だよというと、びっくりします。骨髄ですよ、みなさん・・・

 

 さて、以前はこの授業では、チェルノブイリの原発事故の後、現場に乗り込んで撮影を決行したドキュメンタリー映画を見せていました。フィルムで撮ったその映像のあちこちに、白い斑点が生じ、フィルムに飛び込んで感光させてしまった放射線のせいだとわかります。

 

 決死の覚悟で映画を撮りにいったんですね。原発事故の後の混乱が、淡々とした画面に記録されています。

 

 ロシア語でのナレーションに字幕、という厳しい条件なので、授業に使うときは、ぼくが画面を見ながらコメントしていました。

 

 その映像を見ると、事故後の作業をしている人たちが、暑さに耐えかねて、マスクを外してしまっています。大量の放射性物質を含んだ砂埃を吸い込んでしまうので、健康には致命的です。

 もっとも、職場の高校に講義に来られた福井先生によれば、そもそも「放射性物質ではなく、放射性原子なので、防塵マスクをしてもそんなスキマは通り越してしまうから、無駄」だそうです。どきりとしましたが、大量な塊として塵芥を吸い込まなくて済むのですから、一定の効果はあると思います。

 

 福井先生が講義のときいわれていたのが、知識なしでやみくもに放射線を怖がるのはいけない。ただしい知識を持てば、どう対応したらいいのかがわかる、ということでした。

 

 放射線を浴びた食物を食べたくないと騒ぐ人も、平気でγ線照射されたジャガイモを買って食べています。なんか、ヘンですよね。4(3)の食品照射の項目を見て下さい。

 

 原発事故が恐ろしい本当の理由は、そこで飛びだしてくる放射性物質のかなりが、人工放射性物質、つまり、自然界にあまり大量にない物質だからです。

 植物も動物も、それらの原子を代謝する仕組みを持っていませんから、体内に蓄積され、食物連鎖を通じてさらに濃縮されていきます。

 これを生物濃縮といいます。PCBなどの化学合成物質も、これで蓄積されます。

 

 放射性物質の場合、α線は透過力が小さいため、空気中でさえ、ちょっと離れれば体には届きません。この場合は、危険なα線といっても、ぜんぜん問題になりません。

 しかし、いったん体内に放射性物質が入ってしまうと、そこから出てきたα線は直接、体の細胞に衝突し、それを破壊します(内部被曝)。半減期が長い場合は、生きている間、ずっと被曝しつづけます。これが恐いんですね。

 

 これはもちろん、一般の人の場合の話です。

 

 現場で働く人の場合は、事故の際、大量の放射線を浴びることもあります(外部被曝)ので、この場合は急性放射能症になり、免疫系が破壊される危機的な状況に陥ります。

 日本では、かつて放射性物質を扱う会社で、作業手続きを間違えた作業員が大量被曝をしたことがありました。

 

 このとき、新聞の第一報では「被曝量は推定8シーベルト」と書かれていて、それを目にしたぼくは真っ青になりました。たぶん、ぼくだけではなく、全国の物理関係の人たちは同様の反応をしたはずです。

 

 真っ青になった理由は、6の右側の表を見ていただければわかります。

 様々な動物実験やヒロシマ等の結果から、教科書には放射線被曝量と放射能症の関連を書いた簡単な表が載っていたのです。

 一番上が4000mSv(ミリシーベルト)つまり4シーベルトです。

 「被曝した人の半数が一か月以内に死亡」と書かれていますね。

 第一報の推定被曝量はその2倍です。

 表にないほどの被曝量でした。

 

 被害者の方は、その後、免疫系の破壊のため、併発症を防ぐことができず、亡くなりました。

 最終的に、新聞にはその方の被曝量は「推定11シーベルト」と書かれていたと記憶しています。

 

 福島の原発事故の後、8月に茨城で科教協の全国大会があり、愛知物理サークルの面々で出かけていきました。ガイガーカウンターを持ってきた人があり、途中の高速道路のサービスエリアで測定しながら目的地へ向かいましたが、ちょうど福島原発の風下にあるサービスエリアの芝生で、大量のカウントを確認しました。そこまで、放射性物質が風で運ばれ、草木の根が留めていたんでしょうね。アスファルト面は雨で流れ、カウント数はたいしたことはありませんでした。

 

 3月の事故から5ヶ月経っていたのですが、残っているところは残ってました。村ごと避難した場所もたまたま通りかかり、クルマを降りて測定しましたが、とんでもないカウント数でびっくりしました。

 

 チェルノブイリの原発事故のとき、日本ではそんなことは起きるはずがないと、みな信じていました。

 阪神淡路大震災の時も、似たようなことがありました。

 その前のカルフォルニア大地震のさい、日本の建築関係者は口をそろえて「日本では耐震構造の対策がなされてるので、アメリカみたいにはならない」と豪語していました。それがあの始末です。

 

 技術神話は、恐ろしい。

 

 では、今日はこのへんで。

 

 

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