物理ネコ教室266原子の姿 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

マンガ・イラスト&科学の世界へようこそ。

 

 

 

 長岡半太郎のイラストはまだ描いてないので、とりあえず、かわりに寺田寅彦のイラストを。(いずれ、長岡半太郎のイラストが描けたら、追加するか、さしかえるかします)

 

 なぜ寺田寅彦にしたかというと、長岡半太郎とのエピソードが非常に興味深いからです。

 

 寺田が東大の学生だったとき、長岡半太郎の講義を受けたこともあるのですが、どういうわけか、寺田は長岡を毛嫌いし、本人に面と向かって罵倒したこともあるとか。

 

 「懐手して宇宙見物」の句など、おだやかな人のイメージもありますが、物理に関してはかなり頑固。学生時代からその片鱗は見せていたわけです。当時の長岡半太郎は世界的に名が轟いていた大教授。その人に向かってあなたの講義はダメだなんていう強心臓だったんですね。一介の学生に罵倒された長岡半太郎は、対処に困ったでしょうねえ。

 

 もっとも、この時代の東大生は気骨に溢れ、ことあるごとに当局と対立していました。夏目漱石が英語講師として東大に招かれたときは、そのせいで前任のラフカディオ・ハーンつまり小泉八雲がクビになったと、夏目の講義をボイコットする騒ぎも起こしています。

 

 夏目漱石は寺田寅彦が高校時代に英語教師として寺田の学校に赴任して以来の師弟関係なのですが、寺田が長岡にやったのと同じ事を、夏目も他の学生からやられていたわけです。因果は巡る・・・ですねえ。

 

 さて、脱線してしまいましたが、JJトムソンと長岡半太郎の原子モデルから、トムソンの弟子アーネスト・ラザフォード(当然イギリスの人)が原子核を発見して現在に通じる原子モデルを打ち立て、やがて(原子の周期性が発見されて)元素を原子番号と質量数で原子を記述できるようになるまでを、一枚のプリントで軽くまとめてあります。

 

 冒頭のイラストには、もう一人、ウィリアム・トムソン(ケルヴィン卿)もいますが、そのわけは後ほど・・・

 

 

 

 JJトムソンが考えた「プリンモデル」は、正電荷からなる原子の中に、負電荷の粒が入っていて、それがぷるぷると揺れることで電磁波を出す(発光する)というもの。同じ年に発表された長岡半太郎の「土星モデル」は、正電荷の周りを土星の輪のように負電荷が輪を描いて回転し、回転する負電荷が電磁波を出すというもの。

 どちらも、それまで原子内部に構造はないと思われていた「常識」を打破する発想で、ヨーロッパの科学誌に新しい物理学の知見ということで二人の説が並んで紹介されています。それで長岡は世界的に有名になったのですね。

 

 ところで、JJトムソンの「プリンモデル」には原型があります。

 当時の大御所だったウィリアム・トムソンが、正電荷の原子の中を負電荷の電子が自由に動きまわるというモデルを発表していました。「ケルヴィン卿の原子モデル」と呼ばれるものです。

 

 長岡半太郎はケルヴィン卿の弟子に当たる人(ノット)に教わったので、ケルヴィン卿の孫弟子に当たりますが、物質内部を電子が自由に動くということに疑問を持ち、正電荷物質の外側を電子が動く土星モデルを提唱したのでしょう。

 

 電子自体はJJトムソンが発見していますが、同じ年、JJトムソンの弟子ラザフォードが放射性原子から放射線(α線、β線)が飛びだしてくるのを発見しており、その後β線が電子と同じもの(エネルギーだけが通常の電子より大きい)であることがわかります。

 そこから、物質内部の奥底には電子が閉じ込められているという発想が浮かび、原子の内部構造を探る研究が始まったのです。

 ケルヴィン卿のモデルは、そのさきがけになったのですね。(ファラデーの電気力線の数式化といい、なんでも最初に手をつける人です)

 

 JJトムソンのプリンモデルもケルヴィン卿の原子モデルの改良版なので、結局、二人の原子モデルはケルヴィン卿のモデルの改良版だということがわかります。

 冒頭にウィリアム・トムソンのイラストを配置した理由が、これなんですね。(プリントにはさすがにそこまでは書いてありません)

 

 ラザフォードは弟子のガイガーらとともに、α線を用いて物質の内部構造を見る実験を行いました。金箔の厚みは1/20000センチメートルつまり50ナノメートルです。原子の大きさがこの程度なので、ほとんど原子1層か2層の薄い金箔ですね。

 

 α線はヘリウムの原子核と同じもので(やはり通常のものよりエネルギーが大きい)、正電荷を持っていますから、原子内を通過するとき、原子の電荷と力を及ぼし合って進路を曲げられます。

 

 これにより原子内の正電荷と負電荷の分布が見えてくるわけですが・・・

 

 

 プリントの後半は原子記号の表し方と原子番号Z、質量数Aを素粒子記号にも拡張していくことをまとめてあります。

 

 では、書き込みを。

 

 

 ラザフォードのα線散乱の実験結果は、ラザフォードの先生JJトムソンのプリンモデルを否定する結果になりました。ときどき、急激に進路を曲げられるα線があり、トムソンのモデルでは説明できなかったからです。

 

 原子の中央のごく狭い範囲に正電荷と質量が集中する「核」があると考えると、この実験結果はうまく説明できます。

 

 ラザフォードは原子の中心部に正電荷を持つ小さな原子核があり、そのまわりを太陽系の惑星のように負電荷の電子が回るという「太陽系モデル」を提唱しました。

 

 これが、現在教えられている原子モデルのもとになっています。(やがて根本的に間違っていたことがわかるのですが、それはもっと後の話。しばらくお待ちアレ)

 

 なお、ラザフォードは後、長岡の土星モデルのことを知っていたのかと問われ、太陽系モデル発表時にはまだ長岡の論文は読んでいなかったと答えています。

 

 真偽のほどはわかりませんが・・・

 

 ラザフォードは誰にも公平な人間で学生からも周りからも慕われていたといわれますが、そんな彼でも女性研究者については冗談交じりにからかったりしていました。この話は以前書いたこと(太陽の水素)があり、関連記事にリンクを貼っておきましたので、興味のあるかたはご覧ください。

 

 

 のちの核反応やα崩壊β崩壊の話のため、ここいらで素粒子の記号の説明をしておいたほうがいいでしょう。

 

 原子記号をなぞって同じ記号を使いますが、意味合いが違ってきます。

 

 だいたい、素粒子に「原子番号」なんて、ナンセンスですね。

 

 原子記号のZは原子核の陽子の数です。陽子は一つ当たり+e(電気素量)の電荷を持っていますから、Zは原子核の持つ電荷がe何個分あるかを示す値ともいえますね。

 

 そこで、素粒子のZは最初から「電荷数」つまり、素粒子が持つ電荷がe何個分かをしめす数として扱います。名称もそのまま「電荷数」と名づけます。

 

 質量数のAは原子核の陽子と中性子を合わせた数です。陽子と中性子は電荷を除けば非常に似ていて、質量もほとんど同じなので、原子核にある重い粒子という意味合いを込めて「核子」とまとめて呼ばれます。

 

 そこで、素粒子のAは素粒子の質量が核子何個分あるかをしめす数、つまり核子数として扱います。やがて、素粒子が重い粒子(クォークで構成される粒子)と軽い粒子(レプトン)の2種類に分けられることがはっきりしてくると、核子数は重い粒子と軽い粒子を区別する重要な数になっていきます。・・・が、このプリントではそれ以上は立ち入らないことにしましょう。

 

 核反応ではAとZがそれぞれ保存されるという重要な保存則が登場します。「核子数の保存」と「電荷数の保存」です。これは、のちにα崩壊やβ崩壊、そして核反応を学ぶときに、もっとも重要な保存則となります。

 

 あとはたいしたことはやっていません。原子質量単位(u)(昔はそのままアトミック・マス・ユニットamuと書いていましたが、今は簡単にuとだけ書きます)がどうやって決められているかを説明しています。読んでいただければわかるので、ここでの説明は省略します。

 

 では、このへんで。

 

 

※ラザフォードがらみの逸話を2つ、追加しました。

 

 

 

関連記事

 

太陽の水素

 

電子と原子<物理ネコ教室3年>

264電子の発見

265トムソンの実験

266原子の姿

267放射能と放射線

268半減期

269半減期の式の導出

 

波動性と粒子性<物理ネコ教室3年>

271波動性と粒子性(1)光の粒子性

272光電効果の測定

274波動性と粒子性(2)X線

275波動性と粒子性(3)物質波

277新しい物理学への架け橋

278ボーアの水素モデル

279原子のエネルギー準位と原子発光

 

核反応・素粒子と宇宙<物理ネコ教室3年>

280質量欠損

281核エネルギー

282核分裂と核融合

284素粒子

285宇宙の始まりと最終理論

 

 

〜ミオくんと科探隊 サイトマップ〜

このサイト「ミオくんとなんでも科学探究隊」のサイトマップ一覧です。

 

 

***   お知らせ   ***

 

日本評論社のウェブサイトで連載した『さりと12のひみつ』電子本(Kindle版)

Amazonへのリンクは下のバナーで。

 

 

 

『いきいき物理マンガで冒険〜ミオくんとなんでも科学探究隊・理論編』紙本と電子本

Amazonへのリンクは下のバナーで。紙本は日本評論社のウェブサイトでも購入できます。

 

 

『いきいき物理マンガで実験〜ミオくんとなんでも科学探究隊・実験編』紙本と電子本

Amazonへのリンクは下のバナーで。紙本は日本評論社のウェブサイトでも購入できます。