物理ネコ教室278ボーアの水素モデル | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 いよいよ、ボーアの水素モデルです。

 初期の量子力学は、ボーアの対応原理によって、ごりごりと間違えながら進みましたが、対応原理のポイントは、古い理論に新しい事実を接ぎ木してむりやりな理論を作ったとしても、それが数学的には古い理論と新しい理論の架け橋になっているだろうという予測です。

 

 ボーアが水素モデルのスペクトルの解明のため、用いた新しい内容は、前回あげた3つ。

 定常状態(電磁波を出さずに回れる特別な軌道が存在する)、量子条件(軌道がどのようにとびとびになっているかを示す。のち、ド・ブロイの物質波の波長λ=h/mvと関係があることがわかる)、振動数条件(定常状態から別の定常状態に写るときに光が放射・吸収され、その光はプランク・アインシュタインの光子のエネルギーE=hνとなる)です。

 

 それ以外は、古い理論で、高校生がいままで習ってきた様々な物理法則になります。

 

 したがって、ボーアの水素モデルの理論は、上の3つの新しい内容をどこで使うかというポイントさえ指示されれば、高校生が自力で導ける内容となっています。

 

 プリントは問題形式にしてありますので、はたして自力で解けるかどうか、試してみて下さい。プリントにポイントポイントの指示が書いてありますので、ぼくの授業では、けっこうな数の生徒が、自力で最後までたどりつきます。

 

 プリントの前半、後半、まとめてどうぞ。

 

 

 さて、バルマーが見つけたスペクトルの規則性まで、たどり着けたでしょうか?

 

 では、書き込みを見て行きましょう。

 

 

(1)は静電気力と慣性力のつりあいです。万有引力で人工衛星の円軌道を調べるのに使った方法を、静電気力におきかえるだけです。これが出来ない人は、理系とはいえません。

 

 途中、円軌道がド・ブロイ波長の整数倍しか許されないという「量子条件」を使いますが、前のプリントでやっていますので、その式を使って、式を変形するだけの作業になります。ここで「量子条件」をどう見つけるかが物理であって(それはもう、ボーアがやっています)、見つかった後それを使って計算するのは物理的な能力は関係ありません。ただの算数です。

 

 (a)のすぐ上のrの式と(a)の式はまったく同じですが、(a)では、軌道半径が整数(量子数)nできまるとびとびの値になっていることを強調するために、rに量子数nを添え字としてつけなおしてあります。

 

(2)は、万有引力での人工衛星の問題を解いているとよく登場する計算と同じものです。

 

 運動エネルギーと位置エネルギーの和は、円軌道をする人工衛星のように星に「束縛されている」場合は、負になります。水素原子の電子も原子核に「束縛」されていますから、エネルギーの和は負になります。

 

 このプリントではその和を位置エネルギーを使ってまとめていますが、運動エネルギーでまとめる方法もあります。

 

 では、後半へ。

 

 

 「束縛されている」電子のエネルギーの和Eの式に、量子条件によってだした軌道半径の式を入れると、エネルギーの値も量子数nできまるとびとびの値になることがわかります。(式は見かけ上複雑ですが、気にしないでいきましょう)

 

 Eも量子数nできまることを強調するために(b)式でEにnを添え字としてつけなおしてあります。

 

 Eがnの2乗の逆数できまることが特徴ですね。

 

 (ここで【整数の2乗の逆数】と聞いて、バルマー系列のスペクトルの式がそんなのだったよなあ、と気がつく人はセンスのよい人です)

 

(3)では、振動数条件hν=EーE'を用いて、いよいよ水素から放射される光を調べています。ここでは、光の波動理論の基本式c=νλも必要です。さきほど出したEnの式を代入して、計算すると・・・

 

 みごと、放射される光の波長が二つの整数の2乗の逆数の差に関係するという、バルマー系列の式が出てきます。

 

 そして、リュードベリ定数と呼ばれるバルマー系列の比例定数の値まで、ぴたりと一致してしまいました。

 

 奇跡的な成功です。

 

2は、ボーアのモデルの成功と失敗について書いています。

 

 そもそも、接ぎ木してつくったむりやりな理論なわけですから、なにもかも成功というわけにはいきません。

 

 量子数nが1のときは、すでに知られていた実験結果とぴったり一致しました。

 

 電子のn=1の時の軌道(基底状態)の半径は、化学の実験で測られた水素の大きさに一致しましたし、n=1の時のエネルギーは、やはり実験によって測られていた水素を電離化するときのイオン化エネルギーに一致しました。

 

 n番目の軌道のエネルギーは今でも使えますが、n番目の軌道の半径の式はまったく見当外れで、使えません。

 

 そもそも、電子は原子核の周りを「回って」いないのです。

 

 そのお話は、また、のちほど・・・

 

 

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