物理ネコ教室282核分裂と核融合 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 オーストリアのリーゼ・マイトナーはドイツで活躍した物理学者ですが、アインシュタインと同じくユダヤ人で、ドイツがオーストリアを併合したため、自動的にドイツ国民となりました。

 

 アインシュタインが「われわれのキュリー夫人」と呼んだマイトナーは、ドイツの化学者オットー・ハーンと仲がよく、若い頃の2人が並んでいる写真が残っています。

 

 マイトナーは年齢を重ねてからの方が味わいの深い顔立ちになるのですが、イラストは原子核分裂を発見した頃の年齢の写真をもとに描きました。

 

 オットー・ハーンとリーゼ・マイトナーの核分裂に関する逸話は、かなり有名ですので、ここでは、簡単に触れるだけにしておきます。また、機会があれば、別記事として詳しく書きたいと思っています。

 

 ハーンがウランの実験で使ったバリウムが放射能を帯びてしまい、なぜかわからずにマイトナーに手助けを頼む手紙を出し、マイトナーが甥のフリッシュと共にハーンの実験結果を検討して、ついに、ウランが核分裂をして放射性のバリウムが生まれたのだということを見抜きました。(プリントにもこの程度のメモは書いておきました)

 

 ハーンはそれを論文で発表したのですが、論文にはマイトナーの名をいっさい出さず、ノーベル賞はハーンだけに贈られたのです。非常に不公平な話ですね。

 

 そもそも、マイトナーを大学から追いだしたのはハーンだったのですが・・・

 

 デヴィッド・ボダニスの『E=mc^2(c2乗)』に詳細が載っているので、興味のある方はご覧ください。

 

 今回は、前回の続きで、核分裂と核反応について詳しく見て行きます。書き込むところが非常に少ないのは、内容が難しいので、本格的には扱うことができず、知識程度の内容になっているからです。

 

 

 フェルミの発想がすごいのは、核分裂反応を引き起こす中性子を「おそくして」ウランにぶつけたことでもよくわかりますね。

 

 普通は、激しくぶつければいいのではと、なるべく速い中性子をぶつけたくなります。

 

 フェルミは、ウランと中性子が反応するための時間が必要だと考え、遅くすることで反応するための時間を長くするという、逆転の発想を用いて、核分裂実験に成功したのです。

 

 核分裂と連鎖反応の話は、非常に簡単にまとめてあります。書き込みも、言葉をちょっと入れるだけ。

 

 でも、本当は、深い背景があります。

 

 フェルミの実験では、核反応はあくまでも1回だけの単発実験であり、それを実用レベルのエネルギーとして取り出す方法がありませんでした。

 

 連鎖反応によって、実用レベルの莫大なエネルギーを取り出せるのではないかということを思いついたのは、ドイツのユダヤ人、レオ・シラードです。

 

 こちらもまた、深い話があるのですが、ここでは割愛しておきます。別の機会に。

 

 

 水素の核融合は簡単にかけば4H→Heですが、実際の核融合過程はプリントに書いたように複雑です。

 

 最後の核融合と核分裂の説明は、前回、わりと詳しく書いたことです。

 

 穴埋めもそれほど難しくありませんが、重要なことなので、確認も含めてここでおさらい。また、教科書に載っている結合エネルギーのグラフと、前に出した核子1個あたりの質量のグラフが、上下逆の関係になっていることがわかるよう、二つのグラフを並べてあります。また、具ラグ自体も、前回載せたときより詳しいグラフに変えてあります。

 

 では、書き込み(といっても、ちょっとしか書き込んでいませんが)を見ながら、より詳しく見て行きます。

 

 

 臨界量については、思わぬ覚え違いをする人がいます。念のため、書いておきます。

 

 「臨界量以上の量がないと連鎖反応が起きない」が正しいのですが・・・

 

 どういうわけか、「臨界量以下でないと連鎖反応が起きない」と勝手に思いこんでしまう人がけっこういるんですね。まるっきり逆の意味になってしまうんですが、みなさんは、勘違いしていませんか?

 

 なぜ、臨界量という概念が出てくるのか?

 

 なぜ、一定量以上のウランがないと、連鎖反応が起きないのか?

 

 それは、プリントには書いてありませんが、授業では必ず説明しています。

 

 どういう理由だと思いますか?

 

 ・・・

 

 ・・・

 

 ・・・

 

 答は・・・

 

 原子の中で占める原子核の大きさが原因です。原子核は原子の大きさの1万分の1以下の大きさです。

 

 ですから、1つめのウランが核分裂し、中性子をあらたに2〜3つぶ放出したとしても、それが隣の原子の原子核に当たるなんていう偶然は、まずありません。放出された中性子はそのまま直進しますが、その先で別の原子の原子核に当たるためには、原子が大量になくてはなりません。原子がたくさんあれば、進むうちに、いずれ原子核に衝突して、次の核分裂を引き起こすでしょう。このときの量が臨界量です。

 2回目の核分裂で放出された中性子も、しばらく進んだのち、臨界量以上の量のウランがあれば、どこかで次の原子核と衝突して核分裂を起こします。核分裂反応が数珠つなぎにつぎつぎに起こるので、チェーン・リアクション、つまり、連鎖反応と呼ばれます。

 

 この仕組みがわかっていれば、さきほどのような勘違いは起こらないはず。つまり、勘違いする人は、連鎖反応のしくみがよくわかっていないのですね。

 

 

 

 5のグラフをよく見ていただくと、ヘリウムのところがグラフ全体の曲線からはみ出ていることがわかります。

 

 左のグラフがわかりやすいのですが、ヘリウムは近くの別の原子核よりも、エネルギー的に低いですね。つまり、より安定しているのです。

 

 これが、α崩壊でヘリウム原子核が、原子核から飛びだしてくる理由です。

 

 このグラフを見なければ、飛びだしてくるのが陽子2個+中性子2個の組、つまりヘリウム原子核である理由がわかりません。べつに、陽子1個+中性子1個の組で飛び出して来てもいいじゃないか・・・と・・・

 

 グラフの通り、ヘリウム原子核がエネルギー的に低くて安定しているから、中性子2個、陽子2個でヘリウム原子核の形になった方が、他のどの組み合わせよりも、原子核の外へ飛び出しやすいんですね。

 

 最後にちょっとだけオマケを書きました。

 

 核融合のとき解放されるエネルギーは核力によるエネルギーの分なので、そのまま核エネルギーと呼んでさしつかえないのですが、核分裂は微妙です。

 

 というのは、核分裂のとき解放されるのは、陽子間の電気的な反発力によるエネルギーだからです。ですから、核エネルギーといいつつも、その正体は電気エネルギーです。

 

 これはこれで深く、またおもしろい話題なのですが、高校の物理レベルを超えていますので、あまり深入りするのも考えものです。ちょっと紹介する程度でよいのではないでしょうか。

 

 

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