音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~ -32ページ目

音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

びわ湖ホールプロデュースオペラ

ワーグナー作曲 『ニュルンベルクのマイスタージンガー』(ドイツ語上演・日本語字幕付/セミ・ステージ形式)

 

【日時】

2023年3月5日(日) 開演 13:00 (開場 12:00)

 

【会場】

びわ湖ホール 大ホール (滋賀県)

 

【スタッフ&キャスト】

指揮:沼尻竜典 (びわ湖ホール芸術監督)

ステージング:粟國淳

美術構成:横田あつみ

照明:原中治美

音響:小野隆浩(びわ湖ホール)

舞台監督:菅原多敢弘

 

ハンス・ザックス:青山貴

ファイト・ポーグナー:妻屋秀和

クンツ・フォーゲルゲザング:村上公太

コンラート・ナハティガル:近藤圭

ジクストゥス・ベックメッサー:黒田博

フリッツ・コートナー:大西宇宙

バルタザール・ツォルン:チャールズ・キム

ウルリヒ・アイスリンガー:チン・ソンウォン

アウグスティン・モーザー:高橋淳

ヘルマン・オルテル:友清崇

ハンス・シュヴァルツ:松森治

ハンス・フォルツ:斉木健詞

ヴァルター・フォン・シュトルツィング:福井敬

ダフィト:清水徹太郎

エファ:森谷真理

マグダレーネ:八木寿子

夜警:平野和

 

管弦楽:京都市交響楽団

(コンサートマスター:石田泰尚)

合唱:びわ湖ホール声楽アンサンブル

 

【プログラム】

ヴァーグナー:「ニュルンベルクのマイスタージンガー」

 

 

 

 

 

びわ湖ホールで毎年3月に行われている、沼尻竜典の指揮、京都市交響楽団によるヴァーグナーシリーズ。

昨年(2022年)は、下記リブログ元の記事に書いたとおり「パルジファル」だった。

今回はいよいよびわ湖ホールヴァーグナーシリーズの最後の作、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」である。

 

 

 

 

 

ヴァーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」で私の好きな録音は

 

●カラヤン指揮 シュターツカペレ・ドレスデン 1970年11月24日~12月4日セッション盤(NMLCD

 

あたりである。

この盤は、粒ぞろいの歌手陣、古き佳きドイツの音がするオーケストラ、そして何よりもカラヤンの壮麗かつ緻密な指揮、とあらゆる条件を最高の質で整えられた、奇跡的と言いたい名演である。

オペラというきわめて多くの人や要素が関わるジャンルにおいて、ここまで全てを完璧にそろえるのは、至難の業であろう。

帝王カラヤンといえども、ここまでなしとげた例は他にない。

カラヤンの最高傑作だと思う。

 

 

今回の沼尻竜典&京響の演奏は、さすがにこの完成度には達していなかったけれど、それでも十分に素晴らしかった。

この曲は、クレンペラー、ブーレーズ、カンブルラン、ナガノ、アルミンクといったクリアな音楽をする指揮者たちが誰も全曲録音していないため、同じタイプの指揮者である沼尻竜典の演奏が今回聴けたのは、きわめて貴重な機会だった。

彼のアプローチは、カラヤンのそれとは全く異なる。

冒頭の有名な第1幕への前奏曲からして、一般的にイメージするずっしりした演奏(その記事はこちらなど)とは全く違った、柔らかで透明な音楽となっており、耳が洗われるよう。

 

 

第2幕の“殴り合いのフガート”は落ち着いたテンポで、カラヤン盤の熱狂はなかったが、そのぶん各声部の扱いが明瞭だった。

第3幕の“同業者組合の行進”は逆に驚くほど速いテンポで面食らったが、新鮮でもあった。

そして、同じ第3幕の、美しい五重唱。

夢の動機とでも呼ぶべきか(実際の名前は知らない)、五重唱の前奏のザックスの歌を彩る、エンハーモニック転調に満ちた美しい動機を奏でる木管アンサンブルの、あまりにも透明なハーモニー。

また、五重唱を美しく飾るヴァイオリン群のオブリガートの、キラキラと光り輝くような高音域。

本当に、忘れがたいひとときだった。

 

 

歌手陣は、ルネ・コロのヴァルター、ヘレン・ドナートのエファ、テオ・アダムのザックスといった理想的な布陣の上記カラヤン盤が耳に焼き付いてしまった私には、どうしても物足りなかったけれど、それは贅沢というもの。

みな水準以上で大きな穴のないメンバーだったと思う。

中では、ベックメッサ―役の黒田博が芸達者で、終幕の歌合戦での物々しい歌い方など堂に入っていた(カラヤン盤のジェレイント・エヴァンスより良かったかも)。

また、びわ湖ホール声楽アンサンブルの合唱が素晴らしく、「目覚めよ、朝は近づいた」のコラールなど、第一声の迫力たるやカラヤン盤のみならずどんな録音も敵わないものだった。

 

 

 

 

 

なお、びわ湖ホールの音楽監督としての最後の仕事となった沼尻竜典だが、彼のこれまでのびわ湖ホールでのオペラ公演リストがプログラムに載っていたため、ここに引用しておきたい。

 

 

【びわ湖ホールプロデュースオペラ】

2008年2月2,3日 R.シュトラウス「ばらの騎士」

2009年3月14,15日 プッチーニ「トゥーランドット」

2010年3月13,14日 プッチーニ「ラ・ボエーム」

2011年3月5,6日 ヴェルディ「アイーダ」

2012年3月10,11日 ヴァーグナー「タンホイザー」

2013年3月9,10日 ヴェルディ「椿姫」

2013年9月21,22日 ヴァーグナー「ヴァルキューレ」

2015年3月7,8日 ヴェルディ「オテロ」

2016年3月5,6日 ヴァーグナー「さまよえるオランダ人」

2017年3月4,5日 ヴァーグナー「ラインの黄金」

2018年3月3,4日 ヴァーグナー「ヴァルキューレ」

2019年3月2,3日 ヴァーグナー「ジークフリート」

2020年3月7,8日 ヴァーグナー「神々の黄昏」(無観客)

2021年3月6,7日 ヴァーグナー「ローエングリン」

2022年3月3,6日 ヴァーグナー「パルジファル」

2023年3月2,5日 ヴァーグナー「ニュルンベルクのマイスタージンガー」

 

【沼尻竜典オペラセレクション】

2007年11月25日 ツェムリンスキー「こびと ~王女様の誕生日~」

2008年10月12日 R.シュトラウス「サロメ」

2009年10月4日 ベルク「ルル」

2010年10月10,16日 ヴァーグナー「トリスタンとイゾルデ」

2011年12月4日 モーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」

2012年11月30日,12月2日 モーツァルト「コジ・ファン・トゥッテ」

2014年3月8,9日 コルンゴルト「死の都」

2014年10月11,12日 ヴェルディ「リゴレット」

2015年8月8,9日 沼尻竜典「竹取物語」

2016年10月23日 ドニゼッティ「ドン・パスクワーレ」

2017年10月28日 ベッリーニ「ノルマ」

2018年10月6日 モーツァルト「魔笛」

2019年4月27日 プーランク「声」

2021年7月31日,8月1日 ビゼー「カルメン」

2022年11月26,27日 ロッシーニ「セビリアの理髪師」

 

 

以上である。

こうして並べてみると、有名なものから珍しいものまでずらりと揃っていて、実に壮観。

ほかでもない沼尻竜典の指揮のおかげで、私にとってびわ湖ホールはベルリンやウィーンの国立歌劇場よりも、ミラノ・スカラ座やパリ・オペラ座よりも、ずっと魅力的なオペラハウスであった。

これまでの彼の貢献に感謝するとともに、これからもときどきでもいいのでオペラを振りに来てほしいものである。

 

 

 

(画像はこちらのページよりお借りしました)

 

 

 

 


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「青春ブラームス」

※ライブストリーミング配信

 

【日時】

2023年2月28日(火) 開演 20:00

 

【会場】

カフェ・モンタージュ (京都)

 

【演奏】

ピアノ:佐藤卓史 *

ヴァイオリン:中村太地 #

チェロ:辻本玲 ‡

 

【プログラム】

ブラームス:FAEソナタ (1853) より 第3楽章 Scherzo *#

ブラームス:「見知らぬ土地で」 op.3-5 (1853) *‡

ブラームス:「リート」 op.3-6 (1853) *‡

クララ・シューマン:ピアノ三重奏曲 ト短調 op.17 (1846) より 第1楽章 Allegro Moderato *#‡

ブラームス:ピアノ三重奏曲 第1番 ロ長調 op.8 (1854/1889) *#‡

 

 

 

 

 

カフェ・モンタージュ主催のコンサートをオンライン配信で聴いた。

佐藤卓史と中村太地と辻本玲による、クララ・シューマンおよびブラームスのピアノ三重奏曲ほかの演奏会である。

佐藤卓史と中村太地は、前日に引き続いての出演(その記事はこちら)。

 

 

 

 

 

前半のプログラムは、若きブラームスのFAEソナタやリート(チェロ編曲版)と、クララ・シューマンのピアノ三重奏曲の1楽章。

クララのピアノ三重奏曲は耳なじみのない曲だが、同じ調のショパンのピアノ三重奏曲と似た、メランコリックな雰囲気の曲だった。

 

 

 

 

 

後半のプログラムは、ブラームスのピアノ三重奏曲第1番。

この曲で私の好きな録音は

 

●カリクシュタイン(Pf) ラレード(Vn) ロビンソン(Vc) 1984年4,5月セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube1234

●松本和将(Pf) 上里はな子(Vn) 向井航(Vc) 2013年5月12日倉敷ライヴ(動画1234

●島田彩乃(Pf) 上里はな子(Vn) 江口心一(Vc) 2022年5月21日京都ライヴ(その記事はこちら

 

あたりである。

また、松本和将・上里はな子・向井航による2017年の実演も大変素晴らしく、圧倒された(その記事はこちら)。

 

 

今回の佐藤卓史らの演奏は、上記名盤たちのいかにもブラームスらしい重厚さとは違った、爽やかさの感じられるものだった。

この曲が、ブラームスの若き日の作品であることを思い出させてくれる(逆に上記名盤たちは、この曲が円熟期のブラームスによって改訂されたことを思い出させてくれる)。

その若々しい印象に最も寄与しているのは、中村太地のヴァイオリンの音の明るさ・柔らかさで、音程面に難はあれど、心地よいブラームスだった。

 

 

また、辻本玲のチェロがなかなか安定していたのと、あと何といっても佐藤卓史のピアノが良かった。

いつもながら演奏の完成度が高く、また第1楽章展開部や終楽章コーダなど大変に情熱的で、上記の松本和将と双璧。

それでいて、松本和将より音が細めですらっとしているのが“ウィーンのブラームス”といった感じで、彼らしさがよく出ていた。

 

 

 

(画像はこちらのページよりお借りしました)

 

 


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「愛と悲しみと、クライスラー」

※ライブストリーミング配信

 

【日時】

2023年2月27日(月) 開演 20:00

 

【会場】

カフェ・モンタージュ (京都)

 

【演奏】

ヴァイオリン:中村太地

ピアノ:佐藤卓史

 

【プログラム】

クライスラー:プニャーニの様式による前奏曲とアレグロ

クライスラー:美しきロスマリン

クライスラー:愛の悲しみ

クライスラー:愛の喜び

クライスラー:シンコペーション

クライスラー:ウィーン奇想曲

ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ト長調 op.78 「雨の歌」 (1879)

 

※アンコール

クライスラー:オールド・リフレイン

 

 

 

 

 

カフェ・モンタージュ主催のコンサートをオンライン配信で聴いた。

中村太地と佐藤卓史による、クライスラーの小品集およびブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番の演奏会である。

2人は以前にもクライスラーとブラームスの演奏動画をアップしており(その記事はこちら)、十八番なのだろう。

実際、中村太地はクライスラー国際コンクールやブラームス国際コンクールで入賞しているようである。

 

 

 

 

 

前半はクライスラーの小品がいくつか奏されたが、中でも私の好きな曲とその録音は

 

【プニャーニの様式による前奏曲とアレグロ】

●五嶋みどり(Vn) 1992年8月セッション盤(Apple MusicCD

 

【ウィーン奇想曲】

●クライスラー(Vn) G.ファルケンシュタイン(Pf) 1910年5月13日セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube

●クライスラー(Vn) C.ラムソン(Pf) 1926年4月14日セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube

●メニューイン(Vn) M.ガゼール(Pf) 1936年2月22日セッション盤(NMLYouTube

●クライスラー(Vn) ルップ(Pf) 1936年9月28日セッション盤(NMLApple MusicYouTube

●キュッヒル(Vn) プレヴィン(Pf) 1991年6月セッション盤(CD

 

あたりである。

 

 

今回の中村太地の演奏は、五嶋みどりの洗練もクライスラーの華もなかったけれど、音が素直で、角張っておらず、丸みがあって聴きやすい。

ウィーン奇想曲など、引っ搔くような鋭い音がするキュッヒル盤よりも好き、という人もいるかもしれない(キュッヒルはそうした“ウィーンの辻ヴァイオリン弾き”風のところが良いのだが)。

 

 

 

 

 

後半のプログラムは、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番。

この曲で私の好きな録音は

 

●五嶋みどり(Vn) マクドナルド(Pf) 2004年4月13日ロンドンライヴ(動画) ※動画の抜粋はこちら

●S.ハチャトゥリアン(Vn) L.ハチャトゥリアン(Pf) 2012年7,8月セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube123

●イブラギモヴァ(Vn) ティベルギアン(Pf) 2018年5月9-11日セッション盤(CDその記事はこちら

 

あたりである。

そして、これらの名盤にも増して、2016年に聴いた五嶋みどりの実演が、忘れられない美しさだった(その記事はこちら)。

この曲は、できる限り繊細に、爽やかに、清涼に弾いてほしい。

 

 

今回の中村太地の演奏は、繊細さを突き詰めたというよりは素朴な歌が前面に出たもので、音程の甘さなど技巧面の難もあり私の好みとは違ったけれど、それでも先ほどのクライスラーと同様、丸みのある音が魅力だった。

ピアノの佐藤卓史は、いつもの彼らしく、優れた技巧に基づく安定した演奏を聴かせてくれた。

とはいえ彼も、細部の表現に全神経を集中させるというよりは、歌は素材に任せるといったタイプの人であり、その意味では中村太地との相性は決して悪くないように感じた。

 

 

 

(画像はこちらのページよりお借りしました)

 

 


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「F.メンデルスゾーン」

※ライブストリーミング配信

 

【日時】

2023年2月23日(木祝) 開演 20:00

2023年2月24日(金) 開演 20:00

 

【会場】

カフェ・モンタージュ (京都)

 

【演奏】

ピアノ:島田彩乃

ヴァイオリン:上里はな子

チェロ:江口心一

 

【プログラム】

メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲 第1番 ニ短調 op.49 (1839)

メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲 第2番 ハ短調 op.66 (1845)

 

 

 

 

 

カフェ・モンタージュ主催の、メルセデス・アンサンブルによるシューマン室内楽全曲演奏会シリーズをオンライン配信で聴いた。

今回は同シリーズの番外編で、シューマンに大きな影響を与えたメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲(全2曲)である。

 

→ 第1回 ピアノ三重奏曲第1~3番

→ 第2回 ピアノ四重奏曲

→ 第3回 ピアノ五重奏曲

→ 番外編 ブラームスのピアノ三重奏曲第1番

→ 第4回 ヴァイオリン・ソナタ第1番、F.A.E.ソナタ

→ 第5回 ヴァイオリン・ソナタ第2、3番

→ 第6回 弦楽四重奏曲第1番

→ 第7回 弦楽四重奏曲第2番

 

 

 

 

 

あらゆるピアノ・トリオの中でも屈指の名作であり、シューマンも絶賛したという、メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番。

この曲で私の好きな録音は

 

●ギラード(Pf) J.フィッシャー(Vn) ミュラー=ショット(Vc) 2006年2月14-16日セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube1234

 

である。

3人ともハイレベルだが、この盤を特別なものとしているのは、ユリア・フィッシャーのヴァイオリンである。

もうとにかくうまくて、これを超える演奏が今後なされうるとは私には想像しにくい。

 

 

ピアノ三重奏曲は、古典派の時代に“ヴァイオリンとチェロのオブリガート付きピアノ・ソナタ”の形で、ピアノを主役として始まった。

それが、ハイドンやモーツァルトを経て徐々にヴァイオリンとチェロ・パートの重要度が上がり、ベートーヴェンの「大公」トリオに至ってついに3つの楽器が対等の役割を担うようになった。

その後、このメンデルスゾーンの第1トリオにおいて、ピアノ三重奏曲は弦楽器パートの重要度がピアノのそれを突き抜けて“華麗なピアノ伴奏をともなうヴァイオリンとチェロのためのソナタ”へと変貌し、その形が後々まで続くロマン派ピアノ室内楽の主流となった。

 

 

そんな歴史的転換点を形づくった一曲であるだけに、弦楽器パート、とりわけヴァイオリンの影響力が絶大である。

ヴァイオリンがうまくなければ演奏全体が締まらないし、上記ユリア・フィッシャーのようにヴァイオリンがうまければ世紀の名演となる。

名曲だけあって録音は数え切れないほど存在し、フィッシャーほどの演奏はなかなかないにしても、それに次ぐ名盤としては

 

●カザルス・トリオ 1927年6月20,21日セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube

●オイストラフ・トリオ 1948年セッション盤(Apple MusicYouTube1234

●グリフォン・トリオ 1998年6月セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube1234

●スメタナ・トリオ 2009年5月28-30日セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube1234

●シトコヴェツキー・トリオ 2014年1月セッション盤(NMLCDYouTube1234

●トリオ・ダリ 2015年1月19-22日セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube1234

●トリオ・ショーソン 2021年4月13-16日セッション盤(NMLApple MusicCDMV

 

と、厳選したつもりでもこれだけたくさん挙げられ、いずれもヴァイオリンが相当うまい。

 

 

前置きがやたら長くなったが、今回の上里はな子らの演奏は見事な出来で、上記の名盤たちに(フィッシャー盤は別格としても)十分に匹敵するものだった。

この曲には日本人奏者による佳演も三つ四つあり気に入っていたのだが(その記事はこちらなど)、特にヴァイオリンについては今回それらを上回ったと言ってよさそう。

終楽章コーダなど実によく安定した、終結にふさわしい、分厚くて輝かしい音が鳴らされる(特に第2日が好調)。

 

 

また、上里はな子らの演奏を際立たせているのは、その解釈面である。

上記の名盤たちはいずれも若きメンデルスゾーンの情熱を表現して颯爽と駆け抜けるのだが、上里はな子らはもっとどっしりと円熟した、「大公」トリオを思わせるテンポを採る。

これほど風格のある解釈は、約100年にわたるこの曲の録音史を見渡しても、他に類を見ない。

江口心一のチェロや島田彩乃のピアノも、虚飾を排した質朴で力強い音楽性が上里はな子と息ぴったりで、競合盤の多いこの曲でもしっかりと存在感を主張できる名演となった。

 

 

 

 

 

そして、その方向性がより極まったのが、次のピアノ三重奏曲第2番である。

この曲は、オイストラフ・トリオやユリア・フィッシャーらの録音で聴いても、文句のつけようもなくうまいのだが、どことなく第1番の二番煎じのように感じて、あまり好きになれずにいた。

それが今回、上里はな子らの円熟した解釈による演奏を聴いて、この曲がメンデルスゾーンの晩年の作として全くふさわしい、のちのシューマンの3つのピアノ三重奏曲、ひいてはブラームスの音楽まで指し示した、第1番をも上回る充実した筆致の大作であることがやっと実感できた。

この曲は華麗に演奏してはならない、シューマンやブラームスに向き合うように、内へと沈潜する音楽にしなければならない。

そう教えてくれるかのような、私の知る限りこの曲の最高の名演となった。

 

 

 

 

 

なお、カフェ・モンタージュ主催の、メルセデス・アンサンブルによるシューマン室内楽全曲演奏会シリーズの有料配信アーカイブが、今後少しずつ無料公開されていく予定とのこと。

現時点では、第1回のシューマンのピアノ三重奏曲全3曲(その記事はこちら)と、第6回のメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第3番(その記事はこちら)が無料公開されている。

興味のある方はぜひ視聴されたい。

 

 → カフェ・モンタージュの配信ページはこちら

 

 

 

(画像はこちらのページよりお借りしました)

 

 


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第10回神戸国際フルートコンクール 優勝記念演奏会

 

【日時】

2023年2月23日(木祝) 開演 19:00 (開場 18:20)

 

【会場】

神戸文化ホール

 

【演奏】

フルート:ラファエル・アドバス・バヨグ

フルート:マリオ・ブルーノ

ピアノ:鈴木華重子

ヴァイオリン:西尾恵子

ヴァイオリン:井上隆平

ヴィオラ:亀井宏子

チェロ:伝田正則

 

【プログラム】

W.F.バッハ:2つのフルートのための二重奏曲第1番 ホ短調 Fk. 54 (アドバス・バヨグ, ブルーノ)

ジャレル:無伴奏フルートのための「3つの小品」 (ブルーノ)

ドブリエール:5つの不思議な小品 (ブルーノ, 鈴木)

シュルホフ:フルート・ソナタ (アドバス・バヨグ, 鈴木)

アドバス・バヨグ:ミュージック・イズ・ライフ より (アドバス・バヨグ)

フランセ:五重奏 (ブルーノ, 鈴木, 西尾, 井上, 伝田)

モーツァルト:フルート四重奏 二長調 K.285 (アドバス・バヨグ, 西尾, 亀井, 伝田)

ドップラー:「ハンガリーの羊飼いの歌」による幻想曲 (アドバス・バヨグ, ブルーノ, 鈴木)

 

※アンコール

モーツァルト:「魔笛」 より 私は鳥刺し (アドバス・バヨグ, ブルーノ)

ドリーブ:花のデュエット (アドバス・バヨグ, ブルーノ, 鈴木)

 

 

 

 

 

第10回神戸国際フルートコンクールの優勝記念演奏会を聴きに行った。

今大会では優勝者が2人いたが、特にマリオ・ブルーノはきわめて美しい音色を持っており、ぜひ生で聴いてみたいと思ったのだった。

ちなみに、第10回神戸国際フルートコンクールについてのこれまでの記事はこちら。

 

第1次審査

第10回神戸国際フルートコンクール 第1次審査通過者発表

第2次審査

第10回神戸国際フルートコンクール 第2次審査通過者発表

第3次審査

第10回神戸国際フルートコンクール 第3次審査通過者発表

本選

 

 

 

 

 

遅れて行ったため、私が聴けたのはシュルホフのソナタ以降の曲である。

マリオ・ブルーノが演奏したフランセの五重奏は、私にはなじみのない曲。

フランスらしく軽快でこじゃれて聴きやすいけれども、さらさらしてあまり耳には残らないような音楽、といったら言い過ぎか。

それでも、ブルーノの華やかかつ上品な音色は十分に堪能できた。

昨今日本や韓国から若き名手たちが輩出しているが、こういう音が出せる人はなかなかいない。

 

 

 

 

 

もう一人の優勝者、ラファエル・アドバス・バヨグは、この日唯一の有名曲、モーツァルトのフルート四重奏曲第1番を演奏した。

この曲で私の好きな録音は

 

●H.レズニチェク(Fl) A.カンパー(Vn) E.ヴァイス(Va) F.クヴァルダ(Vc) 1949年セッション盤(NMLApple MusicCD

●J.ベイカー(Fl) R.マン(Vn) R.ヒリヤー(Va) A.ウィノグラード(Vc) 1950年10月29日ワシントンライヴ盤(Apple MusicCDYouTube123

●E.パユ(Fl) C.ポッペン(Vn) H.シュリヒティヒ(Va) J-G.ケラス(Vc) 1999年5月セッション盤(NMLCDYouTube123

●K-H.シュッツ(Fl) A.ダナイローヴァ(Vn) T.リー(Va) T.ヴァルガ(Vc) 2014年6月セッション盤(Apple MusicCDYouTube123

 

あたりである。

 

 

 

 

 

ハンス・レズニチェクとジュリアス・ベイカーは、20世紀のフルート奏者の二大巨頭だと私は考えている(マルセル・モイーズでもジャン=ピエール・ランパルでもオーレル・ニコレでもなく)。

これぞウィーンというべき優雅でまろやかなレズニチェクの音、陽の光のように輝かしいベイカーの音。

彼らほど朗々と明るく鳴り響いて耳を惹きつける音の持ち主を、私は他に知らない。

そして現在、ウィーン系ではカール=ハインツ・シュッツ、非ウィーン系ではエマニュエル・パユ、この2人をもって21世紀のフルート奏者の二大巨頭と称しても差し支えないかもしれない。

美しい音色に繊細な表現力を併せ持つのが2人の特長である。

 

 

 

 

 

前置きが長くなったが、これらの名盤と比べてしまうと、今回のアドバス・バヨグの演奏は残念ながら分が悪い。

音はときどきかすれ気味で、ヴィブラートはやや大味、高音もキーンと硬く響く。

正直なところ、この曲をブルーノが演奏してくれたらどんなにか美しかったろう、とつい思ってしまった。

とはいえ、アドバス・バヨグの音は押し出しがいいというか、ブルーノの柔和な音とはまた別の良さがある。

彼の個性がよく発揮されたのが自作曲「ミュージック・イズ・ライフ」で、尺八を模した音出しや、叫び声、足のステップ音、唸り声とフルートとの重音奏法など、普段のフルート曲では聴かれない様々な技法を駆使していて楽しかった(聴衆の拍手もとりわけ大きかった)。

 

 

 

(画像はこちらのページよりお借りしました)

 

 


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