びわ湖ホールプロデュースオペラ 京都市交響楽団 沼尻竜典 ヴァーグナー 「マイスタージンガー」 | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

びわ湖ホールプロデュースオペラ

ワーグナー作曲 『ニュルンベルクのマイスタージンガー』(ドイツ語上演・日本語字幕付/セミ・ステージ形式)

 

【日時】

2023年3月5日(日) 開演 13:00 (開場 12:00)

 

【会場】

びわ湖ホール 大ホール (滋賀県)

 

【スタッフ&キャスト】

指揮:沼尻竜典 (びわ湖ホール芸術監督)

ステージング:粟國淳

美術構成:横田あつみ

照明:原中治美

音響:小野隆浩(びわ湖ホール)

舞台監督:菅原多敢弘

 

ハンス・ザックス:青山貴

ファイト・ポーグナー:妻屋秀和

クンツ・フォーゲルゲザング:村上公太

コンラート・ナハティガル:近藤圭

ジクストゥス・ベックメッサー:黒田博

フリッツ・コートナー:大西宇宙

バルタザール・ツォルン:チャールズ・キム

ウルリヒ・アイスリンガー:チン・ソンウォン

アウグスティン・モーザー:高橋淳

ヘルマン・オルテル:友清崇

ハンス・シュヴァルツ:松森治

ハンス・フォルツ:斉木健詞

ヴァルター・フォン・シュトルツィング:福井敬

ダフィト:清水徹太郎

エファ:森谷真理

マグダレーネ:八木寿子

夜警:平野和

 

管弦楽:京都市交響楽団

(コンサートマスター:石田泰尚)

合唱:びわ湖ホール声楽アンサンブル

 

【プログラム】

ヴァーグナー:「ニュルンベルクのマイスタージンガー」

 

 

 

 

 

びわ湖ホールで毎年3月に行われている、沼尻竜典の指揮、京都市交響楽団によるヴァーグナーシリーズ。

昨年(2022年)は、下記リブログ元の記事に書いたとおり「パルジファル」だった。

今回はいよいよびわ湖ホールヴァーグナーシリーズの最後の作、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」である。

 

 

 

 

 

ヴァーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」で私の好きな録音は

 

●カラヤン指揮 シュターツカペレ・ドレスデン 1970年11月24日~12月4日セッション盤(NMLCD

 

あたりである。

この盤は、粒ぞろいの歌手陣、古き佳きドイツの音がするオーケストラ、そして何よりもカラヤンの壮麗かつ緻密な指揮、とあらゆる条件を最高の質で整えられた、奇跡的と言いたい名演である。

オペラというきわめて多くの人や要素が関わるジャンルにおいて、ここまで全てを完璧にそろえるのは、至難の業であろう。

帝王カラヤンといえども、ここまでなしとげた例は他にない。

カラヤンの最高傑作だと思う。

 

 

今回の沼尻竜典&京響の演奏は、さすがにこの完成度には達していなかったけれど、それでも十分に素晴らしかった。

この曲は、クレンペラー、ブーレーズ、カンブルラン、ナガノ、アルミンクといったクリアな音楽をする指揮者たちが誰も全曲録音していないため、同じタイプの指揮者である沼尻竜典の演奏が今回聴けたのは、きわめて貴重な機会だった。

彼のアプローチは、カラヤンのそれとは全く異なる。

冒頭の有名な第1幕への前奏曲からして、一般的にイメージするずっしりした演奏(その記事はこちらなど)とは全く違った、柔らかで透明な音楽となっており、耳が洗われるよう。

 

 

第2幕の“殴り合いのフガート”は落ち着いたテンポで、カラヤン盤の熱狂はなかったが、そのぶん各声部の扱いが明瞭だった。

第3幕の“同業者組合の行進”は逆に驚くほど速いテンポで面食らったが、新鮮でもあった。

そして、同じ第3幕の、美しい五重唱。

夢の動機とでも呼ぶべきか(実際の名前は知らない)、五重唱の前奏のザックスの歌を彩る、エンハーモニック転調に満ちた美しい動機を奏でる木管アンサンブルの、あまりにも透明なハーモニー。

また、五重唱を美しく飾るヴァイオリン群のオブリガートの、キラキラと光り輝くような高音域。

本当に、忘れがたいひとときだった。

 

 

歌手陣は、ルネ・コロのヴァルター、ヘレン・ドナートのエファ、テオ・アダムのザックスといった理想的な布陣の上記カラヤン盤が耳に焼き付いてしまった私には、どうしても物足りなかったけれど、それは贅沢というもの。

みな水準以上で大きな穴のないメンバーだったと思う。

中では、ベックメッサ―役の黒田博が芸達者で、終幕の歌合戦での物々しい歌い方など堂に入っていた(カラヤン盤のジェレイント・エヴァンスより良かったかも)。

また、びわ湖ホール声楽アンサンブルの合唱が素晴らしく、「目覚めよ、朝は近づいた」のコラールなど、第一声の迫力たるやカラヤン盤のみならずどんな録音も敵わないものだった。

 

 

 

 

 

なお、びわ湖ホールの音楽監督としての最後の仕事となった沼尻竜典だが、彼のこれまでのびわ湖ホールでのオペラ公演リストがプログラムに載っていたため、ここに引用しておきたい。

 

 

【びわ湖ホールプロデュースオペラ】

2008年2月2,3日 R.シュトラウス「ばらの騎士」

2009年3月14,15日 プッチーニ「トゥーランドット」

2010年3月13,14日 プッチーニ「ラ・ボエーム」

2011年3月5,6日 ヴェルディ「アイーダ」

2012年3月10,11日 ヴァーグナー「タンホイザー」

2013年3月9,10日 ヴェルディ「椿姫」

2013年9月21,22日 ヴァーグナー「ヴァルキューレ」

2015年3月7,8日 ヴェルディ「オテロ」

2016年3月5,6日 ヴァーグナー「さまよえるオランダ人」

2017年3月4,5日 ヴァーグナー「ラインの黄金」

2018年3月3,4日 ヴァーグナー「ヴァルキューレ」

2019年3月2,3日 ヴァーグナー「ジークフリート」

2020年3月7,8日 ヴァーグナー「神々の黄昏」(無観客)

2021年3月6,7日 ヴァーグナー「ローエングリン」

2022年3月3,6日 ヴァーグナー「パルジファル」

2023年3月2,5日 ヴァーグナー「ニュルンベルクのマイスタージンガー」

 

【沼尻竜典オペラセレクション】

2007年11月25日 ツェムリンスキー「こびと ~王女様の誕生日~」

2008年10月12日 R.シュトラウス「サロメ」

2009年10月4日 ベルク「ルル」

2010年10月10,16日 ヴァーグナー「トリスタンとイゾルデ」

2011年12月4日 モーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」

2012年11月30日,12月2日 モーツァルト「コジ・ファン・トゥッテ」

2014年3月8,9日 コルンゴルト「死の都」

2014年10月11,12日 ヴェルディ「リゴレット」

2015年8月8,9日 沼尻竜典「竹取物語」

2016年10月23日 ドニゼッティ「ドン・パスクワーレ」

2017年10月28日 ベッリーニ「ノルマ」

2018年10月6日 モーツァルト「魔笛」

2019年4月27日 プーランク「声」

2021年7月31日,8月1日 ビゼー「カルメン」

2022年11月26,27日 ロッシーニ「セビリアの理髪師」

 

 

以上である。

こうして並べてみると、有名なものから珍しいものまでずらりと揃っていて、実に壮観。

ほかでもない沼尻竜典の指揮のおかげで、私にとってびわ湖ホールはベルリンやウィーンの国立歌劇場よりも、ミラノ・スカラ座やパリ・オペラ座よりも、ずっと魅力的なオペラハウスであった。

これまでの彼の貢献に感謝するとともに、これからもときどきでもいいのでオペラを振りに来てほしいものである。

 

 

 

(画像はこちらのページよりお借りしました)

 

 

 

 


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