音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~ -15ページ目

音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

藤田真央 ピアノ・リサイタル

~ショパン×リスト~

 

【日時】

2023年10月15日(日) 開演 14:00

 

【会場】

ザ・シンフォニーホール (大阪)

 

【演奏】

ピアノ:藤田真央

 

【プログラム】

ショパン:ポロネーズ 第1番 嬰ハ短調 op.26-1

ショパン:ポロネーズ 第2番 変ホ短調 op.26-2

ショパン:ポロネーズ 第3番「軍隊」イ長調 op.40-1

ショパン:ポロネーズ 第4番 ハ短調 op.40-2

ショパン:ポロネーズ 第5番 嬰へ短調 op.44

ショパン:ポロネーズ 第6番「英雄」変イ長調 op.53

ショパン:ポロネーズ 第7番「幻想」変イ長調 op.61

リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178

 

※アンコール

グリーグ:抒情小品集 第3集 op.43

 

 

 

 

 

好きなピアニスト、藤田真央のピアノリサイタルを聴きに行った。

彼の実演を聴くのはこれで11回目。

 

→ 1回目 2019年愛知公演

→ 2回目 2020年大阪公演

→ 3回目 2021年京都公演

→ 4回目 2021年関西フィル公演

→ 5回目 2021年モーツァルト第1回

→ 6回目 2021年モーツァルト第2回

→ 7回目 2022年大阪公演

→ 8回目 2022年モーツァルト第3回

→ 9回目 2022年モーツァルト第4回

→ 10回目 2023年モーツァルト第5回

 

今回は、ショパンのポロネーズ全曲およびリストのピアノ・ソナタの演奏会である。

 

 

 

 

 

前半のプログラムは、ショパンのポロネーズ全曲(遺作除く)。

この全7曲セットで私の好きな録音は

 

●ポリーニ(Pf) 1975年11月セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube

 

あたりである。

ポロネーズという曲種に合った、力強い演奏。

ただ、立派な演奏ではあるものの、細やかさに欠けるきらいはある(当時のドイツ・グラモフォンの硬い音質もその一因かもしれないが)。

 

 

その点、今回の藤田真央の演奏は、細やかさにかけては超一流。

細部まで洗練され、聴いていて大変に心地よく、耳のご馳走といったところ。

ポロネーズは繰り返しが多いため、最後の繰り返しではいつも何らかの工夫をするのも、サービス精神旺盛な彼らしい(第1番中間部では内声の強調、第2番主部では低音のオクターヴ重ね、第3番中間部ではペダルを深くする、等々)。

一方で、彼の演奏は常に品が良く、はみだしがないというか、ポリーニのようなダイナミズムは望めない。

ポリーニと藤田真央のそれぞれ良いところを採ったら、最高の演奏になりそう。

 

 

それにしても、ポロネーズ全7曲を通して聴くことで、見えてくるものがある。

ショパンの音楽人生、とでも言おうか。

第6番「英雄ポロネーズ」から、第7番「幻想ポロネーズ」に移る際、藤田真央はほとんど間を取らず、アタッカで繋げた。

「英雄ポロネーズ」の輝かしい変イ長調の終結和音が鳴った後に余韻なく続く、「幻想ポロネーズ」冒頭の変イ短調の和音。

それは、「英雄ポロネーズ」の雄渾な勝利の終結を、ショパンが自ら一旦否定したように、私には聴こえた。

これでは、自分のポロネーズ人生はまだ終われない、と。

 

 

ショパン晩年の「幻想ポロネーズ」は、円熟期の「英雄ポロネーズ」とは全く違った和声世界が展開される。

中間部の長い長いトリルは、ベートーヴェン晩年のソナタ第30番終楽章、最終変奏のそれのような“心の震え”であり、輝かしくもどこか切ない、全てを見晴るかすような変イ長調のコーダは、ベートーヴェン晩年のソナタ第31番終楽章のそれのような“決別の歌”である。

「英雄ポロネーズ」の勝利の歌では終われなかった、ショパンの思い。

藤田真央の弾く「幻想ポロネーズ」は以前にも聴いたが(その記事はこちら)、そのときには気付かなかった景色を、今回全曲ツィクルスによって見せてくれた。

 

 

 

 

 

後半のプログラムは、リストのピアノ・ソナタ。

この曲で私の好きな録音は

 

●ツィメルマン(Pf) 1990年2,3月セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube

●デミジェンコ(Pf) 1992年2月5,6日セッション盤(CD

●江尻南美(Pf) 2005年5月フランクフルトライヴ(動画1234

●チョ・ソンジン(Pf) 2012年8月8日ドゥシニキ=ズドゥルイライヴ(音源)

●リード希亜奈(Pf) 2019年パルマドーロコンクールライヴ(動画

●阪田知樹(Pf) 2021年5月12日エリザベートコンクールライヴ盤(NMLApple MusicCDYouTube動画

●キム・セヒョン(Pf) 2022年6月11日仙台コンクールライヴ(動画、その記事はこちら

 

あたりである。

 

 

この曲の巨大で恐ろしい悪魔的・ファウスト的な面をとことん表現したタイプの演奏(巨大かつオーソドックスなツィメルマン、巨大かつ明晰なデミジェンコ、リヒテルのカーネギーライヴがさらに荒れ狂ったような江尻南美)。

この曲をベートーヴェンから連なるピアノ・ソナタの系譜としてとらえたタイプの演奏(幻想曲風ソナタとしてとらえたリード希亜奈、大ソナタとしてとらえた阪田知樹)。

この曲を当代一流のキレと洗練とをもって高い完成度で弾きこなしたタイプの演奏(ロマン的なチョ・ソンジン、より真っ直ぐなキム・セヒョン)。

このように、多様な解釈を受け入れる懐の深い曲だが、逆に「自分はこれだ」という強い個性の主張がないと呑まれてしまう、怖い曲でもある。

 

 

今回の藤田真央の演奏は、チョ・ソンジンやキム・セヒョンにも匹敵する洗練度だったが、タイプは少し違って、テンポ設定がやや自由というか、楷書体というよりは行書体を思わせるスタイルだった。

それはそれで面白いのだが、このどっしりとした大きなソナタにおける必然性はあまり感じない(小品には合いそうなスタイルだが)。

また、例によってダイナミズムもそれほど大きくなく、これといった強い主張を感じることなく最後まで行ってしまった。

あまり彼向きの曲ではないのかもしれない。

もちろん、彼ほどのハイレベルなピアニストだからこそ言える、贅沢な感想である。

 

 

 

 

 

ピアニストであれば皆必ずショパンを弾くが、演奏会でポロネーズ全曲を弾いたり、最初のショパン録音集で即興曲全曲とスケルツォ全曲を選んだりするピアニストは(その記事はこちら)、藤田真央以外にいないだろう。

ショパンはショパンでも、いかにも次のショパンコンクールに出ます、といったプログラムでないのは、彼らしくて頼もしく思う(ファンとしては一抹の寂しさを覚えるのも事実だが、彼がもはやショパンコンクールに出る必要がないのもまた事実である)。

 

 

 

(画像はこちらのページよりお借りしました)

 

 


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「月に憑かれたピエロ」

 

【日時】

2023年10月12日(木) 開演 20:00

 

【会場】

カフェ・モンタージュ (京都)

 

【演奏】

シュプレヒシュティンメ:高田瑞希

京都市立芸術大学 現代音楽研究会 club MoCo

 指揮:森脇涼

 フルート / ピッコロ:俵啓乃

 クラリネット / バスクラリネット:木津結子

 ヴァイオリン / ヴィオラ:穴井智尋

 チェロ:木村美香

 ピアノ:藤本紗朗

 

【プログラム】

シェーンベルク:月に憑かれたピエロ op.21 (1912)

 

 

 

 

 

カフェ・モンタージュ主催のコンサートを聴きに行った。

作曲家の酒井健治が監修する学生音楽集団「京都市立芸術大学 現代音楽研究会 club MoCo」による、シェーンベルクの「月に憑かれたピエロ」の演奏会である。

指揮は、1994年山梨県生まれの指揮者、森脇涼。

この曲を生で聴けるのは、かなり貴重な機会だろう。

 

 

 

 

 

シェーンベルクの「月に憑かれたピエロ」。

この曲で私の好きな録音は

 

●シュティードリー=ヴァーグナー(Vo) ポセッラ(Fl) ブロッホ(Cl) コーリッシュ(Vn) オーバー(Vc) シュトイアーマン(Pf) シェーンベルク指揮 1940年9月24日セッション盤(Apple MusicCDYouTube

●ピラルツィク(Vo) カスタニエ(Fl) ドゥプリュ(Cl) モンテーニュ(B-Cl) ヨルダノフ(Vn) コロ(Va) ユショ(Vc) ベルクマン(Pf) ブーレーズ指揮 1961年セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube

●ビアズリー(Vo) クラフト指揮 コロンビア室内アンサンブル 1962年3月14,15日セッション盤(Apple MusicCDYouTube

 

あたりである。

 

 

後期ロマン派の名残を感じさせるシェーンベルク自作自演盤、灰色の美しさを持つブーレーズ旧盤、明快で色彩豊かなクラフト旧盤。

三者三様の強い魅力がある。

そして何と言っても、シュプレヒシュティンメが3人ともしっかり“語って”いるのが良い。

これぞシュプレヒシュティンメ。

これらに比べると、ブーレーズ中盤のイヴォンヌ・ミントンも、ブーレーズ新盤のクリスティーネ・シェーファーも、ちょっと“歌い”すぎている。

 

 

今回の森脇涼&京芸現代音楽研究会の演奏は、上記名盤たちほどの完成度はないものの、十分に楽しめる内容だった。

森脇涼の指揮は、以前聴いたハイドンでも感じたように(その記事はこちら)、目立ったパフォーマンスがあるわけではないが、音楽は程よくまとめられ引き締まっていて、だれない。

華々しい奇才、というのとはタイプが異なるけれど、実力のある人なのだと思う。

 

 

ややゆったりめの演奏で、第12曲「絞首台の歌」から第14曲「十字架」にかけてのクライマックスはもう少し畳みかける感じが欲しかったし、第18曲「月のしみ」のカノンも上記クラフト盤の勢いと明晰さに比べると物足りないが、それでも全体的に好印象だった。

やっぱり、生演奏は良い(それも眼前)。

特に、バスクラリネットが不気味な存在感を醸し出す第8曲「夜」と、各楽器が咆哮する第11曲「赤いミサ」は、上記名盤たちをも超える生々しい迫力で、感銘を受けた。

 

 

シュプレヒシュティンメの高田瑞希は、ピエロ風の衣装やメイクで、役柄になりきっている様子だった。

上記名盤たちほど雄弁ではないにしても、しっかり“語って”くれていて、シュプレヒシュティンメらしさが出ていたように感じた(第7曲「病める月」や終曲「おお懐かしい香り」など“歌”寄りの箇所もあったが、それはそれで悪くない)。

5人の楽器奏者もしっかり弾けており、安心して聴けた(特にピアノ)。

 

 

 

 

 

こういう、フランスのアンサンブル・アンテルコンタンポランのような現代音楽団体が日本の若者の間で生まれているのは、喜ばしい。

来たる12月15日、彼らは京都コンサートホールで定期演奏会を開催し、シェーンベルクやヴェーベルン、ヒンデミット、ラッヘンマンを演奏予定とのことで、興味のある方はぜひ。

 

 → こちらのサイト

 

 

 

(画像はこちらのページよりお借りしました)

 

 


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大阪フィルハーモニー交響楽団

第571回定期演奏会

 

【日時】

2023年9月29日(金) 開演 19:00

 

【会場】

フェスティバルホール (大阪)

 

【演奏】

指揮(・オーボエ *):ハインツ・ホリガー

ハープ:平野花子 #

管弦楽:大阪フィルハーモニー交響楽団

(コンサートマスター:崔文洙)

 

【プログラム】

ルトスワフスキ:オーボエとハープのための二重協奏曲 *#

ホリガー:音のかけら

シューベルト:交響曲 第8(9)番 ハ長調 D.944 「ザ・グレイト」

 

※アンコール(ソリスト) *#

ルトスワフスキ:3つの断章 より 第1番 Magia

 

 

 

 

 

大フィルの定期演奏会を聴きに行った。

指揮は、1939年スイス生まれのオーボエ奏者/指揮者/作曲家、ハインツ・ホリガー。

ソリストは、ホリガーと、1988年埼玉県生まれ、2007年USA国際ハープコンクール銀メダル受賞、2017年より大フィルのハープ奏者を務める、平野花子。

 

 

 

 


最初のプログラムは、ルトスワフスキの「オーボエとハープのための二重協奏曲」。

この曲で私の好きな録音は

 

●H.ホリガー(Ob) U.ホリガー(Hp) ギーレン指揮 シンシナティ響 1983年4月11日セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube

●H.ホリガー(Ob) U.ホリガー(Hp) ルトスワフスキ指揮 バイエルン放送響 1986年1月セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube123

●シェレンベルガー(Ob) ジュス(Hp) ペシュコ指揮 アムステルダム・フランツ・リスト室内管 1998年以前セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube123

●ルルー(Ob) モレッティ(Hp) カバラ指揮 シンフォニエッタ・クラコヴィア 2003年2月19-23日セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube123

 

あたりである。

開放的なホリガー、繊細なシェレンベルガーとルルー、いずれも捨てがたい魅力がある。

 

 

今回、この曲の委嘱&初演者ホリガーによる演奏が生で聴ける貴重な機会だった。

ホリガーのオーボエは、終楽章の細かいパッセージなど上記の若き日の録音ほど明瞭ではない箇所もあったけれど、それでもホリガーにしか出せない音の存在感は健在、むしろさらに味が濃くなっていて、聴きごたえ満点。

平野花子のハープは、繊細というよりは直線的な表現だったけれど、かっちりとまとまっていて危なげなく聴けた。

12人の弦楽器、4人の打楽器奏者による室内オーケストラも言うことなし、特に打楽器は太鼓の迫力といい鉄琴・木琴の煌めきといい、生演奏だとよく映える。

総合的に、上のどの名盤よりも強い感銘を受けた。

この曲だけでも、聴きに行った甲斐があったと思う。

 

 

 

 

 

次のプログラムは、ホリガーの「音のかけら」。

この曲は、私はおそらく初めて聴いたけれど、各楽器の奏者たちが、みな名手のはずなのに普通の楽音は出さず、少しずつ変な音を出しては引っ込める、“大オーケストラの無駄遣い”ともいうべき面白い曲だった。

こういう挑戦的な曲を、今後も積極的に演奏してほしいと思う。

 

 

 

 

 

最後のプログラムは、シューベルトの交響曲第8(9)番「ザ・グレイト」。

この曲で私の好きな録音は

 

●アバド指揮 モーツァルト管 2011年9月19-23日ボローニャ、24,25日ボルツァーノライヴ盤(NMLApple MusicCDYouTube1234

 

あたりである。

シューベルトの澄んだ歌を表現できるのは、晩年のアバドしかいない。

 

 

今回のホリガー&大フィルの演奏は、清澄なアバド盤とも、またずしっとしていた2017年のスダーン&大フィル(その記事はこちら)とも違った、きわめて軽快な解釈だった。

ホリガーがバーゼル室内管を振った録音とアプローチは似ている(YouTube)。

実にサクサクしていて、第1楽章の序奏から相当に速いテンポ、主部にかけて加速する必要がないほどだし、コーダの序奏再現でもテンポは全く落とさない。

感傷を完全に排した演奏で、シューベルトらしい歌心は望めないが、推進力はなかなかのもの。

20世紀のノイエ・ザッハリヒカイトやピリオド奏法の要素を現代に受け継いだ、躍動感のある演奏だった。

 

 

 

(画像はこちらのページよりお借りしました)

 

 


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佐藤卓史 講演会

「シューベルトのハ短調とベートーヴェン」

 

【日時】

2023年9月24日(日) 開演 17:00 (開場 16:30)

 

【会場】

カフェ・モンタージュ (京都)

 

【プログラム】

シューベルト:ピアノ・ソナタ 第19番を中心に、抜粋演奏とお話

(全曲演奏 シューベルト:4つの即興曲 D899 より 第1曲 ハ短調)

 

 

 

 

 

カフェ・モンタージュ主催の講演会を聞きに行った。

佐藤卓史による、シューベルトのピアノ作品全曲シリーズの番外編である。

今回は演奏会というより、10月17日に演奏予定のシューベルト:ピアノ・ソナタ第19番にまつわる、佐藤卓史の講演会だった。

なお、このシューベルト全曲シリーズのこれまでの演奏会のうち、私が聴けたのは以下のものである。

 

→ 番外編 2017年 「ウィーンの夜会」

→ Vol.9 2017年 「人生の嵐」 w/川島基

→ Vol.12 2018年 「グランド・ソナタ」 w/中桐望

→ Vol.20 2021年 「大行進」 w/崎谷明弘

→ 番外編 2022年 「夜と夢」 w/安達真理

→ Vol.21 2022年 「最後のワルツ」

→ 番外編 2022年 「五月の歌」 w/安達真理

→ 番外編 2022年 「ザ・グレート」 w/松本和将

→ Vol.22 2022年 「秋の変奏曲」

→ Vol.23 2023年 「歩き続けるシューベルト」 w/林悠介

 

 

 

 

 

講演の概略は、以下のようなものである。

 

●シューベルトは、とかく内気で引っ込み思案な人と思われがちだが、実際には外的な気負いもそれなりにあって、ベートーヴェンの死に際しては「これからは僕がウィーンの音楽界を引っ張っていくんだ」くらいのことは思っていたのではないか。その証拠に、ベートーヴェンが亡くなった1927年から俄然、数多くの名曲を精力的に作曲しているし、また生前唯一の自作演奏会を、あえてベートーヴェンの一周忌の命日(1828年3月26日)に行っている。

 

●作曲技法においても、1927年以降のシューベルト晩年の作品は、ベートーヴェンを意識して大作指向、古典回帰した様式で書かれた曲が多い。最後の3つのピアノ・ソナタ(第19~21番)も、その前の自由でロマン的な第16~18番に比べ、より大規模で均整のとれた古典主義的作品群となっている。ピアノ・ソナタ第19~21番は、シューベルトが特に依頼もないのに書いた曲で、内面的な欲求により書かれたのではないかと言われることもあるが、おそらくそれよりも対外的に“ベートーヴェンの後継者”たるにふさわしいジャンルとして書かれたのだろう。

 

●晩年のシューベルトは病気がちだったとよく言われるが、実際には亡くなった1828年11月19日の2、3週間前から体調を崩しただけで(腸チフス説が有力)、それまでは梅毒ではありながらも症状は安定、けっこう元気に作曲していた。最後の3つのピアノ・ソナタ(第19~21番)を書いた1828年9月には、シューベルトはまだ自身の死を意識していなかっただろう。これらのソナタは、死の迫った孤独な作曲家ではなく、ベートーヴェンの後継者となるべく輝かしい将来へ向け再出発を果たした若き作曲家による“最初のソナタ”だったのである(実際には早すぎる死によって“最後のソナタ”となってしまったが)。

 

●ピアノ・ソナタ第19番は、最後の3つのソナタの中でも特にベートーヴェンを強く意識して書かれた曲で、ベートーヴェンを象徴するハ短調が選ばれ、上行する右手とは反対に半音階的に下行する左手をもつ第1楽章冒頭はベートーヴェンの変奏曲ハ短調WoO.80に酷似、三連符の伴奏をもつ第2楽章再現部はベートーヴェンの「悲愴」ソナタに酷似、というように、ベートーヴェンからの影響が直接的にみられる。また、第1楽章の主要主題ではサラバンドのリズム、その確保ではアルベルティ・バス、と古典的な書法が用いられている。

 

●ただ、シューベルト特有の要素もある。展開部があまり展開しないこと、自作の歌曲のメロディをいくつか借用していること、第3楽章がスケルツォでなくメヌエットであること、ふとフレーズが止まって休止が入ること、終楽章でタランテラのリズムを用いていること、等々。そして何より、「苦悩から歓喜へ」といった短調から同主長調への一方通行的な転調、バロック時代のピカルディ終止からベートーヴェン、そしてショパンやリストに至るこの転調の仕方とは全く異なる、短調と同主長調との間を繰り返し移ろう独自の転調法が、いかにもシューベルトらしい(そのソナタ第19番以外の例として、今回は同じハ短調の即興曲D899-1が演奏された)。

 

以上である。

こうした、弱々しい装いを脱ぎ棄てたシューベルト観は、佐藤卓史の演奏解釈とも非常によく呼応していて、興味深い。

私としては、もう少し孤独でロマンティックな従来のシューベルトも好きなのだが、それはそれとして、今回大変勉強になった。

なお、佐藤卓史の手書きのレジュメも参照されたい。

 

 

 

 

 

 

それにしても、音楽系の講演会を聞くのは、鯛中卓也によるショパンの演奏様式についての講演以来(その記事はこちら)、実に5年ぶり。

とても面白かった。

講演会の後には、プンシュと呼ばれる、シューベルトが仲間たちと楽しんだという伝統的なリキュール、をイメージしたソフトドリンクがふるまわれて、これも美味しかった。

最後にはCDにサインもいただけて、大満足の講演会である。

 

 

 

(画像はこちらのページよりお借りしました)

 

 

 

 

 

 


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弦楽四重奏の最高峰

京都アルティ弦楽四重奏団

 

【日時】

2023年9月23日(土祝) 開演 15:00 (開場 14:15)

 

【会場】

京都府立府民ホール アルティ

 

【演奏】

京都アルティ弦楽四重奏団

 ヴァイオリン:矢部達哉

 ヴァイオリン:豊嶋泰嗣

 ヴィオラ:川本嘉子

 チェロ:上村昇

 

【プログラム】

モーツァルト:弦楽四重奏曲 第21番 二長調 KV575 「プロシャ王 第1番」

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第8番 ホ短調 Op.59-2 「ラズモフスキー第2番」

 

※アンコール

モーツァルト:弦楽四重奏曲 第15番 二短調 KV421 より 第3楽章 Menuetto

 

 

 

 

 

京都アルティ弦楽四重奏団の本拠地での第27回公演を聴きに行った。

ポスターのキャッチコピーは“弦楽四重奏の最高峰”となっているが、実際、上里はな子率いるメルセデス・アンサンブルと並んで、アルティ四重奏団は日本の弦楽四重奏団の最高峰だと私は考えている。

 

 

 

 

 

前半の曲は、モーツァルトの弦楽四重奏曲第21番。

この曲では、第1ヴァイオリンを豊嶋泰嗣が、第2ヴァイオリンを矢部達哉が担当した。

この曲で私の好きな録音は

 

●ウィーン・フランツ・シューベルト四重奏団 1994年セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube1234

●ハーゲン四重奏団 1995年1,2月セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube1234

●アルミーダ四重奏団 2020年1月セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube1234

●キアロスクーロ四重奏団 2020年11月23-27日セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube1234

 

あたりである。

上のものほどウィーンの味わいがより濃く、下のものほどより洗練された演奏となっている。

 

 

今回のアルティ四重奏団の演奏は、これらの中ではウィーン・フランツ・シューベルト四重奏団に近いか。

本場のウィーンの味わいはないけれど、豊嶋泰嗣の第1ヴァイオリンと上村昇のチェロの素朴な味が、モーツァルトの音楽にちょっとした華を添えている。

そして、それを支える矢部達哉の第2ヴァイオリンと川本嘉子のヴィオラによる盤石の内声部が大変頼もしい。

この相当にうまい二人が、演奏全体のレベルを底上げしている。

 

 

 

 

 

後半の曲は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第8番(ラズモフスキー第2番)。

この曲では、第1ヴァイオリンを矢部達哉が、第2ヴァイオリンを豊嶋泰嗣が担当した。

この曲で私の好きな録音は

 

●ハーゲン四重奏団 2010年5月19-22日、12月3,4日セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube1234

 

あたりである。

 

 

“弦楽四重奏団の王”とも呼ぶべきハーゲン四重奏団は、ベートーヴェンを弾かせたら右に出る者がない。

この曲も、フルトヴェングラーの振るエロイカ交響曲のような威力をもつ冒頭の2音から、息もつかせぬ終楽章コーダまで、これぞベートーヴェンというほかない迫力と威厳に満ちている。

ジュリアード四重奏団(1964-1970年)、クリーヴランド四重奏団(1991-1995年)、ミロ四重奏団(2004、2012、2015-2019年)、ドーヴァー四重奏団(2018-2021年)らの全集も好きなのだが、ついどうしてもハーゲン四重奏団ばかり聴いてしまう(ぜひベートーヴェン全集を完成させてほしい)。

 

 

今回のアルティ四重奏団の演奏は、ハーゲン四重奏団の凄味はないけれど、比較的ゆったりとしたテンポによる、品の良いものだった。

先ほどのモーツァルトでは内声部から全体を支えていた矢部達哉と川本嘉子、音の正確性の高い二人が、このベートーヴェンではそれぞれ高音域、低音域を引っ張る役割を担う(第1楽章展開部など特にそう)。

その結果、緩やかなテンポでありながら、全体の印象がぐっと引き締まったものとなった。

そして終楽章は、矢部達哉の面目躍如。

やっぱりこの楽章は、第1ヴァイオリンがうまいと相当に映える。

コーダではしっかり加速され、高揚感もあった。

 

 

 

 

 

緻密で端正な矢部達哉/川本嘉子と、音に味のある豊嶋泰嗣/上村昇。

絶妙な取り合わせの四人だと思う。

昨年は(私は聴き逃したが)ラズモフスキー第1番、今年はラズモフスキー第2番だったということで、来年はできればラズモフスキー第3番を期待したい(今回と同じく矢部達哉の第1ヴァイオリンでぜひ)。

 

 

 

(画像はこちらのページよりお借りしました)

 

 


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