佐藤卓史 講演会 シューベルトのハ短調とベートーヴェン | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

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佐藤卓史 講演会

「シューベルトのハ短調とベートーヴェン」

 

【日時】

2023年9月24日(日) 開演 17:00 (開場 16:30)

 

【会場】

カフェ・モンタージュ (京都)

 

【プログラム】

シューベルト:ピアノ・ソナタ 第19番を中心に、抜粋演奏とお話

(全曲演奏 シューベルト:4つの即興曲 D899 より 第1曲 ハ短調)

 

 

 

 

 

カフェ・モンタージュ主催の講演会を聞きに行った。

佐藤卓史による、シューベルトのピアノ作品全曲シリーズの番外編である。

今回は演奏会というより、10月17日に演奏予定のシューベルト:ピアノ・ソナタ第19番にまつわる、佐藤卓史の講演会だった。

なお、このシューベルト全曲シリーズのこれまでの演奏会のうち、私が聴けたのは以下のものである。

 

→ 番外編 2017年 「ウィーンの夜会」

→ Vol.9 2017年 「人生の嵐」 w/川島基

→ Vol.12 2018年 「グランド・ソナタ」 w/中桐望

→ Vol.20 2021年 「大行進」 w/崎谷明弘

→ 番外編 2022年 「夜と夢」 w/安達真理

→ Vol.21 2022年 「最後のワルツ」

→ 番外編 2022年 「五月の歌」 w/安達真理

→ 番外編 2022年 「ザ・グレート」 w/松本和将

→ Vol.22 2022年 「秋の変奏曲」

→ Vol.23 2023年 「歩き続けるシューベルト」 w/林悠介

 

 

 

 

 

講演の概略は、以下のようなものである。

 

●シューベルトは、とかく内気で引っ込み思案な人と思われがちだが、実際には外的な気負いもそれなりにあって、ベートーヴェンの死に際しては「これからは僕がウィーンの音楽界を引っ張っていくんだ」くらいのことは思っていたのではないか。その証拠に、ベートーヴェンが亡くなった1927年から俄然、数多くの名曲を精力的に作曲しているし、また生前唯一の自作演奏会を、あえてベートーヴェンの一周忌の命日(1828年3月26日)に行っている。

 

●作曲技法においても、1927年以降のシューベルト晩年の作品は、ベートーヴェンを意識して大作指向、古典回帰した様式で書かれた曲が多い。最後の3つのピアノ・ソナタ(第19~21番)も、その前の自由でロマン的な第16~18番に比べ、より大規模で均整のとれた古典主義的作品群となっている。ピアノ・ソナタ第19~21番は、シューベルトが特に依頼もないのに書いた曲で、内面的な欲求により書かれたのではないかと言われることもあるが、おそらくそれよりも対外的に“ベートーヴェンの後継者”たるにふさわしいジャンルとして書かれたのだろう。

 

●晩年のシューベルトは病気がちだったとよく言われるが、実際には亡くなった1828年11月19日の2、3週間前から体調を崩しただけで(腸チフス説が有力)、それまでは梅毒ではありながらも症状は安定、けっこう元気に作曲していた。最後の3つのピアノ・ソナタ(第19~21番)を書いた1828年9月には、シューベルトはまだ自身の死を意識していなかっただろう。これらのソナタは、死の迫った孤独な作曲家ではなく、ベートーヴェンの後継者となるべく輝かしい将来へ向け再出発を果たした若き作曲家による“最初のソナタ”だったのである(実際には早すぎる死によって“最後のソナタ”となってしまったが)。

 

●ピアノ・ソナタ第19番は、最後の3つのソナタの中でも特にベートーヴェンを強く意識して書かれた曲で、ベートーヴェンを象徴するハ短調が選ばれ、上行する右手とは反対に半音階的に下行する左手をもつ第1楽章冒頭はベートーヴェンの変奏曲ハ短調WoO.80に酷似、三連符の伴奏をもつ第2楽章再現部はベートーヴェンの「悲愴」ソナタに酷似、というように、ベートーヴェンからの影響が直接的にみられる。また、第1楽章の主要主題ではサラバンドのリズム、その確保ではアルベルティ・バス、と古典的な書法が用いられている。

 

●ただ、シューベルト特有の要素もある。展開部があまり展開しないこと、自作の歌曲のメロディをいくつか借用していること、第3楽章がスケルツォでなくメヌエットであること、ふとフレーズが止まって休止が入ること、終楽章でタランテラのリズムを用いていること、等々。そして何より、「苦悩から歓喜へ」といった短調から同主長調への一方通行的な転調、バロック時代のピカルディ終止からベートーヴェン、そしてショパンやリストに至るこの転調の仕方とは全く異なる、短調と同主長調との間を繰り返し移ろう独自の転調法が、いかにもシューベルトらしい(そのソナタ第19番以外の例として、今回は同じハ短調の即興曲D899-1が演奏された)。

 

以上である。

こうした、弱々しい装いを脱ぎ棄てたシューベルト観は、佐藤卓史の演奏解釈とも非常によく呼応していて、興味深い。

私としては、もう少し孤独でロマンティックな従来のシューベルトも好きなのだが、それはそれとして、今回大変勉強になった。

なお、佐藤卓史の手書きのレジュメも参照されたい。

 

 

 

 

 

 

それにしても、音楽系の講演会を聞くのは、鯛中卓也によるショパンの演奏様式についての講演以来(その記事はこちら)、実に5年ぶり。

とても面白かった。

講演会の後には、プンシュと呼ばれる、シューベルトが仲間たちと楽しんだという伝統的なリキュール、をイメージしたソフトドリンクがふるまわれて、これも美味しかった。

最後にはCDにサインもいただけて、大満足の講演会である。

 

 

 

(画像はこちらのページよりお借りしました)

 

 

 

 

 

 


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