第27回京都の秋 音楽祭
京都コンサートホール×京都市交響楽団プロジェクト Vol.4
ワーグナー生誕210年×没後140年
『ニーベルングの指環』より(ハイライト・沼尻編)
【日時】
2023年11月18日(土) 開演 14:30
【会場】
京都コンサートホール 大ホール
【演奏】
指揮:沼尻竜典
ソプラノ:ステファニー・ミュター *
バリトン:青山貴 **
管弦楽:京都市交響楽団
(コンサートマスター:石田泰尚)
【プログラム】
ヴァーグナー:《ニュルンベルクのマイスタージンガー》より〈前奏曲〉
ヴァーグナー:《トリスタンとイゾルデ》より〈前奏曲〉〈愛の死〉*
ヴァーグナー:『ニーベルングの指環』より(ハイライト・沼尻編)
《ラインの黄金》より〈前奏曲〉〈ヴァルハラ城への神々の入場〉
《ワルキューレ》より〈ワルキューレの騎行〉〈魔の炎の音楽〉**
《ジークフリート》より〈ブリュンヒルデの目覚め〉
《神々の黄昏》より〈ジークフリートの葬送行進曲〉〈ブリュンヒルデの自己犠牲〉*
京都の秋 音楽祭の公演の一つ、京響によるオール・ヴァーグナー・プログラムの演奏会を聴きに行った。
指揮は、1964年東京生まれ、2007~2023年にびわ湖ホール芸術監督を務めた指揮者、沼尻竜典。
びわ湖ホールでの沼尻竜典&京響によるヴァーグナー・ツィクルスが相当な高評価で、これで終わらせるのはもったいないとのことで本公演が企画されたという。
沼尻竜典は、西本智実や鈴木雅明と並んで、日本の三大指揮者の一人だと私は勝手に考えている。
西本智実を日本のフルトヴェングラー、鈴木雅明を日本のリヒターだとすると、沼尻竜典は日本のブーレーズといったところか。
特にヴァーグナーを振らせたら日本随一、世界でも有数の名指揮者である。
彼自身ヴァーグナーが大好きで、新婚旅行でバイロイトに行ったほどだという。
ヴァーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕前奏曲で私の好きな録音は
●フルトヴェングラー指揮 バイロイト祝祭管 1943年7月15,18,21,24日バイロイトライヴ盤(NML/Apple Music/CD)
●フルトヴェングラー指揮 ウィーン・フィル 1949年4月1,4日セッション盤(NML/Apple Music/CD/YouTube)
●フルトヴェングラー指揮 ベルリン・フィル 1949年12月19日ベルリンライヴ盤(NML/Apple Music/CD/YouTube)
●カラヤン指揮 ベルリン・フィル 1957年2月18,19日セッション盤(NML/Apple Music/CD)
●クレンペラー指揮 フィルハーモニア管 1960年3月1,2日セッション盤(NML/CD)
●クナッパーツブッシュ指揮 ミュンヘン・フィル 1962年11月セッション盤(NML/Apple Music/CD/YouTube)
●カラヤン指揮 シュターツカペレ・ドレスデン 1970年11月24日~12月4日セッション盤(NML/CD)
●カラヤン指揮 ベルリン・フィル 1974年9月22日~10月1日、15-19日セッション盤(NML/CD)
あたりである。
今回の沼尻竜典&京響は、これらのいずれとも異なる。
本年3月にびわ湖ホールで行われた全曲演奏会のときと同じく(その記事はこちら)、柔らかで香り立つような演奏。
初めて聴いた人には、この曲のイメージが塗り替えられてしまうだろう。
ヴァーグナーの「トリスタンとイゾルデ」第1幕前奏曲と“イゾルデの愛の死”(歌唱付き版)で私の好きな録音は
●フラグスタート(Sop) フルトヴェングラー指揮 フィルハーモニア管 1950年5月22日ロンドンライヴ盤(CD)
●フラグスタート(Sop) フルトヴェングラー指揮 フィルハーモニア管 1952年6月10-22日セッション盤(CD)
●ニルソン(Sop) ブーレーズ指揮 N響 1967年4月10日大阪ライヴ盤(CD、その記事はこちら)
あたりである。
先々月に聴いた西本智実&イルミナートフィルの同曲演奏がフルトヴェングラー寄りのロマンティックな演奏だったのに対し(その記事はこちら)、今回の沼尻竜典&京響はブーレーズ寄りの透明感重視の演奏で、甲乙つけがたい美しさだった。
ヴァーグナーの「ラインの黄金」より“ヴァルハラ城への神々の入場”(歌唱なし版)で私の好きな録音は
●クレンペラー指揮 フィルハーモニア管 1961年10月24日セッション盤(NML/CD)
あたりである。
今回の沼尻竜典&京響は、クレンペラーにも似た大変クリアな演奏。
“虹の橋の動機”は、クレンペラー盤の重々しい荘重さが少し恋しくなるところではあるけれど。
ヴァーグナーの「ヴァルキューレ」より“ヴァルキューレの騎行”(歌唱なし版)で私の好きな録音は
●フルトヴェングラー指揮 ウィーン・フィル 1949年3月31日セッション盤(NML/Apple Music/CD/YouTube)
●クナッパーツブッシュ指揮 ウィーン・フィル 1953年5月セッション盤(NML/Apple Music/CD/YouTube)
あたりである。
今回の沼尻竜典&京響は、フルトヴェングラーやクナッパーツブッシュのような凄みはないけれど、金管のアンサンブルをきれいに聴かせてくれた。
中間部の音階下行音型に入り、盛り上がってきたところで曲は終わってしまった(短めの編曲だった)。
ヴァーグナーの「ヴァルキューレ」より“ヴォータンの告別と魔の炎の音楽”で私の好きな録音は
●F.フランツ(Bas) フルトヴェングラー指揮 ウィーン・フィル 1954年9月28日-10月6日セッション盤(CD)
●G.ロンドン(Bar) クナッパーツブッシュ指揮 ウィーン・フィル 1958年6月9-11日セッション盤(NML/Apple Music/CD/YouTube)
あたりである。
フルトヴェングラーが鳴らした生涯最後の音楽、彼の壮絶な白鳥の歌であり、その偉大な生涯に手向けるかのようなフェルディナント・フランツの“さらば(Leb wohl)”の歌唱がまた絶品。
クナッパーツブッシュのほうはあまりに壮大で、もはや神話の世界の大自然そのもの。
今回の沼尻竜典&京響は、これらとは全く異なった、壮絶さや壮大さよりもハーモニーの調和を重視したアプローチ。
半音階的に下行する“魔の眠りの動機”など、同様のアプローチのブーレーズ盤をも大きく凌ぐほどの美しさだった。
バリトンの青山貴は、フェルディナント・フランツのような存在感はないが、瑕もあまりなく安心して聴けた(“ローゲよ聞け(Loge, hör)”の箇所はやや叫び気味だったが)。
ヴァーグナーの「神々の黄昏」より“ジークフリートの葬送行進曲”で私の好きな録音は
●フルトヴェングラー指揮 ベルリン・フィル 1933年セッション盤(CD)
●フルトヴェングラー指揮 ウィーン・フィル 1954年3月2日セッション盤(Apple Music/CD/YouTube)
●クレンペラー指揮 フィルハーモニア管 1960年2月27日セッション盤(NML/CD)
あたりである。
ヴァーグナーの「ニーベルングの指環」4部作のうち、「神々の黄昏」だけはコロナ禍のため、沼尻竜典&京響によるびわ湖ホールでの上演は無観客公演のストリーミング配信やBlu-ray発売だけであり(その記事はこちらなど)、有観客公演は行われていなかった。
Blu-rayで感銘を受けた沼尻竜典&京響の“葬送行進曲”、今回生で聴くと段違いの迫力。
フルトヴェングラーやクレンペラーにも負けないのでは、とさえ思った。
ヴァーグナーの「神々の黄昏」より“ブリュンヒルデの自己犠牲”で私の好きな録音は
●フラグスタート(Sop) フルトヴェングラー指揮 フィルハーモニア管 1948年3月26日セッション盤(CD)
あたりである。
この曲は、壮年期のフラグスタートとフルトヴェングラーが凄すぎて、他の演奏だと満足できない。
それでも、今回の演奏は、ソプラノのステファニー・ミュターについては声量はあるものの高音が荒れがちであまり好みではないが、沼尻竜典&京響については言うことなしの出来だった。
主な印象は、びわ湖ホール公演の配信と同様だったので、そちらをご覧いただきたい(その記事はこちら)。
だが、やっぱり生演奏は違う。
沼尻竜典の、絶対音楽的な純な響きでありながらも隅々まで血の通った劇的な音楽が、圧倒的な生々しさで迫ってくる。
大オーケストラで総奏される“魔の眠りの動機”(火の神ローゲの動機に由来する)の迫力、その後の“ヴァルハラの動機”の荘厳さ。
ブリュンヒルデの火が地上からどんどん燃え盛り、天上のヴァルハラ城をも包み込んでいく、壮大な神々の終焉をこれほど如実に表現した「神々の黄昏」終幕の演奏は、今後たとえバイロイト詣でをしたとしても、もはや聴くことはないかもしれない。
(画像はこちらのページよりお借りしました)
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