西本智実「愛と死」 ~悲愴&トリスタンとイゾルデ~
【日時】
2023年9月3日(日) 開演 18:30
【会場】
サントリーホール 大ホール (東京)
【演奏】
指揮:西本智実
管弦楽:イルミナートフィルハーモニーオーケストラ
(コンサートマスター:中島麻)
【プログラム】
ヴァーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」 より 前奏曲/イゾルデの愛の死
サン=サーンス:交響詩「死の舞踏」
サン=サーンス:歌劇「サムソンとデリラ」 より バッカナール
チャイコフスキー:交響曲 第6番 ロ短調 op.74 「悲愴」
※アンコール
チャイコフスキー:「くるみ割り人形」 より 花のワルツ
イルミナートフィルハーモニーオーケストラの公演を聴きに行った。
指揮は、1970年大阪生まれで2012年より同オーケストラの首席指揮者を務める、西本智実。
現代を代表する巨匠の一人である。
最初の曲は、ヴァーグナーの「トリスタンとイゾルデ」より、前奏曲と“イゾルデの愛の死”(ソプラノなし版)。
この2曲セットで私の好きな録音は
●フルトヴェングラー指揮 ベルリン・フィル 1930年セッション盤(NML/Apple Music/CD/YouTube1/2)
●フルトヴェングラー指揮 ベルリン・フィル 1938年2月11日セッション盤(CD)
●フルトヴェングラー指揮 ベルリン・フィル 1942年11月8,9日ベルリンライヴ盤(YouTube)
●フルトヴェングラー指揮 ストックホルム・フィル 1942年11月25日ストックホルムライヴ盤(Apple Music/CD/YouTube)
●フルトヴェングラー指揮 ベルリン・フィル 1954年4月27日ベルリンライヴ盤(NML/Apple Music/CD/YouTube1/2)
●クレンペラー指揮 フィルハーモニア管 1960年3月1-3日セッション盤(NML/CD)
あたりである。
この曲はフルトヴェングラーの独壇場であり、彼の怒涛のような凄演は、他の数多の指揮者たちの演奏を全てなぎ倒してしまう。
クレンペラーだけが、フルトヴェングラーとは全く別のアプローチでどうにか対抗しうる。
私は、まさに西本智実が振るこの曲を聴きに行ったのである。
カルロス・クライバーのようにレパートリーを非常に限定する彼女が今回ついに振るヴァーグナー、これを逃すと次いつ聴けるか分からない。
聴いてみると、期待に違わぬ名演だった。
フルトヴェングラーほどの凄まじさはないけれど、これほどのロマンティシズムとスケール感とを備えた演奏を生で聴ける機会が他にあるとは、私には想像できない。
幾度となく打ち寄せる波のような音楽のうねり、愛の憧れの表現、それでいて決してわざとらしくならず、大きな視野で自然な流れを形作っていく、こういうヴァーグナーにおあつらえ向きの指揮者が現在彼女以外にいるだろうか。
願わくば、もう少し分厚い低弦の鳴るオーケストラで(叶うことならウィーン・フィルのような)、彼女が振るこの曲をいつかもう一度聴いてみたい。
次の曲は、サン=サーンスからの2曲。
これらの曲で私の好きな録音は
【死の舞踏】
●ミュンシュ指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管 1948年セッション盤(NML/Apple Music/CD/YouTube)
●フレスティエ指揮 コンセール・コロンヌ 1952年頃セッション盤(Apple Music/CD/YouTube)
●デュトワ指揮 フィルハーモニア管 1980年6月セッション盤(NML/Apple Music/CD/YouTube)
●ナガノ指揮 モントリオール響 2015年10月29,30日モントリオールライヴ盤(NML/Apple Music/CD/YouTube)
【バッカナール】
●フレイタス・ブランコ指揮 シャンゼリゼ劇場管 1959年以前セッション盤(Apple Music/YouTube)
●デュトワ指揮 モントリオール響 1987年10月セッション盤(NML/Apple Music/CD/YouTube)
●フルネ指揮 都響 2002年4月20日東京ライヴ盤(Apple Music/CD/YouTube)
あたりである。
今回の西本智実&イルミナートフィルの演奏は、上記名盤たちのフランス風の味わいとはまた違った、トゥッティ(総奏)での大迫力が印象的だった。
最後の曲は、チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」。
この曲で私の好きな録音は
●フルトヴェングラー指揮 ベルリン・フィル 1938年10,11月セッション盤(CD/YouTube)
●ムラヴィンスキー指揮 レニングラード・フィル 1960年11月7-9日セッション盤(NML/Apple Music/CD/YouTube1/2/3/4)
●西本智実指揮 ロシア・ボリショイ響ミレニウム 2002年2月4-10日セッション盤(CD)
●ネゼ=セガン指揮 ロッテルダム・フィル 2012年8月セッション盤(NML/Apple Music/CD/YouTube1/2/3/4)
●クルレンツィス指揮 ムジカエテルナ 2015年2月9-15日セッション盤(Apple Music/CD/YouTube1/2/3/4、その記事はこちら)
●西本智実指揮 スヴェトラーノフ記念ロシア国立響 2018年6月28日モスクワライヴ(動画、その記事はこちら)
あたりである。
つまり、西本智実の大の得意曲。
今回の西本智実&イルミナートフィルの演奏は、もちろん良かったのだが、2018年に聴いた西本智実&スヴェトラーノフ記念ロシア国立響の実演に圧倒されすぎたせいか(その記事はこちら)、今回は少し肩透かしだったのも否めない。
あれほど重厚な音は、ロシアのオーケストラでなければ出せないということか、あるいは場合にもよりけりなのか。
同じ曲、同じ指揮者でも、オーケストラによって、あるいは時によって演奏が異なるのは面白い。
これからも、彼女の「悲愴」がどう変化していくのか、折に触れて聴くことができたらと思う。
(画像はこちらのページよりお借りしました)
↑ ブログランキングに参加しています。もしよろしければ、クリックお願いいたします。