イタリアのボルツァーノで開催された、2021年ブゾーニ国際ピアノコンクールが終わった(公式サイトはこちら)。
これまで、ネット配信を聴いて(こちらとこちら)、感想を書いてきた。
とりわけ印象深かったピアニストについて、改めて備忘録的に記載しておきたい。
ちなみに、2021年ブゾーニ国際ピアノコンクールについてのこれまでの記事はこちら。
(2020/2021年ブゾーニ国際ピアノコンクール 予選詳細発表)
(2020/2021年ブゾーニ国際ピアノコンクール 予選通過者発表)
Jinwoo BAE (2001- Republic of Korea)
緻密でキレのある技巧派。
ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」、ショパンのエチュードop.10-1、バルトークのエチュードop.18-3が印象的。
Isak CHOI (2004- Republic of Korea)
素直で端正な音楽づくりをする。
リストの「雪あらし」、スクリャービンのエチュードop.8-12、ラヴェルのラ・ヴァルス、グラナドスの「愛の言葉」、リストのバラード第2番あたりが印象的。
Yeontaek OH (1992- Republic of Korea)
ロマン的かつ思慮深さのある演奏をする。
ラヴェルの「海原の小舟」「道化師の朝の歌」、ラフマニノフの「音の絵」op.33-8、リストの「英雄」、シューマンのフモレスケ、ブラームスのパガニーニ変奏曲第2巻あたりが印象的。
Jae Hong PARK (1999- Republic of Korea)
今大会の優勝者。
力強い打鍵、卓越した技巧を持つ。
あらゆる音を白日の下に晒すような演奏で、詩情や陰影といったものはあまりないが、そういうものをそれほど要しないような、技巧的に込み入った堅固で立派な曲を弾かせるとすごい。
ショパンの「革命」、ドビュッシーのエチュード第5番「オクターヴ」、ブゾーニの「ショパンの前奏曲による10の変奏曲」、ベートーヴェンの「ハンマークラヴィーア」ソナタ、ブラームスの五重奏曲、ラフマニノフの協奏曲第3番あたりが印象的。
Youl SUN (2000- Republic of Korea)
最高度に洗練された技巧と、自然な音楽性とを併せ持つ。
ショパンのエチュードop.25-10、ストラヴィンスキーのエチュードop.7-4、シューマンのノヴェレッテ第8番が印象的。
特にストラヴィンスキーは同曲最高の名演と言っていい。
Jeonghwan KIM (2000- Republic of Korea)
こちらも自然な音楽性だが、少しロマン寄りなのが特徴。
シューマンの「3つのロマンス」op.28、ショパンのエチュードop.25-4、リゲティのエチュード第1番「無秩序」が印象的。
Dina IVANOVA (1994- Russia)
ジョルジュ・シフラを思わせる、ザ・名人芸タイプのリスト弾き。
リストの「ドン・ジョヴァンニの回想」と「パガニーニ大練習曲」と「ウィーンの夜会」第6番と「魔王」とハンガリー狂詩曲第10番、ショパンのエチュードop.10-7、ラフマニノフの「音の絵」op.39-1、スカルラッティのソナタニ短調K.1とニ短調K.deestとト短調K.476、ドビュッシーの「ベルガマスク組曲」あたりが印象的。
Xiaoya WAN (1999- China)
軽いタッチに、たおやかでロマンティックな音楽性を持つ。
スカルラッティのソナタヘ短調K.466、ショパンのエチュードop.10-9、ブラームスのラプソディ第1番、プロコフィエフのエチュードop.2-4が印象的。
Ekaterina BONYUSHKINA (2003- Russia)
Alexandra STYCHKINA(こちらなど)と並ぶ溌剌としたロシアの新星。
スカルラッティのソナタハ長調K.159、シューベルトの即興曲D935-1と「楽興の時」第5番、ショパンのエチュードop.10-1、ラフマニノフの「音の絵」op.39-1が印象的。
Fuko ISHII (1991- Japan)
日本人にしてドイツ音楽のロマンティシズムの体現者。
ショパンのエチュードop.10-1、ドビュッシーのエチュード第9番「反復音」、ベートーヴェンのソナタ第22番が印象的。
ベートーヴェンの演奏が素晴らしいのはもちろんのこと、今回は彼女のドイツ物以外のレパートリーが聴けたのも新鮮だった。
Elia CECINO (2001- Italy)
明るく端正な音楽性を持つ。
リストの「雪あらし」、ショパンのポロネーズ第5番、ショスタコーヴィチの「前奏曲とフーガ」第21番変ロ長調、スクリャービンのソナタ第3番、リストのファウストワルツ、ベートーヴェンのソナタ第16番、メンデルスゾーンの「厳格な変奏曲」、プロコフィエフのソナタ第7番あたりが印象的。
Eleonora DALLAGNESE (2000- Italy)
明るくたおやかな歌を奏でる。
ショパンのエチュードop.25-7とop.25-11、プロコフィエフのエチュードop.2-4、リストのハンガリー狂詩曲第12番あたりが印象的。
Osvaldo Nicola Ettore FATONE (1995- Italy)
溌剌とした勢いの中に、どこか天才肌の閃きを感じさせる。
ショパンのエチュードop.25-9、ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」あたりが印象的。
Francesco GRANATA (1998- Italy)
技巧面での不完全さを補う、明るく雄弁な独自の音楽を持つ。
バッハの平均律第1巻第12番ヘ短調、リストの「雪あらし」、シューベルトのソナタ第14番、ストラヴィンスキー/アゴスティの「火の鳥」組曲、クレメンティのソナタ嬰ヘ短調op.25-5、バッハ/ブゾーニのシャコンヌ、カプースチンのエチュードop.40抜粋、ブラームスの五重奏曲あたりが印象的(特にカプースチンが圧巻)。
Davide RANALDI (2000- Italy)
ポリーニ風の明朗な音楽性、堅牢な打鍵を持つ。
スクリャービンのエチュードop.42-3、ショパンのエチュードop.25-6、プロコフィエフのソナタ第7番、バッハの「イタリア風アリアと変奏」、ブラームスのパガニーニ変奏曲あたりが印象的。
Kostandin TASHKO (1997- Albania)
力強くも暴れすぎず冷静さを保った演奏をする。
ショパンのエチュードop.10-1、プロコフィエフのエチュードop.2-1、スクリャービンのソナタ第5番、ショパンの英雄ポロネーズが印象的。
Serena VALLUZZI (1994- Italy)
独自の“野生の勘”を持ち、曲にうまくはまると凄い演奏になる。
スカルラッティのソナタト長調K.427、ショパンの「黒鍵」、スクリャービンのエチュードop.8-6、リストのスペイン狂詩曲、ベートーヴェンのソナタ第11番、ラフマニノフのソナタ第2番あたりが印象的。
Do-Hyun KIM (1994- Republic of Korea)
今大会の第2位。
第1位のJae Hong PARK同様の技巧派だが、朗々とした音を持つJae Hong PARKに対し、より鋭く硬質な音を持つのが特徴。
バルトークのソナタ、ラフマニノフの「音の絵」op.39-6、シューマンのトッカータと五重奏曲、パトリック・ブルガンの「Intervalles」、ショパンのエチュードop.25全曲、プロコフィエフの協奏曲第2番あたりが印象的。
Hyelee KANG (1995- Republic of Korea)
ロマン的な表現の中にやや重い情熱を秘めた演奏をする。
ショパンのエチュードop.10-10とロンド変ホ長調op.16と「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」、スクリャービンのエチュードop.42-5、モーツァルトのデュポール変奏曲、ベートーヴェンのソナタ第13番、細川俊夫のエチュード「2本の線」あたりが印象的。
Mitra KOTTE (1995- Austria)
私の中での個人的な今大会のMVP。
彼女のようにハイドンやシューベルトをオーストリアのスタイルで弾くことのできるピアニストは、昨今ついぞ見かけなくなってしまった。
他国人にはどうにも真似できないこの均整の取れた典雅な演奏が、ピアノの隆盛の中心地が東欧や東洋に移ってしまった現代においてもまだどうにか絶滅せず聴けることに、感謝の念を覚える。
ハイドンのソナタ第42番、ドビュッシーのエチュード第11番「アルペッジョ」、リストのパガニーニ大練習曲第6番、シューマンのアベッグ変奏曲、シューベルトのさすらい人幻想曲あたりが印象的。
Hesu LEE (1991- Republic of Korea)
軽やかなタッチ、抒情的な表現を持つ。
モーツァルトの幻想曲ニ短調K.397、モーツァルトの「黒鍵」、ドビュッシーのエチュード第11番「アルペッジョ」、クライスラー/ラフマニノフの「愛の喜び」が印象的。
Seunghyuk NA (1997- Republic of Korea)
上述のYeontaek OHにも似た、思慮深いロマン性を持つ。
ショパンのエチュードop.10-10、スクリャービンのエチュードop.8-12、バッハ/ブゾーニのシャコンヌが印象的。
Lukas STERNATH (2001- Austria)
今大会の第3位。
同じオーストリアのピアニストである上述のMitra KOTTEの均整美に比べると、ロマン派寄りの情熱的なスタイルだが、それでも音色や様式にどこか西欧の香りがする(情よりも知、といったところか)。
スカルラッティのソナタニ短調K.231とK.1とヘ短調K.481とK.184、リストの超絶技巧練習曲第10番、スクリャービンの詩曲op.32-1、ラフマニノフの「音の絵」op.39-1とop.39-9、メンデルスゾーンの「厳格な変奏曲」、メンデルスゾーン/ラフマニノフの「夏の夜の夢」スケルツォ、ラフマニノフのソナタ第2番、ブラームスの五重奏曲、ベートーヴェンの「皇帝」あたりが印象的。
Calvin ABDIEL (2001- Indonesia)
端正な中に熱い情熱を秘めた演奏をする。
ソレールのソナタ嬰ハ短調R.21、アルベニスの「イベリア」より「セビーリャの聖体祭」、リストの「鬼火」、スクリャービンのエチュードop.8-10が印象的。
Wenfang HAN (2000- China)
軽やかなタッチで速いパッセージを流麗に弾きこなす。
スカルラッティのソナタヘ長調K.445とニ短調K.417とロ短調K.27とト長調K.427、ショパンの「黒鍵」、バルトークの「3つのエチュード」op.18、リストのソナタあたりが印象的。
以上のようなピアニストが、印象に残った。
初めて知った人を中心にできるだけ厳選したつもりだが、それでも多く挙げすぎてしまった。
すでに有名なピアニストが大半を占めるショパンコンクールやエリザベートコンクールと違って、ブゾーニコンクールはまだ名の知られていない才能ある若手を知る醍醐味がある。
今回も予選から非常にハイレベルで(特に韓国勢と地元イタリア勢)、たくさんの才能あふれるピアニストを知ることができた(その分、予選からファイナルへとレベルが上がっていく感じはあまりなかったが)。
なお、ブゾーニコンクールではなぜか毎回「ペトルーシュカ」の名演に出会える。
2017年大会のXingyu LU(その記事はこちら)、2019年大会の桑原志織(その記事はこちら)に続いて、今大会ではJinwoo BAE、Osvaldo Nicola Ettore FATONEの2人の名演に出会えた。
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